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第2部
【5】妄想女の擬似デート?⑤(~店内、康介TEL)
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【5ー⑤】
私は自分の格好がどうにも気恥ずかしくて落ち着かず、つい勢いで自分の格好の良し悪しを奏に確認してしまったが、よくよく考えれば優しい奏の事だ。
たとえ私がTシャツ、ジーンズで髪型と ちぐはぐな格好であっても私に気を遣って変じゃないと言うに決まっているのに、尚更奏に気を遣わせて、どうする私!
そして奏からは勿論、私が予想していた通りの言葉が返ってくる。
「全然変じゃないです。よく似合っていますよ?それにお姉さんは何を着ても似合うから心配しなくても大丈夫です。すごく可愛い」
そう言って、王子様スマイルでニッコリと微笑む奏の視線に耐えられず、私は片頬をポリポリと掻きながら視線を逸らして顔の筋肉が勝手に動いて変顔になりそうなのを何とか堪える。
「そ、そっか、いや、奏が嫌じゃないならいいんだよ、うん。
ーーへへ、ありがとうね。でも、そんな事言われたら お姉さん! 調子に乗っちゃうよ~!?
よおっし! 今日は奏の お願い何でも聞いちゃう! 今日はドォーンと、お姉さんに甘えなさい?」
か、可愛いって、社交辞令だとは分かっていても、そんな風にストレートに言われるとは恥ずかしいっ! 奏は普通に言ってるケド、恥ずかしくないんかね?
う~ん、さすが天然、恐ろしや~
私は気恥ずかしい雰囲気を誤魔化す為に先ほど考案した便利な おどけ作戦で えっへん!
ーーとばかりに自分の胸を叩いて年上の威厳を強調すると、そんな私を見て奏は片手の拳で口許を隠して小さく笑う。
「クスッ、………ホントに? “なんでも”だなんて、そんな簡単に言ってしまってもいいんですか? そんな事を言われたら逆に俺の方が調子に乗るかもしれませんよ?」
ーードッキーン
不覚にも私の心臓が大きく鼓動を打つ。奏が突如として、とても16歳の少年とも思えない大人の雰囲気を醸し出して、意味深な口調でそんな事を言うものだから生理的に心臓が跳ねてしまった。
今まで、ずっと子供だったのに いきなり『大人モード』とか、いったい、どこでそんな小技を覚えたんだ!?
まさか!? 康介が奏に変な事を吹き込んでいるのでは?
ーーいや、でもアイツの場合は、それ以前に部活バカで女の子に全く興味ないからな~
ーーまあ、私も現実的には人の事言えないケド………
「え~っと、いや、その、なんだ? “なんでも”とは言ったけど、やっぱり出来ない事もあるんで そこは察してもらって、お手柔らかにお願いします……」
私はゴニョゴニョと気まずそうに言いながらペコリと頭を軽く下げると、やはり奏はクスクスと笑っている。
あーやっぱり、からかわれてたのか? 年下コノヤローー!!
「クスッ、分かりました。 じゃあ、早速、一つめのお願い聞いて貰おうかな?」
「え? 早速??」
お手柔らかにーーと言っている側からいきなりお願いだとぉ!?
私は奏の言葉に先ほど心臓が跳ねたばかりという事もあり、内心動揺しつつも何をお願いされるのかと思わず身構える。
「今日の記念に一緒の写真を撮ってもいいですか?」
「へ? 写真??」
身構えてた割りには大した事のないお願いに私は正直にも大きく安堵してしまう。
「はい。お姉さんと一緒に写っている写真は小学生の頃のしか持っていないので、今現在のも欲しいなって。………駄目?ですか?」
何故か、たったそれしきの事で恐る恐る伺いを立てる奏に私はオバちゃん仕草の如く、奏の腕をバンバンと叩いて笑う。
「あはは、そんなのお安いご用だよ。何を言うのかと思えば そんな簡単な事ーー
でも そうだねぇ、言われて見れば奏と写真を撮ったのって小学生くらいまでだっけ?
う~ん、そっかぁ、そう言えば私が中学生になってからは写真なんて殆ど撮らなくなったからな~
しかも家族写真なんて康介自体も すごく嫌がるしね。だけど『記念』って言っても一緒に買い物に来ただけなのに、そんなのでもいいの?」
すると奏は、そんな私の反応にホッとしたように嬉しそうな表情を浮かべる。
「はい。お姉さんと二人で初めて一緒に出掛けた『記念』なので、形に残せる事が すごく嬉しいです」
ーーううっ、奏の笑顔が か、カワイイ。………『乙女』だ。奏が『乙女』に見えるっ!!
「ーーは、ははは、そっかぁ、奏は『記念日』を大切にするタイプだったんだねぇ。 私なんてテキトーだからさ、そういうの全く気にした事ないや。なんか私達って男女逆転してるよなぁ。
ーーんじゃ、まあ、時間も あまり無い事だし、取り敢えず行動しよっか?」
ーーと、私は奏を引き連れて康介曰く『擬似デート』とやらをする事になったわけで、内心は一抹の不安を抱えつつも私達は店内へと足を踏み入れた。
*****
「あ、あの~か、奏? ホ、ホントに この状態で撮るの??」
私は既に言葉にも隠しきれずに只今めちゃくちゃ動揺しまくっている。
しかし奏の方は、そんな私とは真逆と言ってもよいほどに全く気にした様子もなく平然としている。
「はい。こうしないと画面に入りきらないんで。
ーーごめんなさい。少しの間だけ体に触ってしまいますが、我慢してもらっていいですか?」
「う、うん」
そういう私達は奏のお願いでもある『記念写真』を撮ろうとしている状況なのだが、
それは私が想像していた『記念写真』の撮影とは大きく違っていて、言うなれば現代の若者らしい撮影の仕方に、先ほど安易に快諾した事を少しだけ後悔する。
ーーそうだった。今時の若者はスマホで誰かと一緒に写真を撮るスタイルは大概、こうだ。
一応、私も今時の若者で、しかも青春真っ只中のJKなはずだが、このように異性と密着した状態で写真を撮った事など全く無く、
しかも自分の認識では『記念写真』というのは、思い出に残りそうな背景を背に一緒に並んでいる所を誰かに撮って貰うものだと思っていたので、
この予想外の展開には私が動揺してしまうのも無理はないと思う。
それも私達は今、店内に設置してある休憩用のベンチに隣同士で仲良く座って沢山の人間が行き交う中で奏のスマホで写真の自撮りをするという状況だ。
私としては人の良さそうな通行人に頼んで写真を撮って貰おうと提案したのだが、
奏の方がさすがに知らない人に頼むのは恥ずかしいと言うので、結局、奏の意思を尊重した結果、こういう事になってしまったわけだが、
私も たかが『記念写真』一枚と安易に快諾した事が、まさかこんなに心臓に悪い事になるとは思い浮かびもしなかった。
いざ、写真を撮ろうと店内のベンチに座ったものの、画面に入りきらないという事で、
私は奏に肩を抱かれた状態で二人の体が更に密着している上に、お互いの顔の位置も近いので、万が一、奏の顔に眼鏡が当たって怪我をさせるといけないと思い、眼鏡は外した状態ではあったが、
そうすると今度は至近距離で直接 裸眼に奏の首筋の肌が飛び込んでくるわで私の精神状態は、まさに大パニック!
心臓が忙しなく阿波おどりを踊っている。エライヤッチャ!!
………いや、違うか。全然 平気じゃないからこっちだ! えらいこっちゃ!!
しかも、もうこれは『カップル撮り』では?
ーーみたいな気分さえしてきて、とにかく自分でもわけが分からないくらいに動揺が激しい。
奏とは幼い頃から一緒に育ってきた私の『弟』のような存在ではあるものの、
そんな奏に腕を掴まれた時にも思ったが、実際、ずっと側で見てきているので外見の成長は弟、康介と同様、日々 成長しているのは分かっていたけれど、本当のところは私自身があまりよく分かっていなかったらしい。
だから、こんな風に触れられると自分と奏の体の違いをいやが応にも認識させられた上に、しかし自分の中では奏はずっと子供のままで止まっているので、あまりのギャップの差に思考がまるで追い付いてこない。
ーーこらっ! 珠理!! しっかりしなさいっ!? 奏は『弟』!! 康介と同じ『弟』だよ!?
奏は泣き虫で甘えん坊だった幼稚園児の頃から ずっと見てきた可愛い『弟』じゃんか!それなのに『弟』意識してどーすんの!! 奏は私を自分の『姉』として純粋に慕ってくれているのに。
今のこの状況にしたって言うなれば、家族のスキンシップ! 断じて『カップル撮り』なんかじゃないから! それに よく考えたら家族だって密着する事もあるじゃん!
康介との喧嘩で取っ組み合いになる事もたまにあるし、そんな康介にいくら触れられたってドキドキなんかするか? 寧ろ、超ムカつく!!
それに、こういうのは『友達撮り』という場合もあるんだよ。だから こんな密着なんて満員電車の人混みと同じで大した事でもないのに勝手に勘違いしてドキドキしてる自分の心臓、はっきり言ってスッゴい馬鹿じゃん! ははん、もう笑っちゃうね!
そんな私が内心 叫びながら必死で平常心を呼び戻そうとしているのに、一方の奏は本当に憎らしいくらいに普通である。
ーーああ、くっそ! こんなに胸がドキドキして動揺しているのが私だけだなんて、なんだかスッゴく悔しぃ!! お前も少しは動揺せんか! コノヤローっつ!
「ーーじゃあ、撮りますね。 珠里さん、笑って?」
カシャッ
スマホのカメラのシャッター音が聞こえる。
「ーーうん。いい感じに撮れました。どうですか?」
そして今しがた撮ったばかりの画像を奏に見せられて、そこには、まるでカップルにしか見えないような笑顔の二人の顔がある………
「うん。いいんじゃない? 『記念写真』というには背景ないし、どこで撮ったかなんて、もう分かんないケドね。
ーーでも、ま、キレイに撮れてるし こんなもんでしょ?」
私は内心の動揺をとにかく、ひた隠しにしてあくまで年上の余裕をかまして言ってはみたものの、
先ほどはまた意表をつかれて名前で呼ばれたので思わず顔が勝手にニッコリと笑ってしまった。
そんなスマホの写真画像に写った自分の顔は いつもの見慣れた姿ではないという事もあるのか同じ顔でも、とても自分とは思えない違和感がある。
そして私がその画像を見つめながら思った感想はーーー
………誰これ?
そうして奏から撮った写真を自分のスマホにも送信してもらった後、奏が大きく息をつく。
「お姉さん、写真ありがとうございます。だけど実はすごく緊張しました。お姉さんと一緒に写真を撮るというのは、どうにも心臓に悪いですね。正直、まだ心臓がバクバクいってます」
「えっ?」
そう言って自分の左胸に手を当てて そこで初めて気恥ずかしそうに、はにかみながら笑う奏に、私は目を丸くして自分の耳を疑う。
「ウッソだあ~ だって奏は私とくっついてても平然としていて普通に接してたじゃん。そんな緊張してたとか、全然見えなかった」
「そんな事ないです。お姉さんに触っていて緊張しないわけがないじゃないですか。
だけど男としては緊張している所を見せるのはなんか格好悪くて、それで部活の練習の事とか全く違う事を考えながら、あくまで平静を装って、なるべく表情に出ないようにカッコつけてただけです。
ウソだと思うなら確かめてみて下さい」
言うなり奏はいきなり私の手を取ると、その手を自分の左胸に押し当てた。
「か、奏!?」
私は驚いて慌てて自分の手を引っ込めようとするも、その手は奏に手首を掴まれたまま引っ込めること自体を阻止されている。
「ーー分かりますか? 今もずっとドキドキしているでしょう?」
そして奏の言う通り彼の左胸に当てられた私の手には早鐘を打ち続ける奏の心臓の鼓動がはっきりと伝わってくる。
「わわ、分かった! ウソじゃないのは もう十分に分かったから! だから、あの、手を離してくれないかな? ええっと、ほら、周りに人が沢山いるしその、恥ずかしいからさ………」
私があわあわしながら そう言うと、奏はやっと私の手首を離してくれた。そして その手首には奏の長い指の痕がうっすらと赤く残っていて、
私は思わず、くるりと奏から背を向けて何となしに掴まれていた手首を隠しながら、自分の胸の辺りを押さえるようにしてギュッと拳を握りしめる。
ううっ………これマジ、ヤバい。………し、心臓が爆発する。
奏のドキドキどころの話じゃない! 私の心臓の方がドキドキしっぱなしで、このままでいったら、きっと心臓、爆発する!! それに手首に男の指の痕なんて、なんかエロくない?
しかも私は『現実世界』の男に免疫が無い分、こういったリアルな乙女ゲーのイベント的要素は自分の心臓に直に受けるダメージが、かなりデカいという事が分かってしまったよ
………うう~奏のバカ!「お手柔らかに」って言ったじゃん!
それにしても意外にも奏って積極的だったんだ………大人しいからずっと受け身タイプだと思ってた。
それはともかく何だか、ここ最近の奏の様子がおかしい? ーーいやいや、おかしいとかじゃなくって本当に急に大人になったというか『男』っぽくなったというかーーー
ーーって言うかさ、奏だってもう16歳の高校生なんだよ? 『男』っぽくなるのは当ったり前じゃん!
いつまでも子供だと思っていたのはピーターパンの私だけかーーー
「お姉さん! ごめんなさい! 怒ってますよね? いきなり手首を掴むなんて乱暴な真似をしてすみません!! 大丈夫ですか!? 手首、痛めてませんか!?」
私のそんな様子に奏が慌てて心配そうな表情で謝罪するので、私は奏に向き直ると、掴まれた手首の方を招き猫のように手前に振りながら、あっけらかんと笑う。
「あはは、大丈夫だって。あんなの乱暴な内になんか入んないよ。まあ、ちょっと驚いたケドね。でも全然怒ってなんかないよ? 大丈夫、大丈夫。
ーーそれよかさ、写真も無事撮った事だし、次は私の買い物に付き合って? それで奏に服を見立てて欲しいんだよ。ほら、自分の好みで選ぶと絶対に康介にバカにされるもん。
それが終わったら奏の番ね? そんでもって一緒にお茶しよう!」
私は再びバッグから眼鏡を取り出して装着すると、まだ心配げな表情を浮かべている奏の背中を後ろからグイグイと強引に押しながら歩を先に進めるように促す。
そして奏が気にしないように極めて明るく振る舞いながらも心の中ではーーー
ーーこんな調子で私って果して今日一日、生きていられるかな? ーー心臓、無事だといいケド………
そして特に ーーこぉ~すけぇぇぇぇ~~帰ったら覚えてろーーー!!
*****
ーー橘家自宅。 康介部屋ーー
「ーーふあっ、ふあっ、ーーぶああっくしょーーん! ああ~なんだよ、さっきから くしゃみが出んぜ。 しかも悪寒までしてきたような………
あ~~こりゃ、きっと姉ちゃんだな。
ーー帰ってきたら、うるせぇから今晩は奏んちに避難すんべ。そうと決まれば紗菜さんに電話、電話っとーーー」
ーートゥルルル、トゥルルー…
『はいは~い。モシモシ? 康ちゃん?』
「ーーあ、紗菜さん? うんとさ、突然だけど、今晩泊まりに行ってもいい?」
『まあぁ! 嬉しい! じゃあ、今晩のお夕飯は康ちゃんの大好きな、すき焼きにするわね。うふふ、今日はお肉、奮発しちゃう!』
「うおっ、ホント? ラッキー!!」
『ーーあれ? そういえば奏は? 康ちゃんと一緒よね?』
「フッーー 紗菜さん。聞いて驚け! 奏は今、ウチの姉ちゃんとモールで“初デート”中だ!」
『………………ウソ』
「いや、ホント」
『……………マジで?』
「おお、マジも激マジ!」
『……………………』
「紗菜さーーー?」
『きゃあああああああっ!! ホント!? ホントにっ!!?』
「ち、ちょっ!! 紗菜さん声デケェ! 鼓膜破れんベ」
『ご、ごめん。ーーでもホントにっ!? ああっ、ウソみたい! あの二人が『デート』だなんて!! もう、あの子ったら、ようやく珠里ちゃんの心をゲットしたのね? ほんっと、奥手なんだからっ!
このまま珠里ちゃんが社会人になっちゃったら、ますますあの子の不利になるのに、こっちの方がやきもきしちゃうじゃない!
でも これでやっと珠里ちゃんがウチのお嫁さんにきてくれるのね。そうだ! 早速、二世帯住宅の計画を立てなきゃ!!』
「ちょ~っち、待て待て!! 早まんな! あの二人、まだそこまでの仲じゃねーし付き合ってもいねーよ。
しかも姉ちゃんはまだ『あっちの世界』の住人だ。 本人も何にも変わっちゃいねぇ。 ーーっつーか、年々 病でんな、ありゃ」
『ええぇ~っ!! 違うのぉぉ!? だって康ちゃんが『デート』だって言うから、てっきり二人がくっついたんだと思って……』
「そんな簡単にくっつくわけねーだろ? あの二人、超めんどくせー奴等だぞ? しかも姉ちゃんは筋金入りの変人だ。
ーーなあ、紗菜さん。ホントにあんなの息子の嫁に欲しいんか? ウチの母さんでさえ手ぇ焼いてんだぜ? 姉ちゃんの数々の失敗談、母さんから色々聞いてんだろ?」
『うふふ、勿論、ウチの奏のお嫁さんは珠里ちゃんだけよ。他の子なんて絶対に受け入れられないわ。
私ね、珠里ちゃんが大好きなの。ほら、珠里ちゃんって思考が底抜けに明るいし、しっかりしているようで結構うっかりさんだし?
何といっても、やる事なす事がすごく面白い子でしょ? 見てて飽きないというかスッゴく可愛いのよね。
だから、ウチは絶対に珠里ちゃんが欲しいの。
ーーと言う事だから、お願い!! 康ちゃんも二人がくっつくように協力して!?』
「はあ~~分かってるよ。ホント奏は紗菜さんの息子だよなあ、好みのタイプがおんなじ。しかも協力して? ーーとか、それもう耳にタコ。
だから、あの姉ちゃんを上手く言いくるめて今回の『デート』まで誘導したのは なんと言っても俺のファインプレーなんだぜ?
しかも結構、大変だった。第一、あの姉ちゃんに『デート』を認識させるなんて至難の業に近いぜ。
ーーそれでもまあ、あとは奏が上手くやんだろ? ああ見えて結構、頭脳派だからな。
それに、こっちは これだけ お膳立てしてやってんだからアイツにも頑張ってもらわないと困るぜ。
それでも少しも進展しねぇなら、もう正直、将来望み薄だな」
『ふふっ、大丈夫よ、康ちゃん。 奏もやるときはやる男なのよ? 康ちゃんも知ってるでしょ?
それにね~え? 一応奏には18歳になるまでは珠里ちゃんを襲うなとは言ってはあるけど、それでも若いから、もし万が一、一線越えちゃったとしてもウチが全面的に責任持って引き受けるから大丈夫。
ーーって、もう友里ちゃんにも話してあるから康ちゃんも心配いらないからね?
あ、でもこれは康ちゃんのお父さんには絶対にナイショよ? ーーふふっ』
「…………マジか。信じらんねぇな。 母親同士で『押し倒し』公認かよ」
『いいじゃない。遅かれ早かれ珠里ちゃんはウチのお嫁さんになるんだもの。
だから康ちゃんもウチの凛音はどうかしら? 今はまだ小学生だけど、女の子は直ぐに大人になるから大丈夫。
ウチの凛音も中々の器量良しだと思うのよ? 康ちゃんも光源氏みたいに紫の上を育ててみない?』
「ーーふん、『信長』の次は『光源氏』かよ。
紗菜さんには悪りぃが、俺は女の容姿とか、んなもん関係ねぇんだよ。勿論ガキにも全く興味はねーな。 それでも本気にさせてぇなら、俺に凛音を惚れさせてみるんだな」
『きゃああああんっ♡ 康ちゃんってば、やっぱり超イイ男ねぇ!! 電話越しで聞いてたら尚更、腰砕けちゃう♡ さすがは友里ちゃんが自慢するだけあるわぁ~
ウチの奏も康ちゃんくらい『男』らしかったら、珠里ちゃんもイチコロなのに。どうもあの子は好きな子には弱腰なのよねぇ~んっもう!見ていて焦れったいったら!
康ちゃん!! お願いついでに奏にも『男』を教育してやって!?』
「はあぁ~? なんだよ、それ。 んなもん、俺だって分っかんねぇわ。
あのさぁ~紗菜さんとウチの母さんとで二人して何、結託してんのか知んねぇケド、俺達子供に迷惑かけるようなら父さん達に間違いなく報告するからな」
『もぅ~分かってるわよぅ。結託だなんて、そんな悪い事してないもん。康ちゃんの、い、け、ず♡ でも、そういう所もカッコいい~♡』
「………紗菜さんって、どことなくウチの姉ちゃんに似てるよ。だからなんかな? 姉ちゃんが紗菜さんや奏と性格的に相性がいいのは」
『ふふっ、それは康ちゃんもでしょ?
ーーまあ、積もるお話は後でゆっくりしましょ? 実は凛音が後ろでうるさくて
ーー それで何時に来るの? 出来れば一緒に買い出しに付き合ってくれると嬉しいな?』
「うぃ~っす。 んじゃ、16時頃に行くわ。それでいい?」
『yes、no、problem。ーーうふふ、今度は康ちゃんと私と凛音が『デート』する番ね?』
「ーーああ、勿論『擬似デート』だけどな」
『クスッ、もしかして、あの二人って『擬似デート』なの?』
「ーーまあ、詳しい事は息子に聞けば? んじゃあ、今晩お世話になります。ヨロシクお願いします」
『ふふっ、はい。お待ちしてます。 荷物持ちの方はヨロシクね。ーーじゃあ、また後でね?』
プツンーー……
「………さてと、今度は母さんにメールすっか。
………今頃、アイツ等って大丈夫なんかな? 特に姉ちゃん。『現実の男』に あまり“免疫”無ぇみてえだからなぁ。
ーーまあ、死んでなきゃいいケド」
【5ー続】
私は自分の格好がどうにも気恥ずかしくて落ち着かず、つい勢いで自分の格好の良し悪しを奏に確認してしまったが、よくよく考えれば優しい奏の事だ。
たとえ私がTシャツ、ジーンズで髪型と ちぐはぐな格好であっても私に気を遣って変じゃないと言うに決まっているのに、尚更奏に気を遣わせて、どうする私!
そして奏からは勿論、私が予想していた通りの言葉が返ってくる。
「全然変じゃないです。よく似合っていますよ?それにお姉さんは何を着ても似合うから心配しなくても大丈夫です。すごく可愛い」
そう言って、王子様スマイルでニッコリと微笑む奏の視線に耐えられず、私は片頬をポリポリと掻きながら視線を逸らして顔の筋肉が勝手に動いて変顔になりそうなのを何とか堪える。
「そ、そっか、いや、奏が嫌じゃないならいいんだよ、うん。
ーーへへ、ありがとうね。でも、そんな事言われたら お姉さん! 調子に乗っちゃうよ~!?
よおっし! 今日は奏の お願い何でも聞いちゃう! 今日はドォーンと、お姉さんに甘えなさい?」
か、可愛いって、社交辞令だとは分かっていても、そんな風にストレートに言われるとは恥ずかしいっ! 奏は普通に言ってるケド、恥ずかしくないんかね?
う~ん、さすが天然、恐ろしや~
私は気恥ずかしい雰囲気を誤魔化す為に先ほど考案した便利な おどけ作戦で えっへん!
ーーとばかりに自分の胸を叩いて年上の威厳を強調すると、そんな私を見て奏は片手の拳で口許を隠して小さく笑う。
「クスッ、………ホントに? “なんでも”だなんて、そんな簡単に言ってしまってもいいんですか? そんな事を言われたら逆に俺の方が調子に乗るかもしれませんよ?」
ーードッキーン
不覚にも私の心臓が大きく鼓動を打つ。奏が突如として、とても16歳の少年とも思えない大人の雰囲気を醸し出して、意味深な口調でそんな事を言うものだから生理的に心臓が跳ねてしまった。
今まで、ずっと子供だったのに いきなり『大人モード』とか、いったい、どこでそんな小技を覚えたんだ!?
まさか!? 康介が奏に変な事を吹き込んでいるのでは?
ーーいや、でもアイツの場合は、それ以前に部活バカで女の子に全く興味ないからな~
ーーまあ、私も現実的には人の事言えないケド………
「え~っと、いや、その、なんだ? “なんでも”とは言ったけど、やっぱり出来ない事もあるんで そこは察してもらって、お手柔らかにお願いします……」
私はゴニョゴニョと気まずそうに言いながらペコリと頭を軽く下げると、やはり奏はクスクスと笑っている。
あーやっぱり、からかわれてたのか? 年下コノヤローー!!
「クスッ、分かりました。 じゃあ、早速、一つめのお願い聞いて貰おうかな?」
「え? 早速??」
お手柔らかにーーと言っている側からいきなりお願いだとぉ!?
私は奏の言葉に先ほど心臓が跳ねたばかりという事もあり、内心動揺しつつも何をお願いされるのかと思わず身構える。
「今日の記念に一緒の写真を撮ってもいいですか?」
「へ? 写真??」
身構えてた割りには大した事のないお願いに私は正直にも大きく安堵してしまう。
「はい。お姉さんと一緒に写っている写真は小学生の頃のしか持っていないので、今現在のも欲しいなって。………駄目?ですか?」
何故か、たったそれしきの事で恐る恐る伺いを立てる奏に私はオバちゃん仕草の如く、奏の腕をバンバンと叩いて笑う。
「あはは、そんなのお安いご用だよ。何を言うのかと思えば そんな簡単な事ーー
でも そうだねぇ、言われて見れば奏と写真を撮ったのって小学生くらいまでだっけ?
う~ん、そっかぁ、そう言えば私が中学生になってからは写真なんて殆ど撮らなくなったからな~
しかも家族写真なんて康介自体も すごく嫌がるしね。だけど『記念』って言っても一緒に買い物に来ただけなのに、そんなのでもいいの?」
すると奏は、そんな私の反応にホッとしたように嬉しそうな表情を浮かべる。
「はい。お姉さんと二人で初めて一緒に出掛けた『記念』なので、形に残せる事が すごく嬉しいです」
ーーううっ、奏の笑顔が か、カワイイ。………『乙女』だ。奏が『乙女』に見えるっ!!
「ーーは、ははは、そっかぁ、奏は『記念日』を大切にするタイプだったんだねぇ。 私なんてテキトーだからさ、そういうの全く気にした事ないや。なんか私達って男女逆転してるよなぁ。
ーーんじゃ、まあ、時間も あまり無い事だし、取り敢えず行動しよっか?」
ーーと、私は奏を引き連れて康介曰く『擬似デート』とやらをする事になったわけで、内心は一抹の不安を抱えつつも私達は店内へと足を踏み入れた。
*****
「あ、あの~か、奏? ホ、ホントに この状態で撮るの??」
私は既に言葉にも隠しきれずに只今めちゃくちゃ動揺しまくっている。
しかし奏の方は、そんな私とは真逆と言ってもよいほどに全く気にした様子もなく平然としている。
「はい。こうしないと画面に入りきらないんで。
ーーごめんなさい。少しの間だけ体に触ってしまいますが、我慢してもらっていいですか?」
「う、うん」
そういう私達は奏のお願いでもある『記念写真』を撮ろうとしている状況なのだが、
それは私が想像していた『記念写真』の撮影とは大きく違っていて、言うなれば現代の若者らしい撮影の仕方に、先ほど安易に快諾した事を少しだけ後悔する。
ーーそうだった。今時の若者はスマホで誰かと一緒に写真を撮るスタイルは大概、こうだ。
一応、私も今時の若者で、しかも青春真っ只中のJKなはずだが、このように異性と密着した状態で写真を撮った事など全く無く、
しかも自分の認識では『記念写真』というのは、思い出に残りそうな背景を背に一緒に並んでいる所を誰かに撮って貰うものだと思っていたので、
この予想外の展開には私が動揺してしまうのも無理はないと思う。
それも私達は今、店内に設置してある休憩用のベンチに隣同士で仲良く座って沢山の人間が行き交う中で奏のスマホで写真の自撮りをするという状況だ。
私としては人の良さそうな通行人に頼んで写真を撮って貰おうと提案したのだが、
奏の方がさすがに知らない人に頼むのは恥ずかしいと言うので、結局、奏の意思を尊重した結果、こういう事になってしまったわけだが、
私も たかが『記念写真』一枚と安易に快諾した事が、まさかこんなに心臓に悪い事になるとは思い浮かびもしなかった。
いざ、写真を撮ろうと店内のベンチに座ったものの、画面に入りきらないという事で、
私は奏に肩を抱かれた状態で二人の体が更に密着している上に、お互いの顔の位置も近いので、万が一、奏の顔に眼鏡が当たって怪我をさせるといけないと思い、眼鏡は外した状態ではあったが、
そうすると今度は至近距離で直接 裸眼に奏の首筋の肌が飛び込んでくるわで私の精神状態は、まさに大パニック!
心臓が忙しなく阿波おどりを踊っている。エライヤッチャ!!
………いや、違うか。全然 平気じゃないからこっちだ! えらいこっちゃ!!
しかも、もうこれは『カップル撮り』では?
ーーみたいな気分さえしてきて、とにかく自分でもわけが分からないくらいに動揺が激しい。
奏とは幼い頃から一緒に育ってきた私の『弟』のような存在ではあるものの、
そんな奏に腕を掴まれた時にも思ったが、実際、ずっと側で見てきているので外見の成長は弟、康介と同様、日々 成長しているのは分かっていたけれど、本当のところは私自身があまりよく分かっていなかったらしい。
だから、こんな風に触れられると自分と奏の体の違いをいやが応にも認識させられた上に、しかし自分の中では奏はずっと子供のままで止まっているので、あまりのギャップの差に思考がまるで追い付いてこない。
ーーこらっ! 珠理!! しっかりしなさいっ!? 奏は『弟』!! 康介と同じ『弟』だよ!?
奏は泣き虫で甘えん坊だった幼稚園児の頃から ずっと見てきた可愛い『弟』じゃんか!それなのに『弟』意識してどーすんの!! 奏は私を自分の『姉』として純粋に慕ってくれているのに。
今のこの状況にしたって言うなれば、家族のスキンシップ! 断じて『カップル撮り』なんかじゃないから! それに よく考えたら家族だって密着する事もあるじゃん!
康介との喧嘩で取っ組み合いになる事もたまにあるし、そんな康介にいくら触れられたってドキドキなんかするか? 寧ろ、超ムカつく!!
それに、こういうのは『友達撮り』という場合もあるんだよ。だから こんな密着なんて満員電車の人混みと同じで大した事でもないのに勝手に勘違いしてドキドキしてる自分の心臓、はっきり言ってスッゴい馬鹿じゃん! ははん、もう笑っちゃうね!
そんな私が内心 叫びながら必死で平常心を呼び戻そうとしているのに、一方の奏は本当に憎らしいくらいに普通である。
ーーああ、くっそ! こんなに胸がドキドキして動揺しているのが私だけだなんて、なんだかスッゴく悔しぃ!! お前も少しは動揺せんか! コノヤローっつ!
「ーーじゃあ、撮りますね。 珠里さん、笑って?」
カシャッ
スマホのカメラのシャッター音が聞こえる。
「ーーうん。いい感じに撮れました。どうですか?」
そして今しがた撮ったばかりの画像を奏に見せられて、そこには、まるでカップルにしか見えないような笑顔の二人の顔がある………
「うん。いいんじゃない? 『記念写真』というには背景ないし、どこで撮ったかなんて、もう分かんないケドね。
ーーでも、ま、キレイに撮れてるし こんなもんでしょ?」
私は内心の動揺をとにかく、ひた隠しにしてあくまで年上の余裕をかまして言ってはみたものの、
先ほどはまた意表をつかれて名前で呼ばれたので思わず顔が勝手にニッコリと笑ってしまった。
そんなスマホの写真画像に写った自分の顔は いつもの見慣れた姿ではないという事もあるのか同じ顔でも、とても自分とは思えない違和感がある。
そして私がその画像を見つめながら思った感想はーーー
………誰これ?
そうして奏から撮った写真を自分のスマホにも送信してもらった後、奏が大きく息をつく。
「お姉さん、写真ありがとうございます。だけど実はすごく緊張しました。お姉さんと一緒に写真を撮るというのは、どうにも心臓に悪いですね。正直、まだ心臓がバクバクいってます」
「えっ?」
そう言って自分の左胸に手を当てて そこで初めて気恥ずかしそうに、はにかみながら笑う奏に、私は目を丸くして自分の耳を疑う。
「ウッソだあ~ だって奏は私とくっついてても平然としていて普通に接してたじゃん。そんな緊張してたとか、全然見えなかった」
「そんな事ないです。お姉さんに触っていて緊張しないわけがないじゃないですか。
だけど男としては緊張している所を見せるのはなんか格好悪くて、それで部活の練習の事とか全く違う事を考えながら、あくまで平静を装って、なるべく表情に出ないようにカッコつけてただけです。
ウソだと思うなら確かめてみて下さい」
言うなり奏はいきなり私の手を取ると、その手を自分の左胸に押し当てた。
「か、奏!?」
私は驚いて慌てて自分の手を引っ込めようとするも、その手は奏に手首を掴まれたまま引っ込めること自体を阻止されている。
「ーー分かりますか? 今もずっとドキドキしているでしょう?」
そして奏の言う通り彼の左胸に当てられた私の手には早鐘を打ち続ける奏の心臓の鼓動がはっきりと伝わってくる。
「わわ、分かった! ウソじゃないのは もう十分に分かったから! だから、あの、手を離してくれないかな? ええっと、ほら、周りに人が沢山いるしその、恥ずかしいからさ………」
私があわあわしながら そう言うと、奏はやっと私の手首を離してくれた。そして その手首には奏の長い指の痕がうっすらと赤く残っていて、
私は思わず、くるりと奏から背を向けて何となしに掴まれていた手首を隠しながら、自分の胸の辺りを押さえるようにしてギュッと拳を握りしめる。
ううっ………これマジ、ヤバい。………し、心臓が爆発する。
奏のドキドキどころの話じゃない! 私の心臓の方がドキドキしっぱなしで、このままでいったら、きっと心臓、爆発する!! それに手首に男の指の痕なんて、なんかエロくない?
しかも私は『現実世界』の男に免疫が無い分、こういったリアルな乙女ゲーのイベント的要素は自分の心臓に直に受けるダメージが、かなりデカいという事が分かってしまったよ
………うう~奏のバカ!「お手柔らかに」って言ったじゃん!
それにしても意外にも奏って積極的だったんだ………大人しいからずっと受け身タイプだと思ってた。
それはともかく何だか、ここ最近の奏の様子がおかしい? ーーいやいや、おかしいとかじゃなくって本当に急に大人になったというか『男』っぽくなったというかーーー
ーーって言うかさ、奏だってもう16歳の高校生なんだよ? 『男』っぽくなるのは当ったり前じゃん!
いつまでも子供だと思っていたのはピーターパンの私だけかーーー
「お姉さん! ごめんなさい! 怒ってますよね? いきなり手首を掴むなんて乱暴な真似をしてすみません!! 大丈夫ですか!? 手首、痛めてませんか!?」
私のそんな様子に奏が慌てて心配そうな表情で謝罪するので、私は奏に向き直ると、掴まれた手首の方を招き猫のように手前に振りながら、あっけらかんと笑う。
「あはは、大丈夫だって。あんなの乱暴な内になんか入んないよ。まあ、ちょっと驚いたケドね。でも全然怒ってなんかないよ? 大丈夫、大丈夫。
ーーそれよかさ、写真も無事撮った事だし、次は私の買い物に付き合って? それで奏に服を見立てて欲しいんだよ。ほら、自分の好みで選ぶと絶対に康介にバカにされるもん。
それが終わったら奏の番ね? そんでもって一緒にお茶しよう!」
私は再びバッグから眼鏡を取り出して装着すると、まだ心配げな表情を浮かべている奏の背中を後ろからグイグイと強引に押しながら歩を先に進めるように促す。
そして奏が気にしないように極めて明るく振る舞いながらも心の中ではーーー
ーーこんな調子で私って果して今日一日、生きていられるかな? ーー心臓、無事だといいケド………
そして特に ーーこぉ~すけぇぇぇぇ~~帰ったら覚えてろーーー!!
*****
ーー橘家自宅。 康介部屋ーー
「ーーふあっ、ふあっ、ーーぶああっくしょーーん! ああ~なんだよ、さっきから くしゃみが出んぜ。 しかも悪寒までしてきたような………
あ~~こりゃ、きっと姉ちゃんだな。
ーー帰ってきたら、うるせぇから今晩は奏んちに避難すんべ。そうと決まれば紗菜さんに電話、電話っとーーー」
ーートゥルルル、トゥルルー…
『はいは~い。モシモシ? 康ちゃん?』
「ーーあ、紗菜さん? うんとさ、突然だけど、今晩泊まりに行ってもいい?」
『まあぁ! 嬉しい! じゃあ、今晩のお夕飯は康ちゃんの大好きな、すき焼きにするわね。うふふ、今日はお肉、奮発しちゃう!』
「うおっ、ホント? ラッキー!!」
『ーーあれ? そういえば奏は? 康ちゃんと一緒よね?』
「フッーー 紗菜さん。聞いて驚け! 奏は今、ウチの姉ちゃんとモールで“初デート”中だ!」
『………………ウソ』
「いや、ホント」
『……………マジで?』
「おお、マジも激マジ!」
『……………………』
「紗菜さーーー?」
『きゃあああああああっ!! ホント!? ホントにっ!!?』
「ち、ちょっ!! 紗菜さん声デケェ! 鼓膜破れんベ」
『ご、ごめん。ーーでもホントにっ!? ああっ、ウソみたい! あの二人が『デート』だなんて!! もう、あの子ったら、ようやく珠里ちゃんの心をゲットしたのね? ほんっと、奥手なんだからっ!
このまま珠里ちゃんが社会人になっちゃったら、ますますあの子の不利になるのに、こっちの方がやきもきしちゃうじゃない!
でも これでやっと珠里ちゃんがウチのお嫁さんにきてくれるのね。そうだ! 早速、二世帯住宅の計画を立てなきゃ!!』
「ちょ~っち、待て待て!! 早まんな! あの二人、まだそこまでの仲じゃねーし付き合ってもいねーよ。
しかも姉ちゃんはまだ『あっちの世界』の住人だ。 本人も何にも変わっちゃいねぇ。 ーーっつーか、年々 病でんな、ありゃ」
『ええぇ~っ!! 違うのぉぉ!? だって康ちゃんが『デート』だって言うから、てっきり二人がくっついたんだと思って……』
「そんな簡単にくっつくわけねーだろ? あの二人、超めんどくせー奴等だぞ? しかも姉ちゃんは筋金入りの変人だ。
ーーなあ、紗菜さん。ホントにあんなの息子の嫁に欲しいんか? ウチの母さんでさえ手ぇ焼いてんだぜ? 姉ちゃんの数々の失敗談、母さんから色々聞いてんだろ?」
『うふふ、勿論、ウチの奏のお嫁さんは珠里ちゃんだけよ。他の子なんて絶対に受け入れられないわ。
私ね、珠里ちゃんが大好きなの。ほら、珠里ちゃんって思考が底抜けに明るいし、しっかりしているようで結構うっかりさんだし?
何といっても、やる事なす事がすごく面白い子でしょ? 見てて飽きないというかスッゴく可愛いのよね。
だから、ウチは絶対に珠里ちゃんが欲しいの。
ーーと言う事だから、お願い!! 康ちゃんも二人がくっつくように協力して!?』
「はあ~~分かってるよ。ホント奏は紗菜さんの息子だよなあ、好みのタイプがおんなじ。しかも協力して? ーーとか、それもう耳にタコ。
だから、あの姉ちゃんを上手く言いくるめて今回の『デート』まで誘導したのは なんと言っても俺のファインプレーなんだぜ?
しかも結構、大変だった。第一、あの姉ちゃんに『デート』を認識させるなんて至難の業に近いぜ。
ーーそれでもまあ、あとは奏が上手くやんだろ? ああ見えて結構、頭脳派だからな。
それに、こっちは これだけ お膳立てしてやってんだからアイツにも頑張ってもらわないと困るぜ。
それでも少しも進展しねぇなら、もう正直、将来望み薄だな」
『ふふっ、大丈夫よ、康ちゃん。 奏もやるときはやる男なのよ? 康ちゃんも知ってるでしょ?
それにね~え? 一応奏には18歳になるまでは珠里ちゃんを襲うなとは言ってはあるけど、それでも若いから、もし万が一、一線越えちゃったとしてもウチが全面的に責任持って引き受けるから大丈夫。
ーーって、もう友里ちゃんにも話してあるから康ちゃんも心配いらないからね?
あ、でもこれは康ちゃんのお父さんには絶対にナイショよ? ーーふふっ』
「…………マジか。信じらんねぇな。 母親同士で『押し倒し』公認かよ」
『いいじゃない。遅かれ早かれ珠里ちゃんはウチのお嫁さんになるんだもの。
だから康ちゃんもウチの凛音はどうかしら? 今はまだ小学生だけど、女の子は直ぐに大人になるから大丈夫。
ウチの凛音も中々の器量良しだと思うのよ? 康ちゃんも光源氏みたいに紫の上を育ててみない?』
「ーーふん、『信長』の次は『光源氏』かよ。
紗菜さんには悪りぃが、俺は女の容姿とか、んなもん関係ねぇんだよ。勿論ガキにも全く興味はねーな。 それでも本気にさせてぇなら、俺に凛音を惚れさせてみるんだな」
『きゃああああんっ♡ 康ちゃんってば、やっぱり超イイ男ねぇ!! 電話越しで聞いてたら尚更、腰砕けちゃう♡ さすがは友里ちゃんが自慢するだけあるわぁ~
ウチの奏も康ちゃんくらい『男』らしかったら、珠里ちゃんもイチコロなのに。どうもあの子は好きな子には弱腰なのよねぇ~んっもう!見ていて焦れったいったら!
康ちゃん!! お願いついでに奏にも『男』を教育してやって!?』
「はあぁ~? なんだよ、それ。 んなもん、俺だって分っかんねぇわ。
あのさぁ~紗菜さんとウチの母さんとで二人して何、結託してんのか知んねぇケド、俺達子供に迷惑かけるようなら父さん達に間違いなく報告するからな」
『もぅ~分かってるわよぅ。結託だなんて、そんな悪い事してないもん。康ちゃんの、い、け、ず♡ でも、そういう所もカッコいい~♡』
「………紗菜さんって、どことなくウチの姉ちゃんに似てるよ。だからなんかな? 姉ちゃんが紗菜さんや奏と性格的に相性がいいのは」
『ふふっ、それは康ちゃんもでしょ?
ーーまあ、積もるお話は後でゆっくりしましょ? 実は凛音が後ろでうるさくて
ーー それで何時に来るの? 出来れば一緒に買い出しに付き合ってくれると嬉しいな?』
「うぃ~っす。 んじゃ、16時頃に行くわ。それでいい?」
『yes、no、problem。ーーうふふ、今度は康ちゃんと私と凛音が『デート』する番ね?』
「ーーああ、勿論『擬似デート』だけどな」
『クスッ、もしかして、あの二人って『擬似デート』なの?』
「ーーまあ、詳しい事は息子に聞けば? んじゃあ、今晩お世話になります。ヨロシクお願いします」
『ふふっ、はい。お待ちしてます。 荷物持ちの方はヨロシクね。ーーじゃあ、また後でね?』
プツンーー……
「………さてと、今度は母さんにメールすっか。
………今頃、アイツ等って大丈夫なんかな? 特に姉ちゃん。『現実の男』に あまり“免疫”無ぇみてえだからなぁ。
ーーまあ、死んでなきゃいいケド」
【5ー続】
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