死神に拾われた少女は、世界の魂を救う運命だった

Saku.

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死神との出会い

死にたくない、という声

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烏蓮(うれん)は小屋の扉を押し開けた。
 冷え切った室内に、外の雪よりも冷たい静けさが広がっている。死神である彼にとっては何の不都合もない空間だが、腕の中の少女にとってはただの“凍える檻”だ。

 それでも今は――ここしかなかった。

 烏蓮は少女を古い寝台へそっと横たえる。
 湿った布を取り払い、乾いた布をかける。
 本来、死神が生者に触れるなどあり得ない行為を、彼の手は淡々と続けている。

 淡々としている“ふり”をしているだけだと、本人ですら気づき始めていた。

 少女のまぶたは微動だにしない。
 だが、魂だけは確かに揺れていた。

 ――まだ、終わりたくない。

 烏蓮は眉をひそめる。
 意識すらないはずの少女から、声にならない強い衝動が伝わってきた。

 死神には魂の“声”が聴こえる。
 それは言葉ではなく、意志そのものだ。

 この少女は、弱いくせに強い。
 壊れそうなくせに、必死に生を掴もうとしている。

 だからこそ厄介だ。

 「……なぜそこまで、生に縋る?」

 烏蓮の問いは少女に向けられたものではない。
 自分自身に向けた、感情の行き場を探すような独白だった。

 少女の胸がわずかに上下する。
 それがか細くても、途切れそうでも――その動きだけで烏蓮の胸に波紋が広がる。

 数刻の沈黙ののち、少女の唇がふるえた。

 最初は呼吸の乱れかと思った。
 だが次の瞬間、確かに“それ”は言葉になった。

 かすかに、震える声で。

「……いや……だ……」

 烏蓮は目を見開いた。
 少女はまだ完全に意識を取り戻していない。
 夢と現実の境で、魂の叫びが声になって漏れただけ。

 それでも、その一言にはあまりにも重い意味が宿っていた。

 ――死にたくない。

 死神として、何度も聞いてきた叫び。
 だが、それらとは決定的に違う響きだった。

 少女の声は弱々しいのに、必死だった。
 諦めではなく、“拒絶”だった。

 「……生に、縋るか」

 烏蓮は少女の手を見下ろす。
 氷のように冷たい。
 しかし、その指先には確かな意志が残っていた。

 死神は、生者の“願い”に触れてはならない。
 その願いを叶えることも、壊すことも、いずれにしても禁忌だ。

 それでも。

 それでも――。

 「……まだ、終わらせたくはないのだな」

 少女は応えない。
 ただ静かに、苦しげに息をするだけ。

 烏蓮は静かに立ち上がり、黒い外套を少女にかけた。
 死神の衣は冷えを遮るものではない。
 ただの布だ。意味を持たない行為だ。

 それなのに、自分はなぜか安心している。

 禁忌を破り、感情を持ち、救おうとしている。
 そんな愚かな行為に気づかぬほど、烏蓮は鈍感ではない。

 それでも手は止まらなかった。

 少女の胸から、微かな呼吸音が漏れる。

 その音を聴きながら、烏蓮は痛いほど自覚する。

 ――この少女の“生きたい”という声は、私に届いてしまった。

 そして、それに応えてしまいたいと思っている自分がいる。

 雪は静かに降り続き、小屋の窓を白く染めていく。

 死神と少女。
 本来、交わるはずのなかった二つの存在の時間が、初めて重なった夜だった。
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