現実は乙女ゲーよりも奇なり

第２部

【6】カフェバー『原石』①

【6ー①】



緑峰学園高校がある駅周辺の商店街の中にある私が高校1年生の時からお世話になっているバイト先がある。

その お店の名はカフェバー『原石』


そこは昼と夜で営業形態が変わり、AM9：00～PM20：00までが昼タイムで軽食喫茶。PM20：00以降は夜タイムで酒場に変わる。

外装は極めてシンプルな黒と白の二階建ての建物で、下階が喫茶店、上階がバーになっている。　

そして内装がまた極端で、喫茶店の方は西洋風のアールデコ調で まさに『お姫様世界』であり、上階のバーは洗練されたモダンな落ち着いた、少し敷居の高い『大人の世界』のカクテルバーである。

そんな少し変わっているお店に加えて、そこで働く従業員達には独特の特徴がある。


その店のオーナー兼マスターは『周す防おう　廉れん』さん。48歳。

実家が外資系会社を経営する裕福な家の次男坊らしく、バツイチで中学生の娘が一人いる。　

そして外見もスラッとした長身のイケメンで俳優さんのようなカッコいい男性なのだがーーー実は心は『女性』つまり『オネエ』さんである。


そんな廉さんは外見は男性のままだが、口を開けば女言葉を使い、昔、親からの強い希望でお見合い結婚をしたものの、やはり結婚生活は上手くいかず、娘が小学生の時に離婚したらしい。

そんなマスターの廉さんは大の『乙女ゲームマニア』で、ひょんな事から私は その廉さんに、すごく気に入られて本来は女性は雇わないという自分のお店の喫茶店のバイトとして特別採用された。


それというのも廉さんは現実のイケメン少年アイドルのファンクラブも入っているほど大好きで、自分も美少年アイドルを育てる芸能プロダクションの社長気分を味わいたいらしく、

自分の お店の従業員は全てイケメン男子で揃えていて、勿論そんな彼等をすごく大事にしており、お店独自のルールを設け、それをお客さんにも厳守させて、違反者は出禁になるという、オーナー独断ぶっちぎりのお店である。


そんなオーナーが経営する お店の特徴は、下階はスイーツや紅茶、コーヒー、フレッシュジュースといった、勿論アルコール一切無しの喫茶店で、黒ズボンに黒ベスト、白ワイシャツで桃色のネクタイを着用したイケメン男子達が お客様を接待する、まあ、いわゆる『執事カフェ』である。


そして上階のカクテルバーの従業員達は、同じ黒ズボンに黒ベスト、白ワイシャツに こちらは、えんじ色のネクタイ着用の成人者で、まあ、ぶっちゃけ『ホストクラブ』に近い感じだ。

そんな私はというと、勿論 高校生なので下階の喫茶店で主に裏方仕事を担当している。

なんでも昔は女性もいた方が女性客も安心するだろうと女性従業員もいたらしいが、とにかく男女間のトラブルが酷くて、それでなくてもイケメンだらけなので、女性は雇わないことにしたのだという。


それなのに私がどうして採用になったかというと、当時、1年の時に クラスの女子達の顔合わせ親睦会として、半ば強引に連れていかれたのがその『原石』で、

イケメン執事にキャーキャー言っている女子達の中、全く現実イケメンに興味の無かった私は、

店内にあった沢山の乙女ゲームの冊子コレクションに激感動し、イケメン執事には目もくれず、冊子に釘付けで一人夢中になっていると、

そこにマスターの廉さんがそんな私に声を掛けてきて、それはもう周囲が退くほどに 二人で『乙女ゲー』トークで盛り上がり、

私も今まで、こんなに共通の趣向で気の合う相手がいなかっただけに、すっかり廉さんと仲良くなり、

私は廉さんとのお話目当てで、お店に ちょくちょく通っている内に廉さんに誘われ採用されたというわけだ。

丁度、資金不足を補う為にもバイトをしようかな～と考えていただけに、これって“棚からぼた餅”？？



そしてオーナーの廉さんが定めた お店の『5カ条ルール』とは


【従業員用】

その1　清潔感を常に意識し身嗜だしなみには特に注意する事。

その2　お客様への感謝と奉仕精神を忘れず笑顔で丁寧に接客する事。
（※ただし相手方が悪い場合は、それに当たらず）

その3　店内での お客様へのナンパや連絡先交換の禁止。

その4　店内にトラブル（特に男女問題）は持ち込まない事。

その5　学生は学業が本職なので試験期間は、なるべく学業に専念するべし。

一方、店内上下階で大きく提示してある【お客様用】の『厳禁5カ条ルール』では

その1　従業員への故意的な お触り
は『厳禁』

その2　従業員は一般人であるので写真撮影も『厳禁』

その3　 従業員への高額商品及び金品、手作りの食べ物などの贈り物は『厳禁』

その4　従業員のブライベートを侵害_する行為は、いかなる理由があろうと一切『厳禁』
（主にストーカー行為及び追っかけ行為等に関しては速やかに警察に通報致します）

その5　  当店及び、ご近所周辺の迷惑行為等（従業員出待ち）は『厳禁』

※　以上を当店ご利用の お客様への『厳禁ルール』とし、違反者には今後、当店の ご利用を一切お断り致します。


ーーというのが『原石』の掟である。


そんな廉さん曰いわく「私の可愛い『子供』（従業員）達に迷惑を掛けるような悪質な客は もはや『お客様』にあらずよ。そんな醜い人間達に私の『子供達』や『お城（原石）』を穢されてたまるものですか！」


ーーとのお言葉である。さ、さすがは廉さん！  頼もしいぃぃ！


そんなこんなで、私は『原石』で唯一紅一点の女子従業員だけあって、廉さんには特に可愛がってもらっていて、

私の就職先も廉さんの口利きで紹介してもらったので、私は何の就活苦労も知らずに現在、のほほ～んとした生活を送っている。

や、やっぱり“棚からぼた餅”なのか？？


そんな店の裏側には従業員出入り口があり、待ち伏せ女子達対策もあって『私有地に付き関係者以外立ち入り禁止』の従業員専用駐車場になっていて裏口の方は追っかけ女子達が待ち伏せ出来ないようになっている。

しかもバイトの学生など車で移動していない従業員が帰宅する場合は、廉さん、もしくは車で来ている従業員が最寄り駅か家まで車で送ってくれるというーーまさに芸能人待遇なのである。


そんな少し風変わりなお店の『原石』は、お給料も一般的相場に比べると破格とも言えるほどに高いので、学生バイトの私でさえも学校帰りの3、4時間程度の勤務ではあるが、結構ウハウハに稼げているというわけだ。



ーーうははは、“ぼた餅”バンザイ！！　餡こ大好き❤️




【6ー続】