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死神との出会い
見えてはいけないもの
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雪が弱まり、山小屋の外では風が木々を揺らす音だけが微かに響いていた。
その静けさの中で、葵は烏蓮が席を外した隙を狙うように、そっと立ち上がった。
火鉢の温もりを離れると、空気が急に冷たく感じられる。
だが、それでも彼女は足を踏み出した。
(少し……見てみたい)
烏蓮がどんな存在なのか。
どこで暮らし、どんな“仕事”をしているのか。
彼の背後にある世界を知りたかった。
部屋の奥、扉の向こう――烏蓮が「入るな」とだけ告げた部屋。
禁忌の匂いがする。
踏み込んではいけない場所だと直感しているのに、
それでも引き寄せられるように、葵は扉へ手を伸ばした。
ぎ……と微かに音がする。
薄暗い部屋の中は、外の寒さよりももっと冷たかった。
息が白くなるほどの冷気が、床から立ちのぼってくる。
そこで、葵は“それ”を見た。
――光の糸が、浮遊している。
青白く、儚く揺れながら、空中を漂う細い糸。
一本、また一本……縦横無尽に張り巡らされ、
まるでこの部屋全体が異世界の繭になったかのようだった。
「……きれい……」
思わず手を伸ばす。
指先がそっと光に触れた――瞬間。
ぱちっ。
音とも光ともつかない衝撃が、葵の胸を貫いた。
心臓を直接つままれたような感覚。息が止まる。
視界が一瞬、白に染まる。
そこにあったのは――
見知らぬ街の、真っ赤な夕焼け。
走る自分。
叫ぶ声。
伸ばす手。
壊れる音。
涙。
血。
落ちていく何か。
「っ……!?」
葵は床に崩れ落ち、肩で息をした。
(何……今の……? わたし……?)
それとも、他の誰かの記憶か?
混乱で立ち上がれないまま、背後から冷たい気配が迫った。
「――それに触れるな」
低い声。
怒りではなく、抑えられた焦りのような色。
振り向くと、烏蓮が扉の前に立っていた。
いつもの無表情――ではない。
瞳が鋭く細められ、黒い霧のような気配が漂っている。
「それは、死神の“仕事”の残滓だ」
「残滓……?」
「魂を導いた後に残る記録――人間には触れてはならぬ」
烏蓮は歩み寄り、光の糸に片手をかざすと、
糸はすっと吸い込まれるように消えていった。
「……記憶が、流れ込んだだろう」
葵は息を呑んだ。
「どうして分かるの……?」
「普通の人間なら、気絶する。それでも立っているお前は……」
烏蓮は葵の顔を見つめ、目を細めた。
「やはり、“人ならざる何か”だ」
その言葉に葵の胸がざわつく。
不安と恐怖、そして言い知れぬ孤独。
「……怖いの?」
小さく問う。
それは自分自身への問いでもあった。
烏蓮は短く首を振った。
「怖いのは……お前の中に“何が眠っているのか”だ」
外では再び風が強まり、窓を揺らした。
光の糸が消えた暗い部屋で、2人の影が揺れる。
そして烏蓮は、かすかに、しかし確かに息を吐いた。
「葵。これは警告だ。
これ以上、死神の領域を覗くな。
――お前が壊れる」
その声音は、死神というより、人間に近かった。
だが葵は気づいてしまった。
彼が自分を“守ろうとしている”という事実に。
その優しさが、いまは一番怖いことだった。
その静けさの中で、葵は烏蓮が席を外した隙を狙うように、そっと立ち上がった。
火鉢の温もりを離れると、空気が急に冷たく感じられる。
だが、それでも彼女は足を踏み出した。
(少し……見てみたい)
烏蓮がどんな存在なのか。
どこで暮らし、どんな“仕事”をしているのか。
彼の背後にある世界を知りたかった。
部屋の奥、扉の向こう――烏蓮が「入るな」とだけ告げた部屋。
禁忌の匂いがする。
踏み込んではいけない場所だと直感しているのに、
それでも引き寄せられるように、葵は扉へ手を伸ばした。
ぎ……と微かに音がする。
薄暗い部屋の中は、外の寒さよりももっと冷たかった。
息が白くなるほどの冷気が、床から立ちのぼってくる。
そこで、葵は“それ”を見た。
――光の糸が、浮遊している。
青白く、儚く揺れながら、空中を漂う細い糸。
一本、また一本……縦横無尽に張り巡らされ、
まるでこの部屋全体が異世界の繭になったかのようだった。
「……きれい……」
思わず手を伸ばす。
指先がそっと光に触れた――瞬間。
ぱちっ。
音とも光ともつかない衝撃が、葵の胸を貫いた。
心臓を直接つままれたような感覚。息が止まる。
視界が一瞬、白に染まる。
そこにあったのは――
見知らぬ街の、真っ赤な夕焼け。
走る自分。
叫ぶ声。
伸ばす手。
壊れる音。
涙。
血。
落ちていく何か。
「っ……!?」
葵は床に崩れ落ち、肩で息をした。
(何……今の……? わたし……?)
それとも、他の誰かの記憶か?
混乱で立ち上がれないまま、背後から冷たい気配が迫った。
「――それに触れるな」
低い声。
怒りではなく、抑えられた焦りのような色。
振り向くと、烏蓮が扉の前に立っていた。
いつもの無表情――ではない。
瞳が鋭く細められ、黒い霧のような気配が漂っている。
「それは、死神の“仕事”の残滓だ」
「残滓……?」
「魂を導いた後に残る記録――人間には触れてはならぬ」
烏蓮は歩み寄り、光の糸に片手をかざすと、
糸はすっと吸い込まれるように消えていった。
「……記憶が、流れ込んだだろう」
葵は息を呑んだ。
「どうして分かるの……?」
「普通の人間なら、気絶する。それでも立っているお前は……」
烏蓮は葵の顔を見つめ、目を細めた。
「やはり、“人ならざる何か”だ」
その言葉に葵の胸がざわつく。
不安と恐怖、そして言い知れぬ孤独。
「……怖いの?」
小さく問う。
それは自分自身への問いでもあった。
烏蓮は短く首を振った。
「怖いのは……お前の中に“何が眠っているのか”だ」
外では再び風が強まり、窓を揺らした。
光の糸が消えた暗い部屋で、2人の影が揺れる。
そして烏蓮は、かすかに、しかし確かに息を吐いた。
「葵。これは警告だ。
これ以上、死神の領域を覗くな。
――お前が壊れる」
その声音は、死神というより、人間に近かった。
だが葵は気づいてしまった。
彼が自分を“守ろうとしている”という事実に。
その優しさが、いまは一番怖いことだった。
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