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後編
しおりを挟むただ今私は森を走っております。人生においてちょっと森走り過ぎじゃないかなと思わないでもない。そのうち野生に帰ってしまうかも。
ゲス男の股間を蹴り、ついでに顔も殴って気絶させた後、飛び出した足で森に入ったのはいいけど、ーーいや、良くない。
「そっちだ!」
「回り込め!」
追手に見つかり追われる羽目に。
闇雲に走り、追手を巻きホッとした瞬間
「もう悪あがきは終わりですか?」
少し癖のある漆黒の髪の美しい男が立ち塞がった。
冷え冷えとした声と、声以上に冷え冷えとした青い切れ長の瞳が私を捕らえた。ーーいや、まだよ!まだチャンスは!
一陣の風のごとく間合いを詰められ腕を掴まれた。
「まさかと思いますが、これ以上手間をかけさせる気ではありませんよね?」
最早これまで・・・
こうなってしまったら、もう何をしても無駄だって分かってる私は、この後に待ち受ける仕打ちに震えながら従うしかなかった。
高級宿の一室に連れ込まれ、出入口は外から見張りが立ち塞がっている。
「貴女の行いにはお仕置きが必要だと思うのですが、どう思いますか?」
質問の形はとっているけど、男の中では既に決定事項なのは分かっている。
ジリジリと追い詰められ、気分は猫にーー目の前の男は猫なんて可愛らしいものじゃないーー猛獣になぶられる前の小動物の気分だ。獰猛な王者に蹂躙されるのを、相手が飽きるまでジッとされるがままになるしかない。ーーでも、私は最後まで諦めず足掻いてみせる!
お祖父ちゃん、私に力を!
別の部屋に立て籠ろうと駆出したところを呆気なく捕獲され、悪あがきを止めない私をヤツはーーカミロは押えつけた。
クッ!お祖父ちゃんめ、ちゃんと力貸しなさいよ!可愛い孫がピンチなのよ!?
スカートを捲りあげ、下着を躊躇なく一気に下げて下半身を外気に晒された。
「いゃぁあああ!」
羞恥に染まる私をせせら笑いながら、所謂お尻ペンペンスタイルをヤツは完成させた。
バシィーーン!!
「いたぁあい!」
バシィーーン!!
「痛ッッ!ちょっ、止めっ!」
「止めて欲しければ、実力行使でどうぞ。」
私が力で勝てないのを知っていてそんなことを言う。
バシィーーン!!
「いたぁあい!痛いッて!淑女!私淑女だよ!?お尻丸出しで叩かれるっておかしい!おかしいよ!?」
「淑女は脱走などしないし野生の片鱗みたいなものはチラつきません。」
バシィーーン!!
「あだっ!止めッーーカミロ止めッーー」
バシィーーン!!
「私お前の一応上司だぞコノヤロー!偉いんだぞ私!」
「偉い人は仕事放り出して脱走などしません。」
「カミロが悪いんだからね!山ほど仕事押し付けて執務室に缶詰状態で放ったらかしにしてさ!外出ないと死んじゃう病なの!野原を自由に駆け回りたい派なの!手元にあった書類はちゃんと処理していったからいいじゃない!それに脱走違うんだから!世直しの旅に出たんだから!」
「・・・ほう?」
「悪いことしてる商会を調査するために出掛けたの!ちゃんと証拠の品も匿名で届けたんだからね!」
「へぇー。最初からあの商会に行くつもりだったと仰るのですか。」
「そう!」
「城から抜け出しかなり遠くまで行き、崖から華麗に飛び立ち激流にのまれてさらに遠くまで流され、ボロ切れみたいな状態で目当ての商会に拾われ住み込みで働き証拠を見つける。ーーここまで計算ずくとは、本当に陛下はすごいですね。さすがは経済や様々なものを発展させ、国に豊かさをもたらし、優秀な統治者として民に慕われている御方だけあります。」
「ま、まぁね。」
何でそんなに全部見てたかのように知っているのか。ちょっと問い詰めたい。
「普通の王族は自国のことで精一杯、もしくは他国のことなどどうでも良いという方が大半だと思われますが、陛下、貴女様は他国の悪徳商会までどうにかして、他国の民の幸せにも尊きそのお手を差しのべる。ーーああ、なんと素晴らしい心根なのでしょうか。私は今、とても感動致しております。」
「そ、そう!私って困ってる民を放っておけないんだよね!えへん!」
バシィーーン!!
「いたぁあい!ちょっ、痛いから!」
「申し訳ありません、『えへん』が非常に不愉快でしたもので。」
「酷ッッ!?」
「うっかり流されて隣国まで行っちゃっただけのヤツが、調子に乗らないでいただきたい。」
「うっ!」
「陛下の無断訪問すみませんて謝る無駄な労力を労って欲しいものです。」
「えー、そんなの黙っとけばバレなーー」
バシィーーン!!
「あだっ!!」
「バレたらめんどくせぇんだよ!」
「カミロ、素が出てる。素が。」
「ごほん。何のことでしょう?そんなことよりもーークソ野郎に何かされてねぇだろうな?」
ものすごく低く、苛立ちを含む声だ。
「されてないよ!」
「光の薔薇と呼ばれるアンタにもしも何かしてやがったら、一族郎党惨殺しても足りないとこだ。」
「隣国の一族郎党惨殺はダメでしょ。それこそバレたら面倒だよ。」
「なぁ、アスンシオン。アンタが居なくて、俺がどんな気持ちでいたか分かるか?」
「はは~ん、さては淋しくて泣いてたな?」
「・・・ああ、そうさ、すげぇ淋しかった。」
カミロの素直な言葉に思わず顔がにやけてしまう。
「淋しがり屋さんめー。カミロは私が大好きなんだからもう!知ってるけど!」
カミロの言葉が嬉しくて、調子に乗ったことは認めよう。ーーお前はすぐ調子に乗るとこがいかんぞーーお祖父ちゃんの声が聞こえた気がした。
「ああ、そうさ、俺はアンタが好きで好きでたまらねぇよ。いつだって側で見つめて触れて、アンタを感じてたい。出来ることなら片時も離れたくねぇよ。・・・ずっと近くに居て、アンタを傷付ける全てから守りたい。守りたいんだ・・・」
「カミロ・・・」
カミロの声が、瞳が、切なさをはらみ、胸がキュッとなる。
「・・・アンタが居なけりゃ、生きることも辞めちまうような、憐れな下僕が居ることを覚えていてくれよ。・・・アンタさえ居れば何も要らない俺が居ることを覚えていてくれよ。俺を置いて消えないでくれアスンシオン・・・」
それはどこか迷子の子どものような頼りなさで、今にも泣き出す寸前の子どものようなカミロを、私は抱きしめようと身体を起こしーークッ!起こしーーぐぬぬ!起こせないんですけどカミロさん!?
「ちょっと歩けば私の一途な純情を忘れてしまう貴女は、この先もきっと幾度も忘れては私を悲しくさせることでしょう。けれど今、先のことを兎や角言っても仕方無いので、私は今、この瞬間に出来ることを精一杯しようと思うのです。」
「ええと・・・?」
何だか嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
「貴女が居らず私がどれ程淋しかったか、貴女がどれだけ不足していたか、今からたっぷりじっくり教えて差し上げます。ーー覚悟は宜しいですか?」
その後カミロの宣言通り、声が枯れるまで啼かされ、足腰立たないほど愛されまくった。
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アスンシオン
優秀な統治者だが、統治以外はちょっと・・・なポンコツ女王。缶詰状態が続くと脱走する。
カミロ(王配)
アスンシオンの剣であり盾でありな頼もしいクール系美男子・・・に見える狂犬
応援ありがとうございます!
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