キミが存在しないラブコメ 〜病弱な僕が世界を変える唯一の方法〜

三浦るぴん

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第35話

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  *

 ――夜が続いていく。

 深夜徘徊になるが、僕は帰宅せずにS市の高井町たかいまちを巡る。

 高井町は筬屋真海奈の家がある町であり、筬屋真海奈が亡くなった海岸のある場所である。

 大友町が左側、初凪町が中央、高井町が右側にある配置である。

 伝播町は大友町、初凪町、高井町の下側にある。

 半島に位置するため、四つの町では必ず海が見える。

 ――なにか手がかりが欲しい。彼女が亡くなった理由……。

 S市を監視しているくらいの大きな《機関》であるはずなのに、《影》から人を守るためには戦闘できる人たちが少なすぎる。

 今も、こうしてる間に人は死んでいるかもしれない。

 ――仇を討ちたい。

 彼女を襲った《影》に正体があるのかはわからないけど、仇を討たなければ、僕の心がどうにかなりそうだった。

 萌瑠に言われたとおりに薬をやめた。

 今、僕の体は薬が抜けていく離脱症状に襲われている。

 目がギラギラとしてきて、この夜は眠れそうにない。

 そうだ、これが僕の普通だったんだ。

 入院する前は、もっとギラギラできていた。

 生きる希望があった。

 三大欲求が欠けることなく存在していたような気がする。

 どこに吐き出すか、わからない性欲によってつくられた白濁液は十回は超えなくとも、それなりに出せていた。

 睡眠欲は、どうだったか?

 まあ、満足に眠れた、というわけでもないが、少しくらいは眠れていた気がする――夜型人間だから、そこは仕方ないとして……。

 食欲は普通だった。

 そこまで太っていた体ではなかった。

 でも今はクリニックに処方された薬の副作用で十キロは太った気がする。

 両親は「副作用が原因じゃなくて食べるから太るんだ」と言うが、薬を飲んだことのない人間が軽々しく言うもんじゃない。

 処方されたときについてくるお薬手帳には「食欲増進」が副作用として書いてある。

 親なら、ちゃんと読め!

 まあ、そんなことがあったから今まで薬を飲むことに抵抗があったのだ。

 でも、今、僕は絶対に薬を飲まなければならないことを破ろうとしている。

 今日が、その一日目だ。

 始まりの日だから、なんだか家に戻りたくない。

 誰かに管理されるのが嫌なのかもしれない。

 鎖に縛られているような束縛感が本当は嫌だった。

 自由になりたかった。

《機関》に所属して、活躍したら、お金がもらえる。

 もう嫌な学校へ行く必要も、働く必要もない。

 僕は今日から始まるんだ。

《影》との戦いは厳しいものかもしれない。

 だけど、薬から解き放たれた僕は無敵だ!

 脳のシナプスが弾ける感覚がある。

 僕は、すべてを《習合》していって完全な存在になる!

 僕の物語は序章が終わったところなんだ。

 これから第一章が始動する――。

 ……と、思っていたら、いつの間にか筬屋真海奈が亡くなった海岸へたどり着いた。

 僕は海に浸かっていた。

 こんなに自分本位なことを考えていたのに、彼女のことを思い出すと胸が痛む良心的なものも感じた。

 おそらく唯一、僕を愛してくれた彼女が、この世界からいなくなったことに心が破壊されかけているから、なのかもしれない。

《影》が現れる気配は、なかった。

 代わりに、ひとりの女の子が目の前にいた。

 足が透き通る彼女が僕を見て、にっこりと微笑んだのだった。
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