怠惰な蟲使い(仮)

胸の轟

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24.キャサリン〈1〉

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口車に乗せられ監禁されて絶望し、抵抗して思い切り殴られて、薄れ行く意識の中、目覚めた頃には全てが終わってますようにと祈ったような気がする。

目覚めたらベッドに横たわっていた。

ああ、痛いことも苦しいことも、身に降りかかる全ての災いは、私の知らぬ間に終わったのだ。

この身に行われたおぞましいことを、具体的に何一つ知らずに済んだことだけが幸い。──でも、私・・・私は・・・あの男に汚され・・・

悲しくて悔しくて、憎くて、涙が後から後から零れた。

ノロノロと身体を起こし、違和感を覚える。

あの男のベッドだとばかり思っていたその場所は、私の家のベッドだった。

意識を失った時の姿のまま、私は我が家のベッドに居た。



どうして、何故、どうして──誰かが助けてくれた?──誰が?──そんな人が居るわけない──神様の気紛れ?──くだらない───何故、何故、何故──どうして───自問自答を繰り返し、あの男の気紛れ──(弄ぶ価値がないと思われた?)──要らない玩具を元の場所に捨てたんだろうと結論付けた。

そんな手の込んだことを、あの男がするとも正直思えないけど、答えのないままの疑問が気持ち悪くて、無理矢理出した答えではあるけれど。




◆◆◆

もう戻らない筈の私が戻り、近所の人にアレコレ聞かれたけど、困ったように笑って誤魔化してやり過ごせば、話が駄目になったと勝手に勘違いしてくれた。少しだけ罪悪感があるけど、本当のことなんて言えるわけがない。

暫くしたらお店を再開しようと思いながら、あの日お客さんとして現れた人の良さそうな相手のことを思いだし、またあんな目にあったらと思うと、お客さんを迎えるのが酷く恐ろしくてどうしようもなくて、明日こそは明日こそはって思いながら、どうしても店を開店させられなかった。


あの忌まわしい出来事から随分経つのに、やっぱり恐ろしくて、本当は外に行くのもすごく怖い。──ああ、でも、そろそろ食料品を買いに行かなくちゃ・・・




人混みの中、偶然にも見知った顔を見つけた。

お店を閉めたままなこともあって、顔を合わせるのも随分久しぶり。

ずっと鬱々としていた心が、なんだかやけに浮き立ってる気がする。

逸る気持ちのまま声をかけようとして動きが止まった。

知り合いに会ったらしい彼が脇の方に避け、仲睦まじく話してるのが見えた。

それはまるで恋人同士のようで──何故か胸がズキリとする。

恋人が居たって不思議じゃないのに──見た目も性格も良いんだから、寧ろ居て当然くらいなのに、ジグに恋人が居るなんてことに、今の今までこれっぽっちも思い至らなかった自分に気付く。
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