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第13話
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ある病院にて入院していた僕は、ひとりの女性と出会っていた。
椎菜爽芽。
僕より三歳年上の女性だったが、彼女も僕と同じように《妄想具現症》を患っていた。
《妄想具現症》に相当する病態が明確に記述されたのは、一八九九年のころであり、若いころになりやすい……つまり、青年期に発病し、最後には精神荒廃をきたして痴呆状態になると言われている。
この国で病気として認識され始めたのが一九三七年のこと、ということなのだ。
決して珍しい病ではないはずなのに、どうして僕たちは病院という空間に閉じ込められているのだろうか?
別に犯罪を犯したわけでもないのに、《N一病棟》と呼ばれるエリアは常に鍵で施錠され、物理的に出ることは不可能だ。
――いつまで、ここにいればいいのだろうか?
「病気が寛解する段階に至るまで、出ることはできないよ」
椎菜爽芽が言った。
「僕は、まだ寛解していないのか?」
「してないと思う。まあ、そんな私もしていないんだけど」
「僕は、この病院に閉じ込められた原因を知らない。どうして僕は閉じ込められているんだ?」
「現実の世界で病気を抑えることができなかった。だから、ここへ来た。ここで薬を投与され、安定した生活ができるようになるまで、ここから出ることはできない」
「僕に原因があるというのか?」
「そう。身に覚えがない?」
「ない。強いて言うなら、N県に行ってからの記憶がないってことかな?」
「ひとりで?」
「うん、ひとりで」
「ほかに覚えていることは?」
「小学校五・六年生のときに片想いしていた女の子に再会したことかな……?」
「へえ、どんな?」
「身長が僕より低くて、お人形さんみたいな子だったよ」
「っていうか、ずっとI県にいたわけじゃないんだね」
「小学校五・六年生のときは親の都合でN県の小学校に転校していたんだ」
「ちょっと珍しい経歴だね」
「そうかな……親の都合で転校くらい、よくある話だと思うけど」
「まあ、私が、そういう経験が少ないだけだね」
「そういえば椎菜さんって、なにしてる人なの?」
「無職やってます」
「そうですか」
「で、話を、そらされた気がするけど、そのN県の女の子に出会って、どうなったの?」
「ああ、それは……ね」
N県の小学校で二年間、同じクラスだった女の子――綿里未雪。
彼女はカラスがたくさんいる、あの雪の降る町で、小学校のころと変わらない姿で存在していたんだ。
僕は、あのとき、どうしてN県へ行ったのか――おそらく心の迷いがあったからだろう。
伝播高校を不登校になった僕は、なにかを取り戻すために、あの場所へ行ったのだ――。
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