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第二章 氷狼騎士団長の秘密
<8>塩対応
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「ごめん。話の途中だったね」
呆然とする俺のことなど気づきもせずにレヴィは話を続ける。
「ちなみに僕のためにきみを一生縛りつけておくなんてことも考えてないよ。僕、優しいから」
「はあ」
「即位してからずっと、他人の力なんか借りずにこの呪いを解呪できる薬を作る実験をしてるんだ。けっこういい線まできてるから、近いうちに完成すると思う」
「すごい! ……ですね」
さすがレヴィだ。俺も魔法薬草学は好きだったが、レヴィもよく俺の実験を興味深そうに眺めていたことを思い出す。ちょっとおかしなところはあるが、弟子の成長は素直に嬉しい。
「まあね。自分で言うのもなんだけど、僕にできないことはない。だからきみにはあと数年だけ、癒しの力を貸してほしいんだ。完全に解呪できたら国に返してあげる。だからその後は本命と再婚でもなんでもすればいいよ。離婚理由もあっちの王サマや公爵たちに怒られないように、きみに否がないものをちゃんと考えてあげるから」
「ありがとうございます」
正直、家に戻れるのが嬉しいかと言われればまったく嬉しくない。また使用人のような扱いや虐めを受けるに決まっている。
(ああ、でも帰ったら魔力を見せつければ、あいつらも黙るか。それだけじゃ心許ない気もするな。ベリンガムにいる間に、何か金を稼ぐ方法でも考えるか)
自分の未来に頭を巡らせていると、レヴィが言葉を続ける。
「僕は戦場に出向いていることも多いから、一緒にいる時間もそんなに多くはないよ。だからきみも普段は好きに暮らしてね。欲しいものとか、やりたいことがあれば使用にたちに言って。僕に干渉したり迷惑をかけないこと――お金で解決できることなら、基本的にはなんでもしてあげる。どう? 悪くない条件でしょ」
「ですね」
「ただし、離婚して国に戻ってもヴァンダービルトの秘密は誰にもしゃべってはいけないよ」
「え?」
穏やかだが冷たい声の方に視線を向けると、鮮やかな青が楽しそうに煌めいた。
「もし国に帰って誰かにこの秘密を話したら――君のこと、殺しちゃうからね」
「……はい」
「じゃあそういうことで。契約成立だね。よろしく、ええと……なんだけっけ、きみの名前」
「エリスだ……じゃなくて、です」
「そうそうエリス! ごめんね。僕って興味のないこととか必要ないことって全然覚えられなくって。それときみ、敬語苦手でしょ? いちいち言い直すのウザいから、もう敬語使わなくていいからね
」
てへという仕草でウインクをしてくる。超絶可愛らしいが、言っていることはまったく可愛くない。
(要は俺の名前を覚えることは必要ないってことだろ……なんだコイツ)
昔はこんな子どもだったろうか。もっと素直で優しい性格だった気がする。うーんと唸りながら首を傾げていると、再びレヴィの声が飛んできた。
「ねえ。いつまでいる気? そろそろ帰ってほしいんだけど」
「は?」
「話は終わったし、用事も済んだ。僕、明日にはまた戦場に戻るから少し休みたいんだよね。帰ってくる時期がわかったらマークにでも連絡しとくから。じゃ」
レヴィはしっしと追い払うような仕草をすると、立ち上がって部屋の奥の方へ歩いていく。
赤い扉を開けて別の部屋入ってしまうと開け放された中から声だけが聞こえた。
「ベッドの近くに魔法陣があるでしょ? 上に乗ればきみの部屋に帰れるから。僕が着替えてる間に帰ってよ」
「わかった。じゃあ」
聞こえるように少し大きな声で返事をすると、俺は魔法陣を踏み自室へと戻った。
呆然とする俺のことなど気づきもせずにレヴィは話を続ける。
「ちなみに僕のためにきみを一生縛りつけておくなんてことも考えてないよ。僕、優しいから」
「はあ」
「即位してからずっと、他人の力なんか借りずにこの呪いを解呪できる薬を作る実験をしてるんだ。けっこういい線まできてるから、近いうちに完成すると思う」
「すごい! ……ですね」
さすがレヴィだ。俺も魔法薬草学は好きだったが、レヴィもよく俺の実験を興味深そうに眺めていたことを思い出す。ちょっとおかしなところはあるが、弟子の成長は素直に嬉しい。
「まあね。自分で言うのもなんだけど、僕にできないことはない。だからきみにはあと数年だけ、癒しの力を貸してほしいんだ。完全に解呪できたら国に返してあげる。だからその後は本命と再婚でもなんでもすればいいよ。離婚理由もあっちの王サマや公爵たちに怒られないように、きみに否がないものをちゃんと考えてあげるから」
「ありがとうございます」
正直、家に戻れるのが嬉しいかと言われればまったく嬉しくない。また使用人のような扱いや虐めを受けるに決まっている。
(ああ、でも帰ったら魔力を見せつければ、あいつらも黙るか。それだけじゃ心許ない気もするな。ベリンガムにいる間に、何か金を稼ぐ方法でも考えるか)
自分の未来に頭を巡らせていると、レヴィが言葉を続ける。
「僕は戦場に出向いていることも多いから、一緒にいる時間もそんなに多くはないよ。だからきみも普段は好きに暮らしてね。欲しいものとか、やりたいことがあれば使用にたちに言って。僕に干渉したり迷惑をかけないこと――お金で解決できることなら、基本的にはなんでもしてあげる。どう? 悪くない条件でしょ」
「ですね」
「ただし、離婚して国に戻ってもヴァンダービルトの秘密は誰にもしゃべってはいけないよ」
「え?」
穏やかだが冷たい声の方に視線を向けると、鮮やかな青が楽しそうに煌めいた。
「もし国に帰って誰かにこの秘密を話したら――君のこと、殺しちゃうからね」
「……はい」
「じゃあそういうことで。契約成立だね。よろしく、ええと……なんだけっけ、きみの名前」
「エリスだ……じゃなくて、です」
「そうそうエリス! ごめんね。僕って興味のないこととか必要ないことって全然覚えられなくって。それときみ、敬語苦手でしょ? いちいち言い直すのウザいから、もう敬語使わなくていいからね
」
てへという仕草でウインクをしてくる。超絶可愛らしいが、言っていることはまったく可愛くない。
(要は俺の名前を覚えることは必要ないってことだろ……なんだコイツ)
昔はこんな子どもだったろうか。もっと素直で優しい性格だった気がする。うーんと唸りながら首を傾げていると、再びレヴィの声が飛んできた。
「ねえ。いつまでいる気? そろそろ帰ってほしいんだけど」
「は?」
「話は終わったし、用事も済んだ。僕、明日にはまた戦場に戻るから少し休みたいんだよね。帰ってくる時期がわかったらマークにでも連絡しとくから。じゃ」
レヴィはしっしと追い払うような仕草をすると、立ち上がって部屋の奥の方へ歩いていく。
赤い扉を開けて別の部屋入ってしまうと開け放された中から声だけが聞こえた。
「ベッドの近くに魔法陣があるでしょ? 上に乗ればきみの部屋に帰れるから。僕が着替えてる間に帰ってよ」
「わかった。じゃあ」
聞こえるように少し大きな声で返事をすると、俺は魔法陣を踏み自室へと戻った。
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