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死神との出会い
死神の小屋へ
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森の奥は、昼でも薄暗かった。
枝が重なり合い、風の音すら吸い込まれていくようだ。
烏蓮は葵を抱えたまま、無言で歩き続けていた。
彼の足音は落ち葉を踏んでも一切響かない。
まるで、地面に触れていないかのような静けさだった。
葵は胸の前で服を握りしめていた。
さっき、自分が口にしたあの言葉——「死にたくない」 が
何度も頭の中で反響する。
言葉にした途端、胸の奥に熱が灯り、涙が勝手にあふれた。
あれは必死だったのか、それとも本心だったのか。
自分でもわからない。
ただ、腕の中の死神は、少女の涙の熱を確かに受け取り、
表情を変えぬまま歩を止めなかった。
◆
やがて森の奥が開け、灰色の岩壁に寄り添うように
ひっそりとした建物が現れた。
「……ここが、お前の寝床になる」
烏蓮がそう言った瞬間、葵はぐっと彼の服にしがみついた。
恐怖か、寒さか、それとも別の理由か。
小屋は、古びていて小さい。
だけど、不思議と“死”の匂いはしなかった。
扉を開くと、木の香りがした。
中には、簡素な机と椅子がひとつずつ。
棚には、黒い冊子が何冊も並んでいた。
それは——“魂の記録”。
死神が扱う、過去の生命の足跡。
葵は無意識に息を呑む。
「触れるな。お前にはまだ早い」
低い声が響き、葵は肩を震わせてうなずいた。
烏蓮は椅子に腰を下ろし、葵をそっと床に降ろす。
布を取り出して焚き火のそばに置きながら言う。
「濡れた服は冷える。着替えろ。……凍えるぞ」
その言葉には、感情らしきものが引っかかっていた。
ほんの僅かな、気遣いの色。
死神が人間にそうするのは、禁じられている。
彼自身、それを誰より理解しているはずだった。
葵はうつむいたまま俯せになり、
ぎゅっと拳を握る。
「……ありが、と」
小さく、途切れた声。
それは人として生きようとする初めの一歩だった。
烏蓮のまぶたが、ほんの僅かに震える。
「……礼は不要だ」
それだけを吐き、顔をそむけた。
だが、胸の奥で何かが疼いた。
“助けてしまった”。
“関わってしまった”。
死神としてあるまじき情が、自分の手を汚した。
——禁忌を破ったという確信が、彼の心臓をゆっくり締めつける。
◆
葵は焚き火のそばで膝を抱えた。
小屋の隙間風は冷たいが、炎の光がささやかな安心をくれる。
烏蓮は少女を見ないように、帳面に目を落としていた。
だがページは一向に進まない。
視線も、指先も、どうしても少女の存在を意識してしまう。
(なぜ……ここまで気にしている?)
自問しても答えは出なかった。
葵が震える肩を寄せて炎を見つめているのを確認すると、
烏蓮はほんの一瞬だけ、目を細めた。
それは、誰にも見られてはいけない表情だった。
死神が持つはずのない、
——救いの色。
そして、胸の奥深くで、
“失われた記憶の影”がわずかに疼き、揺れた。
枝が重なり合い、風の音すら吸い込まれていくようだ。
烏蓮は葵を抱えたまま、無言で歩き続けていた。
彼の足音は落ち葉を踏んでも一切響かない。
まるで、地面に触れていないかのような静けさだった。
葵は胸の前で服を握りしめていた。
さっき、自分が口にしたあの言葉——「死にたくない」 が
何度も頭の中で反響する。
言葉にした途端、胸の奥に熱が灯り、涙が勝手にあふれた。
あれは必死だったのか、それとも本心だったのか。
自分でもわからない。
ただ、腕の中の死神は、少女の涙の熱を確かに受け取り、
表情を変えぬまま歩を止めなかった。
◆
やがて森の奥が開け、灰色の岩壁に寄り添うように
ひっそりとした建物が現れた。
「……ここが、お前の寝床になる」
烏蓮がそう言った瞬間、葵はぐっと彼の服にしがみついた。
恐怖か、寒さか、それとも別の理由か。
小屋は、古びていて小さい。
だけど、不思議と“死”の匂いはしなかった。
扉を開くと、木の香りがした。
中には、簡素な机と椅子がひとつずつ。
棚には、黒い冊子が何冊も並んでいた。
それは——“魂の記録”。
死神が扱う、過去の生命の足跡。
葵は無意識に息を呑む。
「触れるな。お前にはまだ早い」
低い声が響き、葵は肩を震わせてうなずいた。
烏蓮は椅子に腰を下ろし、葵をそっと床に降ろす。
布を取り出して焚き火のそばに置きながら言う。
「濡れた服は冷える。着替えろ。……凍えるぞ」
その言葉には、感情らしきものが引っかかっていた。
ほんの僅かな、気遣いの色。
死神が人間にそうするのは、禁じられている。
彼自身、それを誰より理解しているはずだった。
葵はうつむいたまま俯せになり、
ぎゅっと拳を握る。
「……ありが、と」
小さく、途切れた声。
それは人として生きようとする初めの一歩だった。
烏蓮のまぶたが、ほんの僅かに震える。
「……礼は不要だ」
それだけを吐き、顔をそむけた。
だが、胸の奥で何かが疼いた。
“助けてしまった”。
“関わってしまった”。
死神としてあるまじき情が、自分の手を汚した。
——禁忌を破ったという確信が、彼の心臓をゆっくり締めつける。
◆
葵は焚き火のそばで膝を抱えた。
小屋の隙間風は冷たいが、炎の光がささやかな安心をくれる。
烏蓮は少女を見ないように、帳面に目を落としていた。
だがページは一向に進まない。
視線も、指先も、どうしても少女の存在を意識してしまう。
(なぜ……ここまで気にしている?)
自問しても答えは出なかった。
葵が震える肩を寄せて炎を見つめているのを確認すると、
烏蓮はほんの一瞬だけ、目を細めた。
それは、誰にも見られてはいけない表情だった。
死神が持つはずのない、
——救いの色。
そして、胸の奥深くで、
“失われた記憶の影”がわずかに疼き、揺れた。
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