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第3部
【8】因縁の再会⑯(~タイマンはトイレが定番?)
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【8ー⑯】
取り敢えず、先ほど緋色くんが着替えていた部屋に行ってみるも、どうやらこちらには居なかったので、姿を探しつつ途中で女子トイレに入って用を足していると、そこに思いもよらない人がトイレに一人で入ってきた。
ーーえ? 七奈心さん!?
会場の近くにもトイレがあるのに、しかもこちらはお店の入口近くで離れた場所にあるトイレだ。
どうして、わざわざ こっちのトイレに来たのだろう?
いや、たまたま向こうのトイレが満員だったから空いている こっちに来たんだろうけれど、それにしても こんなタイミングで出くわすなんて、なんか嫌だな。
そう思って急いで手を洗い、一応 七奈心さんに軽く会釈をしてトイレを出ようとすると、その七奈心さんからいきなり呼びとめられた。
「ね、タマちゃんーーだったかしら? こんにちは」
「は? はい。 こんにちは」
な、なんで 呼びとめるの?
私はすぐにでもここを出て行きたかったが、呼び止められてしまったからには無視する事も出来ず、仕方なしに振り返ると、七奈心さんはニッコリと微笑んでいる。
そんな七奈心さんは淡いピンクと白の花柄のワンピースにレース調のカーディガンを羽織っている。
そしてセミロングのストレートの黒髪で、口元に小さな黒子があり、レースの白い日傘が似合いそうな清楚な お嬢様風の大人しい感じの可愛らしい女性だ。
そして確かに噂通り胸が大きいーーって、どこを見てる! 私!!
「先ほどは、ご挨拶もしないでごめんなさいね。初めまして、私は『矢辺 七奈心』です。暁と同じ大学に通っているの」
「ど、どうも、初めまして。私は『橘』です。ここの従業員やってます」
どうにも早く会話を終わらせたくて、しかもフルネームを言うのもなんとなく抵抗があったので名字だけで挨拶すると、七奈心さんはジッと私の顔を見つめている。
「あなたの事は暁から聞いて知っていたの。実際、会ったのは今日が初めてね。暁が職場に顔を出すのを とても嫌がるから、なかなかこちらに来ることが出来なくて。でもやっと暁の自慢の可愛い妹に会えて嬉しいわ。私、ずっと貴女に会ってみたかったの」
「そ、そうですか。でも私は自慢の妹なんてものじゃないですよ? ただのバイトの後輩ってだけですから」
「あらあら、それじゃあ暁が可哀想ね。自分は弟しかいないから可愛い妹が出来たって、すごく喜んでいたのに」
「はは、そうなんですね。いつも暁さんに逆らってばかりだから、可愛くもなにもないですけどね」
ーーはい? 私に会いたかったって、どういう事? 暁さん、自分のカノジョに私の事、なんて言ってるの?
実はすごく居心地が悪くて仕方がない。
先ほど暁さんの七奈心さんへの態度や早智さん達から聞いていた二人の不仲説のせいもあって、男女間のトラブルには絶対に巻き込まれたくないので、とにかく暁さんと私はバイトの先輩後輩のなにものでもない事をひたすらアピールする。
すると私との会話に何か引っ掛かったのか、七奈心さんの表情に陰りが浮かぶ。
「………そう、暁に。すごいわね。 彼、頑固だから中々融通がきかないでしょ? しまいには怒って拗ねてしまうし、結局はこちらが折れるしかないのよね」
「え? そうなんですか?」
七奈心さんの言う暁さんの相違にきょとんとする。
確かに暁さんって頑固で融通のきかないところもあるけれど、大抵、私が怒ると折れるのは暁さんの方なんだけどな。
「ええ、いつも。………貴女には違うの?」
七奈心さんの表情に更に陰りが見えて、慌てて首を横に振る。
「い、いえ、確かに暁さんって頑固で融通ききませんよね。しかもすぐ怒るし、全くもって同感です。暁さんって大人なのに、どこか子供っぽい所ありますもんね」
すると七奈心さんはクスッと笑う。
「そうね。男性って大人になっても意外に子供っぽさが抜けないみたい。だからかな、歳の離れた高校生とも仲良くなれるなんて、うらやましいわ。
私は年下の子とは中々 話が合わなくて。だから安藤さんや猪倉さんが貴女と仲良くしているのを見て、私がつまらない大人だったんだなって実感しちゃった」
「つまらないなんて、そんな事ないですよ。その、矢辺さんはすごく落ち着いていて大人で、暁さんとはお似合いだと思います」
「ふふ、ありがとう。あなたはすごく優しい人ね。私もあなたを『タマちゃん』って呼んでもいいかな? みんなが そう呼んでいるから耳慣れしてしまって」
「は、はい。私も そう呼ばれた方が違和感ないです」
なんで私、暁さんのカノジョと こんなに長い会話をしているんだろ? できれば早く切り上げたいのに、タイミングが まるで出てこない。
しかもどんどん親しげな感じになっていくし、さすがに暁さんのカノジョと親しくなるわけにはいかないよ。だって面倒事の香りがプンプンするんだもん。
「ありがとう。だけど、こうしてタマちゃんに会ってみて驚いたわ。 タマちゃんって美人な上にスタイルも良くって、まるでお人形みたいに綺麗な子なんですもの。暁が自慢するのも納得するわ。本当に可愛い人ね」
「いえ、いえ、そんな事ないです。 美人どころか ズボラで適当だし、スタイルだってただ図体がデカいだけの胸無し女だし、頭の中も全然子供だし、
それに比べて矢辺さんは落ち着いていて清楚で可愛いしスタイルもいいし、優しい大人の女性ですごく素敵な人だと思います。しかも暁さんには勿体無いくらい素晴らしいカノジョさんですよ」
ーーああ~私、また余計な事、言ってる。また いい子ぶりっ子してるって思われたらどうしよう?
だけど口が勝手に動いちゃう。 早智さんと綾乃さんがここに来てくれれば助かるのに。うぅ~どうして誰も こっちのトイレ使わないの?
「………本当に そう思う?」
「え?」
七奈心さんの言葉に思わずドキリとする。
「暁は貴女がすごくお気に入りのようね。暁のあんな楽しそうな顔、久しぶりに見たわ。しかも、とても仲が良さそうで、暁はあなたをすごく大事にしているみたい」
「そ、そんな事ないです! 暁さんは いつも私を子供扱いしていて、きっと私の事は手が掛かる小さな子供だと思っているんです! だから変な誤解しないで下さいね?」
「ーー変な誤解って?」
そんな七奈心さんの表情は口許は笑っているのに、目が笑ってはいない。
ーーひえぇ、なんか地雷でも踏んだ? しかも七奈心さん顔は普通に笑顔だけど雰囲気が妙にピリピリしていて怖いよ。
これって、もしかして じゃなくても『嫉妬』ってやつ!? 暁さんと私に??
「あ、いや、その誤解っていうのは、私は暁さんのバイトの後輩で妹みたいなもので、大事にしてるなんて とんでもない。だから私なんかよりも自分のカノジョの方がよっぽど大事だと思いますけど?」
すると七奈心さんの顔から笑顔が消え、険しい表情で一瞬だけ私を睨む。
ーーああっ! これは完璧に地雷踏んだ!! 私のこの余計な口が今更ながら、すっごく憎いっつ!!
しかし七奈心さんは確実に怒っていると思うのに、声を荒げる事もなく淡々とした口調で話を続ける。
「………タマちゃんは暁の事、どう思っているの?」
こんな状況でもまだ『タマちゃん』とか呼ぶんだなと思いつつ、これ以上、七奈心さんの神経を逆撫でさせないように慎重に言葉を選ぶ。
「どうって、ただのバイト先の先輩の お兄さんですよ?」
「そうじゃなくって、“好きか嫌いか”って事を聞きたいの」
淡々と質問しながらも私をジッと見つめる七奈心さんが怖くて仕方がない。
ーーなんかこういうのって俗にいう『タイマン勝負』いや『修羅場』とか言うのかな? しかも なんで私?って言いたいけど、元はといえば暁さんと七奈心さん二人の問題なのに。
「好きか嫌いかと聞かれれば、好きですよ。恋愛感情は抜きにしてですけど」
多分、七奈心さんが聞きたいのは、私が暁さんに対して恋愛感情があるかないかって事だろう。勿論、乙女ゲーのキャラにしか恋心が持てない私にとっては愚問な質問だ。
しかし暁さんの事は恋愛抜きにしてもすごく大好きなので、たとえ嘘でも嫌いなんて絶対に言いたくない。
すると七奈心さんは小さくため息をついた。
「………そう。だけど、もしも暁が貴女を“好き”だと言ったらどうするの?」
「どうするもなにもないです。そもそも質問の意味が分かりません。 逆に どうしてそんな事を私に聞くんですか?」
さっきから七奈心さんの質問がまだるっこしくて苛々する。こっちは違うって始めっから言ってるのに、まるで浮気の証拠を執拗に探すかのような態度にウンザリしてしまう。
なので私もつい苛々した強い口調で返してしまったが、こちらの生意気な態度に対しても、七奈心さんは意に介した様子はない。
「分からない? それともわざと分からないふりをしているとか? だとしたら、あなたも相当したたかね」
そう言って七奈心さんはクスッと挑発的とも取れる笑いを小さく洩らす。
それには、さすがにカチンときた。一体なんなんだ?この人。そもそも自分と暁さんの男女間の問題だろうに。
その暁さんが私と浮気してたんならいざ知らず、全くの事実無根の疑いでバイト先の先輩と仲良くしただけで、なんでこっちにいちいち言うかな。暁さん本人に直接、確かめればいい話じゃんか! 実際、恋人同士なんだしさ。
ーーこの人、話していて思ったけど、早智さんや綾乃さん達と違って、すごく女、女していて、なんか嫌だな。
一見清楚で大人しそうに見えるけれど、実はかなり嫉妬深いとか、ここは少女漫画の世界かってんだ!
他人の好みを とやかく言いたくないけどさ、暁さん、こういうタイプが好みなの? 私が男だったら、いくら外見が可愛いくても中身が粘着体質なんて絶対にお断りだな。
「その言葉、そっくりそのままお返しします。暁さんとあなたの問題に全く関係のない私を巻き込まないで下さい。ハッキリ言って迷惑です。これ以上、あなたと話す事はないので、もう失礼します」
ーー生意気でも なんでもいい。 暁さんに告げ口するならすればいい。 私も過去の出来事からメンタル面においては、かなり強くなった。
あの当時は同性との喧嘩慣れしていなかった事もあって、言いたい事のほとんどが言えずに一方的にダメージを食らっていただけだった。
それで後々に知った事だが、そんな私のせいで弟の康介にもかなり迷惑を掛けた。
だから、たとえこの場で七奈心さんに罵られようが肉弾戦になろうが、私も負ける気は全くないので、来るならどんと来いや!! と 内心ファイティングポーズで意気込んでいると、
ところがどっこい、七奈心さんは罵るどころか、いきなりボロボロと涙を流し始めたではないか。
ーーな、なんで?? 先に喧嘩をふっかけて来たのは、そっちの方なのに?
【8ー続】
取り敢えず、先ほど緋色くんが着替えていた部屋に行ってみるも、どうやらこちらには居なかったので、姿を探しつつ途中で女子トイレに入って用を足していると、そこに思いもよらない人がトイレに一人で入ってきた。
ーーえ? 七奈心さん!?
会場の近くにもトイレがあるのに、しかもこちらはお店の入口近くで離れた場所にあるトイレだ。
どうして、わざわざ こっちのトイレに来たのだろう?
いや、たまたま向こうのトイレが満員だったから空いている こっちに来たんだろうけれど、それにしても こんなタイミングで出くわすなんて、なんか嫌だな。
そう思って急いで手を洗い、一応 七奈心さんに軽く会釈をしてトイレを出ようとすると、その七奈心さんからいきなり呼びとめられた。
「ね、タマちゃんーーだったかしら? こんにちは」
「は? はい。 こんにちは」
な、なんで 呼びとめるの?
私はすぐにでもここを出て行きたかったが、呼び止められてしまったからには無視する事も出来ず、仕方なしに振り返ると、七奈心さんはニッコリと微笑んでいる。
そんな七奈心さんは淡いピンクと白の花柄のワンピースにレース調のカーディガンを羽織っている。
そしてセミロングのストレートの黒髪で、口元に小さな黒子があり、レースの白い日傘が似合いそうな清楚な お嬢様風の大人しい感じの可愛らしい女性だ。
そして確かに噂通り胸が大きいーーって、どこを見てる! 私!!
「先ほどは、ご挨拶もしないでごめんなさいね。初めまして、私は『矢辺 七奈心』です。暁と同じ大学に通っているの」
「ど、どうも、初めまして。私は『橘』です。ここの従業員やってます」
どうにも早く会話を終わらせたくて、しかもフルネームを言うのもなんとなく抵抗があったので名字だけで挨拶すると、七奈心さんはジッと私の顔を見つめている。
「あなたの事は暁から聞いて知っていたの。実際、会ったのは今日が初めてね。暁が職場に顔を出すのを とても嫌がるから、なかなかこちらに来ることが出来なくて。でもやっと暁の自慢の可愛い妹に会えて嬉しいわ。私、ずっと貴女に会ってみたかったの」
「そ、そうですか。でも私は自慢の妹なんてものじゃないですよ? ただのバイトの後輩ってだけですから」
「あらあら、それじゃあ暁が可哀想ね。自分は弟しかいないから可愛い妹が出来たって、すごく喜んでいたのに」
「はは、そうなんですね。いつも暁さんに逆らってばかりだから、可愛くもなにもないですけどね」
ーーはい? 私に会いたかったって、どういう事? 暁さん、自分のカノジョに私の事、なんて言ってるの?
実はすごく居心地が悪くて仕方がない。
先ほど暁さんの七奈心さんへの態度や早智さん達から聞いていた二人の不仲説のせいもあって、男女間のトラブルには絶対に巻き込まれたくないので、とにかく暁さんと私はバイトの先輩後輩のなにものでもない事をひたすらアピールする。
すると私との会話に何か引っ掛かったのか、七奈心さんの表情に陰りが浮かぶ。
「………そう、暁に。すごいわね。 彼、頑固だから中々融通がきかないでしょ? しまいには怒って拗ねてしまうし、結局はこちらが折れるしかないのよね」
「え? そうなんですか?」
七奈心さんの言う暁さんの相違にきょとんとする。
確かに暁さんって頑固で融通のきかないところもあるけれど、大抵、私が怒ると折れるのは暁さんの方なんだけどな。
「ええ、いつも。………貴女には違うの?」
七奈心さんの表情に更に陰りが見えて、慌てて首を横に振る。
「い、いえ、確かに暁さんって頑固で融通ききませんよね。しかもすぐ怒るし、全くもって同感です。暁さんって大人なのに、どこか子供っぽい所ありますもんね」
すると七奈心さんはクスッと笑う。
「そうね。男性って大人になっても意外に子供っぽさが抜けないみたい。だからかな、歳の離れた高校生とも仲良くなれるなんて、うらやましいわ。
私は年下の子とは中々 話が合わなくて。だから安藤さんや猪倉さんが貴女と仲良くしているのを見て、私がつまらない大人だったんだなって実感しちゃった」
「つまらないなんて、そんな事ないですよ。その、矢辺さんはすごく落ち着いていて大人で、暁さんとはお似合いだと思います」
「ふふ、ありがとう。あなたはすごく優しい人ね。私もあなたを『タマちゃん』って呼んでもいいかな? みんなが そう呼んでいるから耳慣れしてしまって」
「は、はい。私も そう呼ばれた方が違和感ないです」
なんで私、暁さんのカノジョと こんなに長い会話をしているんだろ? できれば早く切り上げたいのに、タイミングが まるで出てこない。
しかもどんどん親しげな感じになっていくし、さすがに暁さんのカノジョと親しくなるわけにはいかないよ。だって面倒事の香りがプンプンするんだもん。
「ありがとう。だけど、こうしてタマちゃんに会ってみて驚いたわ。 タマちゃんって美人な上にスタイルも良くって、まるでお人形みたいに綺麗な子なんですもの。暁が自慢するのも納得するわ。本当に可愛い人ね」
「いえ、いえ、そんな事ないです。 美人どころか ズボラで適当だし、スタイルだってただ図体がデカいだけの胸無し女だし、頭の中も全然子供だし、
それに比べて矢辺さんは落ち着いていて清楚で可愛いしスタイルもいいし、優しい大人の女性ですごく素敵な人だと思います。しかも暁さんには勿体無いくらい素晴らしいカノジョさんですよ」
ーーああ~私、また余計な事、言ってる。また いい子ぶりっ子してるって思われたらどうしよう?
だけど口が勝手に動いちゃう。 早智さんと綾乃さんがここに来てくれれば助かるのに。うぅ~どうして誰も こっちのトイレ使わないの?
「………本当に そう思う?」
「え?」
七奈心さんの言葉に思わずドキリとする。
「暁は貴女がすごくお気に入りのようね。暁のあんな楽しそうな顔、久しぶりに見たわ。しかも、とても仲が良さそうで、暁はあなたをすごく大事にしているみたい」
「そ、そんな事ないです! 暁さんは いつも私を子供扱いしていて、きっと私の事は手が掛かる小さな子供だと思っているんです! だから変な誤解しないで下さいね?」
「ーー変な誤解って?」
そんな七奈心さんの表情は口許は笑っているのに、目が笑ってはいない。
ーーひえぇ、なんか地雷でも踏んだ? しかも七奈心さん顔は普通に笑顔だけど雰囲気が妙にピリピリしていて怖いよ。
これって、もしかして じゃなくても『嫉妬』ってやつ!? 暁さんと私に??
「あ、いや、その誤解っていうのは、私は暁さんのバイトの後輩で妹みたいなもので、大事にしてるなんて とんでもない。だから私なんかよりも自分のカノジョの方がよっぽど大事だと思いますけど?」
すると七奈心さんの顔から笑顔が消え、険しい表情で一瞬だけ私を睨む。
ーーああっ! これは完璧に地雷踏んだ!! 私のこの余計な口が今更ながら、すっごく憎いっつ!!
しかし七奈心さんは確実に怒っていると思うのに、声を荒げる事もなく淡々とした口調で話を続ける。
「………タマちゃんは暁の事、どう思っているの?」
こんな状況でもまだ『タマちゃん』とか呼ぶんだなと思いつつ、これ以上、七奈心さんの神経を逆撫でさせないように慎重に言葉を選ぶ。
「どうって、ただのバイト先の先輩の お兄さんですよ?」
「そうじゃなくって、“好きか嫌いか”って事を聞きたいの」
淡々と質問しながらも私をジッと見つめる七奈心さんが怖くて仕方がない。
ーーなんかこういうのって俗にいう『タイマン勝負』いや『修羅場』とか言うのかな? しかも なんで私?って言いたいけど、元はといえば暁さんと七奈心さん二人の問題なのに。
「好きか嫌いかと聞かれれば、好きですよ。恋愛感情は抜きにしてですけど」
多分、七奈心さんが聞きたいのは、私が暁さんに対して恋愛感情があるかないかって事だろう。勿論、乙女ゲーのキャラにしか恋心が持てない私にとっては愚問な質問だ。
しかし暁さんの事は恋愛抜きにしてもすごく大好きなので、たとえ嘘でも嫌いなんて絶対に言いたくない。
すると七奈心さんは小さくため息をついた。
「………そう。だけど、もしも暁が貴女を“好き”だと言ったらどうするの?」
「どうするもなにもないです。そもそも質問の意味が分かりません。 逆に どうしてそんな事を私に聞くんですか?」
さっきから七奈心さんの質問がまだるっこしくて苛々する。こっちは違うって始めっから言ってるのに、まるで浮気の証拠を執拗に探すかのような態度にウンザリしてしまう。
なので私もつい苛々した強い口調で返してしまったが、こちらの生意気な態度に対しても、七奈心さんは意に介した様子はない。
「分からない? それともわざと分からないふりをしているとか? だとしたら、あなたも相当したたかね」
そう言って七奈心さんはクスッと挑発的とも取れる笑いを小さく洩らす。
それには、さすがにカチンときた。一体なんなんだ?この人。そもそも自分と暁さんの男女間の問題だろうに。
その暁さんが私と浮気してたんならいざ知らず、全くの事実無根の疑いでバイト先の先輩と仲良くしただけで、なんでこっちにいちいち言うかな。暁さん本人に直接、確かめればいい話じゃんか! 実際、恋人同士なんだしさ。
ーーこの人、話していて思ったけど、早智さんや綾乃さん達と違って、すごく女、女していて、なんか嫌だな。
一見清楚で大人しそうに見えるけれど、実はかなり嫉妬深いとか、ここは少女漫画の世界かってんだ!
他人の好みを とやかく言いたくないけどさ、暁さん、こういうタイプが好みなの? 私が男だったら、いくら外見が可愛いくても中身が粘着体質なんて絶対にお断りだな。
「その言葉、そっくりそのままお返しします。暁さんとあなたの問題に全く関係のない私を巻き込まないで下さい。ハッキリ言って迷惑です。これ以上、あなたと話す事はないので、もう失礼します」
ーー生意気でも なんでもいい。 暁さんに告げ口するならすればいい。 私も過去の出来事からメンタル面においては、かなり強くなった。
あの当時は同性との喧嘩慣れしていなかった事もあって、言いたい事のほとんどが言えずに一方的にダメージを食らっていただけだった。
それで後々に知った事だが、そんな私のせいで弟の康介にもかなり迷惑を掛けた。
だから、たとえこの場で七奈心さんに罵られようが肉弾戦になろうが、私も負ける気は全くないので、来るならどんと来いや!! と 内心ファイティングポーズで意気込んでいると、
ところがどっこい、七奈心さんは罵るどころか、いきなりボロボロと涙を流し始めたではないか。
ーーな、なんで?? 先に喧嘩をふっかけて来たのは、そっちの方なのに?
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