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第一章 家族
第十二話 報復行為
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食卓の席にて…
「来たんですか、奴らが!?大丈夫でしたか?」
ダヴィにことの顛末を伝えると、彼は目をまんまるにして洋平の体を確認していた。
「オレ大丈夫。アイツラ弱イ。追い返しタ」
ダヴィが安心した表情から神妙な面持ちになるまで、そう時間はかからなかった。
「しかし、まずいですねぇ。彼らは賊徒とはいえ、領主様直属の憲兵のようなものであるのは事実。彼らに手を出したこと、問題にされかねませんね」
「ヤハリマズかった。本当ニスマナイ、ダヴィ。怒っテ体が勝手ニ動いタ」
少しごまかすように微笑むダヴィ。
「違いますよ。ヨウヘーを責めてるわけじゃありません。仕方がないことです。ですが、報復行為は覚悟しておいたほうが良いでしょうね…」
…翌日
「早いわねぇ。昨日返り討ちにされたばかりなのに」
ウリーヤは少し困ったように薪の積まれていた保管小屋を眺めていた。
「食料とか、衣類は極力夜は家に移したほうが良いわね…」
薪狩りに行くダヴィが家から出てきた。
「貴方、ちょっとこっちへ」
嫌な予感が背中をつつつと伝う。
「ひどい…一週間分の仕事がパーだ。ヨウヘーが追い払った奴らだろうか…」
「仲間でしょうね。奴らはしばらく再起不能なはずですので…どうします、貴方」
頭を抱えるダヴィ。
じんわりと背中が湿って風がフワッと撫でる。
「ひとまずはどうしようもないだろうさ…」
「ですよねぇ。とにかく干物とか衣類とかは家に移動させておきましょう」
「そうだな…」
ダヴィと間延びした洋平の声が近づいてきた。
「ダヴィ~。鎌研グ。砥石貸シ……。ヒドイ…」
「ヨ、ヨウヘー。イイんですよ。仕方がない。言ったでしょう。耐えなきゃ」
薄っぺらい笑顔のメッキ一枚を貼り付けるダヴィとは裏腹に、洋平の目の前にはダヴィとウリャーナと三人で集めた薪の一週間分の記憶が写っていた。
「一週間分、取られタ…荒らサレタ。オレが我慢できナカッタカラ起きタ…」
「……仕方がありません。きっと私達を目の敵にしていたのでしょう……」
ダヴィは俯いている。
顔が影で隠されている。
「ねぇ、砥石使ってもいい…ねぇ、お父さん。薪はどこにやったの?」
「……取られちゃったよ。昨日洋平を襲った賊の仲間だろうね」
洋平に向けられたウリャーナの視線を洋平は見逃さなかった。
「ひっどい!あれ集めるのに一週間かかったてのに。しかもあれ、売るようのいいやつだったのに…」
「どうしようもないよ…他に取られたらまずい物は家に移動しよう。さっすがに家の中なら大丈夫だろう。少し狭くなるが、しばらくの辛抱だ。ほら、薪はお隣さんに貸してもらえれば料理もできるしね…」
……
沈黙が続いた。
だれも薪のあった場所から動こうとしない。
やがて洋平が口火を切った。
「オレ、コノ家居るのヨクナイ。出てイク」
洋平の言葉はその場を弾丸のように貫いた。
「何を言い出すんですか急に。別にそんなことしなくて良いですよ」
「オレ、タクサン迷惑カケタ。飯イッパイ食っタ。傷ノ手当シテもらっタ。デモ、恩返せてナイ。デモ我慢スベキ時、シなかっタ。ヤクビョウガミ、オレ。だから、コレ以上迷惑カケタクナイ。出てイク」
制止を促すダヴィの声が響いた。
「って待ってください。ヨウヘーがここを出ていったとして、行く宛はあるんですか?」
「…ナイ。でも、言葉少シ覚えタ。ソレにオレ強イ。用心棒トシテ雇ってモラエル。ダカラ、問題ナイ」
力こぶを作ってみせたが、灰色の心境を洋平は隠しきれていない。
空に雲一つ浮かんでいない。
淀む心に迷いはない。
咄嗟にウリーヤが聞く。
「問題大ありです。読み書きはどうするんですか?行き先は?お金は?」
「……」
快晴の空は洋平の迷いで曇る心を弄ぶ。
「そうだよ~ヨウヘー。現実的じゃないよ。分かるよ、負い目感じてるのは。でもヨウヘーがそうしなきゃ、ヨウヘー死んでたんだし。仕方がないよ…それにさぁ、また集めればいいじゃん。だって、三人いるし、薪集めなんてすーぐ終わっちゃうよ。今晩の分は私お隣さんから借りてくるからさ…」
「迷惑じゃありませんよ。ここに居ていいんです」
空は曇り一つなくなっていた。
…翌々日
家の戸が壊されていた。
そして、わざわざ外に引き出されていたテーブルや椅子が破壊されていた。
幸い寝室への戸は無傷であった。
「あんまりすぎる…流石にこれはあんまりすぎる…」
「ダヴィ。スマナイ。オレのセイ」
「…いや。賊徒のせいです。でも、ここまでされると手に負えません。わざわざ家まで入ってきて、物を壊して。ウリーヤたちが危険です。領主様に直談判するしかない…」
冷や汗を垂らすダヴィをウリーヤの言葉が貫いた。
「それなら私も行きますわ。もし、仮に、もし領主様が事の重大さを知っていて野放しにしていたのなら、あの領主様がこれから正しく判断できるようしつけて差し上げなければいけませんわ」
「だめだ。君はここにいなさい」
吐き捨てるダヴィ。
「断ります。貴方一人でも大丈夫だと思いますが、もし、もし万が一のことがあったら…」
「ソレならオレ行った方イイ。オレが起こしタ問題。オレ解決スべき」
「ヨウヘーはだめです。」
ピシャリとウリーヤに叩き落とされる決意。
「ヨウヘーはこの土地の土着民ではありません。まともに取り合ってくれるか怪しいですし、それに、貴方の言う通り、火種は貴方です。ヨウヘーが行けば無事で済むかわかりません」
「そうです。だからヨウヘーはウリャーナの事を見ていてください。私…私達が行きますので」
「…ナラ分かっタ。待ツ。絶対帰ってコイ」
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「来たんですか、奴らが!?大丈夫でしたか?」
ダヴィにことの顛末を伝えると、彼は目をまんまるにして洋平の体を確認していた。
「オレ大丈夫。アイツラ弱イ。追い返しタ」
ダヴィが安心した表情から神妙な面持ちになるまで、そう時間はかからなかった。
「しかし、まずいですねぇ。彼らは賊徒とはいえ、領主様直属の憲兵のようなものであるのは事実。彼らに手を出したこと、問題にされかねませんね」
「ヤハリマズかった。本当ニスマナイ、ダヴィ。怒っテ体が勝手ニ動いタ」
少しごまかすように微笑むダヴィ。
「違いますよ。ヨウヘーを責めてるわけじゃありません。仕方がないことです。ですが、報復行為は覚悟しておいたほうが良いでしょうね…」
…翌日
「早いわねぇ。昨日返り討ちにされたばかりなのに」
ウリーヤは少し困ったように薪の積まれていた保管小屋を眺めていた。
「食料とか、衣類は極力夜は家に移したほうが良いわね…」
薪狩りに行くダヴィが家から出てきた。
「貴方、ちょっとこっちへ」
嫌な予感が背中をつつつと伝う。
「ひどい…一週間分の仕事がパーだ。ヨウヘーが追い払った奴らだろうか…」
「仲間でしょうね。奴らはしばらく再起不能なはずですので…どうします、貴方」
頭を抱えるダヴィ。
じんわりと背中が湿って風がフワッと撫でる。
「ひとまずはどうしようもないだろうさ…」
「ですよねぇ。とにかく干物とか衣類とかは家に移動させておきましょう」
「そうだな…」
ダヴィと間延びした洋平の声が近づいてきた。
「ダヴィ~。鎌研グ。砥石貸シ……。ヒドイ…」
「ヨ、ヨウヘー。イイんですよ。仕方がない。言ったでしょう。耐えなきゃ」
薄っぺらい笑顔のメッキ一枚を貼り付けるダヴィとは裏腹に、洋平の目の前にはダヴィとウリャーナと三人で集めた薪の一週間分の記憶が写っていた。
「一週間分、取られタ…荒らサレタ。オレが我慢できナカッタカラ起きタ…」
「……仕方がありません。きっと私達を目の敵にしていたのでしょう……」
ダヴィは俯いている。
顔が影で隠されている。
「ねぇ、砥石使ってもいい…ねぇ、お父さん。薪はどこにやったの?」
「……取られちゃったよ。昨日洋平を襲った賊の仲間だろうね」
洋平に向けられたウリャーナの視線を洋平は見逃さなかった。
「ひっどい!あれ集めるのに一週間かかったてのに。しかもあれ、売るようのいいやつだったのに…」
「どうしようもないよ…他に取られたらまずい物は家に移動しよう。さっすがに家の中なら大丈夫だろう。少し狭くなるが、しばらくの辛抱だ。ほら、薪はお隣さんに貸してもらえれば料理もできるしね…」
……
沈黙が続いた。
だれも薪のあった場所から動こうとしない。
やがて洋平が口火を切った。
「オレ、コノ家居るのヨクナイ。出てイク」
洋平の言葉はその場を弾丸のように貫いた。
「何を言い出すんですか急に。別にそんなことしなくて良いですよ」
「オレ、タクサン迷惑カケタ。飯イッパイ食っタ。傷ノ手当シテもらっタ。デモ、恩返せてナイ。デモ我慢スベキ時、シなかっタ。ヤクビョウガミ、オレ。だから、コレ以上迷惑カケタクナイ。出てイク」
制止を促すダヴィの声が響いた。
「って待ってください。ヨウヘーがここを出ていったとして、行く宛はあるんですか?」
「…ナイ。でも、言葉少シ覚えタ。ソレにオレ強イ。用心棒トシテ雇ってモラエル。ダカラ、問題ナイ」
力こぶを作ってみせたが、灰色の心境を洋平は隠しきれていない。
空に雲一つ浮かんでいない。
淀む心に迷いはない。
咄嗟にウリーヤが聞く。
「問題大ありです。読み書きはどうするんですか?行き先は?お金は?」
「……」
快晴の空は洋平の迷いで曇る心を弄ぶ。
「そうだよ~ヨウヘー。現実的じゃないよ。分かるよ、負い目感じてるのは。でもヨウヘーがそうしなきゃ、ヨウヘー死んでたんだし。仕方がないよ…それにさぁ、また集めればいいじゃん。だって、三人いるし、薪集めなんてすーぐ終わっちゃうよ。今晩の分は私お隣さんから借りてくるからさ…」
「迷惑じゃありませんよ。ここに居ていいんです」
空は曇り一つなくなっていた。
…翌々日
家の戸が壊されていた。
そして、わざわざ外に引き出されていたテーブルや椅子が破壊されていた。
幸い寝室への戸は無傷であった。
「あんまりすぎる…流石にこれはあんまりすぎる…」
「ダヴィ。スマナイ。オレのセイ」
「…いや。賊徒のせいです。でも、ここまでされると手に負えません。わざわざ家まで入ってきて、物を壊して。ウリーヤたちが危険です。領主様に直談判するしかない…」
冷や汗を垂らすダヴィをウリーヤの言葉が貫いた。
「それなら私も行きますわ。もし、仮に、もし領主様が事の重大さを知っていて野放しにしていたのなら、あの領主様がこれから正しく判断できるようしつけて差し上げなければいけませんわ」
「だめだ。君はここにいなさい」
吐き捨てるダヴィ。
「断ります。貴方一人でも大丈夫だと思いますが、もし、もし万が一のことがあったら…」
「ソレならオレ行った方イイ。オレが起こしタ問題。オレ解決スべき」
「ヨウヘーはだめです。」
ピシャリとウリーヤに叩き落とされる決意。
「ヨウヘーはこの土地の土着民ではありません。まともに取り合ってくれるか怪しいですし、それに、貴方の言う通り、火種は貴方です。ヨウヘーが行けば無事で済むかわかりません」
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