48 / 85
第五章 ヴァンダービルトの呪い
<5>レヴィの猛攻1
昔、まだベンリガム帝国が建国されて間もない頃。地上では神々と人間が共存していた。
人と同じ姿をした神だけではなく、狼など動物の姿をした神も存在したという。
獣の姿をした神――狼神の忠臣に美しい白銀の毛皮と青い瞳を持つ狼がいた。彼はある時、大怪我を負い森で倒れてしまう。
たまたま通りがかった人間の令嬢が、狼を助けた。その令嬢は癒しの魔力を持っていたのだ。彼女のおかげで一命を取り留めた狼は令嬢と交流を持つようになり、やがて恋に落ちる。
だが令嬢に縁談が持ち上がる。
どうしても令嬢と一緒になりたい狼は、月の女神のもとを尋ねた。
月の女神は狼神に恋をしていたのだ。彼らの仲を取り持つことを条件に、狼は強大な魔力を持った美しい人間の男へと姿を変えた。
そうして令嬢と人間になった狼はめでたく結ばれる。
ところが男は人間としての暮らしに夢中になるあまり、女神との約束を忘れてしまう。
怒った女神は、二人に息子が誕生した夜に姿を現した。
そして息子から始まる彼らの子孫に、ある年齢で見た目の成長が止まってしまう呪いをかけという話だ。
「と、まあこんな話です。この国では、恩を忘れると狼のようになってしまうという教訓として語られていますけど」
シェーンの言葉にリアムが呆れ顔で感想を述べる。
「人間になった途端、自分のことしか考えられなくなるなったんだから自業自得ですね」
「たしかにそうだな」
俺も苦笑いをする。
「それにしても今の話に出てきた狼、ちょっとレヴィ様みたいですね。エリス様への執着というか、絶対に自分のものにするっていう――」
ニヤニヤしながら口を開いたリアムが、突然黙る。
「僕が、どうしたって?」
扉のすぐそばにレヴィが立ってた。
「レヴィ!」
呼びかけると綺麗な笑顔を浮かべて近づいてくる。
「エリス様が心配で、爆速で仕事を片付けたらもう終わってしまいました」
「そ、そうか……すごいな」
レヴィはベッド脇に腰を下ろすと、リアムとシェーンに目を向けた。
「おまえたち、仕事に戻っていいよ。リアムはシェーンの仕事を手伝ってあげてくれる? じゃ、一刻も早く出て行って」
二人は逃げるようにして従者用の魔法陣を踏み、部屋から出ていく。
この部屋には魔法陣が2つある。
従者用の魔法陣は、部屋の主人――つまりレヴィか俺のどちらかが入室を許可しないと部屋に繋がらない。
(てことは、今日はこのまましばらく二人っきりってことかよ)
嫌なわけではまったくないが、なんだか気持ちが落ち着かない。
ソワソワしながら隣を見ると、レヴィが嬉々としてベッドの中に入り込んでくる。
「ちょ、おまえ! なんで入ってくんだよ!」
「ええー? これは僕のベッドでもあるんですよ。いいじゃないですか。頑張って働きすぎて少し疲れちゃったんです」
大の男が4~5人は寝られるほど大きなベッドなのに、レヴィはぴったりとくっついてくる。さりげなく離れようとしたのに肩を抱かれて阻止された。
「……こんなに広いんだからもっと有効に使ってもいんじゃないか?」
「僕、寂しがり屋なんです」
「近くにいれば寂しくないだろ。こんなにくっつく必要はないと思うぞ」
「すみませんエリス様。僕が触れるの、やっぱりお嫌なんですよね?」
美しい顔がつらそうに歪められた。
「あ、いやそういうわけじゃ――」
「わがままで申し訳ありません。でも、エリス様にもう一度お会いすることができたから嬉しくて……離れたくないんです。それに、これは夢じゃない、現実なんだって確かめたくて」
「レヴィ……」
俺が一度死んだとき、レヴィがどれだけ嘆き悲しんでいたかは狼神に会う前に両親や弟たちから聞いていた。
自分のことを責めていたことも。だからこんな風に言われると反論できなくなってしまう。
「わかったよ、いいぞ。好きなだけくっついてくれ」
半ばヤケクソに言い放つと、レヴィは途端に瞳を輝かせる。
「ふふ。ありがとうございます。やっぱりエリス様はお優しいです。今も昔も」
言うが早いかレヴィは体の向きを変えて俺を抱き締める。
腰を強く抱かれてさっきよりもずっと密着した体勢になった。
(いやいや、好きなだけくっつけとは確かに言ったけど……やりすぎじゃないか?)
だが言ってしまった手前、何も言えない。
戸惑うことしかできない俺に追い打ちをかけるように、レヴィが耳元で囁く。
「……ねえ、エリス様。今日はあまりにも仕事を頑張りすぎたせいで、魔力がひどく減少してしまったみたいです。すみませんが、今から魔力供給をしていただけなないでしょうか」
「え……い、今から!?」
「お嫌でしょうか……」
胸から顔を上げると、またしてもしょんぼりとしたアクアマリンの瞳を視線が絡む。
「い、嫌じゃない!」
レヴィは嬉しそうに目を細めると、俺の顎に優しく手をかけてもう少しだけ顔を上げさせた。
「嬉しいです。ありがとうございます」
その声とともに、俺は目を閉じた。
人と同じ姿をした神だけではなく、狼など動物の姿をした神も存在したという。
獣の姿をした神――狼神の忠臣に美しい白銀の毛皮と青い瞳を持つ狼がいた。彼はある時、大怪我を負い森で倒れてしまう。
たまたま通りがかった人間の令嬢が、狼を助けた。その令嬢は癒しの魔力を持っていたのだ。彼女のおかげで一命を取り留めた狼は令嬢と交流を持つようになり、やがて恋に落ちる。
だが令嬢に縁談が持ち上がる。
どうしても令嬢と一緒になりたい狼は、月の女神のもとを尋ねた。
月の女神は狼神に恋をしていたのだ。彼らの仲を取り持つことを条件に、狼は強大な魔力を持った美しい人間の男へと姿を変えた。
そうして令嬢と人間になった狼はめでたく結ばれる。
ところが男は人間としての暮らしに夢中になるあまり、女神との約束を忘れてしまう。
怒った女神は、二人に息子が誕生した夜に姿を現した。
そして息子から始まる彼らの子孫に、ある年齢で見た目の成長が止まってしまう呪いをかけという話だ。
「と、まあこんな話です。この国では、恩を忘れると狼のようになってしまうという教訓として語られていますけど」
シェーンの言葉にリアムが呆れ顔で感想を述べる。
「人間になった途端、自分のことしか考えられなくなるなったんだから自業自得ですね」
「たしかにそうだな」
俺も苦笑いをする。
「それにしても今の話に出てきた狼、ちょっとレヴィ様みたいですね。エリス様への執着というか、絶対に自分のものにするっていう――」
ニヤニヤしながら口を開いたリアムが、突然黙る。
「僕が、どうしたって?」
扉のすぐそばにレヴィが立ってた。
「レヴィ!」
呼びかけると綺麗な笑顔を浮かべて近づいてくる。
「エリス様が心配で、爆速で仕事を片付けたらもう終わってしまいました」
「そ、そうか……すごいな」
レヴィはベッド脇に腰を下ろすと、リアムとシェーンに目を向けた。
「おまえたち、仕事に戻っていいよ。リアムはシェーンの仕事を手伝ってあげてくれる? じゃ、一刻も早く出て行って」
二人は逃げるようにして従者用の魔法陣を踏み、部屋から出ていく。
この部屋には魔法陣が2つある。
従者用の魔法陣は、部屋の主人――つまりレヴィか俺のどちらかが入室を許可しないと部屋に繋がらない。
(てことは、今日はこのまましばらく二人っきりってことかよ)
嫌なわけではまったくないが、なんだか気持ちが落ち着かない。
ソワソワしながら隣を見ると、レヴィが嬉々としてベッドの中に入り込んでくる。
「ちょ、おまえ! なんで入ってくんだよ!」
「ええー? これは僕のベッドでもあるんですよ。いいじゃないですか。頑張って働きすぎて少し疲れちゃったんです」
大の男が4~5人は寝られるほど大きなベッドなのに、レヴィはぴったりとくっついてくる。さりげなく離れようとしたのに肩を抱かれて阻止された。
「……こんなに広いんだからもっと有効に使ってもいんじゃないか?」
「僕、寂しがり屋なんです」
「近くにいれば寂しくないだろ。こんなにくっつく必要はないと思うぞ」
「すみませんエリス様。僕が触れるの、やっぱりお嫌なんですよね?」
美しい顔がつらそうに歪められた。
「あ、いやそういうわけじゃ――」
「わがままで申し訳ありません。でも、エリス様にもう一度お会いすることができたから嬉しくて……離れたくないんです。それに、これは夢じゃない、現実なんだって確かめたくて」
「レヴィ……」
俺が一度死んだとき、レヴィがどれだけ嘆き悲しんでいたかは狼神に会う前に両親や弟たちから聞いていた。
自分のことを責めていたことも。だからこんな風に言われると反論できなくなってしまう。
「わかったよ、いいぞ。好きなだけくっついてくれ」
半ばヤケクソに言い放つと、レヴィは途端に瞳を輝かせる。
「ふふ。ありがとうございます。やっぱりエリス様はお優しいです。今も昔も」
言うが早いかレヴィは体の向きを変えて俺を抱き締める。
腰を強く抱かれてさっきよりもずっと密着した体勢になった。
(いやいや、好きなだけくっつけとは確かに言ったけど……やりすぎじゃないか?)
だが言ってしまった手前、何も言えない。
戸惑うことしかできない俺に追い打ちをかけるように、レヴィが耳元で囁く。
「……ねえ、エリス様。今日はあまりにも仕事を頑張りすぎたせいで、魔力がひどく減少してしまったみたいです。すみませんが、今から魔力供給をしていただけなないでしょうか」
「え……い、今から!?」
「お嫌でしょうか……」
胸から顔を上げると、またしてもしょんぼりとしたアクアマリンの瞳を視線が絡む。
「い、嫌じゃない!」
レヴィは嬉しそうに目を細めると、俺の顎に優しく手をかけてもう少しだけ顔を上げさせた。
「嬉しいです。ありがとうございます」
その声とともに、俺は目を閉じた。
あなたにおすすめの小説
過労で倒れかけの騎士団長を「カツ丼」で救ったら、なぜか溺愛され始めました。
水凪しおん
BL
王都の下町で、亡き両親が残した小さな食堂をたった一人で切り盛りする青年、ルカ。
孤独な日々の中で料理だけを生きがいにする彼の店に、ある冷たい雨の夜、全身を濡らし極限まで疲弊した若き騎士団長、レオンハルトが倒れ込むようにやってきた。
固形物さえ受け付けないほど疲労困憊の彼を救うため、ルカが工夫を凝らして生み出したのは、異世界の食材を組み合わせた黄金色の絶品料理「カツ丼」だった。
その圧倒的な美味しさと温もりに心身ともに救われたレオンハルトは、ルカの料理と彼自身に深く魅了され、足繁く店に通うようになる。
カツ丼の噂はまたたく間に王都の騎士たちや人々の間に広がり、食堂は大繁盛。
しかし、その人気を妬む大商会の悪意ある圧力がルカを襲う。
愛する人の居場所を守るため、レオンハルトは権力を振るって不正を暴き、ルカもまた自らの足で立つために「ルカ商会」を設立する決意を固める。
美味しいご飯が傷ついた心を癒やし、やがて二人の絆を「永遠の伴侶」へと変えていく。
胃袋から始まり、下町の小さな食堂から王都の食を支える大商会へと成り上がる、心温まる異世界お料理&溺愛ファンタジー!
冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない
北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。
ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。
四歳である今はまだ従者ではない。
死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった??
十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。
こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう!
そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!?
クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました
未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。
皆さまありがとうございます。
「ねえ、私だけを見て」
これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。
エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。
「この恋、早く諦めなくちゃ……」
本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。
この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。
番外編。
リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。
――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。