魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第七章 真実の愛

<20>何度でも恋をする

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「な、なに」
なんとか絞り出した声は動揺と緊張で震えてしまう。
ものすごい速さで胸を打つ鼓動に気がつかれたくなくて、軽く両手で胸を押してみるが、逆にさらに強い力で抱き込まれた。
「許してくれてありがとう……」
「だ、だからそれはいいって言っただろ」
顔を胸板に押し付けるように抱かれているせいで、どんな顔をしているか見ることができない。
「別邸できみを見た時、とても驚いたんだ。気難しいオーウェンや領地の皆と打ち解けて、その上領民たちのために新しい名産を作ろうとして……今思うと、あの時以来、きみのことばかり考えるようになっていたのかもしれない」
「……え」
「きみの相手をするのが面倒で、強制的に別邸に追いやったのは僕なのにね。それでも、自分が置かれた場所をより良い場所にしようと努力するきみがキラキラして見えた。オーウェンたちにきみのことを褒められると、勝手に誇らしい気持ちになってた」
「レヴィ……」
「きみが実家でどんな目に遭っていたのか、エヴァンズ公爵が詳しく話してくれたんだ。そんなつらい思いをしていたなんて微塵も感じさせずに、いつも明るくて元気で、楽しそうなきみのことを思うと胸が苦しくなるような、切なくなるような……言いようのない気持ちになるんだ。あんなに失礼でひどい態度を取った僕が言っていいことじゃない。わかっているけど、僕はもう抑えられないんだ」
そこまで言うとレヴィはゆっくりと体を離し、視線を合わせた。
「勝手な男でごめん。でも……僕はきみのことを好きになってしまったんだ……好きだ、エリス。きみのことが大好きだ」
驚きすぎて言葉が出てこない。
だが心の奥底からあふれ出てくる気持ちはきっと――。
俺は何度も深呼吸をして息を整える。
「俺、はずっと誰かに恋する気持ちがわからなかったんだ。だから好きって言われてもどう返していいか困ってた。でもレヴィが記憶を失って、前みたいに話したりできなくなってから……ものすごく寂しくて、つらかった。このまま俺たち、離婚するのかもなって考えると、胸がすごく痛くなった……これって多分、俺もレヴィのことが……す、好きってことだよな……?」
さっきまで緊張と不安が揺らめいていたアクアマリンの瞳は、今は蕩けそうに甘い。
レヴィは首を縦に振ると、再び俺を抱きしめた。
「好きだよ、エリス。きみのこと……愛してる」
見上げた先のアクアマリンが少しずつ近づいてくると同時に顎に親指がかけられて、俺は静かに目を閉じた。
唇が触れ合った瞬間、パリンと何かが割れるような音が響く。
反射的に目を開くと、視界いっぱいにレヴィの美しい顔が広がった。
だが眉は顰められ、とてもつらそうな表情をしている。
「申し訳ございません。エリス様……すべてを思い出しました」
「レ、ヴィ……?」
「はい。なんでしょう」
「レヴィ……」
俺を見つめる優しい瞳。レヴィの記憶が戻ったのだと確認する。
気がつくと両目から自然に涙が溢れていた。
「エリス様!? どうなさったのです? どこか痛むのですか」
「違う、違うんだ。嬉しくて」
「……え?」
「今までごめん。こんなことになるまで気づかなくて本当バカだよな……レヴィのことが好きだ。大好きだ。だからもう二度と俺のこと忘れたりすんな……っ! ずっと、俺の側にいて――」
言い終わる前に、再び強く抱きしめられる。
「はい。二度とエリス様のことを忘れません。ずっとお側にいます……」
レヴィの声も震えている気がした。
しばらくすると肩のあたりがじんわりと温かくなる。
すぐにレヴィも泣いているのだと気がついた。
「エリス様……好きです、あなたのことが。記憶をなくしても、僕はやっぱりまたあなたに恋をしました。きっと何度記憶を失っても、生まれ変わったとしても、僕はあなただけを愛し続けます……!」
「俺も……ずっとおまえのことだけが、好き」
互いに濡れた瞳で見つめ合い、どちらからともなく唇が重なる。
俺たちは泣きながら、何度も何度もキスをした。


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