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12:こころノーボーダー!
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マリアのへそまわりのポコポコした鱗を指で撫でるのは、とても不思議な感じがした。
上半身脱いだ友達のおへそを、下半身裸の自分が撫でる。異常な状況なのだが、豊かな胸を下ったところにあるその凹みは、ひんやりとした完璧な中立地帯で、なんだか平和な気持ちになる。
ゴズメルは力が強いほうだ。特に指の制御は難しい。目を覚ましたばかりの時は力加減がうまくできなくて、研究所の筆記用具を何個か破壊してしまった。
(あたし、ひとのことをこんなに優しく撫でられるんだな)
ゴズメルは、むかし誰かにこんなふうに触ってもらったことがあるような気がした。
両親ではない、特別なひとに。まるで綺麗な花のかたちを手で確かめるみたいに。
マリアがすぅっと鼻から息を吸い込んで、ゆるく首を振った。黒い角と長い髪が大きく揺れる。
ゴズメルは耳元に優しく尋ねた。
「痛かった? ごめんよ」
泣いているのかと思ったのだ。だが、気のせいだったかもしれない。背中から抱いているマリアの顔は見えなかった。ゴズメルは言った。
「やっぱり明日……もう今日か。神殿が開いたら、住所を登録してこようかな」
「どうして」
「どうしてって、いつまでも宿なしじゃ困るだろ。ただでさえ記憶がないんだから、これからのことをちゃんと考えないと」
「…………」
「……うん。正直言うとさ、なんか記憶なくしてから色んなことが怖いんだ。ぜんぶウソみたいな気がする。妙に忘れっぽくなった気がするし……自分が自分じゃなくなっていくみたいで」
マリアは何か言いたげに顔を上げたけれど、結局、空気を飲み込んで黙った。
ゴズメルは、この反応がちょっと気に入らなかった。
(なんだよ、あたしのことが好きならもっと嬉しそうにすればいいのに)
だがそれを言ったら最後、プライドの高いマリアは『思い上がりも甚だしいわ!』と角をキリキリ尖らせて怒るだろう。ゴズメルは(串刺しにされるのはごめんだ)と思いながら、しげしげとマリアの角を眺めた。
(カッコいいけど、不便そうな角だよな。これじゃうかつにお辞儀もできないじゃないか。キスも……)
いや別にマリアとキスする予定とか、全然ないのだが!
(……でも……あたしは不能だし、マリアもキスできないし、一緒に暮らすぶんにはいいのかもしれない。性格はサイアクだけど……意外と優しいとこも、なくはないし……)
ずっと黙っているマリアをズルく感じて、ゴズメルは彼女の胴をギュッと強く抱いてみた。「んっ」とマリアが苦し気な声を漏らす。だが珍しく文句を言わず微動だにしなかった。うつむいている。まるで恥ずかしがっているみたいに。
耳が、赤い。
「…………!」
ゴズメルはつられて赤くなった。
「……ゴズメル」
「へっ!? は、はいっ」
「暑苦しいのよ。気が済んだならいい加減に離して」
「んっ……うん……」
「あぁ、早く手を洗いたいわ。興味本位で汚いものに触ったから」
男性器のことらしい。ゴズメルは頭の上にガンと石を落とされた気がした。
先ほどのいい感じの雰囲気は気のせいだったのだろうか。
自由になったマリアは、てきぱきと服を着なおす。ゴズメルは下を穿くのがかったるくなってしまって、窓を開けて風を入れた。たしかに部屋はずいぶん暑くなっていた。
ぼーっと風に当たっているゴズメルに、マリアは眉を上げた。
「……ふうん、体調が悪いというのは嘘だったようね」
「ウソじゃないよ! なんで」
「じゃあ早く寝なさいよ」
「……うるさいな、寝たくないんだよ……」
それは本心だった。眠いのは眠いが、また悪夢を見るのかと思うと気が進まない。
ところがマリアはしつこかった。だらしない召使いの、枕の位置やシーツのしわを細かく指摘して直させ、下を穿かせる。ゴズメルは仕方なく横になったが、ムカムカしてしょうがないので「なんかよく眠れるようなお話をしてくれ」と要求した。
「は? お話ですって?」
「そうさ。朝までぐっすり眠れて疲れがとれるような、とびっきりのお話を頼むよ。完全無欠の副会長さん!」
なんだよ、とゴズメルは思っていた。振り回されてばかりで、マリアの気持ちがちっともわからない。マリアはゴズメルを好きなのだろうか。それとも何もかも勘違いで、本当はゴズメルのことなんて、便所のドアについたガムのカスくらいにしか思っていないのだろうか。
ゴズメルは早く出て行ってくれ、という気持ちを込めて無茶な要求をしたのだ。まさかマリアが本気にするだなんて思わなかった。
マリアは細いため息のあと、なんとベッドわきの床に膝をついた。ゴズメルがびっくりして目を見開くと、「ふうん! 目蓋を開けたまま眠れるのね!」と皮肉を言う。
ゴズメルは慌ててぎゅっと目をつぶる。その枕元に頬杖をついて、マリアは話し始めた。
「むかしむかしあるところに、みんなからとても嫌われている女の子がいました」
「ちょっと待っとくれよ、それってちゃんと明るい話なんだろうね!?」
目を閉じたまま文句を言うゴズメルの鼻を、マリアはギュッとつまんでしまった。
上半身脱いだ友達のおへそを、下半身裸の自分が撫でる。異常な状況なのだが、豊かな胸を下ったところにあるその凹みは、ひんやりとした完璧な中立地帯で、なんだか平和な気持ちになる。
ゴズメルは力が強いほうだ。特に指の制御は難しい。目を覚ましたばかりの時は力加減がうまくできなくて、研究所の筆記用具を何個か破壊してしまった。
(あたし、ひとのことをこんなに優しく撫でられるんだな)
ゴズメルは、むかし誰かにこんなふうに触ってもらったことがあるような気がした。
両親ではない、特別なひとに。まるで綺麗な花のかたちを手で確かめるみたいに。
マリアがすぅっと鼻から息を吸い込んで、ゆるく首を振った。黒い角と長い髪が大きく揺れる。
ゴズメルは耳元に優しく尋ねた。
「痛かった? ごめんよ」
泣いているのかと思ったのだ。だが、気のせいだったかもしれない。背中から抱いているマリアの顔は見えなかった。ゴズメルは言った。
「やっぱり明日……もう今日か。神殿が開いたら、住所を登録してこようかな」
「どうして」
「どうしてって、いつまでも宿なしじゃ困るだろ。ただでさえ記憶がないんだから、これからのことをちゃんと考えないと」
「…………」
「……うん。正直言うとさ、なんか記憶なくしてから色んなことが怖いんだ。ぜんぶウソみたいな気がする。妙に忘れっぽくなった気がするし……自分が自分じゃなくなっていくみたいで」
マリアは何か言いたげに顔を上げたけれど、結局、空気を飲み込んで黙った。
ゴズメルは、この反応がちょっと気に入らなかった。
(なんだよ、あたしのことが好きならもっと嬉しそうにすればいいのに)
だがそれを言ったら最後、プライドの高いマリアは『思い上がりも甚だしいわ!』と角をキリキリ尖らせて怒るだろう。ゴズメルは(串刺しにされるのはごめんだ)と思いながら、しげしげとマリアの角を眺めた。
(カッコいいけど、不便そうな角だよな。これじゃうかつにお辞儀もできないじゃないか。キスも……)
いや別にマリアとキスする予定とか、全然ないのだが!
(……でも……あたしは不能だし、マリアもキスできないし、一緒に暮らすぶんにはいいのかもしれない。性格はサイアクだけど……意外と優しいとこも、なくはないし……)
ずっと黙っているマリアをズルく感じて、ゴズメルは彼女の胴をギュッと強く抱いてみた。「んっ」とマリアが苦し気な声を漏らす。だが珍しく文句を言わず微動だにしなかった。うつむいている。まるで恥ずかしがっているみたいに。
耳が、赤い。
「…………!」
ゴズメルはつられて赤くなった。
「……ゴズメル」
「へっ!? は、はいっ」
「暑苦しいのよ。気が済んだならいい加減に離して」
「んっ……うん……」
「あぁ、早く手を洗いたいわ。興味本位で汚いものに触ったから」
男性器のことらしい。ゴズメルは頭の上にガンと石を落とされた気がした。
先ほどのいい感じの雰囲気は気のせいだったのだろうか。
自由になったマリアは、てきぱきと服を着なおす。ゴズメルは下を穿くのがかったるくなってしまって、窓を開けて風を入れた。たしかに部屋はずいぶん暑くなっていた。
ぼーっと風に当たっているゴズメルに、マリアは眉を上げた。
「……ふうん、体調が悪いというのは嘘だったようね」
「ウソじゃないよ! なんで」
「じゃあ早く寝なさいよ」
「……うるさいな、寝たくないんだよ……」
それは本心だった。眠いのは眠いが、また悪夢を見るのかと思うと気が進まない。
ところがマリアはしつこかった。だらしない召使いの、枕の位置やシーツのしわを細かく指摘して直させ、下を穿かせる。ゴズメルは仕方なく横になったが、ムカムカしてしょうがないので「なんかよく眠れるようなお話をしてくれ」と要求した。
「は? お話ですって?」
「そうさ。朝までぐっすり眠れて疲れがとれるような、とびっきりのお話を頼むよ。完全無欠の副会長さん!」
なんだよ、とゴズメルは思っていた。振り回されてばかりで、マリアの気持ちがちっともわからない。マリアはゴズメルを好きなのだろうか。それとも何もかも勘違いで、本当はゴズメルのことなんて、便所のドアについたガムのカスくらいにしか思っていないのだろうか。
ゴズメルは早く出て行ってくれ、という気持ちを込めて無茶な要求をしたのだ。まさかマリアが本気にするだなんて思わなかった。
マリアは細いため息のあと、なんとベッドわきの床に膝をついた。ゴズメルがびっくりして目を見開くと、「ふうん! 目蓋を開けたまま眠れるのね!」と皮肉を言う。
ゴズメルは慌ててぎゅっと目をつぶる。その枕元に頬杖をついて、マリアは話し始めた。
「むかしむかしあるところに、みんなからとても嫌われている女の子がいました」
「ちょっと待っとくれよ、それってちゃんと明るい話なんだろうね!?」
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