魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第二章 氷狼騎士団長の秘密

<6>ヴァンダービルトの秘密

「長くなるから、飲み物があったほうがいいね」
レヴィが指を鳴らすとティーテーブルの上に黒いタンブラーが2つと、やはり黒いお皿に載せられた小さな焼菓子が現れた。

タンブラーからはキラキラ輝く湯気が立っている。レヴィはテーブルからタンブラーを取って手渡してくる。

「どうぞ。べリンガムの名物、銀のお茶とフローライトのパイ」
「ありがとうございます」

銀のお茶の匂いが懐かしくて、胸いっぱいに吸い込む。多種多様の鉱山に恵まれたベリンガムには、むかしから鉱石を食用に加工する技術が発達している。

銀のお茶とフローライトのパイは、建国の始祖、初代ベリンガム帝国の国王であるガレス・ベリンガムが開発したと言われている伝統的な食物だ。

躊躇うことなくお菓子を食べ始めた俺にレヴィは少し驚いた表情になる。
「きみ、変わってるね。この国の意外は、鉱石でできた食べ物なんて気味悪がる人の方が
多いのに」

(しまった。懐かしさでつい喜んで食べてしまった)

「……夕食、食べ損ねてしまったので」
「ああ、そういうこと」

我ながら雑なごまかし方だと思ったが、レヴィはあっさり信じてくれたようだった。
「じゃあ本題。さっきキスするまで、僕は子どもの姿をしてたでしょ?」
俺は無言で首を縦に振る。

「ヴァンダービルト家を継いだ者には呪いがかかるんだ。例外なく、全ての者にね。いつからなのかはわからない。もう何百年も続いているってだけ聞いてる。とても古くて強い呪いだよ。その呪いにかかると、爵位を継いだ年齢の姿のまま、生きていかなければならないんだ」

「……不老不死、ということでしょうか」
「うーん。ちょっと違うかな。不老だけど不死ではない。だから普通に死ぬ。実際、先代も死んでるし。この呪いについて知っているのは王の直系の一族とヴァンダービルト家に代々仕えている腹心の一族だけなんだ」

レヴィはそこで言葉を区切ると、銀のお茶を一口飲んだ。
「ベリンガムの高位貴族たちはもちろん、国民も知らない。ていうか、気づいてない。なんでだと思う?」

「わかんないです」
即座に答えると、レヴィは少しつまらなそうな顔になる。
「少しは考えてよ。まあ時間ももったいないしいいけど。彼らが気づかないのはね、ある条件が整えば一時的に実年齢の容姿に変化することができるからだよ」

「あ、それで先ほど――」
「そう。そういうこと。飲み込みが早くて助かるよ」

「ヴァンダービルトにかけられた呪いは、癒しの力を持った者との交わりによって一時的に解呪されるんだ。だから代々、癒しの力を持つオメガを探して結婚してるってわけ」
「そうだったのですね」

そんな話、全く知らなかった。
「きみも知ってのとおり、癒しの魔力は超レアだからね。なかなか見つからないときもある。僕もこの年まで見つからなくてさ、さすがにヤバいと思ってたんだけどやっと君が見つかって命拾いしたよ」

そうなのだ。癒しの魔力を持つ家系といっても、魔力量には個人差がある。父はせいぜいかすり傷を治すくらいの力しか本当はない。兄も同じだ。

だが、父は神官に大量の賄賂を定期的に渡すことで、ラムズデール家の直系には全員が素晴らしい魔力量を持っているという嘘の宣言をさせていた。だから俺も対外的には膨大な魔力量を持っていることにされている。まあ俺の場合は本当なんだけど。

ふと疑問が湧いて、訊ねてみる。
「レヴィ様のご即位はたしか17歳でしたよね? 今まではどうして……じゃない、どうなさっていたのですか」

「仮面を被ってるからね。僕の素顔を知っているのは呪いについても知っている人間だけだから」
「ですが、体格も年齢によって変わりますよね。身長も」
私の質問にレヴィは音の出そうな勢いでウインクを決める。

「そう。そうなんだけど、僕ってすごい魔力が強くてさ。これまでのヴァンダービルト公爵の中でも歴代最強って言われてんの。だから数日なら自力でも本当の姿を保っていられるんだよね。でも、魔力量の消費がすごいから長期の戦争になるとちょっとやっかいでさ。でも癒しの力と交われば、1ヶ月はこの姿を保てるって言われてる」

「あの、交わるというのは…先ほどの……アレ、でしょうか」
声が尻すぼみになってしまう。驚きすぎて忘れていたが今世でも前世でもファーストキスだった、一応。

思い出して顔がじわじわと熱を持つ。気付かれなくなくて、視線を床に移した。
「そう。ていうか純粋ぶらなくてもいいよ。調べはついてるから」
「……え?」

まさか、すでに俺の正体は把握済みということなのだろうか。こんな短期間でそんなことがあり得るのだろうか。

だが昔からベリンガム帝国は近隣諸国にたくさんのスパイを潜入させている。ないとは言い切れない。心臓が嫌な音を立て背筋を冷や汗が一筋、流れていく。

動揺を見逃すまいとするように美しい青い瞳が俺のことをスキャンするようにじっと見た。
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