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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
25.秘せない
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日も暮れる頃、ゴズメルは軽くなった荷車をカラカラと曳いて、ミックの魔道具屋へと戻った。
「お、お帰りー。どうだった」
「うん……」
修理代金は電子決済で支払い済みだ。ミックに確認コードを渡す間も、ゴズメルの胸はじくじくと痛んでいた。
店の椅子に腰を下ろし、ため息を吐く。
ブランカのためにもっと何かしてあげられたのではと思う。だが冷静に考えるほど自分にできることなど何もないのだと痛感して、気分が滅入ってくる。
「ほい。査定済みの代金とバイト代だ。ごくろうさん」
「ありがとよ……」
バイトを頼んだ手前、ミックは元気のないゴズメルが気になるらしい。「どうした」と尋ねてきた。
「なんか行く前よりへこんでるナ。ブランカには会えなかったのか?」
「いや……会うには会えたけど……はぁ……」
応接間でブランカが涙ながらに語ったのは、妊婦の過酷な現実だった。
妊娠と出産にほのぼのした暖かいイメージを抱いていたゴズメルは、大いに衝撃を受けた。
「赤ちゃんができたとたん、すべての体調不良が『しかたない』の一言で済まされるの。それもただの体調不良じゃないの。朝起きてから夜寝るまでずっと、毒の沼に浸かってるみたいに気持ち悪くて、体が痛くて」
「ええぇ……」
「それに、医者の内診が本当に嫌。若い男の先生が、私の膝をがばっと開いてあそこを見てくるのよ! キースだってまじまじ見たことないのに。こんなこと本当に許されるのかといつも泣きたくなるわ」
そりゃ医者だし……とゴズメルは思ったが、自分やリリィががやられる想像をするだけで嫌な気分になった。
「それって女の医者はいないの? 変えてもらえないのかい?」
「だめ。パパの仕事関係の人みたいで……ママはわがままだと思って、取り合ってくれない。あの人たちにとって、私は厄介な傷ものなのよ」
「き、きずもの……」
きょうび聞かない単語に、ゴズメルは天を仰いだ。
いてもいなくても親とは厄介なものらしい。とはいえ、手厚く生活の面倒を見ているところを見ると、娘を憎んでいるわけでもなさそうだが。
そのぶんキースに憎悪が向いているのかもしれない。
何よりゴズメルの気分を落ち込ませたのは、ブランカの嗅覚の話だった。
「キースのことを、すごく臭く感じてしまって……」
今のブランカは味覚と嗅覚が敏感らしい。今まで好きだった食べ物も食べられず、においを嗅いだだけで吐いてしまうこともあるという。
食べ物だけで済めばよかったのだが、なんと夫のキースまでもがその対象になってしまったのだ。家の中を区切ったのは、なんとかして距離をおこうとした結果だったらしい。
「そ……それは、キースに言ったの?」
「打ち明けたら、『俺はバイキンじゃない!』とすごく怒って……私、それで実家に逃げてきたのよ」
ゴズメルは唸った。ひどいことを言って勝手に出て行った、とキースがぼやいていたのはこの話らしい。
ブランカはくすんと笑った。
「こんな私に、キースも愛想を尽かしたみたい。なんの連絡もよこさないってことは、きっと別に女ができたんでしょうね……」
「あー……いや……」
キースの言動を思い返すと、ゴズメルはうまく庇えなかった。
「…………実は、そのキースから手紙を預かって来たんだけどね」
「えっ」
それを聞いたとたん、ブランカは応接間のドアをぱっとうかがった。
ドアは閉じたままだ。
母親への萎縮ぶりを、ゴズメルは気の毒に思った。ブランカはお金持ちのお嬢様で、恵まれた暮らしをしているのに、そのことがかえって彼女の重荷になっているのだ。
キースと一緒にいるのがつらくて母の元へ逃げてきたのに、今は母といるのがしんどい。本人にしてみれば、逃げ場のない迷宮に閉じ込められた気分だろう。
あれこれと考えすぎて頭がかゆくなってきた。ゴズメルはがしがしと髪をかいた。
「あのさ、キースには返事は期待するなって言ってあるんだ。だから無理に読まなくてもいいよ」
「え……」
「あんたも知ってるだろ。あいつは口じゃグチグチ言うけど、いざって時は体を張って仕事するやつさ。だからブランカが本当に嫌なんだとわかれば、グチグチ言いつつ従うだろう」
ゴズメルはなるべく優しく言った。
「だからブランカはブランカが楽なようにしていいんだよ。お母さんやキースが何を言おうがおかまいなしにさ」
ブランカは黙りこくっていた。下腹部を両腕で抱くようにしてうつむいている。
どんなにつらくても、ブランカは体の中で日々自動的に育っていく命を引き受けざるを得ないのだ。もういっぱいいっぱいで、本当はキースにかまう余裕などないのかもしれなかった。
だが、ブランカは「読んでみる」と言った。
「だってキースは……赤ちゃんのパパだし。祈願だって一緒にしたんだから」
「…………そう?」
「……勘違いしないでね。別に、何か期待している訳じゃないの。ただ、手紙を読むくらいしてあげてもいいかなって思うだけ」
「う、うん……」
拗ねたような口ぶりにゴズメルは少し戸惑った。本当に似たもの夫婦らしい。
様子が変わったのは、ゴズメルがアイテムボックスから手紙を出した時だった。
ブランカが驚いたように息を呑んだ。
「ん? なに?」
ゴズメルは自分の手元を見て「アッ!」と叫んでしまった。
封筒にでかでかと『請求書』と書いてある。
ゴズメルは間違えて、ミックから預かってきたほうの手紙を取り出してしまったのだ。
「間違えた。これはバイト先から預かってきたやつだ。キースからの手紙はこっち!」
「あぁ……そ、そう……。びっくりした……私、てっきり手切れ金を請求されるのかと……」
よほど驚いたのだろう。ブランカの疲れたような笑みが、声が、涙に潤んでいく。
「ブランカ……」
キースの手紙に額をくっつけるようにして泣くブランカに、ゴズメルは優しく言った。
「そんなに泣いたら、お腹の赤ちゃんに良くないよ……」
「わっ私のことを、赤ちゃんのオマケみたいに心配するのやめてよっ……! 違うのっ! キースのことなんか、私、別に」
「おお……そうかそうか、そういうことが辛かったんだね。わかったよ。謝るから泣かないで。ブランカ」
妊娠というのはつくづく大変なことだとゴズメルは思った。
冷静なブランカでさえ、こんなに心を乱されるのだ。これがゴズメルだったら、荒れに荒れてアルティカの街を更地に変えてしまうかもしれない。
「お、お帰りー。どうだった」
「うん……」
修理代金は電子決済で支払い済みだ。ミックに確認コードを渡す間も、ゴズメルの胸はじくじくと痛んでいた。
店の椅子に腰を下ろし、ため息を吐く。
ブランカのためにもっと何かしてあげられたのではと思う。だが冷静に考えるほど自分にできることなど何もないのだと痛感して、気分が滅入ってくる。
「ほい。査定済みの代金とバイト代だ。ごくろうさん」
「ありがとよ……」
バイトを頼んだ手前、ミックは元気のないゴズメルが気になるらしい。「どうした」と尋ねてきた。
「なんか行く前よりへこんでるナ。ブランカには会えなかったのか?」
「いや……会うには会えたけど……はぁ……」
応接間でブランカが涙ながらに語ったのは、妊婦の過酷な現実だった。
妊娠と出産にほのぼのした暖かいイメージを抱いていたゴズメルは、大いに衝撃を受けた。
「赤ちゃんができたとたん、すべての体調不良が『しかたない』の一言で済まされるの。それもただの体調不良じゃないの。朝起きてから夜寝るまでずっと、毒の沼に浸かってるみたいに気持ち悪くて、体が痛くて」
「ええぇ……」
「それに、医者の内診が本当に嫌。若い男の先生が、私の膝をがばっと開いてあそこを見てくるのよ! キースだってまじまじ見たことないのに。こんなこと本当に許されるのかといつも泣きたくなるわ」
そりゃ医者だし……とゴズメルは思ったが、自分やリリィががやられる想像をするだけで嫌な気分になった。
「それって女の医者はいないの? 変えてもらえないのかい?」
「だめ。パパの仕事関係の人みたいで……ママはわがままだと思って、取り合ってくれない。あの人たちにとって、私は厄介な傷ものなのよ」
「き、きずもの……」
きょうび聞かない単語に、ゴズメルは天を仰いだ。
いてもいなくても親とは厄介なものらしい。とはいえ、手厚く生活の面倒を見ているところを見ると、娘を憎んでいるわけでもなさそうだが。
そのぶんキースに憎悪が向いているのかもしれない。
何よりゴズメルの気分を落ち込ませたのは、ブランカの嗅覚の話だった。
「キースのことを、すごく臭く感じてしまって……」
今のブランカは味覚と嗅覚が敏感らしい。今まで好きだった食べ物も食べられず、においを嗅いだだけで吐いてしまうこともあるという。
食べ物だけで済めばよかったのだが、なんと夫のキースまでもがその対象になってしまったのだ。家の中を区切ったのは、なんとかして距離をおこうとした結果だったらしい。
「そ……それは、キースに言ったの?」
「打ち明けたら、『俺はバイキンじゃない!』とすごく怒って……私、それで実家に逃げてきたのよ」
ゴズメルは唸った。ひどいことを言って勝手に出て行った、とキースがぼやいていたのはこの話らしい。
ブランカはくすんと笑った。
「こんな私に、キースも愛想を尽かしたみたい。なんの連絡もよこさないってことは、きっと別に女ができたんでしょうね……」
「あー……いや……」
キースの言動を思い返すと、ゴズメルはうまく庇えなかった。
「…………実は、そのキースから手紙を預かって来たんだけどね」
「えっ」
それを聞いたとたん、ブランカは応接間のドアをぱっとうかがった。
ドアは閉じたままだ。
母親への萎縮ぶりを、ゴズメルは気の毒に思った。ブランカはお金持ちのお嬢様で、恵まれた暮らしをしているのに、そのことがかえって彼女の重荷になっているのだ。
キースと一緒にいるのがつらくて母の元へ逃げてきたのに、今は母といるのがしんどい。本人にしてみれば、逃げ場のない迷宮に閉じ込められた気分だろう。
あれこれと考えすぎて頭がかゆくなってきた。ゴズメルはがしがしと髪をかいた。
「あのさ、キースには返事は期待するなって言ってあるんだ。だから無理に読まなくてもいいよ」
「え……」
「あんたも知ってるだろ。あいつは口じゃグチグチ言うけど、いざって時は体を張って仕事するやつさ。だからブランカが本当に嫌なんだとわかれば、グチグチ言いつつ従うだろう」
ゴズメルはなるべく優しく言った。
「だからブランカはブランカが楽なようにしていいんだよ。お母さんやキースが何を言おうがおかまいなしにさ」
ブランカは黙りこくっていた。下腹部を両腕で抱くようにしてうつむいている。
どんなにつらくても、ブランカは体の中で日々自動的に育っていく命を引き受けざるを得ないのだ。もういっぱいいっぱいで、本当はキースにかまう余裕などないのかもしれなかった。
だが、ブランカは「読んでみる」と言った。
「だってキースは……赤ちゃんのパパだし。祈願だって一緒にしたんだから」
「…………そう?」
「……勘違いしないでね。別に、何か期待している訳じゃないの。ただ、手紙を読むくらいしてあげてもいいかなって思うだけ」
「う、うん……」
拗ねたような口ぶりにゴズメルは少し戸惑った。本当に似たもの夫婦らしい。
様子が変わったのは、ゴズメルがアイテムボックスから手紙を出した時だった。
ブランカが驚いたように息を呑んだ。
「ん? なに?」
ゴズメルは自分の手元を見て「アッ!」と叫んでしまった。
封筒にでかでかと『請求書』と書いてある。
ゴズメルは間違えて、ミックから預かってきたほうの手紙を取り出してしまったのだ。
「間違えた。これはバイト先から預かってきたやつだ。キースからの手紙はこっち!」
「あぁ……そ、そう……。びっくりした……私、てっきり手切れ金を請求されるのかと……」
よほど驚いたのだろう。ブランカの疲れたような笑みが、声が、涙に潤んでいく。
「ブランカ……」
キースの手紙に額をくっつけるようにして泣くブランカに、ゴズメルは優しく言った。
「そんなに泣いたら、お腹の赤ちゃんに良くないよ……」
「わっ私のことを、赤ちゃんのオマケみたいに心配するのやめてよっ……! 違うのっ! キースのことなんか、私、別に」
「おお……そうかそうか、そういうことが辛かったんだね。わかったよ。謝るから泣かないで。ブランカ」
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