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急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
27.バラの花
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ナナが言うには、リリィは話を聞いたとたん、スッと顔から表情を消して沈黙したらしい。
「先輩は私がどんなにもの覚えが悪くても、辛抱強く教えてくれる方です。あんなふうに怒るなんてはじめてで……とても怖かったです……」
「そ、それは本当に怒ってたんだろうか?」
「だって、あの気遣いのカタマリのようなリリィ先輩が、そのまま何も言わないで席を立ったんですよ。きっと気分を害したに違いありません」
ゴズメルは想像してみてゾッとした。
言われてみれば、図書室で嫉妬心を露わにした時もリリィの表情は薄かったのだ。怒れば怒るほど無表情になるタイプなのかもしれない。
「どっどうしよう。謝ったら許してくれるかな……」
ゴズメルは今日一番の大パニックに陥った。
まったく厄日である。シラヌイにキャリアがどうとか言われ、ミックの元を訪ねたら馬車馬(牛)のごとく働く羽目になり、キースとブランカのことでさんざんに落ち込んで、挙句、リリィはゴズメルに腹を立てているらしい。
(ああ、猫族のメイドさんに鼻の下を伸ばしたりなんかするからこういうことになるんだ。そうだ、あたしは誰とも必要以上に関わらないってリリィに約束したのに、偽卵の注文にもいかず、あちこちほっつき歩いていた。バチが当たったんだぁ……)
そのうえ、ナナは追い打ちをかけてきた。
「それで、戻ってこられた先輩が、これをゴズメルさんに渡してほしいと……」
差し出された紙片にゴズメルは「ひっ」と声を上げてしまった。
冒険者協会のロゴ入りメモ用紙を四つ折りにしてあるが、おそらく手紙だろう。
手紙なんかもうこりごりだとゴズメルは思った。
まさか品のいいリリィが『しねぼけなす』とか『おたんちん』とか書き送ってくるわけがないと思うのだが、わからない。『だいきらい』『わかれて』とかだったらショック死してしまう。
(ああ、あたしは本当にブランカに悪いことをしちまった……。これで『請求書』とか書いてあったら、泣くにきまってるじゃないか……)
ゴズメルはおどろおどろしいオーラを放って見える紙片を前に、ハァハァと荒い息をついた。
受け取りたくない。だが、ナナはこれを渡すためにわざわざ居残ってくれたのだ。
ゴズメルは目をつぶって、サッとナナの手から紙片をとった。
(ナムサン!)
心の中でミノタウロス族に伝わるおまじないを唱えて、ぱっと紙片を開く。
そうっと薄目で中を見たゴズメルは、最初、そこにバラの花びらが挟んであるのかと思った。
「え……」
そこには、リリィの赤い唇の痕があった。
ルージュを引いた唇を、メモ用紙に押し当てたのだとわかる。
「…………」
ゴズメルは、自然と手で胸の真ん中を押さえてしまった。胸の奥にある、心臓、なのだろうか、普段あまり意識しない臓器が、きゅうっとキツくかた結びされたみたいに苦しい。
苦しいのだ。それをするリリィを思い浮かべるだけで息ができなくなるほど胸が苦しいのに、想像せずにいられない。
ゴズメルはナナと話したはずみで、ついデレデレと『今日も綺麗だね』と言っただけなのに。リリィは後輩の前で表情を失うほど動揺したのだ。言葉も発せないまま席を立ち、人気のないところを求めて歩き回る。
なにを思っていたのだろう。ナナの言うとおり怒っていたのかもしれない。自分は投げキスひとつされただけでキレるくせに、後輩を使ってリリィを口説くのだから、ゴズメルはたしかに自分勝手だ。
それでも、いつもはうっすらとしかしない化粧をゴズメルのために直した。紙片に唇を付けるために。
ゴズメルはこの場にいないリリィに『キスして』と言われている気がした。あの泣きそうな声で。
「んもぉおおお……」
ゴズメルは牛のように鳴かずにはいられなかった。
世の中に可愛い女の子はいくらでもいることを、ゴズメルは知っている。
というのも、ミノタウロス族のゴズメルはガタイが大きくて強いので、たいていの女の子は(小さくて可愛いな)と思う。(あたしが守ってあげなきゃ!)という気持ちになるのだ。
だが、リリィはそういうのとは全然違う。自分より小さくて弱いから可愛いんじゃないのだ。
だってリリィはこんなに強い。一生懸命に体いっぱい、驚くほど力強くゴズメルを愛していて、花びらのような唇をわけてさえくれる。
もう可愛くて可愛くて仕方がない。
リリィと結婚したい、とゴズメルは思った。つらい思いしかしないとしても、恋人なだけじゃ嫌だ。もっと確実に契約というかたちで、リリィと深く繋がっていたい。
それが、結果的にリリィを、生まれてくる子どもを、深く傷つけることになったとしても。
(だめだー、あたしは利己的な親だー。うちの親父と同じで、自分のことしか考えられないよう)
小さな紙片を相手に、唸ったり目をウルウルさせたりしているゴズメルに、ナナは完全に腰がひけていた。
「だ……だいじょうぶですか……?」
「うー、うん……うん……」
ゴズメルは、「はぁっ」と深呼吸して、紙片を大切に畳んだ。
「ごめんよ、ナナ……あんたはリリィを心配していたのに、すっかり巻き込んじまったね……」
「いえ……私はかえってご迷惑をおかけしたみたいです……」
「そんなことないっ!」
不安げに猫耳をイカ耳にするナナの両肩を、ゴズメルは真上からガシッと掴んだ。
「あんたのおかげで、あたしはなんだか大切なことを思い出せた気がする。ありがとう、ナナ」
「ホントですかぁ……? うーん、お役に立てたなら良かったですけど……」
ナナは眠たげにほほえんだ。その笑顔は冒険者に元気を与える、受付嬢にふさわしいものだった。
「先輩は私がどんなにもの覚えが悪くても、辛抱強く教えてくれる方です。あんなふうに怒るなんてはじめてで……とても怖かったです……」
「そ、それは本当に怒ってたんだろうか?」
「だって、あの気遣いのカタマリのようなリリィ先輩が、そのまま何も言わないで席を立ったんですよ。きっと気分を害したに違いありません」
ゴズメルは想像してみてゾッとした。
言われてみれば、図書室で嫉妬心を露わにした時もリリィの表情は薄かったのだ。怒れば怒るほど無表情になるタイプなのかもしれない。
「どっどうしよう。謝ったら許してくれるかな……」
ゴズメルは今日一番の大パニックに陥った。
まったく厄日である。シラヌイにキャリアがどうとか言われ、ミックの元を訪ねたら馬車馬(牛)のごとく働く羽目になり、キースとブランカのことでさんざんに落ち込んで、挙句、リリィはゴズメルに腹を立てているらしい。
(ああ、猫族のメイドさんに鼻の下を伸ばしたりなんかするからこういうことになるんだ。そうだ、あたしは誰とも必要以上に関わらないってリリィに約束したのに、偽卵の注文にもいかず、あちこちほっつき歩いていた。バチが当たったんだぁ……)
そのうえ、ナナは追い打ちをかけてきた。
「それで、戻ってこられた先輩が、これをゴズメルさんに渡してほしいと……」
差し出された紙片にゴズメルは「ひっ」と声を上げてしまった。
冒険者協会のロゴ入りメモ用紙を四つ折りにしてあるが、おそらく手紙だろう。
手紙なんかもうこりごりだとゴズメルは思った。
まさか品のいいリリィが『しねぼけなす』とか『おたんちん』とか書き送ってくるわけがないと思うのだが、わからない。『だいきらい』『わかれて』とかだったらショック死してしまう。
(ああ、あたしは本当にブランカに悪いことをしちまった……。これで『請求書』とか書いてあったら、泣くにきまってるじゃないか……)
ゴズメルはおどろおどろしいオーラを放って見える紙片を前に、ハァハァと荒い息をついた。
受け取りたくない。だが、ナナはこれを渡すためにわざわざ居残ってくれたのだ。
ゴズメルは目をつぶって、サッとナナの手から紙片をとった。
(ナムサン!)
心の中でミノタウロス族に伝わるおまじないを唱えて、ぱっと紙片を開く。
そうっと薄目で中を見たゴズメルは、最初、そこにバラの花びらが挟んであるのかと思った。
「え……」
そこには、リリィの赤い唇の痕があった。
ルージュを引いた唇を、メモ用紙に押し当てたのだとわかる。
「…………」
ゴズメルは、自然と手で胸の真ん中を押さえてしまった。胸の奥にある、心臓、なのだろうか、普段あまり意識しない臓器が、きゅうっとキツくかた結びされたみたいに苦しい。
苦しいのだ。それをするリリィを思い浮かべるだけで息ができなくなるほど胸が苦しいのに、想像せずにいられない。
ゴズメルはナナと話したはずみで、ついデレデレと『今日も綺麗だね』と言っただけなのに。リリィは後輩の前で表情を失うほど動揺したのだ。言葉も発せないまま席を立ち、人気のないところを求めて歩き回る。
なにを思っていたのだろう。ナナの言うとおり怒っていたのかもしれない。自分は投げキスひとつされただけでキレるくせに、後輩を使ってリリィを口説くのだから、ゴズメルはたしかに自分勝手だ。
それでも、いつもはうっすらとしかしない化粧をゴズメルのために直した。紙片に唇を付けるために。
ゴズメルはこの場にいないリリィに『キスして』と言われている気がした。あの泣きそうな声で。
「んもぉおおお……」
ゴズメルは牛のように鳴かずにはいられなかった。
世の中に可愛い女の子はいくらでもいることを、ゴズメルは知っている。
というのも、ミノタウロス族のゴズメルはガタイが大きくて強いので、たいていの女の子は(小さくて可愛いな)と思う。(あたしが守ってあげなきゃ!)という気持ちになるのだ。
だが、リリィはそういうのとは全然違う。自分より小さくて弱いから可愛いんじゃないのだ。
だってリリィはこんなに強い。一生懸命に体いっぱい、驚くほど力強くゴズメルを愛していて、花びらのような唇をわけてさえくれる。
もう可愛くて可愛くて仕方がない。
リリィと結婚したい、とゴズメルは思った。つらい思いしかしないとしても、恋人なだけじゃ嫌だ。もっと確実に契約というかたちで、リリィと深く繋がっていたい。
それが、結果的にリリィを、生まれてくる子どもを、深く傷つけることになったとしても。
(だめだー、あたしは利己的な親だー。うちの親父と同じで、自分のことしか考えられないよう)
小さな紙片を相手に、唸ったり目をウルウルさせたりしているゴズメルに、ナナは完全に腰がひけていた。
「だ……だいじょうぶですか……?」
「うー、うん……うん……」
ゴズメルは、「はぁっ」と深呼吸して、紙片を大切に畳んだ。
「ごめんよ、ナナ……あんたはリリィを心配していたのに、すっかり巻き込んじまったね……」
「いえ……私はかえってご迷惑をおかけしたみたいです……」
「そんなことないっ!」
不安げに猫耳をイカ耳にするナナの両肩を、ゴズメルは真上からガシッと掴んだ。
「あんたのおかげで、あたしはなんだか大切なことを思い出せた気がする。ありがとう、ナナ」
「ホントですかぁ……? うーん、お役に立てたなら良かったですけど……」
ナナは眠たげにほほえんだ。その笑顔は冒険者に元気を与える、受付嬢にふさわしいものだった。
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