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第三章 ベリンガム帝国の異変
<4>解けた誤解
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あらかたの資料を読み終わった頃には、窓の外は夕闇に包まれていた。
「おいリアム、起きろ」
閲覧室のソファに寝そべって、ほぼ爆睡していたリアムの脇腹に肘鉄を食らわす。
「はっ! すみません! もしかして俺、ずっと寝てました!?」
飛び上がるようにして起きたリアムに生暖かい視線を送る。
「ああ。そりゃもうぐっすりとな」
「すみません!」
「いいよ。どうせやることもなくて暇だっただろうし。それにしても寝すぎだけどな」
「すっすみません!!」
リアムをからかって遊んでいると、シェーンが戻ってくる。
「調べものはお済になりしたか?」
「ああ。あらかた終わった。だが何冊か新しく本を借りていきたいんだが」
「もちろんです」
本を持ってきた袋に詰め込んで、馬車に乗り込む。
「本当は街の様子も見てみたかったんだが。こんな時間だし今日はもうやめておいた方がいいな」
「ええ。夜は人気もさらに少ないですし、少し危険かもしれません。お夕食はどうなさいますか?」
「レヴィ、様はまだ帰ってこないんだろ? 一人であの大きなダイニングで食べるのも味気ないし、問題なければ部屋に持ってきてもらえないか。できれば、リアムの分も」
「かしこまりました」
そこで会話は途切れ、馬車の中には沈黙が下りる。俺は借りてきた本を開いて読みだした。
しばらく夢中になって読んでいると、正面に座るシェーンが話しかけてきた。
「エリス様……なぜあのような粗末なご衣裳しか持っていらっしゃらなかったのです?」
「ん? ああ、今朝の話か」
地味にずっと気になっていたのだろう。シェーンは頷く。
「俺、魔法使えるのはシェーンも知ってるよな」
「ええ。図書館でも拝見しました浮遊術の扱いも完璧ですし、その他にも小さな魔法をいくつも使っていらっしゃいましたね」
「そう。そうなんだけど、なんでか魔力量とバース性の審査のときに神官が間違えちゃったみたいで。俺、その時に魔力量はゼロに近いって言われたんだよ」
シェーンは目を見開いた。
「こんなに魔法を扱えるのにですか……」
使える魔法の種類は、魔力量に比例する。俺が今日使った魔法の数は、それだけでも膨大な魔力量がなければ操ることができないのだ。
「そう。でも、その間違った審査結果を聞いて、うちの親――ラムズデール公爵と公爵夫人が失望したんだ、すごく。で、俺はその日から息子から使用人に格下げされたんだよ。ここに嫁にくる直前まで」
「そう、だったのですね……」
「ああ。だから、わざわざあの服を持ってきたっていうか本当にあれしか持ってなかったんだよ。でもまだ着られるし、捨てるのはもったいないからまだ取っておくけど」
シェーンは無言でこっちをじっと見ていたが、やがて頭を下げた。
「申し訳ございません……エリス様のことを勘違いしておりました。ご婚姻が決まった際、ヴァンダービルトには事実とは違う情報が流れていたようです」
「もしかして、俺が色んな貴族の女性と遊んだり娼館に通ったりしてるって話か」
「なぜそれを……」
「レヴィ様にも言われたから。なんの話してんだろって思ったけど、そういうことか。女遊びが激しいのは公爵と俺の兄貴だよ」
「そうですっ! エリス様は朝から晩まで毎日働かされていたんです。そんなお金のかかる遊びを公爵様方がエリス様にお許しになるはずありません!」
リアムが力いっぱい加勢してくれる。なんだかフォローされてる気がしないけど。
「リアム、ありがとな」
シェーンは再び深く頭を下げた。
「誤った情報を鵜呑みにした私のご無礼の数々、どうかお許しください
「いいから、頭を上げてくれ。もう済んだことだし、他国の情報が間違って伝わるなんてよくあることだろ」
「エリス様……」
顔を上げたシェーンはなぜか顔を赤らめて、目を潤ませている。
「このシェーン・リンチ、エリス様に精一杯お仕えさせていただきます!!」
突然、馬車が吹っ飛ぶんじゃないかというほどの声量で宣言され、俺もリアムも固まってしまう。
だがシェーンは興奮気味に、素晴らしい方に巡り合うことができて幸せですとかヴァンダービルトに相応しい奥様だと騒いでいた。
「おいリアム、起きろ」
閲覧室のソファに寝そべって、ほぼ爆睡していたリアムの脇腹に肘鉄を食らわす。
「はっ! すみません! もしかして俺、ずっと寝てました!?」
飛び上がるようにして起きたリアムに生暖かい視線を送る。
「ああ。そりゃもうぐっすりとな」
「すみません!」
「いいよ。どうせやることもなくて暇だっただろうし。それにしても寝すぎだけどな」
「すっすみません!!」
リアムをからかって遊んでいると、シェーンが戻ってくる。
「調べものはお済になりしたか?」
「ああ。あらかた終わった。だが何冊か新しく本を借りていきたいんだが」
「もちろんです」
本を持ってきた袋に詰め込んで、馬車に乗り込む。
「本当は街の様子も見てみたかったんだが。こんな時間だし今日はもうやめておいた方がいいな」
「ええ。夜は人気もさらに少ないですし、少し危険かもしれません。お夕食はどうなさいますか?」
「レヴィ、様はまだ帰ってこないんだろ? 一人であの大きなダイニングで食べるのも味気ないし、問題なければ部屋に持ってきてもらえないか。できれば、リアムの分も」
「かしこまりました」
そこで会話は途切れ、馬車の中には沈黙が下りる。俺は借りてきた本を開いて読みだした。
しばらく夢中になって読んでいると、正面に座るシェーンが話しかけてきた。
「エリス様……なぜあのような粗末なご衣裳しか持っていらっしゃらなかったのです?」
「ん? ああ、今朝の話か」
地味にずっと気になっていたのだろう。シェーンは頷く。
「俺、魔法使えるのはシェーンも知ってるよな」
「ええ。図書館でも拝見しました浮遊術の扱いも完璧ですし、その他にも小さな魔法をいくつも使っていらっしゃいましたね」
「そう。そうなんだけど、なんでか魔力量とバース性の審査のときに神官が間違えちゃったみたいで。俺、その時に魔力量はゼロに近いって言われたんだよ」
シェーンは目を見開いた。
「こんなに魔法を扱えるのにですか……」
使える魔法の種類は、魔力量に比例する。俺が今日使った魔法の数は、それだけでも膨大な魔力量がなければ操ることができないのだ。
「そう。でも、その間違った審査結果を聞いて、うちの親――ラムズデール公爵と公爵夫人が失望したんだ、すごく。で、俺はその日から息子から使用人に格下げされたんだよ。ここに嫁にくる直前まで」
「そう、だったのですね……」
「ああ。だから、わざわざあの服を持ってきたっていうか本当にあれしか持ってなかったんだよ。でもまだ着られるし、捨てるのはもったいないからまだ取っておくけど」
シェーンは無言でこっちをじっと見ていたが、やがて頭を下げた。
「申し訳ございません……エリス様のことを勘違いしておりました。ご婚姻が決まった際、ヴァンダービルトには事実とは違う情報が流れていたようです」
「もしかして、俺が色んな貴族の女性と遊んだり娼館に通ったりしてるって話か」
「なぜそれを……」
「レヴィ様にも言われたから。なんの話してんだろって思ったけど、そういうことか。女遊びが激しいのは公爵と俺の兄貴だよ」
「そうですっ! エリス様は朝から晩まで毎日働かされていたんです。そんなお金のかかる遊びを公爵様方がエリス様にお許しになるはずありません!」
リアムが力いっぱい加勢してくれる。なんだかフォローされてる気がしないけど。
「リアム、ありがとな」
シェーンは再び深く頭を下げた。
「誤った情報を鵜呑みにした私のご無礼の数々、どうかお許しください
「いいから、頭を上げてくれ。もう済んだことだし、他国の情報が間違って伝わるなんてよくあることだろ」
「エリス様……」
顔を上げたシェーンはなぜか顔を赤らめて、目を潤ませている。
「このシェーン・リンチ、エリス様に精一杯お仕えさせていただきます!!」
突然、馬車が吹っ飛ぶんじゃないかというほどの声量で宣言され、俺もリアムも固まってしまう。
だがシェーンは興奮気味に、素晴らしい方に巡り合うことができて幸せですとかヴァンダービルトに相応しい奥様だと騒いでいた。
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