36 / 36
第2章 魔法のお菓子は甘くない?
第14話 甘くないお菓子
しおりを挟む
―――。
「もっと食べたかったのに……」
むーっとほっぺたを膨らませて、珍しくフィーが拗ねた様な表情をする。
キャンディー、キャラメル、チョコレート。
ローブのポケットにはぎゅうぎゅうっと、沢山のお菓子が詰められている。
「だ、駄目ですよ、メイドさん達のパーティーですから、長居をしては……」
「でもー……」
フィーがくるっと振り返る。
その後ろには、ショートケーキの形をした、大きな大きなお菓子の城。
連れてこられる時に見た、純白のレンガの姿とは全く違う。
屋根には大きな赤いイチゴが乗って、ふわふわのスポンジと、たっぷりの生クリームが掛った、お菓子の城。
そして、元々はお菓子の国のお姫様――アラメリゼ様だった、お城……。
わたしは普段よりも足早に、それこそ普段は連れ回されているフィーを置いて行っちゃうぐらいの勢いで歩いている。
追手が来てるとか、逃げているからとか、そういう訳じゃない。
きっと、このこと――お姫様をフィーがお菓子のお城に変えちゃったことで、これから責められたり追われることは無い……と思う。
メイドさんたちの反応からして、多分間違いない。
それじゃあ今、お城から逃げてるのは何で?
勿論、お城のメイドさんのパーティーだから、部外者のわたし達が長居するのは悪い……という理由、でもなかった。
何で、逃げてるんだろう?
自分でも分からない。だけど、逃げないとやってられない。
そうでもしないと、早まった鼓動の行き場所が無い。
「待ってよ、シロップ~!」
気付けばフィーをかなり引き離してしまったみたいで、慌てて立ち止まる。
「もう、シロップったら。いきなりどうしたの……?」
底抜けの体力のフィーが今日は珍しく、はあはあと息をついていた。
「ご、ごめんなさい……」
冷静になって、すぐに頭を下げる。そうだ、ちょっと、頭を冷やさないと……。
「ねえねえ、この公園で休んでいこうよ!」
と、わたしの袖を引っ張るフィーが指差していたのは、どこにでも有る様な広場だった。本当に、広場は、魔法の世界にも、元の世界にも、どこにでも有る。
お菓子が満足に食べられなかったからか、フィーもちょっと意地になって、わたしの返事を待つ前に手を引っ張っていく。
そして、いつもの様に二人掛けのベンチに座らせられた。
「あっ、ちょっと待ってて!」
だけどせっかちなフィーはすぐに立ち上がって、ぱたぱたとどこかに走っていく。
「……」
背もたれに、全ての体重を預ける。ようやく、呼吸ができる様になった、気がした。
……まだ、生きた心地がしない。
『もっと、本物のお城と同じぐらい壮大な魔法を見せてくれなきゃ困っちゃうわ』。
お姫様が、ステッキを持って椅子から飛び降りた瞬間。咄嗟に思い出した、そんな言葉。
最後に大きな魔法を――だから、お城。
もしもあの時私が思い出してなかったら、お城のイメージを思い浮かべてなかったら、フィーと手を繋いでなかったら。そしてフィーが、夕焼けの手袋を忘れずにきっちりと外しちゃっていたら……。
わたしは……そして、フィーも、今頃――。
想像するだけで、全身の毛が逆立ってくる。
……止めよう。今は、色んなことを、考えるのを、止めよう。止めないと……パンクしそうだった。
「買ってきたよ~!」
そんな明るい声と一緒に、フィーが帰ってくる。すぐに上機嫌に戻ってる。
その両手に持っていたのは――。
「ホイップとカスタードのクレープだって!」
フィーがいそいそと私の右隣に座る。遠くに止まっている移動式の屋台から買ってきた物だろう。
「先にシロップ! 選んで良いよ!」
「あ、ありがとうございます」
わたしは、フィーが右手に持っていたクレープを選んで受け取った。
……うん、ホイップとカスタードが入った、何の変哲もないシンプルなクレープだ。
これは人間を変えたもの、じゃない。普通に作った、普通のクレープ。
獣人になって発達した五感か、もしくは野生の勘で……そういうことだけは、見極められるようになってきた。
そして、わたしがクレープを口元に運ぼうとすると――。
「あれっ、でも、それ……裏、こげちゃってるよ?」
今気づいたんだろう。フィーが心配そうに、クレープをくるんでいた紙をぴらっとめくった。
確かに、紙に隠れていたクレープの皮は、かなりの範囲が真っ黒こげになっていて、お世辞にもおいしそうとは言えなかった。
「嫌だったらフィーのと交換するよ? 半分こしたりとか……」
「大丈夫ですよ」
「そう? 交換したくなったら、すぐ言ってね!」
そんなフィーの言葉に頷いて。そしてフィーとわたしは、クレープをはむっと食べる。
……これは。
二口目、三口目……。
「ちょっと、ちょーだい?」
食べてる様子を見て羨ましくなったのか、フィーがわたしの方のクレープをねだった。
「でも、焦げてますけど……」
「ううん、一口だけだから!」
なのでわたしはフィーの言葉通りに、一口分を食べさせてあげた。はむっと、クリームと焦げた皮を咥えるとフィーは……。
「うぎゃっ!」
反射的にベーっと舌を出して、悲しそうな顔をする。おいしくない……皮は勿論、クリームだって全然味が薄くて甘さが伝わってこなくて、確かに、おいしくない。
「こ、これ、に、にがいよー、シロップ……」
と、フィーは困った様に首を傾げる。
「おいしく、ないですね……」
と、返事をしてわたしはまた、焦げたクレープを食べる。
おいしくない。それに甘くもない……だけど。
今は、甘い味よりもずっと好きだった。
第2章 魔法のお菓子は甘くない?――おしまい
「もっと食べたかったのに……」
むーっとほっぺたを膨らませて、珍しくフィーが拗ねた様な表情をする。
キャンディー、キャラメル、チョコレート。
ローブのポケットにはぎゅうぎゅうっと、沢山のお菓子が詰められている。
「だ、駄目ですよ、メイドさん達のパーティーですから、長居をしては……」
「でもー……」
フィーがくるっと振り返る。
その後ろには、ショートケーキの形をした、大きな大きなお菓子の城。
連れてこられる時に見た、純白のレンガの姿とは全く違う。
屋根には大きな赤いイチゴが乗って、ふわふわのスポンジと、たっぷりの生クリームが掛った、お菓子の城。
そして、元々はお菓子の国のお姫様――アラメリゼ様だった、お城……。
わたしは普段よりも足早に、それこそ普段は連れ回されているフィーを置いて行っちゃうぐらいの勢いで歩いている。
追手が来てるとか、逃げているからとか、そういう訳じゃない。
きっと、このこと――お姫様をフィーがお菓子のお城に変えちゃったことで、これから責められたり追われることは無い……と思う。
メイドさんたちの反応からして、多分間違いない。
それじゃあ今、お城から逃げてるのは何で?
勿論、お城のメイドさんのパーティーだから、部外者のわたし達が長居するのは悪い……という理由、でもなかった。
何で、逃げてるんだろう?
自分でも分からない。だけど、逃げないとやってられない。
そうでもしないと、早まった鼓動の行き場所が無い。
「待ってよ、シロップ~!」
気付けばフィーをかなり引き離してしまったみたいで、慌てて立ち止まる。
「もう、シロップったら。いきなりどうしたの……?」
底抜けの体力のフィーが今日は珍しく、はあはあと息をついていた。
「ご、ごめんなさい……」
冷静になって、すぐに頭を下げる。そうだ、ちょっと、頭を冷やさないと……。
「ねえねえ、この公園で休んでいこうよ!」
と、わたしの袖を引っ張るフィーが指差していたのは、どこにでも有る様な広場だった。本当に、広場は、魔法の世界にも、元の世界にも、どこにでも有る。
お菓子が満足に食べられなかったからか、フィーもちょっと意地になって、わたしの返事を待つ前に手を引っ張っていく。
そして、いつもの様に二人掛けのベンチに座らせられた。
「あっ、ちょっと待ってて!」
だけどせっかちなフィーはすぐに立ち上がって、ぱたぱたとどこかに走っていく。
「……」
背もたれに、全ての体重を預ける。ようやく、呼吸ができる様になった、気がした。
……まだ、生きた心地がしない。
『もっと、本物のお城と同じぐらい壮大な魔法を見せてくれなきゃ困っちゃうわ』。
お姫様が、ステッキを持って椅子から飛び降りた瞬間。咄嗟に思い出した、そんな言葉。
最後に大きな魔法を――だから、お城。
もしもあの時私が思い出してなかったら、お城のイメージを思い浮かべてなかったら、フィーと手を繋いでなかったら。そしてフィーが、夕焼けの手袋を忘れずにきっちりと外しちゃっていたら……。
わたしは……そして、フィーも、今頃――。
想像するだけで、全身の毛が逆立ってくる。
……止めよう。今は、色んなことを、考えるのを、止めよう。止めないと……パンクしそうだった。
「買ってきたよ~!」
そんな明るい声と一緒に、フィーが帰ってくる。すぐに上機嫌に戻ってる。
その両手に持っていたのは――。
「ホイップとカスタードのクレープだって!」
フィーがいそいそと私の右隣に座る。遠くに止まっている移動式の屋台から買ってきた物だろう。
「先にシロップ! 選んで良いよ!」
「あ、ありがとうございます」
わたしは、フィーが右手に持っていたクレープを選んで受け取った。
……うん、ホイップとカスタードが入った、何の変哲もないシンプルなクレープだ。
これは人間を変えたもの、じゃない。普通に作った、普通のクレープ。
獣人になって発達した五感か、もしくは野生の勘で……そういうことだけは、見極められるようになってきた。
そして、わたしがクレープを口元に運ぼうとすると――。
「あれっ、でも、それ……裏、こげちゃってるよ?」
今気づいたんだろう。フィーが心配そうに、クレープをくるんでいた紙をぴらっとめくった。
確かに、紙に隠れていたクレープの皮は、かなりの範囲が真っ黒こげになっていて、お世辞にもおいしそうとは言えなかった。
「嫌だったらフィーのと交換するよ? 半分こしたりとか……」
「大丈夫ですよ」
「そう? 交換したくなったら、すぐ言ってね!」
そんなフィーの言葉に頷いて。そしてフィーとわたしは、クレープをはむっと食べる。
……これは。
二口目、三口目……。
「ちょっと、ちょーだい?」
食べてる様子を見て羨ましくなったのか、フィーがわたしの方のクレープをねだった。
「でも、焦げてますけど……」
「ううん、一口だけだから!」
なのでわたしはフィーの言葉通りに、一口分を食べさせてあげた。はむっと、クリームと焦げた皮を咥えるとフィーは……。
「うぎゃっ!」
反射的にベーっと舌を出して、悲しそうな顔をする。おいしくない……皮は勿論、クリームだって全然味が薄くて甘さが伝わってこなくて、確かに、おいしくない。
「こ、これ、に、にがいよー、シロップ……」
と、フィーは困った様に首を傾げる。
「おいしく、ないですね……」
と、返事をしてわたしはまた、焦げたクレープを食べる。
おいしくない。それに甘くもない……だけど。
今は、甘い味よりもずっと好きだった。
第2章 魔法のお菓子は甘くない?――おしまい
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる