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第一章 無能令息と最強王子
<6>ベリンガム帝国へ2
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馬車は内装も白と水色で統一されていた。水色のビロードの張られた座席はふかふかで、さらにたくさんの白と水色のクッションも置いてある。
中は広く寝台までついており、そのうえ作りつけのテーブルには温かい紅茶が置かれていた。
「こんな豪華な馬車、初めて乗りました!」
リアムは感動した様子で車内を見回している。俺は靴を脱いでクッションのひとつを枕にして座席にゴロリと寝そべった。
「ちょっ、エリス様! 行儀が悪いですよ」
「いいだろ別に。どうせ着くまで誰も入って来やしねえよ。ていうかおまえさ、本当に良かったのかよ」
「何がです?」
「俺と一緒にベリンガムに行くことだよ。もうアイルズベリーに帰ってこれねえかもしれないんだぞ」
リアムは俺の乳兄弟で従者というだけでわが家でも雑な扱いを受けていた。他の使用人たちからもバカにされたり嫌がらせをされることも多かった。
「俺がベリンガムに嫁いだら、おまえも自由の身になるのに」
リアムは一瞬きょとんとした表情になったが、すぐに得意げに胸を張った。
「いえ! 俺は人生をエリス様に捧げると決めているので! 地獄の果てまで付いて行く所存です!!」
「は?」
「子どものころ、俺が午後のティータイム用のお菓子を盗み食いしたって疑いをかけられたことがあったじゃないですか。あの時、エリス様だけが俺を信じて庇ってくれましたよね。あの瞬間に決めたんです。俺は一生エリス様に付いて行くって」
「おまえさ、たったそれだけで人生決めんなよ。人は誰しも、他人に迷惑かけなきゃ自分が好きなように生きていいんだから」
「それならやっぱりエリス様に付いて行きます!!」
「声でか……わかったわかった」
リアムは思い込んだら一直線なところがある。それが良さでもあるが、今この馬車の中で考えを変えさせるのはまず無理だろう。
(まあ、あっちでの生活が一段落してからまた話せばいっか)
「けど怖くないのか? ベリンガム帝国って謎に包まれてるっていうか、あんまり他国に情報が出てないだろ」
「そうですね。俺も少し事前に調べようと思ったんですが、あまり情報が得られませんでした。特にレヴィ様の素顔を見たことがある方は他国では一人もいないとか」
「そうなのか?」
エリスは事前にベリンガムのことを調べている様子はなかった。俺の知識も23年前で止まている。レヴィが仮面を被っているところなんて見たことがない。
「はい。レヴィ様は公的な場でも戦場でも常にマスクをしていらっしゃるそうですよ。噂では大変醜い容貌をされており、それを隠すためとか――」
「いや、それはない」
言ってしまってからハッとする。当然リアムは驚いた顔になる。
「なぜご存知なのですか?」
「い、いや……そんな気がしただけだ。勘だよ、勘!」
「はあ」
まだ訝しげな視線を寄越すリアムの気を逸らすために、食いつきそうな話題を探す。
「そ、そういえばベリンガム帝国の名物料理ってどんなんだろうな。楽しみだな!」
とにかく食べることが大好きなリアムはすぐに目の色を変えた。
「はい! あいにくそいういった食べ物についての情報はまったく出てこなかったので……ですがベリンガムは大国ですからきっと美味しい名物がたくさんあるのではないでしょうか?」
「ああ。きっと美味いものはたくさんある。楽しみにしておけ」
豊かな土壌を持つベリンガム帝国はさまざまな食材の宝庫で、王都は特に国中のうまいものが集まっている。
それから帝国につくまで、リアムと二人であれこれとくだらないけれど楽しい話を繰り広げたのだった。
まさかたった二十数年の間にレヴィも帝国も激変しているとは知らずに。
中は広く寝台までついており、そのうえ作りつけのテーブルには温かい紅茶が置かれていた。
「こんな豪華な馬車、初めて乗りました!」
リアムは感動した様子で車内を見回している。俺は靴を脱いでクッションのひとつを枕にして座席にゴロリと寝そべった。
「ちょっ、エリス様! 行儀が悪いですよ」
「いいだろ別に。どうせ着くまで誰も入って来やしねえよ。ていうかおまえさ、本当に良かったのかよ」
「何がです?」
「俺と一緒にベリンガムに行くことだよ。もうアイルズベリーに帰ってこれねえかもしれないんだぞ」
リアムは俺の乳兄弟で従者というだけでわが家でも雑な扱いを受けていた。他の使用人たちからもバカにされたり嫌がらせをされることも多かった。
「俺がベリンガムに嫁いだら、おまえも自由の身になるのに」
リアムは一瞬きょとんとした表情になったが、すぐに得意げに胸を張った。
「いえ! 俺は人生をエリス様に捧げると決めているので! 地獄の果てまで付いて行く所存です!!」
「は?」
「子どものころ、俺が午後のティータイム用のお菓子を盗み食いしたって疑いをかけられたことがあったじゃないですか。あの時、エリス様だけが俺を信じて庇ってくれましたよね。あの瞬間に決めたんです。俺は一生エリス様に付いて行くって」
「おまえさ、たったそれだけで人生決めんなよ。人は誰しも、他人に迷惑かけなきゃ自分が好きなように生きていいんだから」
「それならやっぱりエリス様に付いて行きます!!」
「声でか……わかったわかった」
リアムは思い込んだら一直線なところがある。それが良さでもあるが、今この馬車の中で考えを変えさせるのはまず無理だろう。
(まあ、あっちでの生活が一段落してからまた話せばいっか)
「けど怖くないのか? ベリンガム帝国って謎に包まれてるっていうか、あんまり他国に情報が出てないだろ」
「そうですね。俺も少し事前に調べようと思ったんですが、あまり情報が得られませんでした。特にレヴィ様の素顔を見たことがある方は他国では一人もいないとか」
「そうなのか?」
エリスは事前にベリンガムのことを調べている様子はなかった。俺の知識も23年前で止まている。レヴィが仮面を被っているところなんて見たことがない。
「はい。レヴィ様は公的な場でも戦場でも常にマスクをしていらっしゃるそうですよ。噂では大変醜い容貌をされており、それを隠すためとか――」
「いや、それはない」
言ってしまってからハッとする。当然リアムは驚いた顔になる。
「なぜご存知なのですか?」
「い、いや……そんな気がしただけだ。勘だよ、勘!」
「はあ」
まだ訝しげな視線を寄越すリアムの気を逸らすために、食いつきそうな話題を探す。
「そ、そういえばベリンガム帝国の名物料理ってどんなんだろうな。楽しみだな!」
とにかく食べることが大好きなリアムはすぐに目の色を変えた。
「はい! あいにくそいういった食べ物についての情報はまったく出てこなかったので……ですがベリンガムは大国ですからきっと美味しい名物がたくさんあるのではないでしょうか?」
「ああ。きっと美味いものはたくさんある。楽しみにしておけ」
豊かな土壌を持つベリンガム帝国はさまざまな食材の宝庫で、王都は特に国中のうまいものが集まっている。
それから帝国につくまで、リアムと二人であれこれとくだらないけれど楽しい話を繰り広げたのだった。
まさかたった二十数年の間にレヴィも帝国も激変しているとは知らずに。
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