最強魔剣士の天職探し

寺鳥米味

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落雷

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 周囲を取り囲んでいた人間の中に立っている者はいなかった。
 情けなく腰を抜かしたニーゼスは情けない悲鳴をあげて這うように後退する。
 そんなニーゼスへナイフを向けた男を、ラドは言われた通り物陰に隠れて黙って見つめていたが、ほんの数十秒の間に何が起こったのかその詳細を理解することはできなかった。
 獣人は普通の人間よりも身体能力に優れている。
 それは単純な肉体に関した事のみではなく動体視力もその中に含まれている。
 ラドもまだ幼いが手先は器用で、何より魔石以外でも金銭や食べ物のスリをさせられていた為、人の動きを観察するのには少し自信があった。

(……それでも、見えなかった)

 ラドの目には男達が勝手に倒れた様に見えた。
 まず初めに、アジトに乗り込みむと当然のように囲まれ、どうするのかラドが尋ねるより先に「隠れていろ」と声が聞こえた。
 それからまず最初に、上の階からこちらに向けて弓を構えていた盗賊が全員倒れる。
 隣にルーファスがいない事にラドが気づいたのはその直後だ。
 そして弾かれるように岩陰に身を隠そうと走り出したラドを捕まえようとした盗賊が倒れ、その場のニーゼスを除く全員がほぼ同時に血を流し倒れた。
 ニーゼスが慌ててトータスリザードを操る黒い杖を取り出したが、それも弾き飛ばされてしまう。
 結果だけでその過程を見ることは叶わない。
 ラドは気を張り詰めており気づかなかったが、高台にいる筈の見張りが今日はいなかった。
 思い返せばそれもラドが気づくより先にルーファスによって始末されていたのだろう。

「質問だ。豪竜の逆鱗、ボスのニーゼスだな」

 ルーファスの問い掛けにニーゼスは恐れながらも、仮にも盗賊の長としてのプライドからか、引き攣った笑みのまま答える。

「あぁそうだ! 俺様こそあの竜さえも恐れを成すニーゼス様だ!」
「そうか」
「ぐぼぁっ!!」

 本人である、と確認がとれたのでルーファスはそれ以上質問することなくニーゼスを蹴飛ばした。
 そして壁に激突し気絶したのを確認すると、縛り上げて適当に転がしておく。
 後で騎士団の人間が来る手筈になっている。彼の仕事はこれで終わった。
 放心しているラドに念の為、怪我がないか確認しようと近づく。

「……食べなかったのか」
「え、あっ」

 ルーファスに言われて、ラドは自分がずっと手に握っていた物の存在を思い出した。
 力を入れていたので少しつぶれてしまったホットサンド。
 あの後、アジトへ向かう前に「用事があるから」と一度宿へ戻ろうとしたレトロに別れ際に貰ったものだ。
 今日はまだ何も口にしていない。当然、盗賊が自分の面倒を見てくれる筈もないので、ラドは確かに空腹ではあったが今の状況で食べる気にはなれない。
 それよりも、あの倉庫で別れたきりまだ会えていないレトロのことがラドは心配だった。
 自分を励ますように「まぁ、食べてる間に終わると思うよ」と言ってこちらに背を向けた彼女は何者なのか。
 
「あの人……大丈夫かな」
「レトロか」

 ラドは頷く。
 特別武芸に長けた人には見えなかった。 
 何よりも彼女はあのアジトに向かった時、自分をパン屋のアルバイトだと言っていた。

「回答しよう」

 ルーファスはラドの隣に腰を下ろす。
 先程、回収したトータスリザードを操る杖を見つめたまま、今はここに居ない彼女のことを思い出す。

「レトロは……アホだ」
「え」
「作戦無視は当たり前。味方の防御結界を内側からぶち破って敵陣を攻撃。道に迷っては暫く戻ってこないので何度か戦死扱いにされかけ、絶対安静の状態で何故か戦場に出てきて、魔物を料理しようとして消し炭にしする」
「……」
「その度にクロノスや、クロノスに叱られていた」
「叱ってるの同じ人じゃない……?」
 
 ラドの目がだんだんと訝しむものに変わる。

「だが、」

 ルーファスはあの戦場を覚えている。
 魔物の大群とその奥に控えていた魔族をたった一撃で焼き払ったあの黒く激しい光を。
 敵陣の中央に何度も落ちる雷の音。
 味方の張った防護結界を撃ち破り、魔族の放った魔法を正面から消し飛ばしたあの熱をと眩い輝きを──ルーファスは、忘れたことはない。


「レトロは……強いぞ」

 
 過去の経験により自信と信頼に満ちた彼の言葉は、力強いものだった。



 「……? な、何……?」

 何の前触れもなく洞窟が揺れ、天井からパラパラと砂が落ちる。



 ──ドォンッ!!!!



「ッ!!」
 
 それから数秒遅れて轟音。
 ラドの肩が大きく跳ね、思わず身を硬くした。
 激しい音と衝撃。何かが高所から地面に落ちてきた音。
 まだ幼い少年の記憶は自然と今まで聞いた音の中で、一番近い音を探り当てた。






 確信のないまま、自然と口をついて出た言葉。
 それを隣で聞いていたルーファスはマスクの下で、自然と口角を上げた。
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