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13.once upon a time
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むかしむかしあるところに、みんなからとても嫌われている女の子がいました。
どうして、そんなに嫌われていたのでしょう?
それは、マリアが生まれながらにスペシャルでパーフェクトな女の子だったから!
天にも届く、気高い二本の黒い角。
その身を守る、鋭い毒を秘めた牙。
しかしなによりも特別だったのは、三日月のようにつんと澄ました鼻先です。
彼女が嗅ぎとるのは、おいしいパンや、泡の立つシャボンの香りなんてありきたりのものではありません。
『愛』。
マリアを世話する(光栄に預かった)研究者のひとたちは、みんなそう言いました。
『誰かを愛するひとは、みんなそれぞれ匂いを放ちます』
『可憐な愛にはかぐわしい花の香り、歪んだ愛には腐った水のむかつく臭い』
『あなたの生まれ持った素敵な力は、この素敵な世界をもっともっと素敵にすることでしょう!』
・・・ええ、そうです。この素敵な女の子は、スペシャルでパーフェクトすぎるあまり嫌われたのです。決して、ぶつぶつした鱗や、鋭すぎる角、愛を見抜く力を気味悪がられたせいではありません。
その証拠に、『あなたの生まれ持った素敵な力は、この素敵な世界をもっともっと素敵にすることでしょう!』この素晴らしい予言は大当たりしました。
だって、どんな悪いプレイヤーでも、胸の奥にはひとかけらの愛を隠しているものです。そのへんにいる一山いくらのプレイヤーなら尚のこと。
誰もが、愛については秘密にしたがります。
『みんなには内緒だけど、私は彼を愛しているの』
『この子を守るためなら、どんな苦しみにだって耐えられる』
『俺はあの生意気な女をめちゃくちゃにしてやる! ……頭の中でだけど』
マリアは自分以外のイキモノのバカさ加減に心底呆れてしまいます。
(みんな裸で歩いているようなものだわ、みっともない)
その柔肌をつっつくだけで、みんなはマリアの言うことを聞きます。右へ行けと言ったら右へ行き、左を向けと言ったら左を向きます、もうバカばっかりです。なにしろこの素晴らしい世界には、愛を守るためなら死を選ぶプレイヤーだっているのです(!!!)
おかげさまでマリアの素敵な力は、世界を守るひとたちを大いに助けました。
その報酬にかぐわしい花々をいくつか摘み取ったとて、いったいなんの罪になるでしょう?
そう、大人になったマリアには、いい香りのする愛を踏みにじる権利がありました。これはきっと、全能の神が彼女に与えた大いなる権能です。
ワインの味や香りの変化を楽しむように、マリアはひとの気持ちを弄んで楽しみました。
やり方は無限大です。そのひとの愛を人質にして強請ったり、脅したり、奪ったり、召使いにしたり、もうどんなことだってできます。
ああ、かぐわしい花の香りが見たくも触りたくもない汚水に変わるあの瞬間ときたら、もうたまりません。・・・興味を惹かれるのはその一瞬だけなので、それさえ済んだらもう用済み、飽きたらポイなのですが。
(ああもっと摘み甲斐のある花はないものかしら)
どんなに忙しくとも、マリアはその香りを追い求めていました。忙しいほど、その香りが欲しくなるのです。愛の香りが強いほど、マリアはそれを奪いたくなるのです。摘んだ花でも、枯れるまでは香りをまとうことができます。まるでマリア自身が純粋な愛に包み込まれているみたいに。
そんなある日、マリアはとても頭の悪そうな女と出会います。
この女の見た目ときたら、もう、巨大な牛糞そっくりです。
肌はよく日焼けしていて、髪も陰毛みたいにくるくるした焦げ茶色、それに大きすぎる胸と尻ときたら!積み重なった巻き糞そっくりでした。
・・・しかしながら、いいところもありました。たった二つだけ。
一つ目は角です。
マリアよりもいくらか見劣りするけれど(これはある意味、仕方のないことです。だいたいのひとはマリアよりかなり見劣りします)彼女には左右にチョコンと突き出た可愛い角が生えていました。ただでさえ女の冒険者は珍しいのに、マリアのように角の生えているメスなんて、なかなか貴重です。
しかしこれは二つ目の美点にしてみれば、ちょっとしたオマケに過ぎませんでした。
驚くべきことに、この牛糞女からはとてもいい香りがしたのです! まるで、この世のすべての花とお砂糖にとろりとハニーバターを垂らしたような、すばらしく美味しそうな香りでした。
マリアはもう、この牛糞女の愛が欲しくて欲しくてたまりません。ものわかりが悪く、マリアに対してかなりナメた態度をとる女ですけれど、その愛だけは掛け値なしの本物でした。ほんのちょっとだけ――その愛を汚水に変えてしまうのが、もったいないような気がしてしまうくらいに。
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「う、ううっ……」
朝早く、ゴズメルは床で目を覚ました。もう全身がバキバキである。
(おかしいな、あたしはちゃんとベッドで寝てたはずなんだが……)
頭を起こしたゴズメルは「んがっ」と声を上げてしまった。ここはゴズメルの部屋だというのに、マリアにベッドを占領されているのだ。
(この女ッ、部屋に戻るのが面倒になって、あたしのベッドを横取りしやがったのか!? なんてやつだ!)
サイアクな寝心地のおかげで、ヘンテコな夢を見た気もする。いや、マリアにねだった寝物語の影響だろうか。
(なんか、チョコレートのソフトクリームが出てきたような気がする……アレッ、それじゃあ、いい夢だったのかなあ……)
ゴズメルは腕組みして考え込んでしまった。耳を澄ますとマリアの穏やかな寝息が聞こえてくる。
一瞬、テーブルクロスをひくみたいにシーツを引っ張って、マリアをベッドから引きずりおろしてやりたいと思ったが(でも、ここはあたしの部屋って言っても、マリアんちだしな)と気づいてやめた。
紅茶でも淹れてやるか、と立ち上がった時だった。
「……?」
誰かが玄関のドアをノックしている。ゴズメルは不思議に思った。
このマンションはオートロックで、外からの客はエントランスから呼び出し音を鳴らすことになっている。ところが、いま玄関は直接ノックされている。近所のひとだろうか。こんな朝早くに?
家主のマリアを起こすべきだ。そう思いながら、なぜかゴズメルの足は、ドアへとまっすぐに向かっていた。
むかしむかしあるところに、みんなからとても嫌われている女の子がいました。
どうして、そんなに嫌われていたのでしょう?
それは、マリアが生まれながらにスペシャルでパーフェクトな女の子だったから!
天にも届く、気高い二本の黒い角。
その身を守る、鋭い毒を秘めた牙。
しかしなによりも特別だったのは、三日月のようにつんと澄ました鼻先です。
彼女が嗅ぎとるのは、おいしいパンや、泡の立つシャボンの香りなんてありきたりのものではありません。
『愛』。
マリアを世話する(光栄に預かった)研究者のひとたちは、みんなそう言いました。
『誰かを愛するひとは、みんなそれぞれ匂いを放ちます』
『可憐な愛にはかぐわしい花の香り、歪んだ愛には腐った水のむかつく臭い』
『あなたの生まれ持った素敵な力は、この素敵な世界をもっともっと素敵にすることでしょう!』
・・・ええ、そうです。この素敵な女の子は、スペシャルでパーフェクトすぎるあまり嫌われたのです。決して、ぶつぶつした鱗や、鋭すぎる角、愛を見抜く力を気味悪がられたせいではありません。
その証拠に、『あなたの生まれ持った素敵な力は、この素敵な世界をもっともっと素敵にすることでしょう!』この素晴らしい予言は大当たりしました。
だって、どんな悪いプレイヤーでも、胸の奥にはひとかけらの愛を隠しているものです。そのへんにいる一山いくらのプレイヤーなら尚のこと。
誰もが、愛については秘密にしたがります。
『みんなには内緒だけど、私は彼を愛しているの』
『この子を守るためなら、どんな苦しみにだって耐えられる』
『俺はあの生意気な女をめちゃくちゃにしてやる! ……頭の中でだけど』
マリアは自分以外のイキモノのバカさ加減に心底呆れてしまいます。
(みんな裸で歩いているようなものだわ、みっともない)
その柔肌をつっつくだけで、みんなはマリアの言うことを聞きます。右へ行けと言ったら右へ行き、左を向けと言ったら左を向きます、もうバカばっかりです。なにしろこの素晴らしい世界には、愛を守るためなら死を選ぶプレイヤーだっているのです(!!!)
おかげさまでマリアの素敵な力は、世界を守るひとたちを大いに助けました。
その報酬にかぐわしい花々をいくつか摘み取ったとて、いったいなんの罪になるでしょう?
そう、大人になったマリアには、いい香りのする愛を踏みにじる権利がありました。これはきっと、全能の神が彼女に与えた大いなる権能です。
ワインの味や香りの変化を楽しむように、マリアはひとの気持ちを弄んで楽しみました。
やり方は無限大です。そのひとの愛を人質にして強請ったり、脅したり、奪ったり、召使いにしたり、もうどんなことだってできます。
ああ、かぐわしい花の香りが見たくも触りたくもない汚水に変わるあの瞬間ときたら、もうたまりません。・・・興味を惹かれるのはその一瞬だけなので、それさえ済んだらもう用済み、飽きたらポイなのですが。
(ああもっと摘み甲斐のある花はないものかしら)
どんなに忙しくとも、マリアはその香りを追い求めていました。忙しいほど、その香りが欲しくなるのです。愛の香りが強いほど、マリアはそれを奪いたくなるのです。摘んだ花でも、枯れるまでは香りをまとうことができます。まるでマリア自身が純粋な愛に包み込まれているみたいに。
そんなある日、マリアはとても頭の悪そうな女と出会います。
この女の見た目ときたら、もう、巨大な牛糞そっくりです。
肌はよく日焼けしていて、髪も陰毛みたいにくるくるした焦げ茶色、それに大きすぎる胸と尻ときたら!積み重なった巻き糞そっくりでした。
・・・しかしながら、いいところもありました。たった二つだけ。
一つ目は角です。
マリアよりもいくらか見劣りするけれど(これはある意味、仕方のないことです。だいたいのひとはマリアよりかなり見劣りします)彼女には左右にチョコンと突き出た可愛い角が生えていました。ただでさえ女の冒険者は珍しいのに、マリアのように角の生えているメスなんて、なかなか貴重です。
しかしこれは二つ目の美点にしてみれば、ちょっとしたオマケに過ぎませんでした。
驚くべきことに、この牛糞女からはとてもいい香りがしたのです! まるで、この世のすべての花とお砂糖にとろりとハニーバターを垂らしたような、すばらしく美味しそうな香りでした。
マリアはもう、この牛糞女の愛が欲しくて欲しくてたまりません。ものわかりが悪く、マリアに対してかなりナメた態度をとる女ですけれど、その愛だけは掛け値なしの本物でした。ほんのちょっとだけ――その愛を汚水に変えてしまうのが、もったいないような気がしてしまうくらいに。
☆*:;;;;;:*☆☆*:;;;;;:*☆☆*:;;;;;:*☆☆*:;;;;;:*☆☆*:;;;;;:*☆
「う、ううっ……」
朝早く、ゴズメルは床で目を覚ました。もう全身がバキバキである。
(おかしいな、あたしはちゃんとベッドで寝てたはずなんだが……)
頭を起こしたゴズメルは「んがっ」と声を上げてしまった。ここはゴズメルの部屋だというのに、マリアにベッドを占領されているのだ。
(この女ッ、部屋に戻るのが面倒になって、あたしのベッドを横取りしやがったのか!? なんてやつだ!)
サイアクな寝心地のおかげで、ヘンテコな夢を見た気もする。いや、マリアにねだった寝物語の影響だろうか。
(なんか、チョコレートのソフトクリームが出てきたような気がする……アレッ、それじゃあ、いい夢だったのかなあ……)
ゴズメルは腕組みして考え込んでしまった。耳を澄ますとマリアの穏やかな寝息が聞こえてくる。
一瞬、テーブルクロスをひくみたいにシーツを引っ張って、マリアをベッドから引きずりおろしてやりたいと思ったが(でも、ここはあたしの部屋って言っても、マリアんちだしな)と気づいてやめた。
紅茶でも淹れてやるか、と立ち上がった時だった。
「……?」
誰かが玄関のドアをノックしている。ゴズメルは不思議に思った。
このマンションはオートロックで、外からの客はエントランスから呼び出し音を鳴らすことになっている。ところが、いま玄関は直接ノックされている。近所のひとだろうか。こんな朝早くに?
家主のマリアを起こすべきだ。そう思いながら、なぜかゴズメルの足は、ドアへとまっすぐに向かっていた。
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