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Ⅴ イグナス領
2.分岐
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「お待ちください!」
ルカは走ってジェイルを背に庇った。黒い騎士たちに説得を試みる。
「彼の身柄を預かっているのは私です」
「……誰だ? おまえ」
ベアシュは怪訝そうにした。ルカは頭巾を脱いだ。現れた銀髪と緑の瞳に、ベアシュは後ずさった。
「うわ……なんだ、その色……気持ち悪い」
「私はルカ。修道士です」
ルカは人前に姿を晒す震えを押し殺した。
「イグナス領の領主、ギルダ様の招きにより聖都から公務で参りました。ベアシュ様、ギルダ様はこのことをご存じなのですか」
「は、母上は関係ないだろ」
びくついたベアシュを、ルカは見つめた。
「今のジェイル様は私の護衛です。事情はあると思いますが、私の騎士に向かって乱暴なことをしないでください」
脇に立っていた隊長もルカに加勢した。
「その通りだ。ルカ様は護国の英雄であり、尊い血を引くお方。歯向かうなら、聖都に弓引く覚悟はあるんだろうな!」
子供をおどかすための方便としても大仰な言い方で、ルカは恥ずかしかった。
だが、ベアシュは怯んだ。まずいことになったと思ってはいるが、率いてきた騎士たちの手前、引っ込みがつかないらしい。
ルカはゆっくりと穏やかに提案した。
「よろしければ、共にイグナス領まで行ってくださいませんか。私たちはギルダ様もまじえて話をすべきだと思うのです」
腰の低いルカの申し出に、ベアシュは飛びついた。事態を見守っていた村人たちが不安そうにしている。ルカはベアシュ達に村の外で待ってくれるよう頼んだ。
礼拝堂に入ると、寝台に寝た見習い騎士と修道女がいた。傷口は閉じているが、腫れや痛みがあり、動ける状態ではないという。
皆で話し合い、二手に別れることにした。ルカとジェイルが先にイグナス領へ入り、ギルダと話をつける。隊長と見習い騎士は村に残り、帰りにルカ達と合流する。
隊長は腕組みして言った。
「万が一お戻りにならなければ、私は聖都へ行って援軍を呼びます。あの子供がルカ様に悪事を働くかもしれない」
ルカは苦笑した。
「争いを招くようなことはおやめください。それに、忌み子によこす援軍などないと、あなたが怒られてしまいます」
「ナタリア様とコパ様に訴えます」
隊長はぐっと前のめりになって言った。
「私はこれまでの無礼をあなたに詫びたい。ルカ様は下位の者を身を挺して守ってくださいました。無事お戻りいただきたいのです」
ルカは驚いた。礼拝堂の神聖な空気が彼にこう言わせたのだろうか。昨夜、見習い騎士の頭を庇ったことは記憶に新しかったが。
「『ルカ様』は、俺が無事に返す」
壁にもたれていたジェイルが背を起こす。
「妙なことに巻き込んですまない。正体を隠していた俺は信用できないだろうが、昨夜、共闘した俺の槍を信じてほしい」
旅の間、無口を貫いていたジェイルの殊勝な態度に、騎士二人は顔を見合わせた。
「信じてなかったら最初から任せたりせん」
隊長から脇を小突かれたジェイルは、かすかな声で「すまん」と言った。
ルカは走ってジェイルを背に庇った。黒い騎士たちに説得を試みる。
「彼の身柄を預かっているのは私です」
「……誰だ? おまえ」
ベアシュは怪訝そうにした。ルカは頭巾を脱いだ。現れた銀髪と緑の瞳に、ベアシュは後ずさった。
「うわ……なんだ、その色……気持ち悪い」
「私はルカ。修道士です」
ルカは人前に姿を晒す震えを押し殺した。
「イグナス領の領主、ギルダ様の招きにより聖都から公務で参りました。ベアシュ様、ギルダ様はこのことをご存じなのですか」
「は、母上は関係ないだろ」
びくついたベアシュを、ルカは見つめた。
「今のジェイル様は私の護衛です。事情はあると思いますが、私の騎士に向かって乱暴なことをしないでください」
脇に立っていた隊長もルカに加勢した。
「その通りだ。ルカ様は護国の英雄であり、尊い血を引くお方。歯向かうなら、聖都に弓引く覚悟はあるんだろうな!」
子供をおどかすための方便としても大仰な言い方で、ルカは恥ずかしかった。
だが、ベアシュは怯んだ。まずいことになったと思ってはいるが、率いてきた騎士たちの手前、引っ込みがつかないらしい。
ルカはゆっくりと穏やかに提案した。
「よろしければ、共にイグナス領まで行ってくださいませんか。私たちはギルダ様もまじえて話をすべきだと思うのです」
腰の低いルカの申し出に、ベアシュは飛びついた。事態を見守っていた村人たちが不安そうにしている。ルカはベアシュ達に村の外で待ってくれるよう頼んだ。
礼拝堂に入ると、寝台に寝た見習い騎士と修道女がいた。傷口は閉じているが、腫れや痛みがあり、動ける状態ではないという。
皆で話し合い、二手に別れることにした。ルカとジェイルが先にイグナス領へ入り、ギルダと話をつける。隊長と見習い騎士は村に残り、帰りにルカ達と合流する。
隊長は腕組みして言った。
「万が一お戻りにならなければ、私は聖都へ行って援軍を呼びます。あの子供がルカ様に悪事を働くかもしれない」
ルカは苦笑した。
「争いを招くようなことはおやめください。それに、忌み子によこす援軍などないと、あなたが怒られてしまいます」
「ナタリア様とコパ様に訴えます」
隊長はぐっと前のめりになって言った。
「私はこれまでの無礼をあなたに詫びたい。ルカ様は下位の者を身を挺して守ってくださいました。無事お戻りいただきたいのです」
ルカは驚いた。礼拝堂の神聖な空気が彼にこう言わせたのだろうか。昨夜、見習い騎士の頭を庇ったことは記憶に新しかったが。
「『ルカ様』は、俺が無事に返す」
壁にもたれていたジェイルが背を起こす。
「妙なことに巻き込んですまない。正体を隠していた俺は信用できないだろうが、昨夜、共闘した俺の槍を信じてほしい」
旅の間、無口を貫いていたジェイルの殊勝な態度に、騎士二人は顔を見合わせた。
「信じてなかったら最初から任せたりせん」
隊長から脇を小突かれたジェイルは、かすかな声で「すまん」と言った。
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