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第2章 魔法のお菓子は甘くない?
第1話 甘い甘いパレード
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「う、うううっ……」
「どうして、泣いてるの?」
「だ、だって、だって」
「言ってごらんなさい? どうして、そんなに泣いているのかしら……」
「だって、だって、わ、私――」
「……ええ」
「私……嬉しいんです!」
「あら? それはどうして?」
「ずっとあなたの魔法で食べてもらうのが夢で、それが本当に叶うなんて……!」
「……そう。とても高貴な私に選ばれるなんて、名誉なこと」
「勿論です! こんな素晴らしい姿に変えて下さり、感激です……!!」
「その通り。今のあなた、人間の時よりずっとずっと可愛くて、素敵よ」
「わあ……! ありがとうございます! 嬉しいですっ、えへへ……!!」
「さて、と。それじゃ、そろそろ――」
「はい! やっと、やっと願いが叶うんですね……!」
「そう。あなたはこの瞬間の為に、生まれてきたの! あ~ん――」
「あっ――。…………」
「――ふう。やっぱり、ホワイトチョコレートで正解だったわね。安心して、とってもおいしくなってたわよ――なんて」
「―――様! ―――様!」
「さてと、次はどんなおかしを……って、少し騒がしいけど、何かしら?」
「―――様、あの、一つご連絡が……」
「どうかしたの? とりあえず中に入って良いわ、クレア」
「はい! 失礼します」
「何か有ったの? 今、おやつの時間だったんだけど」
「馬車のご準備ができたので、お迎えに上がりました!」
「馬車……そういえば、今日はお出掛けの日だったわね」
「外はとても良い天気で、絶好のパレード日和ですよ! もう大通りは、――様を見に来た人でいっぱいですよ!」
「くすっ、おかしい。クレアったらおかしなことを言うのね」
「えっ……ど、どういうことですか?」
「人がいっぱいなのは『大通り』だけじゃなくて『街全体』がでしょう?」
「なるほど、確かにそうですね! だって、―――様を一目見ようと、国中の人が集まってるんですから……!!」
「そう、国中の人が……ね」
「パレード楽しみですね、お姫様!」
「ええ、ほんとに。ふふっ、今日は一体」
――――。
「――どんなお菓子が、食べられるのかしら?」
―――。
ざわざわざわざわ……。
がやがやがやがや……。
「す、凄い人だかりですね……あっ、ごめんなさいっ!」
もう何回目だろう。すんでのところでわたしは人をかわして、すれ違いざまに頭を軽く下げた。いつまで経っても足元がおぼつかない。
「こ、混んでるね~」
と、わたしの左隣を歩く十才ぐらいの女の子――マジシャンのフィーも、びっくりした様に辺りをきょろきょろと見回している。
歩くたびに人と体がぶつかって、まっすぐ前に進むことなんてできなかった。
もう何十分もこうだから、元からふわっと外に跳ねているフィーのピンク色の長い髪も今はよりボサついていて、羽織っている黒いローブもよれてしまっている。被っている三角帽子も、心なしか元気無く見える。
だけどそれはわたしも同じで、うさぎのしっぽは普段よりもしゅんとしているし、毛に熱気がこもっている。頭の上の大きなうさ耳が垂れているのは、いつもと同じだけど……。
「でも、どうしてこんなに混んでいるんだろう?」
と、三角帽子をくいっと上げて、上目遣いで首を傾げるフィー。透き通る様な綺麗な青色の瞳に、じっと見つめられる。
「それは……分かりません」
「そっかあ……フィーも、全然知らなかった――あっ!」
なんて喋ってるとフィーが、また誰かとぶつかりそうになっていて。
「危なかった~……」
それから、慌ててわたしに体をぴっとりと寄せてきた。腕に当たるフィーのやわらかいほっぺた。ぷにっとしてる……。
フィーとわたしが今歩いているのは、車が十台は悠々と通れそうなほど幅の広い、何百メートルも続く大通り。
それが満杯になるほど人で溢れているんだから、きっと何か有るんだろうけど……。
フィーが知らないなら尚更、ただ連れて来られたわたしが事情を知ってるはずがない。
それにしても。通りの両脇に立ち並ぶ建物は多くがレンガ造りで、それはこの魔法の世界の街並みと変わらない。
だけどこの辺りでは、その全てがピンクや水色やオレンジという、鮮やかなパステルカラーに塗られていて。他よりもずっとずっと、色鮮やかでかわいらしさが全開だ。
それに通りに出ている露店はキャラメル、ジェラート、ジェリービーンズ……種類は多様でも、どれもこれもお菓子を売っている店ばっかりで、甘い良い香りがそこら中に漂ってる。
歩いている人達の服装も、キャンディーやケーキやクッキーの様な、お菓子のカラーリングを基にした服が中心だ。
この世界をフィーに連れ回されて、これまでそこそこ多くの街を巡って来たけれど……ここまで変わっている場所は、初めてかも……。
話してる言葉は一緒でも、やっぱり国が違うだけあって、文化は色々と違うんだろうな。
『グラサージュ国』。それがこの国の名前――と、フィーは言っていた。
いや、そもそも普段フィーがショーをしている国の名前は何なのか、この場所以外にも国が存在するのか、この世界の形はどうなっているのか、基本的なことすらさっぱり知らないんだけど……とにかく。
この場所の名前は、『グラサージュ国』。それだけは確かだ。街のあちこちの看板にも、そう書いてある。
「これだけ人が沢山いたら、きっとマジックショーも人気になってくれるよね!」
と、フィーが明るく笑う。その拍子に口元からこぼれる、小さな八重歯。
フィーがわざわざこの国まで来た理由は簡単に言うと、まだ行ったことのない新しい場所で、新しいファンを獲得するため、らしい。
同じ場所でばっかりショーをしていても刺激にならないから、とも話していた。
あんまり認めたくないけれど、フィーのそういう熱心なところは、まあ、悪くはない、かな……。
マジックショーの内容は、わたしからすると、いつもと変わらないけど……。
グラサージュ国に着いてから、フィーは名産品のお菓子の食べ歩きをしながら、一見あっちこっちをふらふらとめぐって、もう十日は経ったかな。
初めての土地だと会場の確保が難しくて、ちゃんとしたショーはまだ開いていない。
一応フィーは、道中に通りかかった広場や公園でマジックを披露してはいる。徐々に徐々にお客さんが増えている感触はあるけれど、まあ、そんなのわたしにとってはどっちだっていいことだよ……と、口に出しては言えない。
それにしても、ピシッと敷き詰められたタイル、決して色あせていない建物の塗装、意気揚々とそれぞれが楽しそうな街の人達……人波のことは一旦抜きにしても、今歩いている一帯の街並みは、これまでの十日間で一番かも。
「ほ、ほんとに混んでるね、シロップ~……」
「そうですね、一体、何のイベントなんでしょうか……?」
増々混み合っていく人だかりに圧倒されていると。
「もしかして、旅人の方ですか?」
そばにいた、キャラメル色に赤いリボンをあしらった柄の服を着た女の子が話し掛けてくれる。長い髪の毛も、濃いキャラメル色だ。
フィーがこくこくと頷くと、にこやかに笑う女の子は親切に教えてくれた。
「今から、この国のお姫様のパレードがこの通りで開かれるんですよ」
「えっ……お姫様?!」
フィーが目を見張って、興奮気味に話す。
「アラメリゼ姫はこの国で一番偉い人で、そして一番お菓子作りが上手なお方なんです。お年は12歳。少しウェーブした肩に掛かるぐらいの金髪のツインテール、お砂糖の様に白い肌に、輝く様なルビー色の瞳、お洋服も華奢な体に似合う美しい赤のドレスで……見とれてしまうぐらいに、とても可愛らしい方です」
うっとりとする女の子の話から想像する姿はまさに、小さい頃に読んだ絵本に出てくるまるで天使の様なお姫様。
「それに、いつも私達のこと思いやって、願いを叶えて下さる……とても優しくて、皆の憧れのお姫様なんですよ」
「わあ……! そんなに素敵なお姫様なら絶対に会ってみたいね、シロップ!」
と、きらきらと青い瞳を輝かせたフィーが、嬉しそうに笑った。
「なるほど……」
かわいくて優しいお姫様、一体どんな人なんだろう。お姫様と会えるのなんて、勿論初めてだ。楽しみだなあ……。
ぴーっ!
するといきなり笛が吹いて。そして、周囲がざわめいて。待っていた人達が通りの左右へと移動して、真ん中を開けた。ああ、きっと今のは、お姫様がやって来る合図だったんだ。
慌ててフィーとわたしも、お姫様が通るのを妨害しない様に道の端っこに移動する。
「そろそろ、来てくれるんだよね? お姫様!」
と、飛び上がりそうな調子でフィーが尋ねてくる。
「きっと、そうですね」
と、ほんのりと期待に胸を膨らませながらわたしも、つま先立ちをして遠くを見つめた。
…………。
……けれど。もう十分ぐらい経ったのかな? お姫様はまだまだやって来ない。もしかして、遅れたとか?
それとも、長いこの通りの最初から進んでいるから、時間が掛かっているとか? とにかく、つま先立ちは足が痺れてとっくに止めてしまっていた。それに、段々と混んできて、端っこからだと道の真ん中が見えなくなってきて……。
「もっと、見やすい所に行こっか!」
と、わたしと同じを考えていたのか、フィーがそう切り出して、一歩踏み出して……。
「あっ!」
すぐにまた、知らない人とぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
と、フィーが、ぶつかった茶髪のポニーテールの女の子に慌てて謝る。
「えっ……」
すると女の子は、驚いた様に瞬きをしていて……。それからすぐに、明るい表情を浮かべて、フィーとわたしのことを見て。
「ピンクの髪の女の子と、もふもふの白うさぎ……もしかしてマジシャンの、フィーさんとシロップさん……?」
「うん! そうだよ、フィーはマジシャンなの!」
と、フィーが元気に答えたのがマズかった。すると、女の子のは飛び上がってしまうほど喜んで、声を上げる。
「やっぱり! フィーさんと、シロップさんだ!! わ、私、一昨日フォレスオーシャン公園で、フィーさんのマジックショーを見て、ホントに感動して!」
「そ、そうかな? えへへ、それは嬉しい――」
なんて、フィーが照れた様に顔をほんのりと赤くして笑う。嬉しそうだった。
新しい国でも、自分のマジックが評判になり始めているって知ったら、誰だって嬉しいんだろうな――なんて、呑気に考えていると。
「あ、あの! 街中で物凄いマジックを見せてくれるマジシャンがいるって友達から聞いて、私一度、会ってみたかったんです! まさか、こんなところでお会いできるなんて……」
と、また別の女の子が感嘆した様に話し掛けてきて。そして。
「フィーさん? フィーさんって、噂の……??」「確か、凄いマジシャンの人でしょう? 変身魔法を自在に操れるとか……」「どこ? どこに居るの?」「ほら、あそこだよ! ピンクの髪のかわいい女の子!」「あそこだけ凄い人だかりだけど……何か有ったの?」「何でも、凄い有名人が来ているらしいよ。私も見に行こうかなあ」「よく分からないけど、とにかく行ってみようよ!」
ざわめきがフィーとわたしの周囲だけ特に大きくなっていって、それで沢山の人が押し寄せてきて……!
「わ、あわわっ!」
流石のフィーもこれは予想外だったみたいで、ただひたすらに人波に驚いては慌てていて。
「え、えっと……!」
な、何がどうなってるの? 分からない、分からないけれど、とにかく、もうこうなってしまうと、自分達だけだとどうにもならない……!!
ただ、お姫様を見に来ただけなのに。た、大変なことに、なっちゃった……。
「どうして、泣いてるの?」
「だ、だって、だって」
「言ってごらんなさい? どうして、そんなに泣いているのかしら……」
「だって、だって、わ、私――」
「……ええ」
「私……嬉しいんです!」
「あら? それはどうして?」
「ずっとあなたの魔法で食べてもらうのが夢で、それが本当に叶うなんて……!」
「……そう。とても高貴な私に選ばれるなんて、名誉なこと」
「勿論です! こんな素晴らしい姿に変えて下さり、感激です……!!」
「その通り。今のあなた、人間の時よりずっとずっと可愛くて、素敵よ」
「わあ……! ありがとうございます! 嬉しいですっ、えへへ……!!」
「さて、と。それじゃ、そろそろ――」
「はい! やっと、やっと願いが叶うんですね……!」
「そう。あなたはこの瞬間の為に、生まれてきたの! あ~ん――」
「あっ――。…………」
「――ふう。やっぱり、ホワイトチョコレートで正解だったわね。安心して、とってもおいしくなってたわよ――なんて」
「―――様! ―――様!」
「さてと、次はどんなおかしを……って、少し騒がしいけど、何かしら?」
「―――様、あの、一つご連絡が……」
「どうかしたの? とりあえず中に入って良いわ、クレア」
「はい! 失礼します」
「何か有ったの? 今、おやつの時間だったんだけど」
「馬車のご準備ができたので、お迎えに上がりました!」
「馬車……そういえば、今日はお出掛けの日だったわね」
「外はとても良い天気で、絶好のパレード日和ですよ! もう大通りは、――様を見に来た人でいっぱいですよ!」
「くすっ、おかしい。クレアったらおかしなことを言うのね」
「えっ……ど、どういうことですか?」
「人がいっぱいなのは『大通り』だけじゃなくて『街全体』がでしょう?」
「なるほど、確かにそうですね! だって、―――様を一目見ようと、国中の人が集まってるんですから……!!」
「そう、国中の人が……ね」
「パレード楽しみですね、お姫様!」
「ええ、ほんとに。ふふっ、今日は一体」
――――。
「――どんなお菓子が、食べられるのかしら?」
―――。
ざわざわざわざわ……。
がやがやがやがや……。
「す、凄い人だかりですね……あっ、ごめんなさいっ!」
もう何回目だろう。すんでのところでわたしは人をかわして、すれ違いざまに頭を軽く下げた。いつまで経っても足元がおぼつかない。
「こ、混んでるね~」
と、わたしの左隣を歩く十才ぐらいの女の子――マジシャンのフィーも、びっくりした様に辺りをきょろきょろと見回している。
歩くたびに人と体がぶつかって、まっすぐ前に進むことなんてできなかった。
もう何十分もこうだから、元からふわっと外に跳ねているフィーのピンク色の長い髪も今はよりボサついていて、羽織っている黒いローブもよれてしまっている。被っている三角帽子も、心なしか元気無く見える。
だけどそれはわたしも同じで、うさぎのしっぽは普段よりもしゅんとしているし、毛に熱気がこもっている。頭の上の大きなうさ耳が垂れているのは、いつもと同じだけど……。
「でも、どうしてこんなに混んでいるんだろう?」
と、三角帽子をくいっと上げて、上目遣いで首を傾げるフィー。透き通る様な綺麗な青色の瞳に、じっと見つめられる。
「それは……分かりません」
「そっかあ……フィーも、全然知らなかった――あっ!」
なんて喋ってるとフィーが、また誰かとぶつかりそうになっていて。
「危なかった~……」
それから、慌ててわたしに体をぴっとりと寄せてきた。腕に当たるフィーのやわらかいほっぺた。ぷにっとしてる……。
フィーとわたしが今歩いているのは、車が十台は悠々と通れそうなほど幅の広い、何百メートルも続く大通り。
それが満杯になるほど人で溢れているんだから、きっと何か有るんだろうけど……。
フィーが知らないなら尚更、ただ連れて来られたわたしが事情を知ってるはずがない。
それにしても。通りの両脇に立ち並ぶ建物は多くがレンガ造りで、それはこの魔法の世界の街並みと変わらない。
だけどこの辺りでは、その全てがピンクや水色やオレンジという、鮮やかなパステルカラーに塗られていて。他よりもずっとずっと、色鮮やかでかわいらしさが全開だ。
それに通りに出ている露店はキャラメル、ジェラート、ジェリービーンズ……種類は多様でも、どれもこれもお菓子を売っている店ばっかりで、甘い良い香りがそこら中に漂ってる。
歩いている人達の服装も、キャンディーやケーキやクッキーの様な、お菓子のカラーリングを基にした服が中心だ。
この世界をフィーに連れ回されて、これまでそこそこ多くの街を巡って来たけれど……ここまで変わっている場所は、初めてかも……。
話してる言葉は一緒でも、やっぱり国が違うだけあって、文化は色々と違うんだろうな。
『グラサージュ国』。それがこの国の名前――と、フィーは言っていた。
いや、そもそも普段フィーがショーをしている国の名前は何なのか、この場所以外にも国が存在するのか、この世界の形はどうなっているのか、基本的なことすらさっぱり知らないんだけど……とにかく。
この場所の名前は、『グラサージュ国』。それだけは確かだ。街のあちこちの看板にも、そう書いてある。
「これだけ人が沢山いたら、きっとマジックショーも人気になってくれるよね!」
と、フィーが明るく笑う。その拍子に口元からこぼれる、小さな八重歯。
フィーがわざわざこの国まで来た理由は簡単に言うと、まだ行ったことのない新しい場所で、新しいファンを獲得するため、らしい。
同じ場所でばっかりショーをしていても刺激にならないから、とも話していた。
あんまり認めたくないけれど、フィーのそういう熱心なところは、まあ、悪くはない、かな……。
マジックショーの内容は、わたしからすると、いつもと変わらないけど……。
グラサージュ国に着いてから、フィーは名産品のお菓子の食べ歩きをしながら、一見あっちこっちをふらふらとめぐって、もう十日は経ったかな。
初めての土地だと会場の確保が難しくて、ちゃんとしたショーはまだ開いていない。
一応フィーは、道中に通りかかった広場や公園でマジックを披露してはいる。徐々に徐々にお客さんが増えている感触はあるけれど、まあ、そんなのわたしにとってはどっちだっていいことだよ……と、口に出しては言えない。
それにしても、ピシッと敷き詰められたタイル、決して色あせていない建物の塗装、意気揚々とそれぞれが楽しそうな街の人達……人波のことは一旦抜きにしても、今歩いている一帯の街並みは、これまでの十日間で一番かも。
「ほ、ほんとに混んでるね、シロップ~……」
「そうですね、一体、何のイベントなんでしょうか……?」
増々混み合っていく人だかりに圧倒されていると。
「もしかして、旅人の方ですか?」
そばにいた、キャラメル色に赤いリボンをあしらった柄の服を着た女の子が話し掛けてくれる。長い髪の毛も、濃いキャラメル色だ。
フィーがこくこくと頷くと、にこやかに笑う女の子は親切に教えてくれた。
「今から、この国のお姫様のパレードがこの通りで開かれるんですよ」
「えっ……お姫様?!」
フィーが目を見張って、興奮気味に話す。
「アラメリゼ姫はこの国で一番偉い人で、そして一番お菓子作りが上手なお方なんです。お年は12歳。少しウェーブした肩に掛かるぐらいの金髪のツインテール、お砂糖の様に白い肌に、輝く様なルビー色の瞳、お洋服も華奢な体に似合う美しい赤のドレスで……見とれてしまうぐらいに、とても可愛らしい方です」
うっとりとする女の子の話から想像する姿はまさに、小さい頃に読んだ絵本に出てくるまるで天使の様なお姫様。
「それに、いつも私達のこと思いやって、願いを叶えて下さる……とても優しくて、皆の憧れのお姫様なんですよ」
「わあ……! そんなに素敵なお姫様なら絶対に会ってみたいね、シロップ!」
と、きらきらと青い瞳を輝かせたフィーが、嬉しそうに笑った。
「なるほど……」
かわいくて優しいお姫様、一体どんな人なんだろう。お姫様と会えるのなんて、勿論初めてだ。楽しみだなあ……。
ぴーっ!
するといきなり笛が吹いて。そして、周囲がざわめいて。待っていた人達が通りの左右へと移動して、真ん中を開けた。ああ、きっと今のは、お姫様がやって来る合図だったんだ。
慌ててフィーとわたしも、お姫様が通るのを妨害しない様に道の端っこに移動する。
「そろそろ、来てくれるんだよね? お姫様!」
と、飛び上がりそうな調子でフィーが尋ねてくる。
「きっと、そうですね」
と、ほんのりと期待に胸を膨らませながらわたしも、つま先立ちをして遠くを見つめた。
…………。
……けれど。もう十分ぐらい経ったのかな? お姫様はまだまだやって来ない。もしかして、遅れたとか?
それとも、長いこの通りの最初から進んでいるから、時間が掛かっているとか? とにかく、つま先立ちは足が痺れてとっくに止めてしまっていた。それに、段々と混んできて、端っこからだと道の真ん中が見えなくなってきて……。
「もっと、見やすい所に行こっか!」
と、わたしと同じを考えていたのか、フィーがそう切り出して、一歩踏み出して……。
「あっ!」
すぐにまた、知らない人とぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
と、フィーが、ぶつかった茶髪のポニーテールの女の子に慌てて謝る。
「えっ……」
すると女の子は、驚いた様に瞬きをしていて……。それからすぐに、明るい表情を浮かべて、フィーとわたしのことを見て。
「ピンクの髪の女の子と、もふもふの白うさぎ……もしかしてマジシャンの、フィーさんとシロップさん……?」
「うん! そうだよ、フィーはマジシャンなの!」
と、フィーが元気に答えたのがマズかった。すると、女の子のは飛び上がってしまうほど喜んで、声を上げる。
「やっぱり! フィーさんと、シロップさんだ!! わ、私、一昨日フォレスオーシャン公園で、フィーさんのマジックショーを見て、ホントに感動して!」
「そ、そうかな? えへへ、それは嬉しい――」
なんて、フィーが照れた様に顔をほんのりと赤くして笑う。嬉しそうだった。
新しい国でも、自分のマジックが評判になり始めているって知ったら、誰だって嬉しいんだろうな――なんて、呑気に考えていると。
「あ、あの! 街中で物凄いマジックを見せてくれるマジシャンがいるって友達から聞いて、私一度、会ってみたかったんです! まさか、こんなところでお会いできるなんて……」
と、また別の女の子が感嘆した様に話し掛けてきて。そして。
「フィーさん? フィーさんって、噂の……??」「確か、凄いマジシャンの人でしょう? 変身魔法を自在に操れるとか……」「どこ? どこに居るの?」「ほら、あそこだよ! ピンクの髪のかわいい女の子!」「あそこだけ凄い人だかりだけど……何か有ったの?」「何でも、凄い有名人が来ているらしいよ。私も見に行こうかなあ」「よく分からないけど、とにかく行ってみようよ!」
ざわめきがフィーとわたしの周囲だけ特に大きくなっていって、それで沢山の人が押し寄せてきて……!
「わ、あわわっ!」
流石のフィーもこれは予想外だったみたいで、ただひたすらに人波に驚いては慌てていて。
「え、えっと……!」
な、何がどうなってるの? 分からない、分からないけれど、とにかく、もうこうなってしまうと、自分達だけだとどうにもならない……!!
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