43 / 77
第一章 お屋敷編
第四十三話 白狐のけいりゃく
しおりを挟む
雲一つない大空。庭に差し込む強い日差しに目を細める。
今日は風も吹いてない、良い陽気だ。御珠様が手入れをしている庭の緑も、いつもよりも青々しく茂っている。いつ見ても生命力に溢れている、素晴らしい庭。
二階の魔窟と同じ人が管理しているとは、到底考えられないぐらいだな……。
じっくりと庭を見て回ってみようかとも思ったけれど、それよりも。
俺は縁側を歩いて、そのまままっすぐ自分の部屋の中に入って、障子を閉める。
やりたいことはもう、決まっていた。
早速本棚から、この世界でのライトノベルの様なタイプの本――『もっふるさん、風に舞う』と、辞書を取り出して、座椅子に腰かける。ぱらぱらとページをめくると、主人公の山犬の女の子――もっふるさんが、洞窟の中で居眠りしてしまった場面がすぐに見つかった。
昨日は結局、この場面につられて途中で寝落ちしちゃったんだった。折角のお休みなんだし、今日こそ存分に読書に没頭しよう。
この世界に特有の文字や漢字が有れば、一つ一つ調べながら。慣れてきたからか、昨日よりも辞書をめくるスピードも速くなってきたみたいで、少し嬉しくなる。
もっふるさんはとうとう山から下りて、ふもとの町に辿り着く。そして、腹ごしらえに食堂で、大盛り定食三人前を待っていると、隣のテーブルに座っている二人組の男達の話が聞こえてくる――。
『「おい、聞いたか? また出たんだってな」「出た?」「あれだよ、西の果てに現れる――」「ああ、鳳凰のことか……」』『聞き慣れない単語に、もっふるさんはすぐに席を立ち、物怖じせずに男達に尋ねる。「ほうおうって、何のことですか?」』『突然話し掛けられた男達は、最初は面食らって口を閉ざしていたものの……彼女の純粋な視線に、観念した様にぽつりぽつりと語り出した。』
『「鳳凰ってのはな――」』
「「あっかんべ~っ!」」
読書の世界に突如割り込む無遠慮な大声。頭の中に作り上げられてきた食堂の場面のイメージが、完璧に破壊されて台無しになった。
……良いところだったのに。狙い澄ましていた様なタイミング。
顔を上げれば当然、障子に映るのは、二つの黒いシルエット。筆の様に膨らんだしっぽに、大きな狐耳。
どっちが都季でどっちが灯詠かまでは分からない。流石は双子、影までも本当にそっくりだ。
……まあ良い。所詮ただの悪戯だ。反応せずに放っておけば、その内静かになるはずだ。
俺は再び本に目を落として、食堂の場面を思い浮かべる。
それで、鳳凰ってのは……?
「今日の景は、やけに静かですねえ、都季?」
「本当に不思議」
しかし、子狐達の声に再び中断。しかも何故か、今度の二人はやけに陽気な声だ。
「こんな休みなのに部屋に閉じこもって、一体景は何をしているのでしょうか?」
「多分、読書」
「なるほど! 暇そうな景には、確かにお似合いなのです!」
「実質、無趣味……」
「放っとけよ……」
と、思わず突っ込みそうになって、慌てて口をつぐむ。危ない。ここで話に乗ったら、それこそ二人の思うつぼだ。だからと言って、集中力が途切れた今、既に聞き流すこともできなくなっている。
「ですが、景が一体どんな本に夢中になっているのかまでは、私にはさっぱり見当がつかないのです」
「そんなの、お見通し」
「えっ、本当ですか?! 凄いのです、都季!」
「考えればすぐに分かる」
それにしても、今の二人の話し方、やけにオーバーだな……。感情がやたらとこもっていて、かえって演技みたいで嘘っぽいっていうか……用意していたセリフをなぞっている感が満載だ。
「流石です、都季! それで、何の本なのでしょう?」
「……灯詠にだけは、教えても良いよ」
「大丈夫です! 誰にも言いませんから!」
そして、左側のシルエット――都季が両手で筒の形を作って。右側のシルエット――灯詠が更に、そのそばに寄った。
「それじゃあ、言うね」
「はい。楽しみなのです。一体景は、どんな本が好きなのですか?」
「今、景が、読んでいるのは……」
「うんうん、何でしょう?」
「……女の人の着換えを、覗いたりする本」
「うわ! 最低なのです! 景はそんなエッチな本を、喜んで読み漁っているのですか?」
「本当に、呆れるばかり……」
「読んでねーよ!!!」
読んでない、断じてそれは無い! 部屋の中から反論していると、けらけらとお腹を抱えて笑う子狐達。
「あれ? 読書に集中しないのですか、景?」
「じっくり読んだらいいのに……」
勿論二人は、これっぽちもそんなこと思っていない。その狙いはただ一つ。俺の素敵な休日を邪魔することだ。
それがさっきお茶の間で煽ったことへの復讐だってことは、容易に想像がついた。
「お前らも、何か別の遊びでもしてろよ……。折り紙とか、かけっことか、お絵描きとか」
「構わないのです。景をからかっていた方が楽しいですから」
「何事にも代えがたい、楽しさ」
最早、からかうためにからかっていることを隠すつもりすら無いらしい。一周回って潔かった。
「しかし都季、景は本当にいやらしいことが大好きなのですね……呆れるのです」
「……それが、思春期の男、悲しい生き物」
「全く、少しは私達のことを見習った方が良いですね」
「純真で清廉潔白な、私達の姿を」
……とにかく、追い返すために部屋の外に出たら、その時点で俺の負け。
そんな暗黙の了解が出来上っていることを実感しながら、俺は改めて対抗策、『向こうが飽きるまでスル―』を選択する。
ええっと、それで結局、鳳凰って言うのは何なんだ?
『「鳳凰ってのはな――この国の西の果ての山に棲んでるんだよ、多分な」「多分、ですか?」「ああ、本当に居るのかどうかも分からねえ。だけど、その羽には不思議な力が有るとされていてな――」』
「何だか、反応が返ってこないのですね、都季」
「ちょっと今一つ」
「それでは次はとうとう、アレの出番と致しましょうか」
「アレを使おう」
アレ、とは何だ? 気になるものの、どうせ思わせぶりなだけだろう。気にせずに続きを読んでいこうとすると……。
「うわっ?!」
手裏剣が飛んできた。しかも、障子をすっとすり抜けて、まっすぐ。
当然折り紙で出来た手裏剣だけど、完璧に不意打ちだったから、思わず声が出る。
障子は少しも破れてなんかいない。なのに手裏剣は、障子で隔たれた部屋の外からまっすぐ飛んで来る。
慌てて俺は部屋の隅っこへと避難した。これは、壁抜けの妖術を手裏剣に掛けたのか……?
警戒しているとすぐに手裏剣は途絶えて、子狐達の残念そうな声が聞こえてくる。
「む、もう全て投げてしまったのです」
「仕方がない……」
……どうやら、全てかわし切ったみたいだ。
あっという間に攻撃が終ったことに安堵して、俺が再び座椅子に座ろうとすると。
今度は同じ様に障子をすり抜けて、今度はゆっくりと二つの物体が部屋に入って来る。
「あれは……」
目を凝らせば、その正体はすぐに明らかになる。あれは、蓬さんが折っていた、折り紙の龍。
突然の出来事に、呆気に取られていると――。
「いてっ!」
青の龍の長い尻尾に、頬をぴしっと引っぱたかれた。同時に、赤の龍ががじっと腕に噛みついてきて。
……ちょっとだけ、痛い。所詮紙とはいえ、無視できない位には地味に痛い。
だけど、そんなことも気にせずに、折り紙の龍は二頭の龍は頭突きをしたり、引っ掻いてきたりと言う地味な妨害を加えてくる。
「小癪な……!」
手を振り回すけれど、龍はするっとそれをかわして、中々捕まえることができない。
「効いてる効いてるのです!」
「効果てきめん」
障子の向こうからは楽しそうな子狐達の声。
恐らく、皿洗いのご褒美として蓬さんから貰った龍に、子狐達が妖しげな術を掛けて、俺を攻撃する様に操っているんだろう。分かってはいる、分かってはいるけれど、思った以上に厄介だな……!
このままだと、いつまで経っても終わらない。ちゃんと考えてから、捕まえよう。
俺はまず、二頭を同時に追うのを止めて、赤の龍からの攻撃は我慢する。
それから、青の龍の動きだけを目で追って――。
「――よしっ!」
再びビンタをかまそうとしてきた青の龍の尻尾を掴んだ。残りは、赤の龍のみ。
「あっ……しまった」
「ちょっとマズいのです!」
すると、操り主の子狐達が動揺したからか、赤の龍も一瞬だけ動きが固まって……。
「こっちも捕まえた!」
その隙を突いて俺は、赤の龍の腹を掴む。それから速攻でタンスの下から二番目を開け、二頭一緒に中に突っ込んで、再びすぐに閉ざした。
少しの間、タンスからはカタカタという小さな音がしたけれど――やがて術が解けたのか、ぴたりと何も聞こえなくなって。
恐る恐る、再び取り出して確認してみれば。二頭の龍は何の変哲もない、動かない元の折り紙へと戻っていた。
ようやく、大人しくなったか? と、思いながら障子に映る影を見れば。
「龍がやられてしまったのですか……まあ、仕方がないのです」
「次の手段を打つのみ」
……どうやら子狐達は、まだ満足していないらしい。
というか最早復讐と言う名目すら忘れて、ただ単に俺を驚かせることを楽しんでいるみたいだった。
確かに、遊ぶのは結構なことだが……付き合わされる俺の方はたまったもんじゃない。
流石にもう、このままやられっぱなしでもいられない。快適な休日を取り戻すためには、こっちの方も対抗策を講じるのみだ。
争いが更に争いを、復習が更なる復讐を呼ぶという悪循環に完全に陥っているけれど……それは一旦、置いといて。俺はもっふるさんに栞をはさんで、考える。
……あいつらが怖がりだって言うことは、これまでの経験上何となく察している。
ついさっきまでは、幽霊の話で怖がらせたら悪い――とか思っていたけれど。
もう完璧に気分が変わっている。こうなれば、驚かすのが一番手っ取り早いな、うん。
だけど、部屋から出てきて追い掛け回したりするんじゃ単調だし、何よりその可能性は向こうにも十分に読まれているだろう。それに、部屋から出たらその時点であいつらに屈したことになる、という妙な意地が心の中で働いてしまっていた。
――ここから一歩も出ないで、子狐達にしっぺ返しを喰らわせられる、手段。
何かヒントは無いか? 改めてもう一度部屋の中を見回してみれば。
すぐに目に止まったのは、やっぱり本棚だった。
俺はその中の、ある一冊の本をそっと抜き出して、ぱらぱらとめくって中身を確認する。
「これは……」
……よし。これを使ってみるか……。
今日は風も吹いてない、良い陽気だ。御珠様が手入れをしている庭の緑も、いつもよりも青々しく茂っている。いつ見ても生命力に溢れている、素晴らしい庭。
二階の魔窟と同じ人が管理しているとは、到底考えられないぐらいだな……。
じっくりと庭を見て回ってみようかとも思ったけれど、それよりも。
俺は縁側を歩いて、そのまままっすぐ自分の部屋の中に入って、障子を閉める。
やりたいことはもう、決まっていた。
早速本棚から、この世界でのライトノベルの様なタイプの本――『もっふるさん、風に舞う』と、辞書を取り出して、座椅子に腰かける。ぱらぱらとページをめくると、主人公の山犬の女の子――もっふるさんが、洞窟の中で居眠りしてしまった場面がすぐに見つかった。
昨日は結局、この場面につられて途中で寝落ちしちゃったんだった。折角のお休みなんだし、今日こそ存分に読書に没頭しよう。
この世界に特有の文字や漢字が有れば、一つ一つ調べながら。慣れてきたからか、昨日よりも辞書をめくるスピードも速くなってきたみたいで、少し嬉しくなる。
もっふるさんはとうとう山から下りて、ふもとの町に辿り着く。そして、腹ごしらえに食堂で、大盛り定食三人前を待っていると、隣のテーブルに座っている二人組の男達の話が聞こえてくる――。
『「おい、聞いたか? また出たんだってな」「出た?」「あれだよ、西の果てに現れる――」「ああ、鳳凰のことか……」』『聞き慣れない単語に、もっふるさんはすぐに席を立ち、物怖じせずに男達に尋ねる。「ほうおうって、何のことですか?」』『突然話し掛けられた男達は、最初は面食らって口を閉ざしていたものの……彼女の純粋な視線に、観念した様にぽつりぽつりと語り出した。』
『「鳳凰ってのはな――」』
「「あっかんべ~っ!」」
読書の世界に突如割り込む無遠慮な大声。頭の中に作り上げられてきた食堂の場面のイメージが、完璧に破壊されて台無しになった。
……良いところだったのに。狙い澄ましていた様なタイミング。
顔を上げれば当然、障子に映るのは、二つの黒いシルエット。筆の様に膨らんだしっぽに、大きな狐耳。
どっちが都季でどっちが灯詠かまでは分からない。流石は双子、影までも本当にそっくりだ。
……まあ良い。所詮ただの悪戯だ。反応せずに放っておけば、その内静かになるはずだ。
俺は再び本に目を落として、食堂の場面を思い浮かべる。
それで、鳳凰ってのは……?
「今日の景は、やけに静かですねえ、都季?」
「本当に不思議」
しかし、子狐達の声に再び中断。しかも何故か、今度の二人はやけに陽気な声だ。
「こんな休みなのに部屋に閉じこもって、一体景は何をしているのでしょうか?」
「多分、読書」
「なるほど! 暇そうな景には、確かにお似合いなのです!」
「実質、無趣味……」
「放っとけよ……」
と、思わず突っ込みそうになって、慌てて口をつぐむ。危ない。ここで話に乗ったら、それこそ二人の思うつぼだ。だからと言って、集中力が途切れた今、既に聞き流すこともできなくなっている。
「ですが、景が一体どんな本に夢中になっているのかまでは、私にはさっぱり見当がつかないのです」
「そんなの、お見通し」
「えっ、本当ですか?! 凄いのです、都季!」
「考えればすぐに分かる」
それにしても、今の二人の話し方、やけにオーバーだな……。感情がやたらとこもっていて、かえって演技みたいで嘘っぽいっていうか……用意していたセリフをなぞっている感が満載だ。
「流石です、都季! それで、何の本なのでしょう?」
「……灯詠にだけは、教えても良いよ」
「大丈夫です! 誰にも言いませんから!」
そして、左側のシルエット――都季が両手で筒の形を作って。右側のシルエット――灯詠が更に、そのそばに寄った。
「それじゃあ、言うね」
「はい。楽しみなのです。一体景は、どんな本が好きなのですか?」
「今、景が、読んでいるのは……」
「うんうん、何でしょう?」
「……女の人の着換えを、覗いたりする本」
「うわ! 最低なのです! 景はそんなエッチな本を、喜んで読み漁っているのですか?」
「本当に、呆れるばかり……」
「読んでねーよ!!!」
読んでない、断じてそれは無い! 部屋の中から反論していると、けらけらとお腹を抱えて笑う子狐達。
「あれ? 読書に集中しないのですか、景?」
「じっくり読んだらいいのに……」
勿論二人は、これっぽちもそんなこと思っていない。その狙いはただ一つ。俺の素敵な休日を邪魔することだ。
それがさっきお茶の間で煽ったことへの復讐だってことは、容易に想像がついた。
「お前らも、何か別の遊びでもしてろよ……。折り紙とか、かけっことか、お絵描きとか」
「構わないのです。景をからかっていた方が楽しいですから」
「何事にも代えがたい、楽しさ」
最早、からかうためにからかっていることを隠すつもりすら無いらしい。一周回って潔かった。
「しかし都季、景は本当にいやらしいことが大好きなのですね……呆れるのです」
「……それが、思春期の男、悲しい生き物」
「全く、少しは私達のことを見習った方が良いですね」
「純真で清廉潔白な、私達の姿を」
……とにかく、追い返すために部屋の外に出たら、その時点で俺の負け。
そんな暗黙の了解が出来上っていることを実感しながら、俺は改めて対抗策、『向こうが飽きるまでスル―』を選択する。
ええっと、それで結局、鳳凰って言うのは何なんだ?
『「鳳凰ってのはな――この国の西の果ての山に棲んでるんだよ、多分な」「多分、ですか?」「ああ、本当に居るのかどうかも分からねえ。だけど、その羽には不思議な力が有るとされていてな――」』
「何だか、反応が返ってこないのですね、都季」
「ちょっと今一つ」
「それでは次はとうとう、アレの出番と致しましょうか」
「アレを使おう」
アレ、とは何だ? 気になるものの、どうせ思わせぶりなだけだろう。気にせずに続きを読んでいこうとすると……。
「うわっ?!」
手裏剣が飛んできた。しかも、障子をすっとすり抜けて、まっすぐ。
当然折り紙で出来た手裏剣だけど、完璧に不意打ちだったから、思わず声が出る。
障子は少しも破れてなんかいない。なのに手裏剣は、障子で隔たれた部屋の外からまっすぐ飛んで来る。
慌てて俺は部屋の隅っこへと避難した。これは、壁抜けの妖術を手裏剣に掛けたのか……?
警戒しているとすぐに手裏剣は途絶えて、子狐達の残念そうな声が聞こえてくる。
「む、もう全て投げてしまったのです」
「仕方がない……」
……どうやら、全てかわし切ったみたいだ。
あっという間に攻撃が終ったことに安堵して、俺が再び座椅子に座ろうとすると。
今度は同じ様に障子をすり抜けて、今度はゆっくりと二つの物体が部屋に入って来る。
「あれは……」
目を凝らせば、その正体はすぐに明らかになる。あれは、蓬さんが折っていた、折り紙の龍。
突然の出来事に、呆気に取られていると――。
「いてっ!」
青の龍の長い尻尾に、頬をぴしっと引っぱたかれた。同時に、赤の龍ががじっと腕に噛みついてきて。
……ちょっとだけ、痛い。所詮紙とはいえ、無視できない位には地味に痛い。
だけど、そんなことも気にせずに、折り紙の龍は二頭の龍は頭突きをしたり、引っ掻いてきたりと言う地味な妨害を加えてくる。
「小癪な……!」
手を振り回すけれど、龍はするっとそれをかわして、中々捕まえることができない。
「効いてる効いてるのです!」
「効果てきめん」
障子の向こうからは楽しそうな子狐達の声。
恐らく、皿洗いのご褒美として蓬さんから貰った龍に、子狐達が妖しげな術を掛けて、俺を攻撃する様に操っているんだろう。分かってはいる、分かってはいるけれど、思った以上に厄介だな……!
このままだと、いつまで経っても終わらない。ちゃんと考えてから、捕まえよう。
俺はまず、二頭を同時に追うのを止めて、赤の龍からの攻撃は我慢する。
それから、青の龍の動きだけを目で追って――。
「――よしっ!」
再びビンタをかまそうとしてきた青の龍の尻尾を掴んだ。残りは、赤の龍のみ。
「あっ……しまった」
「ちょっとマズいのです!」
すると、操り主の子狐達が動揺したからか、赤の龍も一瞬だけ動きが固まって……。
「こっちも捕まえた!」
その隙を突いて俺は、赤の龍の腹を掴む。それから速攻でタンスの下から二番目を開け、二頭一緒に中に突っ込んで、再びすぐに閉ざした。
少しの間、タンスからはカタカタという小さな音がしたけれど――やがて術が解けたのか、ぴたりと何も聞こえなくなって。
恐る恐る、再び取り出して確認してみれば。二頭の龍は何の変哲もない、動かない元の折り紙へと戻っていた。
ようやく、大人しくなったか? と、思いながら障子に映る影を見れば。
「龍がやられてしまったのですか……まあ、仕方がないのです」
「次の手段を打つのみ」
……どうやら子狐達は、まだ満足していないらしい。
というか最早復讐と言う名目すら忘れて、ただ単に俺を驚かせることを楽しんでいるみたいだった。
確かに、遊ぶのは結構なことだが……付き合わされる俺の方はたまったもんじゃない。
流石にもう、このままやられっぱなしでもいられない。快適な休日を取り戻すためには、こっちの方も対抗策を講じるのみだ。
争いが更に争いを、復習が更なる復讐を呼ぶという悪循環に完全に陥っているけれど……それは一旦、置いといて。俺はもっふるさんに栞をはさんで、考える。
……あいつらが怖がりだって言うことは、これまでの経験上何となく察している。
ついさっきまでは、幽霊の話で怖がらせたら悪い――とか思っていたけれど。
もう完璧に気分が変わっている。こうなれば、驚かすのが一番手っ取り早いな、うん。
だけど、部屋から出てきて追い掛け回したりするんじゃ単調だし、何よりその可能性は向こうにも十分に読まれているだろう。それに、部屋から出たらその時点であいつらに屈したことになる、という妙な意地が心の中で働いてしまっていた。
――ここから一歩も出ないで、子狐達にしっぺ返しを喰らわせられる、手段。
何かヒントは無いか? 改めてもう一度部屋の中を見回してみれば。
すぐに目に止まったのは、やっぱり本棚だった。
俺はその中の、ある一冊の本をそっと抜き出して、ぱらぱらとめくって中身を確認する。
「これは……」
……よし。これを使ってみるか……。
0
あなたにおすすめの小説
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
『異世界味噌料理人』〜腹を満たす一杯から、世界は動き出す〜
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
事故をきっかけに異世界へ転移した料理人タクミ。流れ着いた小さな村で彼が目にしたのは、味も栄養も足りない貧しい食事だった。
「腹が満ちれば、人は少しだけ前を向ける。」
その思いから、タクミは炊事場を手伝い、わずかな工夫で村の食卓を変えていく。やがて彼は、失われた発酵技術――味噌づくりをこの世界で再現することに成功する。
だが、保存が利き人々を救うその技術は、国家・商人・教会までも動かす“戦略食料”でもあった。
これは、一杯の料理から始まる、食と継承の長編異世界物語。
【更新予定】
現在ストックがありますので、しばらくの間は毎日21時更新予定です。
応援いただけると更新ペースが上がるかも?笑
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる