38 / 85
第四章 レヴィの想い
<4>アラン様と僕4※レヴィ視点
「アラン様!! 止まりましょう!! 血がこんなに……っ」
けれどアラン様は首を横に振った。
「だめだ。俺がケガしたなんてわかったら皆が動揺する。せっかく勝ったんだ。このまま帰る。大丈夫だ、帰ったらすぐ横になる」
「でも……」
「いいから。けど、ちょっとしんどいから肩貸してくれるか」
「……っ、はい!」
しばらく走って辿り着いた基地で馬ごと魔法陣に乗る。城内に戻った瞬間、耳元でアラン様が呟いた。
「よかった、かえって、これ……た」
「アラン様?」
横を向くと青ざめた顔と血の気のない唇が目に入る。僕は素早くアラン様を抱えるようにして馬から飛び降りた。
重力操作で軽くしたアラン様の体を姫抱きにした瞬間、僕は絶句した。上半身にざっくりと斜めに入った裂傷から、とめどなく血が流れている。子どもでもわかるほどの深い傷だった。
「アラン様っ!! アラン様っ!!」
泣き叫ぶ僕にアラン様が薄く目を開ける。小刻みに触れる片手がゆっくりと動き、いつものように僕の頬を引っ張った。けれど指先は氷のように冷たく、力はとても弱い。
「だい、じょうぶ、だから……ちょっとやすめば、よくなる……、から……」
ダメだ、このまま目を閉じたらアラン様は死んでしまう。
頭が真っ白になり、涙だけが溢れていく。見ためが少し大きくても所詮は10歳の子どもだ。
「い、いまっ……人を呼んで、きます、からっ!! だからっ! アラン様っ!! お願い、僕を置いていかないで……っ!!」
「いい、どうせ、すぐ来る。気配で……わかる、だろ……それ、より俺を……ひとりに、するな……よ」
アラン様の唇が弧を描く。その端から真っ赤な血が少しずつ垂れていく。
「だめ、だめです……! 一緒に……ずっと、一緒にいます、から……っ! だから……っ!!」
死なないでください、という言葉を口にすることはできなかった。その言葉を口にしたら、本当になるような気がして怖かった。
泣きじゃくることしたできない僕に、アラン様はいつもみたいに片眉を下げて困ったように笑う。
「しかな、ねえな……レ、ヴィは……っ、おとこ、が……かんたん、に、なく…な」
僕の目元をなんどかそっと拭ってくれたアラン様の白く美しい手からは、その後すぐにがっくりと力が抜ける。
「すこ、し……やすむ……なく、なよ……レヴィ……」
それが、僕がアラン様と交わした最後の言葉だった。
その後のことはよく覚えていない。駆けつけた救護部隊が僕の腕の中からアラン様を連れ去った後、その場で気を失ってしまったのだ。
気がついたら自室ベッドの上にいた。勝手に騎士団に紛れて戦いに参加したことには大目玉を食らったが、それ以上に皆に褒められた。
最期にアラン様少しの時間だけ意識を取り戻したという。「レヴィが支えてくれなかったら、戦地で死んでいた」と言っていたそうだ。わざわざ国王陛下と王妃様まで、僕の部屋を訊ねてくださった。
俺のせいだと言っても、二人は取り合ってはくれなかった。それどころかありがとうという言葉まで頂いた。王妃様は「私に強い癒しの力があれば救えたのに。私のせいよ」と静かに泣いていた。
結局レヴィ様は死ぬまで僕を守ってくれたのだ。
僕が皆に責められないように、憎まれないように。
すべては僕が無知で弱かったからだ。
剣術も、魔術も、人を見る目も養われていないから。だからウィンダミア王をただの老人と見誤った僕を庇って誰よりも尊敬してやまない、愛する人は亡くなってしまった。
だからアラン様を殺したのは僕だ。僕のせいだ。本当は今すぐにでも後を追ってしまいたい。ウィンダミア王の後を追って死んだ、あの騎士のように。
けれどこの命はアラン様が守ってくれたものだ。だから僕の命は僕自身のものではなく、アラン様のもの。後を追ってもきっと喜んでもらえない。
アラン様はベリンガム帝国を今よりもっと繁栄さえて、国民を守りたいといつもおっしゃっていた。それならば僕は命尽き果てるまで、アラン様のご意思を継ぐまでだ。
そのためには今よりもずっと強くならなければいけない。
弱さは罪だ。強くなければ大切なものは何一つ守れない。
それから僕は自分のせいだと泣き叫んで喚き散らすのをやめ、より厳しい修行に明け暮れる日々を送ったのだ。
けれどアラン様は首を横に振った。
「だめだ。俺がケガしたなんてわかったら皆が動揺する。せっかく勝ったんだ。このまま帰る。大丈夫だ、帰ったらすぐ横になる」
「でも……」
「いいから。けど、ちょっとしんどいから肩貸してくれるか」
「……っ、はい!」
しばらく走って辿り着いた基地で馬ごと魔法陣に乗る。城内に戻った瞬間、耳元でアラン様が呟いた。
「よかった、かえって、これ……た」
「アラン様?」
横を向くと青ざめた顔と血の気のない唇が目に入る。僕は素早くアラン様を抱えるようにして馬から飛び降りた。
重力操作で軽くしたアラン様の体を姫抱きにした瞬間、僕は絶句した。上半身にざっくりと斜めに入った裂傷から、とめどなく血が流れている。子どもでもわかるほどの深い傷だった。
「アラン様っ!! アラン様っ!!」
泣き叫ぶ僕にアラン様が薄く目を開ける。小刻みに触れる片手がゆっくりと動き、いつものように僕の頬を引っ張った。けれど指先は氷のように冷たく、力はとても弱い。
「だい、じょうぶ、だから……ちょっとやすめば、よくなる……、から……」
ダメだ、このまま目を閉じたらアラン様は死んでしまう。
頭が真っ白になり、涙だけが溢れていく。見ためが少し大きくても所詮は10歳の子どもだ。
「い、いまっ……人を呼んで、きます、からっ!! だからっ! アラン様っ!! お願い、僕を置いていかないで……っ!!」
「いい、どうせ、すぐ来る。気配で……わかる、だろ……それ、より俺を……ひとりに、するな……よ」
アラン様の唇が弧を描く。その端から真っ赤な血が少しずつ垂れていく。
「だめ、だめです……! 一緒に……ずっと、一緒にいます、から……っ! だから……っ!!」
死なないでください、という言葉を口にすることはできなかった。その言葉を口にしたら、本当になるような気がして怖かった。
泣きじゃくることしたできない僕に、アラン様はいつもみたいに片眉を下げて困ったように笑う。
「しかな、ねえな……レ、ヴィは……っ、おとこ、が……かんたん、に、なく…な」
僕の目元をなんどかそっと拭ってくれたアラン様の白く美しい手からは、その後すぐにがっくりと力が抜ける。
「すこ、し……やすむ……なく、なよ……レヴィ……」
それが、僕がアラン様と交わした最後の言葉だった。
その後のことはよく覚えていない。駆けつけた救護部隊が僕の腕の中からアラン様を連れ去った後、その場で気を失ってしまったのだ。
気がついたら自室ベッドの上にいた。勝手に騎士団に紛れて戦いに参加したことには大目玉を食らったが、それ以上に皆に褒められた。
最期にアラン様少しの時間だけ意識を取り戻したという。「レヴィが支えてくれなかったら、戦地で死んでいた」と言っていたそうだ。わざわざ国王陛下と王妃様まで、僕の部屋を訊ねてくださった。
俺のせいだと言っても、二人は取り合ってはくれなかった。それどころかありがとうという言葉まで頂いた。王妃様は「私に強い癒しの力があれば救えたのに。私のせいよ」と静かに泣いていた。
結局レヴィ様は死ぬまで僕を守ってくれたのだ。
僕が皆に責められないように、憎まれないように。
すべては僕が無知で弱かったからだ。
剣術も、魔術も、人を見る目も養われていないから。だからウィンダミア王をただの老人と見誤った僕を庇って誰よりも尊敬してやまない、愛する人は亡くなってしまった。
だからアラン様を殺したのは僕だ。僕のせいだ。本当は今すぐにでも後を追ってしまいたい。ウィンダミア王の後を追って死んだ、あの騎士のように。
けれどこの命はアラン様が守ってくれたものだ。だから僕の命は僕自身のものではなく、アラン様のもの。後を追ってもきっと喜んでもらえない。
アラン様はベリンガム帝国を今よりもっと繁栄さえて、国民を守りたいといつもおっしゃっていた。それならば僕は命尽き果てるまで、アラン様のご意思を継ぐまでだ。
そのためには今よりもずっと強くならなければいけない。
弱さは罪だ。強くなければ大切なものは何一つ守れない。
それから僕は自分のせいだと泣き叫んで喚き散らすのをやめ、より厳しい修行に明け暮れる日々を送ったのだ。
あなたにおすすめの小説
過労で倒れかけの騎士団長を「カツ丼」で救ったら、なぜか溺愛され始めました。
水凪しおん
BL
王都の下町で、亡き両親が残した小さな食堂をたった一人で切り盛りする青年、ルカ。
孤独な日々の中で料理だけを生きがいにする彼の店に、ある冷たい雨の夜、全身を濡らし極限まで疲弊した若き騎士団長、レオンハルトが倒れ込むようにやってきた。
固形物さえ受け付けないほど疲労困憊の彼を救うため、ルカが工夫を凝らして生み出したのは、異世界の食材を組み合わせた黄金色の絶品料理「カツ丼」だった。
その圧倒的な美味しさと温もりに心身ともに救われたレオンハルトは、ルカの料理と彼自身に深く魅了され、足繁く店に通うようになる。
カツ丼の噂はまたたく間に王都の騎士たちや人々の間に広がり、食堂は大繁盛。
しかし、その人気を妬む大商会の悪意ある圧力がルカを襲う。
愛する人の居場所を守るため、レオンハルトは権力を振るって不正を暴き、ルカもまた自らの足で立つために「ルカ商会」を設立する決意を固める。
美味しいご飯が傷ついた心を癒やし、やがて二人の絆を「永遠の伴侶」へと変えていく。
胃袋から始まり、下町の小さな食堂から王都の食を支える大商会へと成り上がる、心温まる異世界お料理&溺愛ファンタジー!
冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない
北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。
ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。
四歳である今はまだ従者ではない。
死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった??
十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。
こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう!
そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!?
クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました
未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。
皆さまありがとうございます。
「ねえ、私だけを見て」
これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。
エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。
「この恋、早く諦めなくちゃ……」
本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。
この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。
番外編。
リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。
――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。