マジカルメタモルショータイム!

夜狐紺

文字の大きさ
20 / 36
第1章 アニマル☆サーカス

第19話 ロコの想い

しおりを挟む
「あなたには絶対に、こころの魔法を使いません」
「――!」
 全身の毛が緊張でぶわっと逆立つ。
 心の魔法を、わたしには使わない。それだけ聞けば、良いお知らせのはずなのに。
 だけど同時に。わたしが、心の魔法を嫌がっているのをロコちゃんに気付かれていたっていうことが、はっきりと分かる。絶対に、隠し通さなきゃいけないことだったのに。
 やっぱり、やっぱり、もっとうさぎの獣人らしく振る舞うべきだったのに……!
 魔法で獣人になれて、とっても嬉しい! フィーのことが大好きだよ、ありがとう! って、嫌なのを我慢して演技するべきだったのに……! 
 でも、もう手遅れ、気付かれた。ロコちゃんに気付かれた……。 
 ということはきっと、フィーにも気付かれてるんだ。フィーはそれを知って、きっと、わたしを他の動物やものに変えちゃうつもりなんだ、それとも、心の魔法を使って、心までうさぎに変えちゃうつもりなんだ……!
「あ、あ……」
 体が本能的に、後ずさっていた。声が出ない。
 に、逃げたい。でも、体が震えて、足がすくんで、走れない……!
「ど、どうぶつ、に……」
 どうぶつに、どうぶつにされる……! どうぶつになれてよかったって、じぶんがにんげんだったってこともわすれて、ふぃーのまじっくしょーも、たのしいな、すごいなっておもいながらあしすたんとをして……い、いやだ、いやだ、そんなのいやだ!
「だ、大丈夫です! 本当に、絶対に、あなたには使いません……! 約束します!」
 約束。慌てた様子のロコちゃんが、そう伝える。
 うそを言ってる様には……見えない。だけど、まほうつかいなんてしんじられない。しんじちゃいけないって、わかってる……!
「そ、そんなの……」
 うそだ! って、叫ぼうとした。
「きっと――」
 だけど。ロコちゃんの言葉に、止まる。
「きっと、フィーちゃんが嫌がりますから」
「えっ……」
 嫌がる? フィーが?
「で、でも、だって、フィーは、わたしを変え、……」
 フィーは、わたしを変えた魔法使いなのに、それにフィーは、人のことを平気で変えることができる、残酷な魔法使いなのに。そんな訳が……。
「――こころの魔法は……」
 ロコちゃんが遠慮がちに頷いて、静かな声でゆっくりと話し始める。
「こころの魔法は、『どこか』から来た人に変身魔法に掛けた後に……変化した自分をもっと好きになってもらうために、よく使われています」
 『どこか』。それはきっと……わたしが元居たはずの、普通の世界のことだ。魔法なんて無い世界。魔法使いなんて居ない世界。……誰も、動物やものに変えられたりしない世界。
「……本当はわたしは、魔法を使わないで、動物たちと仲良くなっていきたいんです……。でも、『どこか』から召喚した場合だと、どうしてか、いつまでも上手くいかないことばかりで……」
 ロコちゃんは少し寂しそうだった。
 でも……それは当たり前だ。ルカちゃんや、わたしや、他の女の子たちの様に、『どこか』――普通の世界の人なら、動物になんかなりたくないに決まってる。自分から望んで動物になりたいなんて、そんなの、おかしいはずなのに……だから、嫌がるんだ、みんな。当たり前だよ……。
「あなたも、『どこか』から召喚されたんですよね……?」
「……はい」
 隠すことはできなさそうだったし、普通の世界に居たことを忘れないために、嘘はつかなかった。
「控室でお茶をしている時に、そうなのかな、と思ったんですが……やっぱり、そうだったんですね」
 どうやらロコちゃんは、わたしが元々魔法の世界の住民じゃないことに、前から何となく気付いていたらしい。
 誤魔化せてなんか、なかったんだ……。
「あの後で、フィーちゃんに話し掛けたんです。うさぎの獣人さん――あなたとの関係で悩んでいるのなら……こころの魔法を掛けてあげれば、良いんじゃないかな、掛けてあげるよ、って……」
「……」
 そんなことをさらっと話す……しかも、心の魔法を掛けようとしていた相手に話すロコちゃんに、ぞっとする。
「でも、フィーちゃんはすぐに首を横に振って、こう言ったんです。『確かに、あなたにもっと好きになってくれたら、嬉しいけれど……』」
 そしてロコちゃんは前を向いて、優しい表情をした。
「『でも、魔法には頼らないで、もっともっとお話ししたり遊んだり、マジックの練習を一緒にしていきたいな』、って……」
「そんな、ことが……」
 どう反応すれば良いのか分からない。どうしてフィーがそう答えたかなんて、分かるはずがない。
 だけど、もしもフィーが違う返事をしていたら今頃、本当に、心まで、うさぎの獣人になっていた……?? 
 そんな可能性に気付かされて、恐怖が巻き戻ってくる。
「爽やかに笑って答えるフィーちゃんを見て……ハッとしました。そうなんだ、フィーちゃんも同じ風に、考えていたんだなって。それなら、そんな提案するんじゃなかったなって、恥ずかしくて……だけど」
 ロコちゃんが、どこか懐かしそうに顔を上げる。
「とっても、嬉しかったです……。フィーちゃんはやっぱり、優しいんだって、魔法学校の頃から、変わっていないんだなって……」
 優しい? フィーが? 昔から? 今も?
「だからあなたには、こころの魔法は絶対に使いません。フィーちゃんも、こころの魔法をあなたに掛けたりしませんよ」
 ロコちゃんは、わたしをまっすぐ見て、はっきりと言う。
「だから、そんなに心配しなくても、大丈夫ですよ」
 それから、にこっとほころんだ。……嘘は、ついてない。うさみみから聞こえてくるロコちゃんの声には、悪意や敵意は、全く混じってなかった。
「そう、なんですね。初めて、知りました……」
 当たり障りのない返事をする。とにかく……ロコちゃんは、わたしに危害を加えたりするつもりは、全く無いらしい。それだけは、救いと言えそうだった。
「「…………」」
 そのまま二人とも無言になって。静かな時間が通り過ぎていく。
 まだ、何か伝えたいことが有るみたい。ロコちゃんの表情から何となく分かる。
 だからわたしも、ただじっと、待つしかない。待つしかないから……考える。
 ロコちゃんが、伝えたいこと、言いたいこと。
 ……反対に、わたしからロコちゃんには、何か有るのかな。
 尋ねたいこと、知りたいことなら、無いわけじゃない。フィーに訊けないことだって、ロコちゃんにはまだ、訊けそうだ。
 この世界について、魔法について。
 だけど、一番は……フィーについて、だ。
 ……フィー。今日のフィーは、いつもと様子が違った。
 いつもよりも少しだけ、ほんの少しだけ、恐ろしくて残酷な魔法使いじゃなくて……普通の、女の子みたいだった。それは、ロコちゃんと話しているはしゃいでいる時と……ステージの上で焦り、困っている時。
 そう言えば、ステージの上に呼ばれたさっきのフィーが、使った魔法。
 あの魔法は……今までのフィーの魔法とは、何となく気配が違った。もっともっと壮大な、力に溢れていて……。
 あのフィーさえも驚いていたし、幼なじみのロコちゃんでさえも、見たことが無いみたいだった。
 それに……手を繋いだだけのわたしにも、力が、溢れていて。あれは、一体、何が起こっていたんだろう……?
「――すごかったですね、」
 ロコちゃんは、懐かしむ様に笑う。
「動物の形をした、おかしの詰め合わせ……! お客さんも、大喜びでしたよ……!」
 どうやらロコちゃんも、考えていたことは同じみたいで、あのフィナーレの後のことを思い出していたらしい。
「一時は、どうなるか、冷や冷やしましたね……」
 これは本心、かもしれない。あのまま、フィーとロコちゃんの魔法が上手くいかなかったら、どうなってたんだろう……? ……どのみち、あの時のことはあんまり、想像したくない……。
「はい……! あの時は、助けて下さって、ありがとうございます……!」
「……。……?」
 何故かそこでロコちゃんは、お礼を言う。
 フィーに、じゃなくて……明らかに、わたしに。
「で、でも、わたし、手を繋いだ以外に、何にも、していませんよ……?」
 何にも、していないはず、フィーやロコちゃんに協力なんかしていないはずなのに。するとロコちゃんはきょとんとして……それからふるふると小さく首を振った。
「そんなことないですよ! だって、あんなに凄い変化魔法が、ステージでできたのは――」
 ロコちゃんは、言う。
「全て、あなたのおかげです……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

処理中です...