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暗殺者の回答
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その後、街へ戻る頃には空が白んでいた。
盗賊の狩猟は騎士団へ引き渡された。
残りの構成員がどうなったかはわからないが、恐らく生き残っているのは首領だけだろう。
ルーファスは無駄な殺しはしないが無駄に人を生かすこともしない。
暗殺者のポリシーというものなのか、それとも美学や拘りといったものなのか、長い時間を共に過ごして来たが未だによく分からない。
レトロがラドはどうするのか尋ねたところ、一度騎士団へ連れて行くとのことだった。
子供とはいえ窃盗犯……しかしルーファスの言っていた通り情状酌量の余地はあるし、何より首輪については調べなくてはならないので、どちらかと言うと保護に近い。
数日ぶりの魔剣を振る感覚。高揚感と充実感を冷ますように、ゆっくり深呼吸する。
朝の空気で幾分か頭が冷える。
周囲では王都から派遣された騎士達が慌ただしく動き出していた。
「ご協力に感謝します」
周囲に指示を出していた騎士の一人がルーファスに頭を下げてからレトロの方を向いた。
兜越しでも、何か訝しむような視線を向けられているのが分かる。
この件に関してレトロは部外者なので仕方がない。
「此方の方は……?」
「俺の友人だ」
答えたのはルーファスだ。それから「今回の件には関係ない」と続ける。
意を唱えさせない、それ以上は詮索するなと、声には出さずとも纏う空気が雄弁に語っていた。
騎士は僅かに体を硬らせて戸惑うように頷くと「行きましょうか」と二人に声をかけてレトロに背を向け歩き出す。
「じゃあまたね!アルバイトのお姉ちゃん!」
「うん、またね」
ラドが手を振り騎士の後をついて行く。
ルーファスも少し離れて二人の後に付いて行こうとした──
「ルーファス」
──が、名前を呼ばれ振り返る。
何故か呼び止めた筈のレトロもキョトンと呆けた顔をしている。
本人も無意識だったのか、目を泳がせるレトロにルーファスは何も言わず、少し先で足を止め自分達を見つめる騎士とラドに手で「先に行け」とサインを送った。
騎士はそれを受け、側にいたラドに何かを伝える。
ラドは少し不安そうにルーファスと騎士を交互に見たが、やがて納得したのか二人は並んで歩き出した。
「……レトロ」
今度はルーファスに名前を呼んだ。
レトロは目を宙に泳がせ逡巡した後で、言いずらそうに口を開く。
「あー……あのさぁ、友人として聞きたいんだけど」
ルーファスは何も言わず、レトロの言葉に耳を傾ける。
「私さ、天職を探して今はパン屋でバイトしてるんだけどね」
「……」
「私の天職ってさ……やっぱこっちなのかな」
言いながら、レトロは手を握ったり開いたりする。
先程まで手にあった感覚を確かめるかのような、その動きを見ればルーファスは彼女の言う”こっち”が何なのかが理解できた。
「……正直、お前には戦うことが向いていると思う」
レトロは静かに頷く。
ルーファスがそう答えるのは予想できていたし、何よりさっきの戦いでレトロは自分でも思い出してしまった。
魔剣を振り、敵を倒すことの──なんて簡単なこと。
「俺だけじゃない。あの戦場でのお前の姿を見た者、全員がそう思っているだろう」
戦場で名を上げ、二つ名を得る者の中に戦いが向いていない者はいない。
向いているからこそ、彼女は”六大討滅者”とまで呼ばれるようになったのだ。
天武の才能と呼ばれるものが彼女にはある。
「だが、」ルーファスは続ける。
「──お前は、お前の才能の奴隷ではない」
地面に視線を落としていたレトロは顔を上げてルーファスを見る。
「俺は誰が何と言おうと唯の”暗殺者”だ。殺しの才があり、それを利用することに躊躇はない」
「……」
「俺は、俺の在り方に納得している」
自分は今まで命を救ったことも、守った事もない。
積み上がるのは殺した命だけ。
自分は英雄でもなければ魔殺者でもない。騎士でも正義の味方でもない。
何故なら自分はだたの"暗殺者"でしかないからだ。
ルーファスという暗殺者は、本当にただ、それだけの存在なのだ。
レトロを見つめるその殺し屋の瞳は冷たいのか暖かいのか分からない、澄んだ銀色のまま。
深い森の奥にある湖面のように揺れることはない。
「適正が全ではない。向いているからといって必ずしもそれをしなければならないわけではない、結局は自分自身が納得する答えを出すのが大事なんだと俺は思う」
「納得……」
「俺達は戦場に長く居過ぎた、特に残党狩りをしていたお前は……」
多くの者が戦いの後に日常に戻ったが、自分と同じく元傭兵の彼女は戦場が日常だった。
戻ったようで戻れていない。
まだ平和な世の中に、血の匂いがしない空気に慣れていない。
「……経験を積み、最終的にお前が納得のいく答えを出せばいい。それが以前と同じ傭兵だろうがパン屋だろうが俺は友人としてそれを祝福する」
そこまで言い切って、ルーファスはレトロの横を通り過ぎ、その後ろの細い路地へ歩いて行く。
まるで自分の居場所は此方だと示すように、日の差さない暗い方へ。
「……暗殺者になっても?」
ふと、レトロがそんな事を言った。
自分と同じように暗殺者になっても祝福するのか?
投げかけられた疑問に、ルーファスは足を止めた。
「……回答しよう、やめておけ」
彼は振り向きはせず、背後の様子を伺うように僅かに顔を横に向ける。
レトロからは表情こそ分からないが、ルーファスの口調はどこか仕様がない友人を咎める、少しの呆れと優しさを含むものだった。
「お前のそれは、眩しすぎる」
盗賊の狩猟は騎士団へ引き渡された。
残りの構成員がどうなったかはわからないが、恐らく生き残っているのは首領だけだろう。
ルーファスは無駄な殺しはしないが無駄に人を生かすこともしない。
暗殺者のポリシーというものなのか、それとも美学や拘りといったものなのか、長い時間を共に過ごして来たが未だによく分からない。
レトロがラドはどうするのか尋ねたところ、一度騎士団へ連れて行くとのことだった。
子供とはいえ窃盗犯……しかしルーファスの言っていた通り情状酌量の余地はあるし、何より首輪については調べなくてはならないので、どちらかと言うと保護に近い。
数日ぶりの魔剣を振る感覚。高揚感と充実感を冷ますように、ゆっくり深呼吸する。
朝の空気で幾分か頭が冷える。
周囲では王都から派遣された騎士達が慌ただしく動き出していた。
「ご協力に感謝します」
周囲に指示を出していた騎士の一人がルーファスに頭を下げてからレトロの方を向いた。
兜越しでも、何か訝しむような視線を向けられているのが分かる。
この件に関してレトロは部外者なので仕方がない。
「此方の方は……?」
「俺の友人だ」
答えたのはルーファスだ。それから「今回の件には関係ない」と続ける。
意を唱えさせない、それ以上は詮索するなと、声には出さずとも纏う空気が雄弁に語っていた。
騎士は僅かに体を硬らせて戸惑うように頷くと「行きましょうか」と二人に声をかけてレトロに背を向け歩き出す。
「じゃあまたね!アルバイトのお姉ちゃん!」
「うん、またね」
ラドが手を振り騎士の後をついて行く。
ルーファスも少し離れて二人の後に付いて行こうとした──
「ルーファス」
──が、名前を呼ばれ振り返る。
何故か呼び止めた筈のレトロもキョトンと呆けた顔をしている。
本人も無意識だったのか、目を泳がせるレトロにルーファスは何も言わず、少し先で足を止め自分達を見つめる騎士とラドに手で「先に行け」とサインを送った。
騎士はそれを受け、側にいたラドに何かを伝える。
ラドは少し不安そうにルーファスと騎士を交互に見たが、やがて納得したのか二人は並んで歩き出した。
「……レトロ」
今度はルーファスに名前を呼んだ。
レトロは目を宙に泳がせ逡巡した後で、言いずらそうに口を開く。
「あー……あのさぁ、友人として聞きたいんだけど」
ルーファスは何も言わず、レトロの言葉に耳を傾ける。
「私さ、天職を探して今はパン屋でバイトしてるんだけどね」
「……」
「私の天職ってさ……やっぱこっちなのかな」
言いながら、レトロは手を握ったり開いたりする。
先程まで手にあった感覚を確かめるかのような、その動きを見ればルーファスは彼女の言う”こっち”が何なのかが理解できた。
「……正直、お前には戦うことが向いていると思う」
レトロは静かに頷く。
ルーファスがそう答えるのは予想できていたし、何よりさっきの戦いでレトロは自分でも思い出してしまった。
魔剣を振り、敵を倒すことの──なんて簡単なこと。
「俺だけじゃない。あの戦場でのお前の姿を見た者、全員がそう思っているだろう」
戦場で名を上げ、二つ名を得る者の中に戦いが向いていない者はいない。
向いているからこそ、彼女は”六大討滅者”とまで呼ばれるようになったのだ。
天武の才能と呼ばれるものが彼女にはある。
「だが、」ルーファスは続ける。
「──お前は、お前の才能の奴隷ではない」
地面に視線を落としていたレトロは顔を上げてルーファスを見る。
「俺は誰が何と言おうと唯の”暗殺者”だ。殺しの才があり、それを利用することに躊躇はない」
「……」
「俺は、俺の在り方に納得している」
自分は今まで命を救ったことも、守った事もない。
積み上がるのは殺した命だけ。
自分は英雄でもなければ魔殺者でもない。騎士でも正義の味方でもない。
何故なら自分はだたの"暗殺者"でしかないからだ。
ルーファスという暗殺者は、本当にただ、それだけの存在なのだ。
レトロを見つめるその殺し屋の瞳は冷たいのか暖かいのか分からない、澄んだ銀色のまま。
深い森の奥にある湖面のように揺れることはない。
「適正が全ではない。向いているからといって必ずしもそれをしなければならないわけではない、結局は自分自身が納得する答えを出すのが大事なんだと俺は思う」
「納得……」
「俺達は戦場に長く居過ぎた、特に残党狩りをしていたお前は……」
多くの者が戦いの後に日常に戻ったが、自分と同じく元傭兵の彼女は戦場が日常だった。
戻ったようで戻れていない。
まだ平和な世の中に、血の匂いがしない空気に慣れていない。
「……経験を積み、最終的にお前が納得のいく答えを出せばいい。それが以前と同じ傭兵だろうがパン屋だろうが俺は友人としてそれを祝福する」
そこまで言い切って、ルーファスはレトロの横を通り過ぎ、その後ろの細い路地へ歩いて行く。
まるで自分の居場所は此方だと示すように、日の差さない暗い方へ。
「……暗殺者になっても?」
ふと、レトロがそんな事を言った。
自分と同じように暗殺者になっても祝福するのか?
投げかけられた疑問に、ルーファスは足を止めた。
「……回答しよう、やめておけ」
彼は振り向きはせず、背後の様子を伺うように僅かに顔を横に向ける。
レトロからは表情こそ分からないが、ルーファスの口調はどこか仕様がない友人を咎める、少しの呆れと優しさを含むものだった。
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