魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第五章 ヴァンダービルトの呪い

<5>レヴィの猛攻1

昔、まだベンリガム帝国が建国されて間もない頃。地上では神々と人間が共存していた。
人と同じ姿をした神だけではなく、狼など動物の姿をした神も存在したという。

獣の姿をした神――狼神の忠臣に美しい白銀の毛皮と青い瞳を持つ狼がいた。彼はある時、大怪我を負い森で倒れてしまう。

たまたま通りがかった人間の令嬢が、狼を助けた。その令嬢は癒しの魔力を持っていたのだ。彼女のおかげで一命を取り留めた狼は令嬢と交流を持つようになり、やがて恋に落ちる。

だが令嬢に縁談が持ち上がる。
どうしても令嬢と一緒になりたい狼は、月の女神のもとを尋ねた。
月の女神は狼神に恋をしていたのだ。彼らの仲を取り持つことを条件に、狼は強大な魔力を持った美しい人間の男へと姿を変えた。

そうして令嬢と人間になった狼はめでたく結ばれる。
ところが男は人間としての暮らしに夢中になるあまり、女神との約束を忘れてしまう。

怒った女神は、二人に息子が誕生した夜に姿を現した。
そして息子から始まる彼らの子孫に、ある年齢で見た目の成長が止まってしまう呪いをかけという話だ。

「と、まあこんな話です。この国では、恩を忘れると狼のようになってしまうという教訓として語られていますけど」
シェーンの言葉にリアムが呆れ顔で感想を述べる。
「人間になった途端、自分のことしか考えられなくなるなったんだから自業自得ですね」

「たしかにそうだな」
俺も苦笑いをする。

「それにしても今の話に出てきた狼、ちょっとレヴィ様みたいですね。エリス様への執着というか、絶対に自分のものにするっていう――」
ニヤニヤしながら口を開いたリアムが、突然黙る。

「僕が、どうしたって?」
扉のすぐそばにレヴィが立ってた。

「レヴィ!」
呼びかけると綺麗な笑顔を浮かべて近づいてくる。
「エリス様が心配で、爆速で仕事を片付けたらもう終わってしまいました」

「そ、そうか……すごいな」
レヴィはベッド脇に腰を下ろすと、リアムとシェーンに目を向けた。

「おまえたち、仕事に戻っていいよ。リアムはシェーンの仕事を手伝ってあげてくれる? じゃ、一刻も早く出て行って」

二人は逃げるようにして従者用の魔法陣を踏み、部屋から出ていく。
この部屋には魔法陣が2つある。

従者用の魔法陣は、部屋の主人――つまりレヴィか俺のどちらかが入室を許可しないと部屋に繋がらない。

(てことは、今日はこのまましばらく二人っきりってことかよ)
嫌なわけではまったくないが、なんだか気持ちが落ち着かない。
ソワソワしながら隣を見ると、レヴィが嬉々としてベッドの中に入り込んでくる。

「ちょ、おまえ! なんで入ってくんだよ!」
「ええー? これは僕のベッドでもあるんですよ。いいじゃないですか。頑張って働きすぎて少し疲れちゃったんです」

大の男が4~5人は寝られるほど大きなベッドなのに、レヴィはぴったりとくっついてくる。さりげなく離れようとしたのに肩を抱かれて阻止された。

「……こんなに広いんだからもっと有効に使ってもいんじゃないか?」
「僕、寂しがり屋なんです」

「近くにいれば寂しくないだろ。こんなにくっつく必要はないと思うぞ」
「すみませんエリス様。僕が触れるの、やっぱりお嫌なんですよね?」
美しい顔がつらそうに歪められた。

「あ、いやそういうわけじゃ――」
「わがままで申し訳ありません。でも、エリス様にもう一度お会いすることができたから嬉しくて……離れたくないんです。それに、これは夢じゃない、現実なんだって確かめたくて」
「レヴィ……」

俺が一度死んだとき、レヴィがどれだけ嘆き悲しんでいたかは狼神に会う前に両親や弟たちから聞いていた。
自分のことを責めていたことも。だからこんな風に言われると反論できなくなってしまう。

「わかったよ、いいぞ。好きなだけくっついてくれ」
半ばヤケクソに言い放つと、レヴィは途端に瞳を輝かせる。

「ふふ。ありがとうございます。やっぱりエリス様はお優しいです。今も昔も」
言うが早いかレヴィは体の向きを変えて俺を抱き締める。
腰を強く抱かれてさっきよりもずっと密着した体勢になった。

(いやいや、好きなだけくっつけとは確かに言ったけど……やりすぎじゃないか?)
だが言ってしまった手前、何も言えない。
戸惑うことしかできない俺に追い打ちをかけるように、レヴィが耳元で囁く。

「……ねえ、エリス様。今日はあまりにも仕事を頑張りすぎたせいで、魔力がひどく減少してしまったみたいです。すみませんが、今から魔力供給をしていただけなないでしょうか」

「え……い、今から!?」
「お嫌でしょうか……」
胸から顔を上げると、またしてもしょんぼりとしたアクアマリンの瞳を視線が絡む。

「い、嫌じゃない!」
レヴィは嬉しそうに目を細めると、俺の顎に優しく手をかけてもう少しだけ顔を上げさせた。

「嬉しいです。ありがとうございます」
その声とともに、俺は目を閉じた。

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