6 / 9
死神との出会い
魂のひび割れ
しおりを挟む
夜の気配が、小屋を包み込んでいた。
焚き火の灯りだけが、弱々しく壁を照らしている。
葵は膝を抱え、火のゆらめきをじっと見つめていた。
泣いたあとの瞳は赤く、まぶたは重そうだったが、
眠気よりも不安が勝っているように見える。
烏蓮は机に向かい、帳面を静かに閉じた。
書く内容など、今は頭に入らなかった。
少女の気配が、どうしても気になってしまう。
(……魂が、揺れている)
感じ取れる。
烏蓮は椅子から立ち上がると、火のそばに座る葵に近づいた。
「少し……目を閉じろ」
葵は不安げに眉をひそめたが、逆らわずに従った。
烏蓮は指先をそっと彼女の眉間に触れる。
触れた瞬間、葵の魂の光——
本来、人の魂は淡く揺らぐ色をしているはずだ。
だが葵の魂は、異様なほど透き通って美しかった。
光の密度が高く、温かく、澄み切っている。
それだけなら「稀にいる」程度の異常だった。
——しかし、問題はそこではなかった。
魂の中心部に、極細のひびが入っている。
まるで、誰かが無理やり“何か”を削ぎ落したような。
烏蓮の呼吸が、一瞬止まる。
(砕かれかけている……? だが彼女は生きている。なぜだ)
魂の亀裂は通常、死に至る前兆。
とくに“記憶”を代償にした場合、こうした傷が残ることがある。
だが葵の魂は……亀裂の奥に、小さな光の渦があった。
強くあろうとする意思。
生きたいという願い。
誰かを求める感覚。
それは、死神である烏蓮にとって、あり得ないほど懐かしい色だった。
胸が静かに疼く。
「……どう、したの?」
葵が目を開け、烏蓮を見上げた。
触れていた指先を慌てて離した。
「いや。……何でもない」
即座に視線をそらし、距離を取る。
心臓が鼓動を忘れたように固まっていた。
干渉しすぎだ。
死神として、これは許されない。
それでも——
葵の魂を見た瞬間、胸に広がったあの感覚は消えない。
それは、説明できない“懐かしさ”。
そして、自分の失ったはずの記憶をかすかに刺激する“色”。
葵は不安そうに服の裾をつまむ。
「……わたし、壊れてるの?」
烏蓮は答えに迷った。
嘘はつけない。
だが真実を告げれば、少女はさらに傷つく。
沈黙の末、短く告げた。
「壊れてなどいない。ただ……少し疲れているだけだ」
それは、死神とは思えないほど人間的な言葉だった。
葵はほっと息を吐き、焚き火の光に照らされて微笑む。
その表情を見た瞬間、烏蓮の胸に、
張りつめていた何かがゆっくりとほどけていく。
——少女の魂の亀裂。
——その奥にある、異様なほど温かい色。
その謎は、やがて世界を揺るがす真実へとつながっていく。
烏蓮自身もまだ気づいていなかった。
その亀裂は、ただの傷ではない。
“誰かとのつながり”を失った痕跡——
焚き火の灯りだけが、弱々しく壁を照らしている。
葵は膝を抱え、火のゆらめきをじっと見つめていた。
泣いたあとの瞳は赤く、まぶたは重そうだったが、
眠気よりも不安が勝っているように見える。
烏蓮は机に向かい、帳面を静かに閉じた。
書く内容など、今は頭に入らなかった。
少女の気配が、どうしても気になってしまう。
(……魂が、揺れている)
感じ取れる。
烏蓮は椅子から立ち上がると、火のそばに座る葵に近づいた。
「少し……目を閉じろ」
葵は不安げに眉をひそめたが、逆らわずに従った。
烏蓮は指先をそっと彼女の眉間に触れる。
触れた瞬間、葵の魂の光——
本来、人の魂は淡く揺らぐ色をしているはずだ。
だが葵の魂は、異様なほど透き通って美しかった。
光の密度が高く、温かく、澄み切っている。
それだけなら「稀にいる」程度の異常だった。
——しかし、問題はそこではなかった。
魂の中心部に、極細のひびが入っている。
まるで、誰かが無理やり“何か”を削ぎ落したような。
烏蓮の呼吸が、一瞬止まる。
(砕かれかけている……? だが彼女は生きている。なぜだ)
魂の亀裂は通常、死に至る前兆。
とくに“記憶”を代償にした場合、こうした傷が残ることがある。
だが葵の魂は……亀裂の奥に、小さな光の渦があった。
強くあろうとする意思。
生きたいという願い。
誰かを求める感覚。
それは、死神である烏蓮にとって、あり得ないほど懐かしい色だった。
胸が静かに疼く。
「……どう、したの?」
葵が目を開け、烏蓮を見上げた。
触れていた指先を慌てて離した。
「いや。……何でもない」
即座に視線をそらし、距離を取る。
心臓が鼓動を忘れたように固まっていた。
干渉しすぎだ。
死神として、これは許されない。
それでも——
葵の魂を見た瞬間、胸に広がったあの感覚は消えない。
それは、説明できない“懐かしさ”。
そして、自分の失ったはずの記憶をかすかに刺激する“色”。
葵は不安そうに服の裾をつまむ。
「……わたし、壊れてるの?」
烏蓮は答えに迷った。
嘘はつけない。
だが真実を告げれば、少女はさらに傷つく。
沈黙の末、短く告げた。
「壊れてなどいない。ただ……少し疲れているだけだ」
それは、死神とは思えないほど人間的な言葉だった。
葵はほっと息を吐き、焚き火の光に照らされて微笑む。
その表情を見た瞬間、烏蓮の胸に、
張りつめていた何かがゆっくりとほどけていく。
——少女の魂の亀裂。
——その奥にある、異様なほど温かい色。
その謎は、やがて世界を揺るがす真実へとつながっていく。
烏蓮自身もまだ気づいていなかった。
その亀裂は、ただの傷ではない。
“誰かとのつながり”を失った痕跡——
0
あなたにおすすめの小説
小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜
ちょこの
ファンタジー
もふもふな相棒「ヴァイス」と一緒に、今日もダンジョン生活♪
高校生の優衣は、ダンジョンに挑むけど、頼れるのはふわふわの相棒だけ。
ゆるふわ魔法あり、ドキドキのバトルあり、モフモフ癒しタイムも満載!
ほんわか&ワクワクな日常と冒険が交差する、新感覚ファンタジー!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる