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第一章 お屋敷編
第二十三話 白狐の異変
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目が覚めれば月の光はいつの間にか、朝日に変わっていた。
「う、ん……」
目をこすって、ゆっくりと体を起こす。正直、あんまり良い気分とは言えなかった。
ちよさんのことが、心に突き刺さったままでいる。
一晩寝ればすっきりするなんて、あんなの嘘だ。本当は、まだ寝ていたい。だけど、眠っていても何かが良くなるとも思えない。
仕方ない。ゆっくりと立ち上がって障子を開けてみる。
縁側に立ってみれば、太陽はまだ低く空は淡い水色だった。今日は寝坊はしなかったみたいだ。
「んーっ」
大きく伸びをする。何はともあれ、今日も頑張るか……と、無理やり自分を奮い立たせて、お茶の間に向かうことにした。
縁側を歩いて障子を開ければお茶の間は空っぽで、他の人はまだ誰も来ていなかっただけどちゃぶ台の上には既に、お茶碗と恐らく味噌汁に使うお椀が人数分、伏せて置いてある。
俺も、料理を覚えなきゃなあ……。そう思っていると、ふすまが開く。
「おはよう~……、景」
どことなく気の抜けた御珠様の声。ぱちぱちと瞬きをしていて、非常に眠そうだ。
寝間着は、白っぽい下地に緑色や藤色の文様があしらわれた着物で、一昨日着ていた物よりも薄く、シンプルに見える。
「ふああ……どうして朝になると、起きねばならんのか……」
欠伸をする御珠様は、黄金色の髪の毛も、九本のしっぽも、というか全身の毛が寝癖でボサついている。あんなに艶々していたのに。
寝ぼけているからなのか、それともわざとなのか、一昨日よりも更に二割増しぐらい寝間着もはだけているし……。
完全に、寝起きモードだ。
「帯を、結んだ方が良いのでは……?」
「うむ? わらわとしては別に、このままでも良いのだが?」
何故か、じゅるりと舌なめずりをする御珠様。
妖艶って、こういうことなんだろうな……と謎の実感をしながら、俺は
「おぬしだってそうじゃろう?」
「ま、まあ、それは……いや、やっぱりマズいですって!」
気が付けば御珠様のペースに呑みこまれてしまっているのが哀しい。
とにかく、流石にこんなにはだけているのは、朝っぱらには刺激が強すぎる……!
「むー、はだけておった方が、涼しいのに」
御珠様は残念そうに、仕方なさそうに自分の帯を結び直す。
結び目とかはぐしゃぐしゃで、かなり雑だったけれど……一安心。
「おはようございます、御珠様!」
「おはようございます」
すると、またしてもふすまが開く。御珠様に駆け寄ってくるのは白狐の双子、灯詠と都季。
「ふふ、二人とも、今日もかわいいのう!」
ぎゅーっと抱きついてくる子狐たちの頭を御珠様は撫でてやり、自分もしゃがんで抱きしめ返す。
「そ、そんなことはないのです」
「勿体無きお言葉……」
物凄くもふもふしていそうな光景だった。
「「……」」
それから子狐たちはこっちを見る。どうやら、ようやく俺がいることに気が付いたみたいだ。
「あ、一応景も、おはようなのです」
「……おっはー」
はしゃぐのを止めてそっけない口調へと戻る灯詠と都季。御珠様の時とは、清々しいほどの温度差だ……。
「お前らは朝から絶好調だな……、おはよう」
挨拶を返して自分の席に座るった。
「「………」」
子狐達に、じっと見つめられる。
「? どうしたんだ? 座らないのか?」
立ったまま無言でこっちに強い目線を向ける子狐達。
「「………」」
だけど、尋ねてみても返事は無い。それどころか子狐達はふいっと顔を逸らしてしまった。
二人が何を考えているのか、さっぱり分からない。これも悪戯か?
「……き」
ようやく灯詠の方が何か言いかける。
「ごはんだよー」
けれど、料理を持った蓬さんが入ってきて、都季と灯詠はささっと自分の座ってしまった。
灯詠は俺の右隣に、都季は灯詠の正面の席に。
一体、今のは何だったんだ?
疑問に思っていると十徹さんが茶の間にやって来る。
「これで全部だよ~」
蓬さんとちよさんも料理を全て運び終えて腰を下ろした。
「それでは、手を合わせて。いただきます」
「「「いただきます」」」
そして御珠様の号令で、朝ごはんが始まる。
白米と、野菜の味噌汁と、しゃけと、海苔と、卵焼き。昨日の晩御飯と同じで、どれも本当においしくて、夢中になって食べてしまう。
味付けの濃い目のしゃけは、ご飯が止まらなくなる味だ。わずかに甘い卵焼きはふんわりしていて、口に入れただけで幸せな気持ちになる。海苔の磯の香りが、更に食欲をそそった。
みそ汁を飲むと、やっぱり落ち着くというか、ほっとする。
元々朝は、あまり食べれない体質だったのに。そんなこともすっかり忘れて、食べている。
……だけど、昨日の晩御飯の時と比べて、どこか違和感が有った。
何か、何かが昨日と違うような……。
「あ」
そうだ。都季と灯詠が、今日はやけに大人しい。昨日の晩御飯の時は、というか昨日は一日中ずっと、あの二人は騒がしかったのに。
あんなに刺身を巡って争っていたのが嘘みたいだ。それぐらい、何事もなく食事が進んでいる。
それどころか都季と灯詠は……さっきから一言も話してすら、いなかった。
「……どうしましたか?」
俺の視線に気が付いたのか、隣の灯詠が静かに話しかけてきた。どことなく浮かない表情で。
「いや、今日はご飯を奪ったりしないのかな、って」
「今そんな気分じゃないのです」
きっぱりと言い切ると灯詠は顔を伏せて、また箸を動かし始めた。
「………」
見れば、都季の方もただ俯いて、もくもくとご飯を食べていて……。
昨日だったら、この辺で俺か灯詠を茶化していてもいいのに、それも無い。
試しに二人の海苔を奪ってみようかとも考えたけれど、それすらもはばかられる雰囲気だ。
「……?」
以前から一緒に暮らしている人から見ても、今の都季と灯詠の様子はおかしいみたいで、ちよさんと蓬さんは、不思議そうに顔を見合わせている。
御珠様と……それから十徹さんでさえも、驚いて目を見張っていた。
「具合が悪いの?」
蓬さんが立ち上がってそばに行って、二人のおでこに手を当てる。
「熱は……ないかな」
蓬さんが二人の額から手を引いて、首を傾げる。
「お腹とかは平気? 痛かったりは……」
「違います。何でもないのです」
「大丈夫」
ちよさんが心配そうに尋ねても、都季と灯詠はただ首を振るばかり。
「辛くなったらすぐに言うんだよ」
そんな蓬さんの言葉に、ようやく二人は小さく頷いて、また食事に戻った。
きっぱりと否定されてしまった以上、仕方がないので他の人も各々の食事を再開する。
だけどその目線は、自然と子狐達の方に向いてしまう。ずっと気がかりだった。
……さっき御珠様の所に駆けよった時は、いつも通りどころか、凄く元気そうに見えたのに。
まるで本当に狐につままれた様に、奇妙なことが起こっている。
御珠様と話した時にはまだ、都季と灯詠は元気だったのに。
それが急に暗くなったのは……俺と、話した時からだ。
………。
こんなこと、考えたくない。本当に、考えたくないんだけれど……。
まさか俺は、都季と灯詠にも、嫌われてしまったのか……?
……都季と灯詠とは、普通に話をできていた。少なくとも俺は、そう思っていた。
だけど、それは単なる俺の思い過ごしで……もしかしたら子狐達もちよさんと同じように、ずっと我慢してくれていたのか? 本当は怖かったり、嫌だったのに、俺のことを気遣ってくれていたのか?
だけどとうとう、耐えきれなくなったのか?
昨日寝る前に感じた息苦しさが、更に強くなって、蘇ってくる。
……ショックだった。自分が今まで信じていた物が、完全にひっくり返されたような気分だった。
違う。そんなの、俺の思い過ごしだ。そんな風に否定もできなかった。
気分が沈んでいるのを、他の人たちに隠そうとするので精一杯だった。
食事にだけ集中しようとしても、どうしても暗い気分がまとわりついて離れない。
「「………」」
都季と灯詠は食事中誰とも話すことはなく、食卓全体も昨日と違って水を打った様に静かだった……。
「「「ごちそうさま」」」
挨拶が終わると団欒も無く、子狐達はすぐに自分たちの食器をまとめて茶の間から出て行ってしまった。
それに引っ張られる様にして、他の人も食器を台所に片付け始める。
台所には、炊いたご飯の良い香りが残っていた。裏庭に出て、蓬さんとちよさんに話しかける。
「手伝います」
「うん」
蓬さんは、元気が無いように思えた。ちよさんも心配そうな表情をしていた。
昨日の様に桶に水を汲んで、三人で皿を洗う間も、暗い気分が晴れることは無かった。
台所から自分の部屋に戻って、敷きっぱなしだった布団を片付けると、することが無くなる。
本棚に有るラノベでも読んで、気分を紛らわせようかとも思ったけれど、どうしても気が乗らなかった。
だけどこのまま部屋でじっとしていても、気分は沈んでいくだけ。それは分かっている。
俺は障子を開けて、再び縁側に出る。高く昇り始めた日光で、目が眩んでチカチカする。
空は雲一つ無く澄んでいたけれど、何も教えてくれない。
ため息をついていると……。
「今日も、いい天気じゃな」
俺の右隣に腰かけている御珠様が、声を掛けてきた。
「うわっ!」
さっきまで誰もいなかったはずなのに、いつの間に……?!
「朝から冴えんのう?」
驚いていると、御珠様が俺の顔を覗き込む。
「い、いえ、そんなこと」
言葉の上では否定するけれど、まさにその通り。図星の人間の答え方をしてしまう。
隠すの下手だな、俺……。
「くふふ、おぬしは面白い奴じゃの」
すると御珠様は悪戯っぽく笑った。かわいらしいその表情に、思わずどきっとしていると……。
「まあまあ、ちょっとここに座るがよい」
御珠様は手の平で縁側をぽんぽんと叩いて、それから九本のしっぽの内の一本を器用に動かして、俺の背中もぺしぺしと叩く。
「う、ん……」
目をこすって、ゆっくりと体を起こす。正直、あんまり良い気分とは言えなかった。
ちよさんのことが、心に突き刺さったままでいる。
一晩寝ればすっきりするなんて、あんなの嘘だ。本当は、まだ寝ていたい。だけど、眠っていても何かが良くなるとも思えない。
仕方ない。ゆっくりと立ち上がって障子を開けてみる。
縁側に立ってみれば、太陽はまだ低く空は淡い水色だった。今日は寝坊はしなかったみたいだ。
「んーっ」
大きく伸びをする。何はともあれ、今日も頑張るか……と、無理やり自分を奮い立たせて、お茶の間に向かうことにした。
縁側を歩いて障子を開ければお茶の間は空っぽで、他の人はまだ誰も来ていなかっただけどちゃぶ台の上には既に、お茶碗と恐らく味噌汁に使うお椀が人数分、伏せて置いてある。
俺も、料理を覚えなきゃなあ……。そう思っていると、ふすまが開く。
「おはよう~……、景」
どことなく気の抜けた御珠様の声。ぱちぱちと瞬きをしていて、非常に眠そうだ。
寝間着は、白っぽい下地に緑色や藤色の文様があしらわれた着物で、一昨日着ていた物よりも薄く、シンプルに見える。
「ふああ……どうして朝になると、起きねばならんのか……」
欠伸をする御珠様は、黄金色の髪の毛も、九本のしっぽも、というか全身の毛が寝癖でボサついている。あんなに艶々していたのに。
寝ぼけているからなのか、それともわざとなのか、一昨日よりも更に二割増しぐらい寝間着もはだけているし……。
完全に、寝起きモードだ。
「帯を、結んだ方が良いのでは……?」
「うむ? わらわとしては別に、このままでも良いのだが?」
何故か、じゅるりと舌なめずりをする御珠様。
妖艶って、こういうことなんだろうな……と謎の実感をしながら、俺は
「おぬしだってそうじゃろう?」
「ま、まあ、それは……いや、やっぱりマズいですって!」
気が付けば御珠様のペースに呑みこまれてしまっているのが哀しい。
とにかく、流石にこんなにはだけているのは、朝っぱらには刺激が強すぎる……!
「むー、はだけておった方が、涼しいのに」
御珠様は残念そうに、仕方なさそうに自分の帯を結び直す。
結び目とかはぐしゃぐしゃで、かなり雑だったけれど……一安心。
「おはようございます、御珠様!」
「おはようございます」
すると、またしてもふすまが開く。御珠様に駆け寄ってくるのは白狐の双子、灯詠と都季。
「ふふ、二人とも、今日もかわいいのう!」
ぎゅーっと抱きついてくる子狐たちの頭を御珠様は撫でてやり、自分もしゃがんで抱きしめ返す。
「そ、そんなことはないのです」
「勿体無きお言葉……」
物凄くもふもふしていそうな光景だった。
「「……」」
それから子狐たちはこっちを見る。どうやら、ようやく俺がいることに気が付いたみたいだ。
「あ、一応景も、おはようなのです」
「……おっはー」
はしゃぐのを止めてそっけない口調へと戻る灯詠と都季。御珠様の時とは、清々しいほどの温度差だ……。
「お前らは朝から絶好調だな……、おはよう」
挨拶を返して自分の席に座るった。
「「………」」
子狐達に、じっと見つめられる。
「? どうしたんだ? 座らないのか?」
立ったまま無言でこっちに強い目線を向ける子狐達。
「「………」」
だけど、尋ねてみても返事は無い。それどころか子狐達はふいっと顔を逸らしてしまった。
二人が何を考えているのか、さっぱり分からない。これも悪戯か?
「……き」
ようやく灯詠の方が何か言いかける。
「ごはんだよー」
けれど、料理を持った蓬さんが入ってきて、都季と灯詠はささっと自分の座ってしまった。
灯詠は俺の右隣に、都季は灯詠の正面の席に。
一体、今のは何だったんだ?
疑問に思っていると十徹さんが茶の間にやって来る。
「これで全部だよ~」
蓬さんとちよさんも料理を全て運び終えて腰を下ろした。
「それでは、手を合わせて。いただきます」
「「「いただきます」」」
そして御珠様の号令で、朝ごはんが始まる。
白米と、野菜の味噌汁と、しゃけと、海苔と、卵焼き。昨日の晩御飯と同じで、どれも本当においしくて、夢中になって食べてしまう。
味付けの濃い目のしゃけは、ご飯が止まらなくなる味だ。わずかに甘い卵焼きはふんわりしていて、口に入れただけで幸せな気持ちになる。海苔の磯の香りが、更に食欲をそそった。
みそ汁を飲むと、やっぱり落ち着くというか、ほっとする。
元々朝は、あまり食べれない体質だったのに。そんなこともすっかり忘れて、食べている。
……だけど、昨日の晩御飯の時と比べて、どこか違和感が有った。
何か、何かが昨日と違うような……。
「あ」
そうだ。都季と灯詠が、今日はやけに大人しい。昨日の晩御飯の時は、というか昨日は一日中ずっと、あの二人は騒がしかったのに。
あんなに刺身を巡って争っていたのが嘘みたいだ。それぐらい、何事もなく食事が進んでいる。
それどころか都季と灯詠は……さっきから一言も話してすら、いなかった。
「……どうしましたか?」
俺の視線に気が付いたのか、隣の灯詠が静かに話しかけてきた。どことなく浮かない表情で。
「いや、今日はご飯を奪ったりしないのかな、って」
「今そんな気分じゃないのです」
きっぱりと言い切ると灯詠は顔を伏せて、また箸を動かし始めた。
「………」
見れば、都季の方もただ俯いて、もくもくとご飯を食べていて……。
昨日だったら、この辺で俺か灯詠を茶化していてもいいのに、それも無い。
試しに二人の海苔を奪ってみようかとも考えたけれど、それすらもはばかられる雰囲気だ。
「……?」
以前から一緒に暮らしている人から見ても、今の都季と灯詠の様子はおかしいみたいで、ちよさんと蓬さんは、不思議そうに顔を見合わせている。
御珠様と……それから十徹さんでさえも、驚いて目を見張っていた。
「具合が悪いの?」
蓬さんが立ち上がってそばに行って、二人のおでこに手を当てる。
「熱は……ないかな」
蓬さんが二人の額から手を引いて、首を傾げる。
「お腹とかは平気? 痛かったりは……」
「違います。何でもないのです」
「大丈夫」
ちよさんが心配そうに尋ねても、都季と灯詠はただ首を振るばかり。
「辛くなったらすぐに言うんだよ」
そんな蓬さんの言葉に、ようやく二人は小さく頷いて、また食事に戻った。
きっぱりと否定されてしまった以上、仕方がないので他の人も各々の食事を再開する。
だけどその目線は、自然と子狐達の方に向いてしまう。ずっと気がかりだった。
……さっき御珠様の所に駆けよった時は、いつも通りどころか、凄く元気そうに見えたのに。
まるで本当に狐につままれた様に、奇妙なことが起こっている。
御珠様と話した時にはまだ、都季と灯詠は元気だったのに。
それが急に暗くなったのは……俺と、話した時からだ。
………。
こんなこと、考えたくない。本当に、考えたくないんだけれど……。
まさか俺は、都季と灯詠にも、嫌われてしまったのか……?
……都季と灯詠とは、普通に話をできていた。少なくとも俺は、そう思っていた。
だけど、それは単なる俺の思い過ごしで……もしかしたら子狐達もちよさんと同じように、ずっと我慢してくれていたのか? 本当は怖かったり、嫌だったのに、俺のことを気遣ってくれていたのか?
だけどとうとう、耐えきれなくなったのか?
昨日寝る前に感じた息苦しさが、更に強くなって、蘇ってくる。
……ショックだった。自分が今まで信じていた物が、完全にひっくり返されたような気分だった。
違う。そんなの、俺の思い過ごしだ。そんな風に否定もできなかった。
気分が沈んでいるのを、他の人たちに隠そうとするので精一杯だった。
食事にだけ集中しようとしても、どうしても暗い気分がまとわりついて離れない。
「「………」」
都季と灯詠は食事中誰とも話すことはなく、食卓全体も昨日と違って水を打った様に静かだった……。
「「「ごちそうさま」」」
挨拶が終わると団欒も無く、子狐達はすぐに自分たちの食器をまとめて茶の間から出て行ってしまった。
それに引っ張られる様にして、他の人も食器を台所に片付け始める。
台所には、炊いたご飯の良い香りが残っていた。裏庭に出て、蓬さんとちよさんに話しかける。
「手伝います」
「うん」
蓬さんは、元気が無いように思えた。ちよさんも心配そうな表情をしていた。
昨日の様に桶に水を汲んで、三人で皿を洗う間も、暗い気分が晴れることは無かった。
台所から自分の部屋に戻って、敷きっぱなしだった布団を片付けると、することが無くなる。
本棚に有るラノベでも読んで、気分を紛らわせようかとも思ったけれど、どうしても気が乗らなかった。
だけどこのまま部屋でじっとしていても、気分は沈んでいくだけ。それは分かっている。
俺は障子を開けて、再び縁側に出る。高く昇り始めた日光で、目が眩んでチカチカする。
空は雲一つ無く澄んでいたけれど、何も教えてくれない。
ため息をついていると……。
「今日も、いい天気じゃな」
俺の右隣に腰かけている御珠様が、声を掛けてきた。
「うわっ!」
さっきまで誰もいなかったはずなのに、いつの間に……?!
「朝から冴えんのう?」
驚いていると、御珠様が俺の顔を覗き込む。
「い、いえ、そんなこと」
言葉の上では否定するけれど、まさにその通り。図星の人間の答え方をしてしまう。
隠すの下手だな、俺……。
「くふふ、おぬしは面白い奴じゃの」
すると御珠様は悪戯っぽく笑った。かわいらしいその表情に、思わずどきっとしていると……。
「まあまあ、ちょっとここに座るがよい」
御珠様は手の平で縁側をぽんぽんと叩いて、それから九本のしっぽの内の一本を器用に動かして、俺の背中もぺしぺしと叩く。
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