現実は乙女ゲーよりも奇なり

春賀 天(はるか てん)

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第2部

【5】妄想女の擬似デート?⑫ー5(~帰り道)

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【5ー⑫】



「来るときは全然気付かなかったけど、桜が夕焼けに映えて すっごく綺麗だよ?」


私はかなでと話しながら歩いていたが、いつの間にやら駅舎まで辿り着いていて、その駅の片隅には大きな桜の木が植えてある。

その桜は、すでに桃色の花の中に緑の葉が交じり始めていて最後の散り時を迎えているらしく、夕焼けを背景に沢山の花びらが風にあおられてハラハラと地面に舞い落ちていて、その光景がなんとも幻想的だ。



「ーーもう桜の時期も終わりなんだね~  いつも登校時には見ているはずなのに全然意識に入ってないんだもんなあ。 しかも今頃、散り時になって気付くって私ってホント情緒の欠片もないよ。

でも、とうとう私も今年でこの桜も見納めかな? 来年の私は勤務先が全く反対方向だから、この駅も中々使わなくなるだろうし、今日気付いてよかったなーーー」



私はそう言いながら「三年間ありがとね~」などと桜の幹を感慨深げにポンポンと叩いていると、奏が声を掛ける。



「珠里、ちょっとそこに立って」


「え?」
 

「せっかくだから写真に撮ろうよ。 ーーそこに立っててくれる?」
 

「ええっと? あ、うん」
 


私は奏にうながされるままに桜の下に立つと、奏はスマホを取り出して私の写真を何枚か撮っている。


なんで急に写真撮影?………まあ、一緒に並んで撮ろうっていうわけじゃないから、いいっちゃいいんだケド。

………だって、あんな密着した状態で二人で自撮りなんて初めは分からなかったから出来たけど、今は分かっているだけに絶対ムリムリ!!

いや、奏とくっつくのが嫌とか そういうんじゃなくって、私自身が超恥ずかしすぎて絶対に挙動不審になって『変顔』になるに決まってるんだもん。



「ーーはい、撮れたよ」



奏から今しがた撮り終えた写真を見せて貰うと、やはり撮影者の腕がいいのか、私?であるはずのお姉さんが夕焼けの陰影の中、愁いを帯びた表情で少し横向きに顔を傾けていて、そこに舞い散る桜が映っているという、まるでアイドル写真集のような出来栄えに、しばらくスマホの画面を凝視してしまう。



「ねえ………奏って本当に写真撮るの上手だね? どう見ても、これ『私』じゃないよ。 どっかの知らない お姉さんにしか見えない………格好だって いつもの私じゃないから尚更、違和感あるーーーホントに「誰? これ?」だよ。 ーーもしかして、スマホの新機能とかで写真の『修正』出来るとか?」



私が首を傾げながら奏のスマホを見つめていると、奏が「貸して?」と言って私の手からスマホを受け取る。



「修正なんかじゃなく正真正銘、写っているのは『珠里』だよ。 俺の目には家にいる時の普段の『珠里』も今ここにいる『珠里』も全て同じ『珠里』なんだけどね…………でもこれを見たら、きっと珠里も納得するかもしれないよ?」



そう言って奏から笑顔でスマホを渡されて受け取ると、その画面にはーーー



「な、なに!コレっ!!」



そこにはテレビ番組でもある様な『珍写真』とかの部類に入るであろう、桜の花びらが私の両頬に くっついて“ほっぺた まる子”みたいになっていて、

更に鼻にも花びらがくっつき、そこに絶妙なタイミングで小さな虫が映りこんでいて、花びらがピンク色だけに『豚っ鼻』みたいにしか見えなくて、しかもビックリ顔というーーー(きっと、くしゃみが出そうなのを我慢した、あの時だな………)


偶然と奇跡がコラボして生み出された、なんとも珍妙な一枚だった。



ーーああ、だから、さっき奏が撮った写真を確認していた時に突然口許を押さえて私に背を向けて、その肩がやけに震えてたんだけど、アレって、これ見て笑ってたんかーーー

なるほど、なるほど………確かに この見事な間抜けっぷりの面白い顔は どう見たって『私』だなーーうん。

 

「あははははっ、すっごいね! これって、まさに『決定的!奇跡の瞬間』じゃない? こんなの滅多に撮れるもんじゃないよ! 奏って、やっぱり写真の才能あるかもよ?   うぷぷぷっつ、ヤバ~い! 絶対マジで超~ウケる!!   ーーねえ ねえ、この写真、私のスマホにも移してくれる? 後で皆に見て貰うから」


それを聞いた奏は目をまるくして驚いている。



「珠里? まさかこの『写真』、他人に見せるの?? 嫌じゃない?」
 

「え? 全然嫌じゃないよ? 寧ろ、見せた時の相手の反応が楽しみ! きっと、超ウケる事 間違い無しだよね~  

逆に「誰? これ?」写真の方が見せるの嫌カモ。だって私本人が別人にしか見えないんだから、他の人なら尚更そう見えるでしょ。 しかも どう見ても修正盛り写真だし、下手したら“詐欺師”とか言われそう」



そんな私が腕を組んで「うむむ~」と唸っていると、奏がフッと王子様スマイルを私に向ける。

 

「珠里は本当にいつも俺の思考の上を行く人だから、驚かされる事ばかりだ。 珠里はいつも明るくて楽しくて前向きで……まあ、時に危なっかしい所もあるけれど、そういう所も全部ひっくるめて、俺は好きだよ」

 

ーーなっ!!? す、すす、す、ススキ?? 



ち、違う違う! お月見の『ススキ』の方じゃない!『好き』だよ『好き』! しかも、そ、そんな王子様スマイルで思わず聞き逃しそうなくらい、さらっと超自然に仰いましたね? 王子様?

 

ーーっていうか、なんでも『恋愛ワード』に変換するんじゃねー!! 私の脳ミソ!! 『好き』に『love』と『like』があるんだよ! 当然、奏の『好き』は言わずと知れた『like』だから!  分かったか! 私の脳ミソ!!



私は数秒固まっていたものの、直ぐに私の おめでたい脳ミソの誤変換を修正して奏に向き直るる。




【5ー続】






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