死神に拾われた少女は、世界の魂を救う運命だった

Saku.

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死神との出会い

禁忌を破る手

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火鉢の火がぱちりと弾け、赤い火の粉が一瞬だけ宙を舞った。
その光が消えたあと、部屋にはまた静寂が戻る。

葵は布に包まれたまま眠っている。
体はまだ震えているが、呼吸は先ほどより幾分ましだ。

烏蓮は、部屋の隅でじっと少女を見つめていた。

死神にとって、人間を助けるという行為は“禁忌”だ。
弱った魂を見れば、そのまま回収するのが本来の務め。
それを怠り、生者の側へ手を伸ばすことは――

死神の存在理由そのものを否定することになる。

分かっている。
理解している。
それでも。

烏蓮は、胸に渦巻くざわつきを抑えきれなかった。

少女の魂は、本来ならばすでに消えているはずだった。
それなのに、透明で、強く、そして脆い光を放っている。

まるで――

「……助けを求めているようだ」

独り言のようにそう呟いた瞬間、烏蓮は自分自身に驚いた。

死神が人に情を寄せるなどありえない。
それは、長い歴史の中で何度も破滅を招いた禁忌。

だが、あの時。

雪の中で葵の手が外套を掴んだ瞬間。

あのか細い声で「死にたくない」と泣いたとき。

胸の奥で、何かが確かに反応した。

それが何なのか、烏蓮は言葉にできなかった。

ただひとつ、確かなことがある。

――今、葵の命を見捨てれば、胸のざわつきは永遠に消えない。

烏蓮は火鉢に近づき、温めていた布をもう一度葵の肩にかけ直した。

そこまでして、ふと気づく。

「……私は今、何をしている?」

死神が、人間の体温を守ろうとしている。
こんな行為は、本来あり得ない。

その時、小屋の外で風が強く吹き、扉が少し揺れた。
雪の気配の向こう側で、別の気配が微かに動く。

それは、死神がよく知る“監視者”たちの気配だった。

同族。
死神。
禁忌を破る者がいないか、世界を巡回する存在。

烏蓮は扉の向こうを見据えた。

――見つかれば、罰を受ける。

――少女は回収される。

――その魂はもう戻らない。

しばしの沈黙。
火鉢の音が遠くなるほどの静けさが室内を包む。

烏蓮の手は、気づけば葵の肩の上で止まっていた。
指先が、ほんのわずかに震えている。

死神が震えるなど、本来あり得ない。
それでも、止まらない。

烏蓮は唇を噛み、そして――決めた。

「……誰にも渡さない」

自分でも驚くほど低く、熱のある声だった。

その言葉を吐き出した瞬間、烏蓮は己の行為を理解する。

これは、明確な“禁忌”だ。
死神としての規律を破り、罰を受ける覚悟を決めた瞬間。

葵が、寝息の中で小さく指を動かした。

それだけで、烏蓮の胸のざわつきが少しだけ静まった。

「……お前はまだ死なない。俺がそう決めた」

自分でも信じられない宣言だった。
だがその言葉は、もう覆らない。

外の風が鳴り響く。
死神の監視者たちは、まだこちらに気づいていない。

烏蓮は、ゆっくりと深い呼吸をした。

禁忌を破った。
その代償は必ず来る。

だがそれでも――

この手は離せない。

葵を助けることが、今の烏蓮にとって唯一の選択となっていた。
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