母のインターセックス告白

知っていても、一瞬、理解できなかった。

母が自宅内で骨折し、F大学病院に救急搬送された時のことだ。


トイレに行けない状態で、尿管を繋がれることになった時、看護師さんにこんなことを言い出した。

「ごめんなさいね。やりにくいでしょう？ 私、ぺニス取ってるから。親指大の小さなぺニス。」

看護師さんは「ぺ、ぺニス!?」と、驚きを隠せない様子を見せた。

すぐ横で聞いていた私も、一瞬、何を言っているのか、理解できなかった。

電子コミックでインターセックス漫画家さんの代表作を読破__どくは__#したあとだったにもかかわらず…。


看護師さんが立ち去ったあと、心臓疾患の手術を受けた際、ついでに男性性器の切除が行われたことを聞かされた。

手術のきっかけになった心臓疾患は、母がきっかけで医学書に載った。私が出会った医師の六割もが知らない稀まれな疾患だ。

それでも母が障害者手帳の交付を受けていないのは、医師ですら疾患名を知らない率が高いからかもしれない。
その疑問を何人かの名古屋市職員に投げ掛けてみたが、事もなげに「対象になる病名として、載ってないからじゃないですか？」と言われた。

対象病名がデータ化されていて、その中になければ機械的に「対象外」ということだろうか。
そんなものだろうか？

実際、生命保険会社の事務員時代、通院・入院・手術給付金の請求書処理作業で、給付金対象の病名は約款やっかんに基もとづいて、全て本社のホストコンピューターにインプットされていることを知った。

それは、患者数が一定数は居ることを示している気がする。


統計上、インターセックスの人々は、日本にどの程度、存在するのだろう？
一般に公表されていないだけで、医学界だけでは情報共有されているのだろうか？

母がきっかけで心臓疾患名の一つが医学書に載った時には、無事に社会復帰を果たし、出産したことも記載されたそうだが、その医学書を私は目にしていない。母の手元にも来なかったようだ。

医学書には、母がインターセックスであることは記載されたのだろうか？