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フルーツ
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「辞めるってどういうこと?」
少なくともフレイ自身に辞職の意思はない。フレイにはお金が必要なのだ。
「だって、金融課に配属になった人って全員1週間で辞めてるんでしょ?」
アンが心配そうな顔で言った。ステーキをモグモグを咀嚼していなければ友達を心配する表情としては完璧である。
「初めて聞いたわ。でも、私は辞める予定はないわ」
「そっか~、よかったよかった!」
「金融課について何か聞いたの?良かったら聞かせて」
自分の部署の位置づけや役割についてアリーザから碌な説明を受けられなかったので、アンの口から外部からの金融課の話を聞ければと思って聞いただけなのだが、アンは目に見えて動揺をした。
「べ、べつに、金融課の話なんて何もきいてないよ。わたし……」
「そんな言いにくい話なの?」
「そんなことないよ。昔、総合窓口から金融課に異動した人が意味不明な調べ物ばかりやらされて1週間で病気になってギルドを辞めちゃったとか、そんな話ばっかりだから。フレイちゃんはそんな仕事してないでしょ?」
「ええ、そうね」と表面上は否定してみても、ついさっきまで行っていた衛兵の日記を読む仕事のことが脳裏をよぎってしまう。
「そんな話ばっか、って言ったけど他にもあるの?」
「うん、金融課の巨人が窓口の資料を盗んでいくとか。冒険者が金融課の名前を出すと震え出すとか」
資料を盗む巨人というのはアリーザのことだろう。だが、冒険者が震え出すというのは一体なんなのだろうか。
「そう、ありがとう。私は大丈夫だから心配しないで。それよりも総合窓口の仕事はどう?」
「こっちの仕事?まあまあかな。全部マニュアルあるし。シャスさんの言ってた通りだよ」
「へ~、いいな総合窓口。すごいギルドの仕事って感じがする」
「そうかな?やっぱり花形ってかんじかな?」
「すごい楽して稼いでそう」
「……フレイちゃん。やっぱり嫌なことあった?」
驚くべきことに、量の少ない朝食セットを頼んだフレイが食べ終わったのと、アンが定食2つを完食したのはほぼ同時であった。
「ここのご飯おいしいね、やっぱり都会って感じ」
二人がお茶を片手にまったりとしていると、「あ、ママ!」と呼びかけながら、少女が近づいてきた。
たしか、同期のはずだけど。と思いつつ「ママ」という呼称に違和感を感じた。
「どうしたの?メイリン?」
「ママ、さっきはありがとうね。これあげる」
メイリンと呼ばれた少女は (年齢はそこまで変わらないはずだが)アンの前にフルーツの入った小皿を置いて去って行った。
「アン。あなた子供いたの?」
「いないよ~。でも、なんか懐かれちゃって……」
アンの泣きそうなような、どこか諦めたような表情を見ながらフレイは食器を返却するために立ち上がった。
「この調子じゃ上司からもママって呼ばれるのは時間の問題ね。ママ」
少し意地悪をしすぎたかもしれないとは思ったが、これは金欠で食べたくても食べられない弱者を前に定食を二人分も食べた罰なのだと自分を納得させながらフレイは薄暗く、埃っぽく碌でもない仕事が待つ金融課の小屋に向かった。
少なくともフレイ自身に辞職の意思はない。フレイにはお金が必要なのだ。
「だって、金融課に配属になった人って全員1週間で辞めてるんでしょ?」
アンが心配そうな顔で言った。ステーキをモグモグを咀嚼していなければ友達を心配する表情としては完璧である。
「初めて聞いたわ。でも、私は辞める予定はないわ」
「そっか~、よかったよかった!」
「金融課について何か聞いたの?良かったら聞かせて」
自分の部署の位置づけや役割についてアリーザから碌な説明を受けられなかったので、アンの口から外部からの金融課の話を聞ければと思って聞いただけなのだが、アンは目に見えて動揺をした。
「べ、べつに、金融課の話なんて何もきいてないよ。わたし……」
「そんな言いにくい話なの?」
「そんなことないよ。昔、総合窓口から金融課に異動した人が意味不明な調べ物ばかりやらされて1週間で病気になってギルドを辞めちゃったとか、そんな話ばっかりだから。フレイちゃんはそんな仕事してないでしょ?」
「ええ、そうね」と表面上は否定してみても、ついさっきまで行っていた衛兵の日記を読む仕事のことが脳裏をよぎってしまう。
「そんな話ばっか、って言ったけど他にもあるの?」
「うん、金融課の巨人が窓口の資料を盗んでいくとか。冒険者が金融課の名前を出すと震え出すとか」
資料を盗む巨人というのはアリーザのことだろう。だが、冒険者が震え出すというのは一体なんなのだろうか。
「そう、ありがとう。私は大丈夫だから心配しないで。それよりも総合窓口の仕事はどう?」
「こっちの仕事?まあまあかな。全部マニュアルあるし。シャスさんの言ってた通りだよ」
「へ~、いいな総合窓口。すごいギルドの仕事って感じがする」
「そうかな?やっぱり花形ってかんじかな?」
「すごい楽して稼いでそう」
「……フレイちゃん。やっぱり嫌なことあった?」
驚くべきことに、量の少ない朝食セットを頼んだフレイが食べ終わったのと、アンが定食2つを完食したのはほぼ同時であった。
「ここのご飯おいしいね、やっぱり都会って感じ」
二人がお茶を片手にまったりとしていると、「あ、ママ!」と呼びかけながら、少女が近づいてきた。
たしか、同期のはずだけど。と思いつつ「ママ」という呼称に違和感を感じた。
「どうしたの?メイリン?」
「ママ、さっきはありがとうね。これあげる」
メイリンと呼ばれた少女は (年齢はそこまで変わらないはずだが)アンの前にフルーツの入った小皿を置いて去って行った。
「アン。あなた子供いたの?」
「いないよ~。でも、なんか懐かれちゃって……」
アンの泣きそうなような、どこか諦めたような表情を見ながらフレイは食器を返却するために立ち上がった。
「この調子じゃ上司からもママって呼ばれるのは時間の問題ね。ママ」
少し意地悪をしすぎたかもしれないとは思ったが、これは金欠で食べたくても食べられない弱者を前に定食を二人分も食べた罰なのだと自分を納得させながらフレイは薄暗く、埃っぽく碌でもない仕事が待つ金融課の小屋に向かった。
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