魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第五章 ヴァンダービルトの呪い

<3>過保護が暴走しています1

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「なんだ?」
寝苦しさを感じて目を覚ます。背中がなんだか重苦しい。それに腹のあたりが拘束されている気がする。

首だけ回して後ろを振り返ると、驚くほど近くに眩しいほどに美しい寝顔が迫っていた。
「うおっ」

思わず声に出てしまった。次の瞬間、白銀のまつ毛がふるふると震え、美しいアクアマリンの瞳と視線が合う。

レヴィは信じられないぐらい甘い微笑みを浮かべている。朝からこの眩しさはなんなんだ。
「おはようございます。エリス様」

寝起きの少し掠れた声が色っぽく聞こえて、無駄にドキドキしてしまう。悟られたくなくて前を向く。

「お、おはよう。ていうかあの、なんでこんな体勢になってるんだ」
「僕もよくわからなくて。ごめんなさい。嫌でしたよね?」

背後から聞こえる傷ついたような声に慌てて否定をする。
「そんなことねえよ! ただちょっと……びっくりしただけだ」

「じゃあ、もう少しこうしていても良いですか?」
「は?!」

「僕、むかしから何かにくっついていないと安心して眠れないんです。今までは大きな抱き枕を使っていたんですが……これからもそうします。ごめんなさいエリス様。やっぱりお嫌ですよね?」

レヴィのしょんぼりした悲しそうな声。脊髄反射で否定してしまう自分が憎い。
「だ、だから大丈夫だって! ちょっとびっくりしただけだし!」

「本当ですか? 正直に言って、こんなに気持ちよく安眠できたのは初めてかもしれません。エリス様がお嫌でないなら、毎日こうして眠りたいです……ダメ、でしょうか」
「ダメじゃねえよ。レヴィの安眠のために協力してやる」

ああもう。可愛い元弟子の頼みを跳ねのけることは俺にはできない。いくら大きくなっても、あの頃の面影がチラつくのだ。

「ありがとうございますエリス様。嬉しいです。毎日安眠できれば、もっと仕事も頑張れます」

レヴィはぎゅっと力を込めて背後から俺を抱き締める。密着したレヴィの心音が背中越しに聞こえてきた。つられたのだろうか、俺の鼓動も早くなっている気がする。

「……エリス様」
「ひっ!」

突然耳元で囁かれ、肩が跳ねる。
「まだ起きるには少し早い時間です。もう少しだけ眠りましょう?」
「あ、ああ……」

「おやすみなさい、エリス様」
言うが早いか、レヴィは俺の頭に顎を乗せるようにして寝息を立てはじめた。両腕は腹の辺りに回されて、いつのまにか脚も絡められている。

これでは身動きがとれない。
(こいつが寝たら先に起きようと思ってたんだけどこれじゃ無理だな)
諦めて俺も目を閉じた。

次に目を覚ました時、ベッドにレヴィの姿はなかった。
「……あれ? レヴィ?」

ベッドから抜け出すと、バスルームの方から微かに水音が聞こえてくる。
「シャワーでも浴びてんだな」

今日の予定を考えようとソファに座ると同時に、ガチャリと音がしてバスルームの扉が開いた。振り向くと赤いラインの入った黒いバスローブ姿のレヴィと目が合う。

「エリス様、起きられたのですね。おはようございます」
「あ、お、おはよう」

男同士なんだから恥ずかしがる必要なんてない。だが濡れた髪や上気した頬、それに少し広く開いたバスローブの合わせから覗く逞しい胸からは恐ろしいほどの色気が漂ってくる。

(いやいや! これはもはや凶器だろ!)
人を殺せそうなすさまじい色気。俺は慌てて目を逸らした。

「どうかなさいましたか?」
不思議そうな声とともにレヴィが近づいてくる。やばい、逃げなきゃと立ち上がった時にはもう遅かった。

素早く俺の正面に周り込んできたレヴィが手の甲を頬に手を当てる。
「お顔が赤い……それに少し熱っぽいですね。今日はもう少しお休みになっていた方が良さそうです」
「あ、いや大丈夫――」
おまえの色気に当てられたなんて言いえない。レヴィはあっという間に俺をベッドへ横たえた。

「今日はゆっくりなさってくださいね。僕も今日はできるだけ早く戻ります」
「あ、でも――」
だがレヴィは微笑みだけを残して仕事へ行ってしまった。
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