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2.いいわけ
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俺は酒が好きだ。
これに関しては両親に恵まれたと言わざるを得ない。
父は下戸だが、母はザルを通り越して輪っかだ。
舐めただけですぐに酔いが回って倒れてしまう父と、一升空けても蚊が止まったくらいにしか感じない母の間に生まれた俺は、もはやサラブレッドと言っていい。
安い酒でもめちゃくちゃ楽しく酔えるうえに、絶対に正気を失わない。
成人式の集まりでは次々と倒れていく仲間たちの中で、ひとり無双してしまった。
なんでこんな旨いものを今まで飲ませてもらえなかったんだろうと本末転倒なことを思ったくらいだ。
アーンド。運転も好きだ。
そもそも移動すること自体が好きなのだ。目的地なんてむしろ無くていい。
これは子供の頃からずっとそうで、散歩好きをこじらせて一時は放浪癖みたいになっていた。
電車も自転車も、もちろん徒歩も良いのだが、でもやっぱり車が一番だと思う。
パーソナルスペースを維持した上で、緊張感を持って人とやりとりができる。
しかもガソリンさえ入っていれば、本当にどこへでも行ける。
ああ大人ってすばらしい。
でも、だからと言って「酒を飲んで運転しよう!」とはならないじゃないか。
それは危ないし、多分おっかなくて楽しいどころじゃない。
そもそも法律違反だし。
よく考えてみてほしい。
トンカツとカレーを掛け合わせたカツカレーは上手い。
でも、ラーメンにパフェを載せてわざわざ食べようとは思わない、と。
だから、白須に抱いてほしいと言われた時も、同じことを思った。
セックスは、まあ嫌いではない。
そんなに強い方ではないが、普通に気持ちいいとは思う。
ここ数年は相手がいないのを残念に感じるくらいには、好きだ。
白須のことも、一応は好きの部類に入れていいだろう。
なんだかんだ俺なんぞを慕ってくれる可愛い後輩だ。
物言いがシャクに触ることはあるが、そういうところをひっくるめて、一生懸命いろいろ考えてんだなと感心する。
努力家なところも良い。
スカしたオレンジ頭のくせに、いつも人一倍がんばっているから、つい守ってやりたくなる。
そうそう、ツラも悪くないし。
急に褒められるとどうしたらいいのかわかんなくなって、怒りっぽくなるところも可愛いと思う。
余裕たっぷりに煽ってくる時に、なんか赤ちゃんの猫みたいに語尾が伸びるところとか。
奢ってやると言うと、急に真っ赤になって、なんか文句言おうとするけど、結局は理性が勝ってサイフしまうところも、見ていて面白い。
なんだかこうやって挙げはじめると、白須のことがめちゃくちゃ好きなヤツみたいになってしまうが、まあ、二学年下のチビの後輩なんて、子供みたいなものだ。
子供はみんな可愛い。
なので、それは別に構わないのだが、だからって俺と白須がそうなるのは違うだろう。
大人は子供とセックスしないし。
飲酒運転は犯罪だし。
ラーメンとパフェは別口に食ったほうが絶対うまい。
かわいそうな白須。
たぶん、周囲から散々エロい目で見られすぎたせいで、コイツの認知はちょっと歪んでしまったんだろうな。
学生時代に軽く話を聞いただけだが、白須は片親らしい。
父親がいないのだ。
だから、ちょっと老け顔の入っている俺にあれこれ世話を焼かれただけで、すぐに自分の気持ちを誤解してしまう。あと、まあ、進学してから急に新しい世界が急に開けて、二の足を踏んでいるのかも。
「俺……先輩のことが、ずっと前から好きで」
俺はギアをRに入れて、アパートの駐車場に車をバックで入れる。
前の道路が狭いので、ちょっとコツは要るが、軽自動車だし慣れれば余裕。
税金も安く済むしいいことずくめだ。
「本気なんです、気持ち悪がられるかもしれないけど、でも、俺、もう」
膝に乗せたリュックをぎゅうと抱きしめながら、白須は言い募る。
「今日だけでいいから。それで全部あきらめますから、先輩に、俺のことヤッてほしい」
こっちは車体を駐車場の枠と平行に入れたくて何度も切り返してるのに、そういうの全部お構いなしでそういうことを言う。
俺は白須の性格を、ヤケを起こすとすぐに周りが見えなくなるところを知っているから、華麗にスルーできるけど、こんなこと女の子にやったら普通にフラれると思う。
だから、まだ子供なのだ。
白須の人間関係なんて別に知らないが、言動が女慣れしているヤツのそれではない。
いや恋愛したこともないヤツがなんで初手で俺を選んじゃうんだよと、俺は内心で頭を抱えている。
ああ叶うのならバックモニター搭載の車が欲しい。
それがダメなら横から熱っぽく告白されても掻き乱されず、一発で駐車を決められる強靭な精神力が欲しい。
そもそも俺は車を走らせるのが好きなのであって、停めるという行為自体がそんなでもないのだ。
まあ、そんなこと言ったって、いつかは止まらないといけないんだから、しょうがないんだけど。
「……ほらよ、白須。お望みのボロアパートだぞ」
「先輩」
「わかったから、はよ降りろ。こっちはトイレ行きてえんだよ」
エンジンを切って追い立てると、白須はもの言いたげな口を閉じて車を降りた。
俺は車をロックして、鉄階段をかんかんかんと音を立てて足早に上る。
白須はもたもたと後をついて来た。
二階の外通路から見下ろすと、六台停められる駐車場には俺を含めて二台しか停まっていない。
日曜の昼間だ。天気もいいし、どっか遠出しているのだろう。
わざわざこんな今にも崩れ落ちそうなアパートに来たいとか、あまつさえそこでセックスしたいとか抜かす白須のほうがどうかしている。
俺はため息をついて、古いドアノブに鍵を差し込んだ。
これに関しては両親に恵まれたと言わざるを得ない。
父は下戸だが、母はザルを通り越して輪っかだ。
舐めただけですぐに酔いが回って倒れてしまう父と、一升空けても蚊が止まったくらいにしか感じない母の間に生まれた俺は、もはやサラブレッドと言っていい。
安い酒でもめちゃくちゃ楽しく酔えるうえに、絶対に正気を失わない。
成人式の集まりでは次々と倒れていく仲間たちの中で、ひとり無双してしまった。
なんでこんな旨いものを今まで飲ませてもらえなかったんだろうと本末転倒なことを思ったくらいだ。
アーンド。運転も好きだ。
そもそも移動すること自体が好きなのだ。目的地なんてむしろ無くていい。
これは子供の頃からずっとそうで、散歩好きをこじらせて一時は放浪癖みたいになっていた。
電車も自転車も、もちろん徒歩も良いのだが、でもやっぱり車が一番だと思う。
パーソナルスペースを維持した上で、緊張感を持って人とやりとりができる。
しかもガソリンさえ入っていれば、本当にどこへでも行ける。
ああ大人ってすばらしい。
でも、だからと言って「酒を飲んで運転しよう!」とはならないじゃないか。
それは危ないし、多分おっかなくて楽しいどころじゃない。
そもそも法律違反だし。
よく考えてみてほしい。
トンカツとカレーを掛け合わせたカツカレーは上手い。
でも、ラーメンにパフェを載せてわざわざ食べようとは思わない、と。
だから、白須に抱いてほしいと言われた時も、同じことを思った。
セックスは、まあ嫌いではない。
そんなに強い方ではないが、普通に気持ちいいとは思う。
ここ数年は相手がいないのを残念に感じるくらいには、好きだ。
白須のことも、一応は好きの部類に入れていいだろう。
なんだかんだ俺なんぞを慕ってくれる可愛い後輩だ。
物言いがシャクに触ることはあるが、そういうところをひっくるめて、一生懸命いろいろ考えてんだなと感心する。
努力家なところも良い。
スカしたオレンジ頭のくせに、いつも人一倍がんばっているから、つい守ってやりたくなる。
そうそう、ツラも悪くないし。
急に褒められるとどうしたらいいのかわかんなくなって、怒りっぽくなるところも可愛いと思う。
余裕たっぷりに煽ってくる時に、なんか赤ちゃんの猫みたいに語尾が伸びるところとか。
奢ってやると言うと、急に真っ赤になって、なんか文句言おうとするけど、結局は理性が勝ってサイフしまうところも、見ていて面白い。
なんだかこうやって挙げはじめると、白須のことがめちゃくちゃ好きなヤツみたいになってしまうが、まあ、二学年下のチビの後輩なんて、子供みたいなものだ。
子供はみんな可愛い。
なので、それは別に構わないのだが、だからって俺と白須がそうなるのは違うだろう。
大人は子供とセックスしないし。
飲酒運転は犯罪だし。
ラーメンとパフェは別口に食ったほうが絶対うまい。
かわいそうな白須。
たぶん、周囲から散々エロい目で見られすぎたせいで、コイツの認知はちょっと歪んでしまったんだろうな。
学生時代に軽く話を聞いただけだが、白須は片親らしい。
父親がいないのだ。
だから、ちょっと老け顔の入っている俺にあれこれ世話を焼かれただけで、すぐに自分の気持ちを誤解してしまう。あと、まあ、進学してから急に新しい世界が急に開けて、二の足を踏んでいるのかも。
「俺……先輩のことが、ずっと前から好きで」
俺はギアをRに入れて、アパートの駐車場に車をバックで入れる。
前の道路が狭いので、ちょっとコツは要るが、軽自動車だし慣れれば余裕。
税金も安く済むしいいことずくめだ。
「本気なんです、気持ち悪がられるかもしれないけど、でも、俺、もう」
膝に乗せたリュックをぎゅうと抱きしめながら、白須は言い募る。
「今日だけでいいから。それで全部あきらめますから、先輩に、俺のことヤッてほしい」
こっちは車体を駐車場の枠と平行に入れたくて何度も切り返してるのに、そういうの全部お構いなしでそういうことを言う。
俺は白須の性格を、ヤケを起こすとすぐに周りが見えなくなるところを知っているから、華麗にスルーできるけど、こんなこと女の子にやったら普通にフラれると思う。
だから、まだ子供なのだ。
白須の人間関係なんて別に知らないが、言動が女慣れしているヤツのそれではない。
いや恋愛したこともないヤツがなんで初手で俺を選んじゃうんだよと、俺は内心で頭を抱えている。
ああ叶うのならバックモニター搭載の車が欲しい。
それがダメなら横から熱っぽく告白されても掻き乱されず、一発で駐車を決められる強靭な精神力が欲しい。
そもそも俺は車を走らせるのが好きなのであって、停めるという行為自体がそんなでもないのだ。
まあ、そんなこと言ったって、いつかは止まらないといけないんだから、しょうがないんだけど。
「……ほらよ、白須。お望みのボロアパートだぞ」
「先輩」
「わかったから、はよ降りろ。こっちはトイレ行きてえんだよ」
エンジンを切って追い立てると、白須はもの言いたげな口を閉じて車を降りた。
俺は車をロックして、鉄階段をかんかんかんと音を立てて足早に上る。
白須はもたもたと後をついて来た。
二階の外通路から見下ろすと、六台停められる駐車場には俺を含めて二台しか停まっていない。
日曜の昼間だ。天気もいいし、どっか遠出しているのだろう。
わざわざこんな今にも崩れ落ちそうなアパートに来たいとか、あまつさえそこでセックスしたいとか抜かす白須のほうがどうかしている。
俺はため息をついて、古いドアノブに鍵を差し込んだ。
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