36 / 162
月下香を君に
しおりを挟む博史は三人兄弟の末っ子として、あまり裕福ではない家に生まれた。
寡黙で厳しく、多くを語らないが、博史に愛情ある眼差しを向けてくれる父親、少し気は強いが、子ども達に愛情を注いでくれる母親。
元気で活発な兄達と末っ子特有の甘えん坊な博史。
家族の愛情を受けて育ち、幸せな日々を送っていた。(中略)
博史が十二になった頃、幸せは崩れた。
父親には長年愛人が居り、それが露呈し、家庭は崩壊していく。
母親は兄達を連れ家を出ていき、後には父親と愛人、そして、置いていかれた博史が残ったのだった(中略)
それは、父親の留守中に行われた。
博史の入浴中、愛人が突然押し入ってきたのだ。
その目は生々しい欲にまみれ、博史の全てを絡め捕ろうとするように、じっとりと眺めている。
初めてぶつけられた女の情欲が、精神を、身体を、恐怖で押さえ付け、まるで蛇に睨まれた蛙のように、博史はただただ震えるのみで動くことも出来ない。
女の情欲を、絡み付く視線を、世界を遮断するように目を強く閉じる間際に見えたのは、弧を描くような女の真っ赤な唇だった(中略)
元愛人のクソババア(後妻)は、捨てられるように仕向けて無一文で追い出してやった。
女なんか浅ましくて醜悪で、全てが気持ち悪い。
感情的でヒステリックで、泣けば許されると本気で思っているのが解って嫌悪しかわかない。
隣で安らかな寝息をたてて眠る相手を眺める博史の眼差しは、何処までも暗く澱んでいた。
じっと注がれる視線を感じたのか、女が身動ぎする。
「…ぅん……、…もう起きてたの?」
「奈菜さんの可愛い寝顔見てたんだ。」
博史の瞳の暗さも澱みも霧散し、そこには“恋人”を眺めるに相応しい、愛し気な色のみが存在していた。
「やだもうっ、恥ずかしいから見ないで!」
「恥ずかしがる奈菜さんも可愛い。」
“恋人”の唇に、軽く口付ける。
あの忌まわしい日から数年に及ぶ苦痛な日々を経た結果、博史は女に憎しみをぶつける人間へと進化していた。
“恋人”の部屋に転がり込んで、どれくらい経つだろう。この女にも、たくさんの“愛”をくれてやった。
そろそろ良い頃合いだろう。
愛情など所詮夢幻だと思い知ればいい
暗い感情が揺らめく。
女の行く末を思うと、堪らなく興奮し、見も心も快楽に支配されていく。
「っん…」
快楽に身を任せ、熱く疼くものを吐き出すため、啄むようだった口付けから深みのあるものへと変えた…
あれから十年が経ち、博史は二十五(中略)
及川会長に徹底的に仕込まれた技と美貌で、博史は今日も女を堕とす。
じっくりと時間をかけ、心も身体も自分に夢中にさせ開発し、ハニートラップ要員に仕上げていくのだ。(中略)
博史の思惑に気付いた時には、すでに引き返すことは出来ない。
「どうしてなの!?なんでこんなっ…愛してるって言ったじゃない!」
愛?そんなものなどこの世に存在しないさ。馬鹿で愚かなお前も、一つ利口になれただろ?
チラリと契約書に目をやった後、博史はほの暗い愉悦混じりの瞳を向ける。
「お前のお蔭で俺の懐が潤うよ、有り難う。…お礼といっちゃなんだが、俺からお前に最後の贈り物だ。受け取れよ。」
「待ちなさいよ!ねぇっ待ってよ!待って!」
ヒラヒラと手を振り、悲痛な叫びに心動かされることもなく、博史は部屋を出ていく。
後には裏切られた女と、月下香だけが残された~終~
博史の人生がシリアス祭りな件。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら
渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!?
このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!!
前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡
「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」
※※※
現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。
今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました!
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
構造理解で始めるゼロからの文明開拓
TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。
適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。
だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――!
――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
異世界に転生!? だけどお気楽に暮らします。
辰巳 蓮
ファンタジー
「転生して好きに暮らしてください。ただ、不便なところをちょっとだけ、改善していってください」
とゆうことで、多少の便宜を図ってもらった「ナッキート」が転生したのは、剣と魔法の世界でした。
すいません。年表書いてたら分かりにくいところがあったので、ちょっと加えたところがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる