75 / 203
急・異種獣人同士で子づくり!?ノァズァークのヒミツ編
44.緑色の猫
しおりを挟む
放出された魔力の霧が、まるで桜吹雪だ。
「リリィ!」
結界をすり抜けたゴズメルは、薄桃色の霧を掻き分けてリリィを探した。
「どこだリリィ! あたしだよ、ゴズメルだ。帰ってきたよ!」
病室のどこが壁だか、どっちにベッドがあるのか、さっぱりわからない。
一歩一歩足取りが重くなる。腕がなにかにぶつかった。ぐっと押し返すと、のれんのように潜り抜けることができて――ゴズメルは、大きな枝垂桜の下に立っていた。
森の中だった。
「あら? 私の名前を呼ぶこのひとは、誰かしら?」
膝のあたりで、少女がエメラルドの瞳をしばたかせている。リリィだ、とゴズメルは即座に気がついた。白い肌も緑色の髪も間違いなくリリィ、なのだが、どうも様子がおかしい。
容姿が幼すぎる。なにより頭に緑色の猫耳が、腰に同じ色のしっぽが生えている・・・。
「……リリィ、なのか」
「はぁい?」
リリィはきょとんとゴズメルを見上げた。リリィのほうも不思議に思っているらしい。ふわふわのしっぽをくねらせながら、ゴズメルのまわりをうろうろ回ったかと思うと、「ふうん……」と正面で立ち止まる。
「とっても不思議だわ。なんだか、あなたを見ていると優しい気持ちになるの」
「……そ、そう?」
「ええ……ねえ、なにかお手伝いできることはない? 私、あなたの役に立ちたいわ。ゴズメル」
名前を呼ばれて、この子は間違いなくリリィだ、とゴズメルは思った。
魔力を大量に放出したショックで、姿かたちが変わっているけれど、中身はちっとも変っていない。
ゴズメルはリリィにすがりついた。
「あぁリリィ、あんたを探してたんだ! 元の姿に戻っておくれ。外じゃえらい騒ぎになってんだから」
「???」
リリィはわからないようだった。まるで後輩のナナのように、しっぽをハテナマークにしている。
「ごめんなさいね、ゴズメル。元の姿に戻るって、なぁに?」
「なぁにって……あんたもっと大きかったじゃないか。それにそんな猫族みたいな耳やしっぽは生えてなかった。綺麗な妖精の翅はどこにしまっちゃったんだ。魔封じのアミュレットは? つけてる?」
「いやぁん、うふふ、もうゴズメル、くすぐったいったら……!」
背中が弱いのは変わらないらしい。手でなぞられただけで肩を縮めて、キャッキャと笑う。
(……だめだ、まるっきり幼児化しちまってる)
からだの小ささといい舌足らずなしゃべり方といい、まだ十歳にもなっていないように見える。
「んもうっ。しょうがないひと」
リリィはゴズメルの利き腕に抱き着いてしまった。甘えん坊の猫そっくりに体中ですりよってくる。
「あなた、ひとを探しているのね。だいじょうぶよ。私が一緒に探してあげる」
探している相手に言われても・・・とゴズメルは思ったが、とにかくここはリリィに合わせるしかない。ゴズメルの名前がスッと口から出てきたように、そのうち本来の姿を取り戻すかもしれない。
「うん……わかった。ありがとう」
リリィは、ふと切ない目をして、ゴズメルの首に抱きついた。
「ゴズメル、そんなに落ち込まないで。あなたが悲しいと、私まで悲しい気持ちになるの……」
「……うん」
「森を抜けると町があるわ。ほかのひとにも聞いてみましょうよ」
「森を抜けると町があるだって?」
「そうよ。どうしてそんなに驚いているの?」
驚くに決まっている。幻覚か何かなのだろうが、本来ここは病室の中だ。
(これじゃまるでリリィの夢の中に迷い込んじまったみたいだ……いや、そうなのか? 魔力を溜め込んだリリィが、自分にとって都合のいい夢を見ているのか……)
ゴズメルはリリィを抱き上げて森を歩いた。
気候は穏やかで、時折優しい風が吹く。草陰にはみずみずしい花が咲き、空には鳥がうたっている。
リリィの見る夢の綺麗さに、ゴズメルは赤面してしまった。
(あ、あたしはバカみたいな淫夢ばっか見てんのに、リリィって……)
町に着くとすぐ、小犬がいた。リリィはゴズメルの腕からぴょんと飛び降りて「キース!」と呼びかける。
ゴズメルは耳を疑ったが、灰色の毛並みといいドロンした目つきといい、確かにキースらしい。
「こんにちはだワン。どうしたんだワン?」
「こんにちは、キース……あのね、ひとを探しているのよ。私と同じ、リリィって名前のひとなんですって」
「ワンワン」
リリィが撫でてやると、キースは喜んで腹を見せてくる。ほほえましい絵面に、ゴズメルは笑いを禁じえなかった。リリィにとってのキースは、つまりそういう存在なのだ。
だが、犬のキースはゴズメルを視界に入れると、急に牙をむき出しにして唸りだした。
リリィが慌ててなだめる。
「どうしたの、キース。ゴズメルに失礼なことしないで」
「ごめんなさいだワン。でもこのひとを見ていると、なんだかムシャクシャするんだワン」
「まぁ……!」
キースとゴズメルの関係を、そう捉えているらしい。
「リリィといえば、町の中でそんな名前を見た気がするワン。行ってみるといいワン」
「ありがとう、キース。調子が悪いのにごめんなさいね」
「ありがとよ、キース!」
「ワワワワンワンワン!」
ゴズメルが礼を言うと、キースは人語を忘れてけたたましく吠え出した。
「かわいそうなキース! いつもはああじゃないのに……」
少し離れてから、リリィは気の毒そうに言った。
「知ってるよ」とゴズメルは含み笑いする。
町の中も、色々と妙だった。掲示板にはシラヌイそっくりのポスターが貼ってあるし(「そのひとは町長さんよ。すごく親切なひと」とリリィは言った)、すれちがうひとも冒険者協会の顔ぶればかりだ。
だが、広場の銅像だけは誰だかわからなかった。
年老いた婦人で、杖をついている。雑種だろうか。種族の形質が見られない。
考えこむゴズメルに、リリィがそっと耳打ちした。
「私のお祖母さまよ。この町の創始者」
「えっ」
銅像だからだろうか。ゴズメルがイメージしていたよりも何倍も厳しそうだ。
「……じゃ、リリィは創始者の孫なんだ」
「そうよ。お祖母さまのおかげで、みんなは私に良くしてくれるの」
「そ、そうなのかい?」
「ええ! とてもすごい方よ。お祖母様の教えの通りに生きれば、間違いないんだから」
そう言いながら、リリィがかすかに震えているのはなぜだろう。
ゴズメルはリリィを抱いたまま、銅像から離れた。
「リリィ、あのさ」
「あっ、ゴズメル」
二人が声を上げたのは完全に同時だった。黙ったゴズメルの表情をうかがうようにして、リリィが路地を指さす。
ツタにまみれた館の前に、立て看板がある。
その館では『リリィの世界』という幻灯が上映しているらしい。
「……なるほどね。キースが言ってたのはこれか」
「ええ……、ね、ゴズメル。何か言いかけなかった?」
ゴズメルは言いよどんだ。リリィに言わなければならないことがあるのだ。
妖精のリリィが好きだ、結婚してくれと、そう言えば元の姿を取り戻してくれるかもしれないと思った。
ためらったのは、リリィが喜ばないような気がしたからだ。
リリィは卵を生んでくれたけれど、『結婚したい』とは言わなかった。思えば、つきあう時もそうだった。好きだと言ったのはリリィが先だが、恋人になってほしいと言ったのはゴズメルだ。
そして今、彼女は猫族になっている。妖精族でいることが、それほどまでに嫌なのだろう。ゴズメルはリリィを幸せにしたいけれど、それは、結婚したからといって・・・。
(……だめだ。頭が堂々巡りしちまってる。とにかく大事なのはリリィの気持ちだ。今までずっと我慢させてたから、こんな事態になった)
不安そうなリリィを、ゴズメルは抱きなおした。
「リリィ。あんた、何かしたいことがあるんじゃないのかい?」
「? 私のしたいことは、ゴズメルの役に立つことだわ」
「そういう世のため人のためじゃなくてさ、もっとこう、晴らせない鬱憤だとか、あんた自身の不満みたいな……」
「どうしたの? 急にそんなこと言うなんて、おかしなゴズメル」
リリィは熱を確かめるように、ゴズメルの額を撫でた。
太くて短い角を優しく触られると、ゴズメルはそわそわしてしまう。リリィはこんなに幼いというのに!
「私、不満なんてなにもないのよ。ゴズメルが元気でニコニコしてくれるのが、いちばん嬉しいんだから」
「うぅ……そう、なのかい……?」
「ええ。ねえ、あの幻灯を見に行ってみましょうよ。何か手がかりがあるかも」
それが今のリリィの望みなら、と、ゴズメルは従った。
いつのまにか日が西へ落ちかかり、肌寒くなってきた。
館の扉をノックすると、中からヌッと人影が顔を覗かせる。
「あっ、イーユン」
「お二人さんかい?」
「ええ」
「どれ、チケットを拝見」
そんなもん持ってるわけあるか!と、ゴズメルは思ったが、苦し紛れにポケットに手を突っ込んでみると・・・なんと、二枚あった。さすがリリィの夢の中だ。
イーユンがチケットにパチンパチンと鋏を入れてくれて、二人はようやく館の中に入れた。
円形のホールに、長椅子がずらっと並んでいる。
窓は黒い幕で塞がれていて、光源は後方に設置してある背の高い燭台だけだ。
中央の席に着くと、リリィが体をピトッと腕にくっつけてきた。
「……嫌だわ。なんだか怖いみたい」
「大丈夫だよ。あたしがついてるだろ」
リリィの足から、ゴズメルは靴を脱がせてやった。ほかに客もいない。リラックスさせてやろうと膝に座らせると、リリィは何やらもじもじしだした。
「うん? トイレなら先に行きなよ」
「……違う。なんだか、赤ちゃんみたいで恥ずかしいのよ」
「何を言ってんのさ。今のあんたは赤ちゃんみたいなもんじゃないか」
「ひどい! 私は赤ちゃんじゃないわ!」
だが、ヨシヨシとあやされるのはまんざらでもないらしい。
溶けるようにゴズメルの膝へからだを伸ばし、もっともっとと撫でてほしがる。
「にゃん……にゃあん……」
しっぽの近くが特にいいらしかった。付け根に指を入れてポンポンと尻を叩くと、緑色のしっぽをくねらせて悦ぶ。しっぽを指で挟んで、しゅーっとしごいてやると、もっと凄かった。
「ふにゃぁあん……!」
耳もしっぽもヘニョヘニョになってしまう。そうだ、猫族だって楽じゃないんだぞ、とゴズメルは鼻息荒く思った。いい機会だ、もっと思い知らせてやる……!
そう息巻いた時、フッと灯りが消えた。
「リリィ!」
結界をすり抜けたゴズメルは、薄桃色の霧を掻き分けてリリィを探した。
「どこだリリィ! あたしだよ、ゴズメルだ。帰ってきたよ!」
病室のどこが壁だか、どっちにベッドがあるのか、さっぱりわからない。
一歩一歩足取りが重くなる。腕がなにかにぶつかった。ぐっと押し返すと、のれんのように潜り抜けることができて――ゴズメルは、大きな枝垂桜の下に立っていた。
森の中だった。
「あら? 私の名前を呼ぶこのひとは、誰かしら?」
膝のあたりで、少女がエメラルドの瞳をしばたかせている。リリィだ、とゴズメルは即座に気がついた。白い肌も緑色の髪も間違いなくリリィ、なのだが、どうも様子がおかしい。
容姿が幼すぎる。なにより頭に緑色の猫耳が、腰に同じ色のしっぽが生えている・・・。
「……リリィ、なのか」
「はぁい?」
リリィはきょとんとゴズメルを見上げた。リリィのほうも不思議に思っているらしい。ふわふわのしっぽをくねらせながら、ゴズメルのまわりをうろうろ回ったかと思うと、「ふうん……」と正面で立ち止まる。
「とっても不思議だわ。なんだか、あなたを見ていると優しい気持ちになるの」
「……そ、そう?」
「ええ……ねえ、なにかお手伝いできることはない? 私、あなたの役に立ちたいわ。ゴズメル」
名前を呼ばれて、この子は間違いなくリリィだ、とゴズメルは思った。
魔力を大量に放出したショックで、姿かたちが変わっているけれど、中身はちっとも変っていない。
ゴズメルはリリィにすがりついた。
「あぁリリィ、あんたを探してたんだ! 元の姿に戻っておくれ。外じゃえらい騒ぎになってんだから」
「???」
リリィはわからないようだった。まるで後輩のナナのように、しっぽをハテナマークにしている。
「ごめんなさいね、ゴズメル。元の姿に戻るって、なぁに?」
「なぁにって……あんたもっと大きかったじゃないか。それにそんな猫族みたいな耳やしっぽは生えてなかった。綺麗な妖精の翅はどこにしまっちゃったんだ。魔封じのアミュレットは? つけてる?」
「いやぁん、うふふ、もうゴズメル、くすぐったいったら……!」
背中が弱いのは変わらないらしい。手でなぞられただけで肩を縮めて、キャッキャと笑う。
(……だめだ、まるっきり幼児化しちまってる)
からだの小ささといい舌足らずなしゃべり方といい、まだ十歳にもなっていないように見える。
「んもうっ。しょうがないひと」
リリィはゴズメルの利き腕に抱き着いてしまった。甘えん坊の猫そっくりに体中ですりよってくる。
「あなた、ひとを探しているのね。だいじょうぶよ。私が一緒に探してあげる」
探している相手に言われても・・・とゴズメルは思ったが、とにかくここはリリィに合わせるしかない。ゴズメルの名前がスッと口から出てきたように、そのうち本来の姿を取り戻すかもしれない。
「うん……わかった。ありがとう」
リリィは、ふと切ない目をして、ゴズメルの首に抱きついた。
「ゴズメル、そんなに落ち込まないで。あなたが悲しいと、私まで悲しい気持ちになるの……」
「……うん」
「森を抜けると町があるわ。ほかのひとにも聞いてみましょうよ」
「森を抜けると町があるだって?」
「そうよ。どうしてそんなに驚いているの?」
驚くに決まっている。幻覚か何かなのだろうが、本来ここは病室の中だ。
(これじゃまるでリリィの夢の中に迷い込んじまったみたいだ……いや、そうなのか? 魔力を溜め込んだリリィが、自分にとって都合のいい夢を見ているのか……)
ゴズメルはリリィを抱き上げて森を歩いた。
気候は穏やかで、時折優しい風が吹く。草陰にはみずみずしい花が咲き、空には鳥がうたっている。
リリィの見る夢の綺麗さに、ゴズメルは赤面してしまった。
(あ、あたしはバカみたいな淫夢ばっか見てんのに、リリィって……)
町に着くとすぐ、小犬がいた。リリィはゴズメルの腕からぴょんと飛び降りて「キース!」と呼びかける。
ゴズメルは耳を疑ったが、灰色の毛並みといいドロンした目つきといい、確かにキースらしい。
「こんにちはだワン。どうしたんだワン?」
「こんにちは、キース……あのね、ひとを探しているのよ。私と同じ、リリィって名前のひとなんですって」
「ワンワン」
リリィが撫でてやると、キースは喜んで腹を見せてくる。ほほえましい絵面に、ゴズメルは笑いを禁じえなかった。リリィにとってのキースは、つまりそういう存在なのだ。
だが、犬のキースはゴズメルを視界に入れると、急に牙をむき出しにして唸りだした。
リリィが慌ててなだめる。
「どうしたの、キース。ゴズメルに失礼なことしないで」
「ごめんなさいだワン。でもこのひとを見ていると、なんだかムシャクシャするんだワン」
「まぁ……!」
キースとゴズメルの関係を、そう捉えているらしい。
「リリィといえば、町の中でそんな名前を見た気がするワン。行ってみるといいワン」
「ありがとう、キース。調子が悪いのにごめんなさいね」
「ありがとよ、キース!」
「ワワワワンワンワン!」
ゴズメルが礼を言うと、キースは人語を忘れてけたたましく吠え出した。
「かわいそうなキース! いつもはああじゃないのに……」
少し離れてから、リリィは気の毒そうに言った。
「知ってるよ」とゴズメルは含み笑いする。
町の中も、色々と妙だった。掲示板にはシラヌイそっくりのポスターが貼ってあるし(「そのひとは町長さんよ。すごく親切なひと」とリリィは言った)、すれちがうひとも冒険者協会の顔ぶればかりだ。
だが、広場の銅像だけは誰だかわからなかった。
年老いた婦人で、杖をついている。雑種だろうか。種族の形質が見られない。
考えこむゴズメルに、リリィがそっと耳打ちした。
「私のお祖母さまよ。この町の創始者」
「えっ」
銅像だからだろうか。ゴズメルがイメージしていたよりも何倍も厳しそうだ。
「……じゃ、リリィは創始者の孫なんだ」
「そうよ。お祖母さまのおかげで、みんなは私に良くしてくれるの」
「そ、そうなのかい?」
「ええ! とてもすごい方よ。お祖母様の教えの通りに生きれば、間違いないんだから」
そう言いながら、リリィがかすかに震えているのはなぜだろう。
ゴズメルはリリィを抱いたまま、銅像から離れた。
「リリィ、あのさ」
「あっ、ゴズメル」
二人が声を上げたのは完全に同時だった。黙ったゴズメルの表情をうかがうようにして、リリィが路地を指さす。
ツタにまみれた館の前に、立て看板がある。
その館では『リリィの世界』という幻灯が上映しているらしい。
「……なるほどね。キースが言ってたのはこれか」
「ええ……、ね、ゴズメル。何か言いかけなかった?」
ゴズメルは言いよどんだ。リリィに言わなければならないことがあるのだ。
妖精のリリィが好きだ、結婚してくれと、そう言えば元の姿を取り戻してくれるかもしれないと思った。
ためらったのは、リリィが喜ばないような気がしたからだ。
リリィは卵を生んでくれたけれど、『結婚したい』とは言わなかった。思えば、つきあう時もそうだった。好きだと言ったのはリリィが先だが、恋人になってほしいと言ったのはゴズメルだ。
そして今、彼女は猫族になっている。妖精族でいることが、それほどまでに嫌なのだろう。ゴズメルはリリィを幸せにしたいけれど、それは、結婚したからといって・・・。
(……だめだ。頭が堂々巡りしちまってる。とにかく大事なのはリリィの気持ちだ。今までずっと我慢させてたから、こんな事態になった)
不安そうなリリィを、ゴズメルは抱きなおした。
「リリィ。あんた、何かしたいことがあるんじゃないのかい?」
「? 私のしたいことは、ゴズメルの役に立つことだわ」
「そういう世のため人のためじゃなくてさ、もっとこう、晴らせない鬱憤だとか、あんた自身の不満みたいな……」
「どうしたの? 急にそんなこと言うなんて、おかしなゴズメル」
リリィは熱を確かめるように、ゴズメルの額を撫でた。
太くて短い角を優しく触られると、ゴズメルはそわそわしてしまう。リリィはこんなに幼いというのに!
「私、不満なんてなにもないのよ。ゴズメルが元気でニコニコしてくれるのが、いちばん嬉しいんだから」
「うぅ……そう、なのかい……?」
「ええ。ねえ、あの幻灯を見に行ってみましょうよ。何か手がかりがあるかも」
それが今のリリィの望みなら、と、ゴズメルは従った。
いつのまにか日が西へ落ちかかり、肌寒くなってきた。
館の扉をノックすると、中からヌッと人影が顔を覗かせる。
「あっ、イーユン」
「お二人さんかい?」
「ええ」
「どれ、チケットを拝見」
そんなもん持ってるわけあるか!と、ゴズメルは思ったが、苦し紛れにポケットに手を突っ込んでみると・・・なんと、二枚あった。さすがリリィの夢の中だ。
イーユンがチケットにパチンパチンと鋏を入れてくれて、二人はようやく館の中に入れた。
円形のホールに、長椅子がずらっと並んでいる。
窓は黒い幕で塞がれていて、光源は後方に設置してある背の高い燭台だけだ。
中央の席に着くと、リリィが体をピトッと腕にくっつけてきた。
「……嫌だわ。なんだか怖いみたい」
「大丈夫だよ。あたしがついてるだろ」
リリィの足から、ゴズメルは靴を脱がせてやった。ほかに客もいない。リラックスさせてやろうと膝に座らせると、リリィは何やらもじもじしだした。
「うん? トイレなら先に行きなよ」
「……違う。なんだか、赤ちゃんみたいで恥ずかしいのよ」
「何を言ってんのさ。今のあんたは赤ちゃんみたいなもんじゃないか」
「ひどい! 私は赤ちゃんじゃないわ!」
だが、ヨシヨシとあやされるのはまんざらでもないらしい。
溶けるようにゴズメルの膝へからだを伸ばし、もっともっとと撫でてほしがる。
「にゃん……にゃあん……」
しっぽの近くが特にいいらしかった。付け根に指を入れてポンポンと尻を叩くと、緑色のしっぽをくねらせて悦ぶ。しっぽを指で挟んで、しゅーっとしごいてやると、もっと凄かった。
「ふにゃぁあん……!」
耳もしっぽもヘニョヘニョになってしまう。そうだ、猫族だって楽じゃないんだぞ、とゴズメルは鼻息荒く思った。いい機会だ、もっと思い知らせてやる……!
そう息巻いた時、フッと灯りが消えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
白雪様とふたりぐらし
南條 綾
恋愛
高校1年生の紫微綾は、生きることに疲れ、雪の山で自らの命を終えようとしたその瞬間――
美しい御小女郎姿の少女・白雪が現れ、優しく彼女を救う。
白雪は実は古の仏神・ダキニ天の化身。暇つぶしに人間界に降りた彼女は、綾に「一緒に暮らそう」と提案し……?
銀髪の少女と神様の、甘く温かなふたりぐらしが始まる。
【注意事項】
本作はフィクションです。
実在の人物・団体・宗教・儀礼・場所・出来事とは一切関係ありません。 作中で登場する神仏や信仰に関する表現は、物語の雰囲気づくりを目的とした創作によるものであり、特定の宗教や思想を推進・否定する意図は一切ございません。
純粋なエンターテイメントとしてお楽しみいただければ幸いです。
さくらと遥香(ショートストーリー)
youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。
その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。
※さくちゃん目線です。
※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。
※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。
※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる