最強魔剣士の天職探し

寺鳥米味

文字の大きさ
2 / 19

そうだ、転職しよう

しおりを挟む
 魔王とは人の形をしていない、自然災害のようなもの。
 数千年に一度、突如として現れ周囲の魔力を汚染し、その淀みから大量の魔族や魔物を生み出して人々へ牙を向く。
 誰が言ったか魔物の繁忙期と言うわけだ。
 こうしてブラウン大陸の東部トラヴァス王国は魔王との戦いの最前線となった。
 それを納めた立役者である六大討滅者『黒雷』のレトロ。
 国内唯一の魔剣の所持者であり、その広範囲における殲滅力の高さから味方をも巻き込みかねないので、いつも敵陣のド真ん中へ投下され暴れ回り味方からも恐れられていた対魔兵器。

 彼女は言った。「転職しよう」と。

 転職……それは自らの人生における大きな分岐点。
 新たなる第一歩である。
 より厳密に言えば、現在の雇用契約を解除し、今の職場から別の職場へ、または全く未経験の職業へ働き先を変えるということだ。
 レトロは多くの時間を魔族や魔物との戦いに費やしてきた。
 六大討滅者といえどもそれぞれに自分の役割と人生がある。魔王を倒し、他の魔族や魔物との戦いが比較的落ち着いた後は、それぞれが自分達の元の生活に戻っている。
 彼女の場合は元々傭兵だったのでその流れで残党狩りをしていたに過ぎない。
『黒雷』といえば六大討滅者の中でも一、二を争う実力であり広範囲の殲滅であれば間違いなく最強……それが何と転職するとか言い出した。
 マクスウェルは務めて冷静に自身の主へもう一度尋ねることにした。
 できれば自分の聞き間違いであることを願って。

『……主、今、なんと』
「転職する」
『いやいやいやいや』

 全然聞き間違いじゃなかった。
 マクスウェルに首があれば全力で横に振っていただろう。
 しかしそんなマクスウェルを無視してレトロは鞄の中から紙の束を取り出した。

「とりあえず一緒に選んで欲しい」
『え、選ぶって、何を?』
「転職先。ギルドのアルバイト募集の張り紙をもらってきた」
『あ゛ーー!何か紙の束貰ってるなとは思ってたけどそれかぁっーー!!』

 自分が人の姿であれば、テーブルに拳を叩きつけていただろう。
 マクスウェルは自分の主人に余計な入れ知恵しやがった人間をちょっと恨んだ。

『いやでもさぁ、主に向いてる仕事ってやっぱり魔物退治とかじゃない?』
「今までそれしかやってこなかっただけで、実はもっと私に向いた仕事があるかもしれない」
『それに主って店番とか接客とか未経験でしょ?』
「誰でも最初は初心者だから」
『何でそんなに前向きなのさ……』

 一応食い下がってはみたものの、主人は一度公と決めたら曲げることはない。
 賢い魔剣は諦めるのが懸命だろうと判断した。
 ギルドの受付嬢にいくつか目星をつけた求人の紙を持ってきて欲しいと頼んだ時も、訝しげな顔をしていたが、自分が新しい仕事をしようとするのはそんなにおかしいだろうかとレトロは内心首を傾げた。
 ……国の最高戦力の一人がアルバイト始めようとしているなんて誰が想像できるというのか。

「まずはこれ、調合師」
『それってポーション作ったりする仕事?』
「うん」
『それ資格ないとできないでしょ』

 言われて募集要項を改めて確認すれば、マクスウェルのいう通り『要資格』と態々強調して書かれていた。
 レトロは気を取り直して次の仕事を読み上げる。

「ギルドの受付嬢」
『あー、やめといた方がよくない?』
「なんで?」
『女だらけの職場って当たりハズレ結構あるよ? 虐めとか派閥争いとか、お局様に嫌われでもしたら一発アウトって聞くじゃん』
「魔剣の癖に私より職場事情に詳しいな」
 
 転職案内人か何かなのか、資格云々はともかく何故内部事情に精通しているんだろう。
 主人の何ともいえない表情に気付かず、当の魔剣は褒められたことに気を良くしている。
 まぁ頼もしいから良いか、とレトロもそれ以上は考えるのをやめて次の紙を見た。

「……あっ」

 書かれてる文字を見て彼女は思わず明るい声を上げた。
 何かいい仕事があったのかと尋ねる魔剣に見せるようにレトロは初心者・未経験者歓迎!と書かれた紙を掲げる。
 
『へぇ、いいんじゃないか』

 肯定的な返事に、レトロも大きく頷いた。
 特別な資格は不要、金額も悪くない。
 仕事内容は『配達』で頭より体を動かす仕事で、何よりレトロが客として何度か通ったことのある店だ。
 
 彼女はこの店のドーナツが好きだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...