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前職は『国内最大戦力』です
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「まさか常連のお嬢さんがウチの面接に来るなんてね、いつもありがとう」
「いつもお世話になってます」
「ふふ、お世話になっているのはこちらもだよ……さぁ座って」
翌日、早速面接へやってきたレトロを店主のバルーは歓迎し、奥の部屋へ通すとソファへ座るよう促した。
カーデナ街の大通りに店を構えるパン屋ポッポ堂。
店主が昔飼っていた鳥の名前からつけられた店内には、焼き立てのパンのみならず、焼き菓子などが綺麗に陳列している様子が店の外からでもガラス越しによく見えた。
レトロがつい立ち寄ってしまうその店は夫婦で切り盛りしているらしい。
恰幅の良い優しい顔立ちの店主はレトロがアルバイトの面接にやってきたことにひどく感激した様子だった。
奥からは店主の妻であるカロリーナが紅茶を運んでくる。
「ありがとうございます」
レトロがお礼をいえばカロリーナはニコッと微笑みバルーの隣に腰を下ろした。
「まさかこんなに若くて可愛い子がウチにきてくれるなんてねぇ」
「他に面接を受けた方はいないんですか?」
「それがいないのよ、若い子は冒険者や騎士に憧れるでしょう?」
「なるほど」
「それにウチには子供もいないしねぇ……私達がいなくなった後の事を思うと……」
「こらこらお前、この人を困らせてはいけないよ」
カロリーナは自身の紅茶に砂糖を入れながら悲しそうな顔をするが、すぐさまバルーは妻を咎めてレトロへ申し訳なさそうな顔をした。
「すまないね」
「いえ……」
「では早速だが面接をさせてもらおうか」
空気を入れ替えるように手を叩いたバルーは明るい声で「とは言っても、面接に来たのは君だけだから形だけになるけどね」と言った。
「それで……レトロさんにお願いしたいのは主に配達業務になるんだけど問題ないかな?」
「はい、大丈夫です」
ポッポ堂は近頃になってパンの配達を始めたらしい。
焼き立てのパンやお菓子を予め予約してもらい、指定の日時に目的地まで配達する事になる。
その為、体力のある若者を雇いたいのだという。
「前職は冒険者かな?」
バルーはチラリとレトロの座る椅子に立て掛けられた黒い大剣を見た。
「傭兵を少々」
頷けばカロリーナは口元に手を当てわぁっと感嘆の声を上げた。
嘘は言っていない筈だ。六大討滅者だ黒雷だ何だと持て囃されようが、自分が一介の傭兵であることに変わりはないし、何ならその地位だって自分というより魔剣マクスウェルの功績で成り立っているようなもので自分なんて魔剣がなければ唯の凡人に過ぎない。
それがレトロの自分に対する認識だった。
「すごいわね~そんなに重そうな剣を持てるなんて!」
妻の言葉に同意し大きく頷いていたバルーだったが、ふと動きを止め「そういえば」と顎に手を当て何か思い出したかのように呟く。
「六大討滅者の中にも確か黒い剣を扱う方がいたと聞いたことがあるなぁ」
「……」
ぎくり、とレトロの肩が大きく跳ねる。
しかしそれに気づく事なく、バルーは思い出したと、拳を軽く手のひらに打ちつけた。
「そうだ"黒雷"様だ!」
「……、……」
カチャカチャとソーサーとカップがぶつかり不自然に音を立てた。
手汗でカップを落とさないように気をつけながら、レトロは誤魔化すように紅茶を啜る。
マクスウェルも大人しくしているものの内心『ヤベ~』と冷や汗を流していた。
「もしかしてレトロちゃんは黒雷様のファンなのかしら」とカロリーナから英雄に憧れる子供を見る暖かい眼差しを受けながら、レトロはその緩い熱で窒息死しそうになっていた。
「本人です」……なんて言える筈もない。
マクスウェルからもその辺りについては釘を刺されている。
万が一たちの悪い冗談だと思われて面接を落とされでもしてみろ、明日からもう気まずくて店に通えなくなる。
逆に信じられても二人を困らせることになってしまう。
お喋りな夫婦の面接は、いつの間にか話の内容が『レトロの経歴』ではなく『六大討滅者』の活躍に代わってしまい、レトロは同僚の武勇伝やら逸話やらを何故か聞かされる羽目になった。
因みに採用はされた。
「いつもお世話になってます」
「ふふ、お世話になっているのはこちらもだよ……さぁ座って」
翌日、早速面接へやってきたレトロを店主のバルーは歓迎し、奥の部屋へ通すとソファへ座るよう促した。
カーデナ街の大通りに店を構えるパン屋ポッポ堂。
店主が昔飼っていた鳥の名前からつけられた店内には、焼き立てのパンのみならず、焼き菓子などが綺麗に陳列している様子が店の外からでもガラス越しによく見えた。
レトロがつい立ち寄ってしまうその店は夫婦で切り盛りしているらしい。
恰幅の良い優しい顔立ちの店主はレトロがアルバイトの面接にやってきたことにひどく感激した様子だった。
奥からは店主の妻であるカロリーナが紅茶を運んでくる。
「ありがとうございます」
レトロがお礼をいえばカロリーナはニコッと微笑みバルーの隣に腰を下ろした。
「まさかこんなに若くて可愛い子がウチにきてくれるなんてねぇ」
「他に面接を受けた方はいないんですか?」
「それがいないのよ、若い子は冒険者や騎士に憧れるでしょう?」
「なるほど」
「それにウチには子供もいないしねぇ……私達がいなくなった後の事を思うと……」
「こらこらお前、この人を困らせてはいけないよ」
カロリーナは自身の紅茶に砂糖を入れながら悲しそうな顔をするが、すぐさまバルーは妻を咎めてレトロへ申し訳なさそうな顔をした。
「すまないね」
「いえ……」
「では早速だが面接をさせてもらおうか」
空気を入れ替えるように手を叩いたバルーは明るい声で「とは言っても、面接に来たのは君だけだから形だけになるけどね」と言った。
「それで……レトロさんにお願いしたいのは主に配達業務になるんだけど問題ないかな?」
「はい、大丈夫です」
ポッポ堂は近頃になってパンの配達を始めたらしい。
焼き立てのパンやお菓子を予め予約してもらい、指定の日時に目的地まで配達する事になる。
その為、体力のある若者を雇いたいのだという。
「前職は冒険者かな?」
バルーはチラリとレトロの座る椅子に立て掛けられた黒い大剣を見た。
「傭兵を少々」
頷けばカロリーナは口元に手を当てわぁっと感嘆の声を上げた。
嘘は言っていない筈だ。六大討滅者だ黒雷だ何だと持て囃されようが、自分が一介の傭兵であることに変わりはないし、何ならその地位だって自分というより魔剣マクスウェルの功績で成り立っているようなもので自分なんて魔剣がなければ唯の凡人に過ぎない。
それがレトロの自分に対する認識だった。
「すごいわね~そんなに重そうな剣を持てるなんて!」
妻の言葉に同意し大きく頷いていたバルーだったが、ふと動きを止め「そういえば」と顎に手を当て何か思い出したかのように呟く。
「六大討滅者の中にも確か黒い剣を扱う方がいたと聞いたことがあるなぁ」
「……」
ぎくり、とレトロの肩が大きく跳ねる。
しかしそれに気づく事なく、バルーは思い出したと、拳を軽く手のひらに打ちつけた。
「そうだ"黒雷"様だ!」
「……、……」
カチャカチャとソーサーとカップがぶつかり不自然に音を立てた。
手汗でカップを落とさないように気をつけながら、レトロは誤魔化すように紅茶を啜る。
マクスウェルも大人しくしているものの内心『ヤベ~』と冷や汗を流していた。
「もしかしてレトロちゃんは黒雷様のファンなのかしら」とカロリーナから英雄に憧れる子供を見る暖かい眼差しを受けながら、レトロはその緩い熱で窒息死しそうになっていた。
「本人です」……なんて言える筈もない。
マクスウェルからもその辺りについては釘を刺されている。
万が一たちの悪い冗談だと思われて面接を落とされでもしてみろ、明日からもう気まずくて店に通えなくなる。
逆に信じられても二人を困らせることになってしまう。
お喋りな夫婦の面接は、いつの間にか話の内容が『レトロの経歴』ではなく『六大討滅者』の活躍に代わってしまい、レトロは同僚の武勇伝やら逸話やらを何故か聞かされる羽目になった。
因みに採用はされた。
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