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第2部
【6】カフェバー【原石】①ー6
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【6ー①】
「ーー珠、今日はありがとな。折角の休みだったのに手伝いに来てくれて助かったよ」
私の勤務時間が終わり、本日の二階のバーも明日の結婚パーティーの準備で臨時休業している事もあって、今日は暁さんが私を自宅まで車で送ってくれている。
「いやいや、出たトコついでだったし、私の唯一特技の習字が ここにきて生かされてよかったよ。他に対した事も出来ないしさ、これくらいで人様のお役に立てたのなら私に習字を習わせてくれた親に感謝かな?」
そうーー私の唯一の特技、それは『習字』
私達姉弟は幼少時の頃に親から書道塾に通わせられていた事もあり、字だけは堂々と自慢出来る上達ぶりである。
なので明日の結婚パーティーの招待客の お名前プレートを筆字で書くのが今回、私が呼ばれたお仕事の一つだ。
初めはパソコンで作るつもりだったらしいが、廉さんが私が字を書くのが得意な事を思い出し、機械的に作るよりも、おもてなしには手作りの方が温かみがあるという事で、お願いされた次第だ。
廉さんいわく、このパソコン時代の ご時世で綺麗な字を書ける人間は中々いないのだという。
しかも字というものは、それを書いた人間の人柄が表れるともいうので、習字を習わせてくれたご両親に感謝なさいねーーーとも言っていた。
私って家事も苦手だし運動も出来ないしで他に取り柄が何もないんだもん。 だから習字やっててよかったよ~
「珠は字がすごく綺麗だもんな。 若いのに今時珍しいよ。廉さんが珠の履歴書を見て、すごく感嘆してたの覚えてる」
「ウチのお父さんも子供の頃に習字を習っていたから自分の子供達にも綺麗な字が書けるようにって、小さい頃から習わされていたんだよね~
当時は遊びに行きたいし面倒だったし塾に行くのがすごく嫌だったんだケド、きちんと通う事が出来たら誕生日に好きなものを一つ買ってくれるっていうから、それに釣られて続いてたっていうのもある」
「ははは、それは そうだな。子供の意識を釣るには、それが一番手っ取り早いもんな。俺も釣られた経験あるから分かるよ」
「あ、やっぱり? でもまあ、結果はオーライかな~って。 結局は自分のスキルにもなるしね。親に感謝感謝!」
私がヘラヘラと笑っていると、暁さんも「調子のいいヤツ」と言って笑う。
「ーーなあ、珠、今日の桃華の『弟』の事だけどさ。本当に覚えていないのか?」
「え?『ヒーロー』君の事? それが全っ然、心当たりが無いんだよね~ だけど向こうは私を知っているみたいだし、人違いとも思えないんだけど」
「そうだな。 しかもセクハラとか事情が、かなり複雑そうじゃん」
「そこだよ、そこ! ねえ、暁さん。私、あの子に何したと思う?」
私は暁さんの運転する車の後ろの座席から前のめりに顔を出す。
「珠が覚えていないのに俺が知るかよ? 俺だって、それ聞きてぇわ」
「だよね~ 私とは同級でもないし。あ~ でも私の弟と同級だから、もしかしたら弟の知り合いなのかなあ? でもあんなに可愛い子なら覚えてないはずないんだけど…………」
「へぇ~? 可愛いとか、やっぱり、ああいう男が珠の好みのタイプなんだ? しかも 珠は年下好きだもんな~」
「ちょっとぉ~ 変な勘繰り止めてもらえますぅ? 私は年上だから お姉さん目線で言ってるの。しかも一般的感想だから。
だってあの子、見た目が繊細っていうか中性的っていうかさ、めっちゃ可愛い子じゃん。
だけど、あんな天使な顔して口の方は かなりの毒舌なんだもん! しかも怒りっぽいし事情を教えてくれさえすればこっちだって思い出して謝罪する事も出来るのに、いくら聞いても教えてくれないしでさ~
それでも食い下がったら「明日の結婚パーティーに来い」だって。そしたら教えてくれるみたい」
「はああ!!?」
突然暁さんが大きな声で驚いて後ろを振り返ろうとするので、私は慌てて暁さんの頭を両手で押さえた。
「ちょっと ちょっと! 運転中はヤバイから!! 前向いててよ前!!」
「あ、ああ、悪い。けど、珠、いつ、アイツとそんな話になったんだ?」
「いつって、帰る弟君を追っ掛けていった あの時だよ。明日来たら教えてくれるって招待状も貰った」
私は証拠としてバッグから招待状を取り出し前の方に差し出して見せると、暁さんが呆れたように大きく息を吐く。
「………珠、悪い事は言わないから明日は行くな。断れ」
「え? なんで?」
「え? なんで? じゃない。しかも知らない男の誘いに何の疑いもなくあっさり乗るか? 普通。子供だって、それくらい分かる常識だぞ?」
「知らない男って、暁さんのお友達の弟でしょ? 何、心配してんの? それに お友達のお姉さんにも失礼じゃない」
すると暁さんは少し苛々した口調になる。
「お前な、いくら友達だろうが、その身内だろうが男は男なんだよ! しかもなんでそんなあっさり承諾してるんだ? お前『現実の男』には興味無いんだろ? だったらブレんなよ! 徹底しろ!」
「べ、別に承諾したわけじゃないけど、なんでそこまで警戒しなきゃならないの?
それに興味とかそんなんじゃなくって、事の真相をはっきりさせたいだけじゃん! なのに、なんでもかんでも物事を男女関係のもつれにしないでよね。それってスッゴい迷惑!
しかも彼が私に何かしてくるとでも思ってんの? 身内の結婚式で? 真っ昼間から? 廉さんの お店で? いくら何でも あり得んでしょ?
それに私だって話を聞いたらすぐ帰るつもりだし、何の心配もいらないから。
はあ~ 私の周りの人間は なんでこうも過保護過ぎるくらい心配性なのかなあ? 私、これでも18歳の大人なのに、いつまでも子供扱いされるんだよね~ まあ、頼りないからなのかもしれないケド。
とにかく大丈夫だから。なにより、これは私の尊厳の問題なんだよ。 私が加害者なのに相手がトラウマになってしまうほど傷付けた事も全く覚えていないなんて。それなのに知らんぷりなんて出来ない!」
「だったら、この件は俺が預からせてもらう。俺が明日、アイツにその真相とやらを聞いてやるから珠は家にいろ! それでなくとも珠は危なっかしいのに そんな“訳あり男”と接触させられるかよ!」
うぬぬぬっ!! こういう時の暁さんって実は廉さんよりも口煩いんだよね。普段の見た目や言動はチャラ男なのに中身は結構、厳しかったりするんだもんなあ。ううっーーあんた、私の お父さんか!!
「あのさ、“訳あり”って、そんな大層な事じゃないと思うよ? それに彼のお姉さんが言ってたでしょ? 本当は優しいって。
身内がそう言うんだから大丈夫だよ。私も彼が悪い人には見えないし、よく知りもしない内から相手の事を悪く言いたくない」
「珠、お前がそういうヤツだから逆に心配なんだよ。少しは他人に警戒心を持てよな? お前みたいなヤツほど騙されやすいんだぞ?」
そんな私を本気で心配してくれている暁さんに私は普段から常備しているのど飴を後ろから差し入れて笑う。
「まあまあ、飴ちゃんでも、おひとつどうぞ? やっぱり私って周りから見れば そんなに頼りないのかなあ? ウチの弟達も同じ事言うんだよ。
“知らないヤツに声掛けられても無視しろ”とか、“お菓子貰っても絶対について行くな”とかさ~ もう笑っちゃう。ちっちゃい子供じゃないんだから。
もしかして男の方が意外に、そういう面は心配性? ウチのお母さんだって、そこまで心配しないから。
でも暁さん、いつも心配してくれてありがとね。反抗的な態度を取っちゃっても、ちゃんと感謝してる。
もし本当にピンチになった時にはSOS出すから、その時は助けにきてね?『お兄ちゃん』?」
私はわざと甘えたような口調で『お兄ちゃん』を強調する。 私は一番上の長女だから『お兄ちゃん』のいる妹の感覚は分からないが、奏の妹の凛音ちゃんがよく奏に甘えているのを参考にして言ってみた。
いや~『お兄ちゃん』なんて新鮮! なんといっても妹特権で甘えられるんだよ? それって『妹』ズルくない? 私なんて昔はよく『お姉ちゃんなんだから』って言われて色々我慢しなきゃならなかったのに。
ーーああ、やっぱりいいなあ。私も『お兄ちゃん』が欲しかった。
すると暁さんが笑いながら片手で運転席を覗き込んでいる私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ははは、ホントに調子いいヤツ。
ーー仕方ないな、明日はなるべく俺も側にいるようにするから単独行動は取るなよ? それでなくとも他の野郎共も来るからな。もしナンパとかされても無視しろよ? それでもしつこいようなら俺に言え、いいな?」
わああ~ 妹の“甘え効果”絶大!! これって快感かもしんない♡
「うふふ、分かったよ~『お兄ちゃん』? そんでもって今さっき、曲がり道を間違ったよ? 私の家は今さっき通り過ぎた交差点を右だからーーー」
「え? ああ~ ヤベっ、間違った! お~い珠、そういう事はもっと早く言え。見ろ! 結構通り過ぎたじゃん」
「えへへ、だから通り過ぎたついでだし、あそこに見えるコンビニに寄ってくれない? なんか無性に豆大福が食べたくなっちゃった」
「おいおい、たい焼き買ってきたんだろ? それなのに豆大福って、珠はホントに和菓子が大好きなんだな」
「うん! もう大好物!! 逆に生クリーム系の洋菓子は食べられるケド、実はあまり得意じゃないんだよね。
職場がスイーツ系扱っているだけに、あまり大きな声じゃ言えないんだけどさ。そんな私って今時古風な女でしょ?」
「フッ、そういうのは古風とは言わない。個人の好みの問題だろうが。ーーよし、今日は頑張ってくれた事だし俺が奢ってやるよ」
「ホント!? やったあ! さっすが『お兄ちゃん❤️』 よっ、太っ腹!!」
「ホント調子がいいな。 しかも『甘えツボ』しっかり押さえてやがるし、そういう所は『小悪魔』だな」
「イエ~ス!『小悪魔』結構! だから たまには妹気分を味あわせてよ『お兄ちゃん』
ーーさあ、そうと決まれば、目指すは前方に見えるコンビニまでレッツゴー!!」
私は進行方向へ片手を真っ直ぐに突き出すと、暁さんも楽しそうに笑いながら私の腕を下ろさせる。
「へいへい、了~解。ーー珠、危ないから、ちゃんと後ろに座ってな。 それじゃ行くか」
そう言って、どこまでも優しいお兄ちゃんな暁さんはコンビニへと車を向けてくれた。
ーーそうして、私は暁さんに豆大福どころか「遠慮すんな」と言われて他にお菓子や飲み物など色々と買って貰ってしまった。
………い、『妹』!! 美味し過ぎる!!
【6ー終】
「ーー珠、今日はありがとな。折角の休みだったのに手伝いに来てくれて助かったよ」
私の勤務時間が終わり、本日の二階のバーも明日の結婚パーティーの準備で臨時休業している事もあって、今日は暁さんが私を自宅まで車で送ってくれている。
「いやいや、出たトコついでだったし、私の唯一特技の習字が ここにきて生かされてよかったよ。他に対した事も出来ないしさ、これくらいで人様のお役に立てたのなら私に習字を習わせてくれた親に感謝かな?」
そうーー私の唯一の特技、それは『習字』
私達姉弟は幼少時の頃に親から書道塾に通わせられていた事もあり、字だけは堂々と自慢出来る上達ぶりである。
なので明日の結婚パーティーの招待客の お名前プレートを筆字で書くのが今回、私が呼ばれたお仕事の一つだ。
初めはパソコンで作るつもりだったらしいが、廉さんが私が字を書くのが得意な事を思い出し、機械的に作るよりも、おもてなしには手作りの方が温かみがあるという事で、お願いされた次第だ。
廉さんいわく、このパソコン時代の ご時世で綺麗な字を書ける人間は中々いないのだという。
しかも字というものは、それを書いた人間の人柄が表れるともいうので、習字を習わせてくれたご両親に感謝なさいねーーーとも言っていた。
私って家事も苦手だし運動も出来ないしで他に取り柄が何もないんだもん。 だから習字やっててよかったよ~
「珠は字がすごく綺麗だもんな。 若いのに今時珍しいよ。廉さんが珠の履歴書を見て、すごく感嘆してたの覚えてる」
「ウチのお父さんも子供の頃に習字を習っていたから自分の子供達にも綺麗な字が書けるようにって、小さい頃から習わされていたんだよね~
当時は遊びに行きたいし面倒だったし塾に行くのがすごく嫌だったんだケド、きちんと通う事が出来たら誕生日に好きなものを一つ買ってくれるっていうから、それに釣られて続いてたっていうのもある」
「ははは、それは そうだな。子供の意識を釣るには、それが一番手っ取り早いもんな。俺も釣られた経験あるから分かるよ」
「あ、やっぱり? でもまあ、結果はオーライかな~って。 結局は自分のスキルにもなるしね。親に感謝感謝!」
私がヘラヘラと笑っていると、暁さんも「調子のいいヤツ」と言って笑う。
「ーーなあ、珠、今日の桃華の『弟』の事だけどさ。本当に覚えていないのか?」
「え?『ヒーロー』君の事? それが全っ然、心当たりが無いんだよね~ だけど向こうは私を知っているみたいだし、人違いとも思えないんだけど」
「そうだな。 しかもセクハラとか事情が、かなり複雑そうじゃん」
「そこだよ、そこ! ねえ、暁さん。私、あの子に何したと思う?」
私は暁さんの運転する車の後ろの座席から前のめりに顔を出す。
「珠が覚えていないのに俺が知るかよ? 俺だって、それ聞きてぇわ」
「だよね~ 私とは同級でもないし。あ~ でも私の弟と同級だから、もしかしたら弟の知り合いなのかなあ? でもあんなに可愛い子なら覚えてないはずないんだけど…………」
「へぇ~? 可愛いとか、やっぱり、ああいう男が珠の好みのタイプなんだ? しかも 珠は年下好きだもんな~」
「ちょっとぉ~ 変な勘繰り止めてもらえますぅ? 私は年上だから お姉さん目線で言ってるの。しかも一般的感想だから。
だってあの子、見た目が繊細っていうか中性的っていうかさ、めっちゃ可愛い子じゃん。
だけど、あんな天使な顔して口の方は かなりの毒舌なんだもん! しかも怒りっぽいし事情を教えてくれさえすればこっちだって思い出して謝罪する事も出来るのに、いくら聞いても教えてくれないしでさ~
それでも食い下がったら「明日の結婚パーティーに来い」だって。そしたら教えてくれるみたい」
「はああ!!?」
突然暁さんが大きな声で驚いて後ろを振り返ろうとするので、私は慌てて暁さんの頭を両手で押さえた。
「ちょっと ちょっと! 運転中はヤバイから!! 前向いててよ前!!」
「あ、ああ、悪い。けど、珠、いつ、アイツとそんな話になったんだ?」
「いつって、帰る弟君を追っ掛けていった あの時だよ。明日来たら教えてくれるって招待状も貰った」
私は証拠としてバッグから招待状を取り出し前の方に差し出して見せると、暁さんが呆れたように大きく息を吐く。
「………珠、悪い事は言わないから明日は行くな。断れ」
「え? なんで?」
「え? なんで? じゃない。しかも知らない男の誘いに何の疑いもなくあっさり乗るか? 普通。子供だって、それくらい分かる常識だぞ?」
「知らない男って、暁さんのお友達の弟でしょ? 何、心配してんの? それに お友達のお姉さんにも失礼じゃない」
すると暁さんは少し苛々した口調になる。
「お前な、いくら友達だろうが、その身内だろうが男は男なんだよ! しかもなんでそんなあっさり承諾してるんだ? お前『現実の男』には興味無いんだろ? だったらブレんなよ! 徹底しろ!」
「べ、別に承諾したわけじゃないけど、なんでそこまで警戒しなきゃならないの?
それに興味とかそんなんじゃなくって、事の真相をはっきりさせたいだけじゃん! なのに、なんでもかんでも物事を男女関係のもつれにしないでよね。それってスッゴい迷惑!
しかも彼が私に何かしてくるとでも思ってんの? 身内の結婚式で? 真っ昼間から? 廉さんの お店で? いくら何でも あり得んでしょ?
それに私だって話を聞いたらすぐ帰るつもりだし、何の心配もいらないから。
はあ~ 私の周りの人間は なんでこうも過保護過ぎるくらい心配性なのかなあ? 私、これでも18歳の大人なのに、いつまでも子供扱いされるんだよね~ まあ、頼りないからなのかもしれないケド。
とにかく大丈夫だから。なにより、これは私の尊厳の問題なんだよ。 私が加害者なのに相手がトラウマになってしまうほど傷付けた事も全く覚えていないなんて。それなのに知らんぷりなんて出来ない!」
「だったら、この件は俺が預からせてもらう。俺が明日、アイツにその真相とやらを聞いてやるから珠は家にいろ! それでなくとも珠は危なっかしいのに そんな“訳あり男”と接触させられるかよ!」
うぬぬぬっ!! こういう時の暁さんって実は廉さんよりも口煩いんだよね。普段の見た目や言動はチャラ男なのに中身は結構、厳しかったりするんだもんなあ。ううっーーあんた、私の お父さんか!!
「あのさ、“訳あり”って、そんな大層な事じゃないと思うよ? それに彼のお姉さんが言ってたでしょ? 本当は優しいって。
身内がそう言うんだから大丈夫だよ。私も彼が悪い人には見えないし、よく知りもしない内から相手の事を悪く言いたくない」
「珠、お前がそういうヤツだから逆に心配なんだよ。少しは他人に警戒心を持てよな? お前みたいなヤツほど騙されやすいんだぞ?」
そんな私を本気で心配してくれている暁さんに私は普段から常備しているのど飴を後ろから差し入れて笑う。
「まあまあ、飴ちゃんでも、おひとつどうぞ? やっぱり私って周りから見れば そんなに頼りないのかなあ? ウチの弟達も同じ事言うんだよ。
“知らないヤツに声掛けられても無視しろ”とか、“お菓子貰っても絶対について行くな”とかさ~ もう笑っちゃう。ちっちゃい子供じゃないんだから。
もしかして男の方が意外に、そういう面は心配性? ウチのお母さんだって、そこまで心配しないから。
でも暁さん、いつも心配してくれてありがとね。反抗的な態度を取っちゃっても、ちゃんと感謝してる。
もし本当にピンチになった時にはSOS出すから、その時は助けにきてね?『お兄ちゃん』?」
私はわざと甘えたような口調で『お兄ちゃん』を強調する。 私は一番上の長女だから『お兄ちゃん』のいる妹の感覚は分からないが、奏の妹の凛音ちゃんがよく奏に甘えているのを参考にして言ってみた。
いや~『お兄ちゃん』なんて新鮮! なんといっても妹特権で甘えられるんだよ? それって『妹』ズルくない? 私なんて昔はよく『お姉ちゃんなんだから』って言われて色々我慢しなきゃならなかったのに。
ーーああ、やっぱりいいなあ。私も『お兄ちゃん』が欲しかった。
すると暁さんが笑いながら片手で運転席を覗き込んでいる私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ははは、ホントに調子いいヤツ。
ーー仕方ないな、明日はなるべく俺も側にいるようにするから単独行動は取るなよ? それでなくとも他の野郎共も来るからな。もしナンパとかされても無視しろよ? それでもしつこいようなら俺に言え、いいな?」
わああ~ 妹の“甘え効果”絶大!! これって快感かもしんない♡
「うふふ、分かったよ~『お兄ちゃん』? そんでもって今さっき、曲がり道を間違ったよ? 私の家は今さっき通り過ぎた交差点を右だからーーー」
「え? ああ~ ヤベっ、間違った! お~い珠、そういう事はもっと早く言え。見ろ! 結構通り過ぎたじゃん」
「えへへ、だから通り過ぎたついでだし、あそこに見えるコンビニに寄ってくれない? なんか無性に豆大福が食べたくなっちゃった」
「おいおい、たい焼き買ってきたんだろ? それなのに豆大福って、珠はホントに和菓子が大好きなんだな」
「うん! もう大好物!! 逆に生クリーム系の洋菓子は食べられるケド、実はあまり得意じゃないんだよね。
職場がスイーツ系扱っているだけに、あまり大きな声じゃ言えないんだけどさ。そんな私って今時古風な女でしょ?」
「フッ、そういうのは古風とは言わない。個人の好みの問題だろうが。ーーよし、今日は頑張ってくれた事だし俺が奢ってやるよ」
「ホント!? やったあ! さっすが『お兄ちゃん❤️』 よっ、太っ腹!!」
「ホント調子がいいな。 しかも『甘えツボ』しっかり押さえてやがるし、そういう所は『小悪魔』だな」
「イエ~ス!『小悪魔』結構! だから たまには妹気分を味あわせてよ『お兄ちゃん』
ーーさあ、そうと決まれば、目指すは前方に見えるコンビニまでレッツゴー!!」
私は進行方向へ片手を真っ直ぐに突き出すと、暁さんも楽しそうに笑いながら私の腕を下ろさせる。
「へいへい、了~解。ーー珠、危ないから、ちゃんと後ろに座ってな。 それじゃ行くか」
そう言って、どこまでも優しいお兄ちゃんな暁さんはコンビニへと車を向けてくれた。
ーーそうして、私は暁さんに豆大福どころか「遠慮すんな」と言われて他にお菓子や飲み物など色々と買って貰ってしまった。
………い、『妹』!! 美味し過ぎる!!
【6ー終】
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