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アフターケア3
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その返事を受けて、レトロは何も言わず横目でラドの様子を伺う。
本人は俯いてこそいないが、耳と尻尾は力なく伏せられている。
ルーファスも沈黙を貫いたまま。
(無理だったかぁ)
内心、もしかしたらこの人達なら……という期待がなかったといえば嘘になる。
レトロの考えがもし上手くいけば『パン屋の跡取り問題』と『ラドの後見人問題』の二つが解決する筈だった。ラドの後見人については、今日初めて知ったことでレトロ的には新しい働き口の紹介程度の考えだったのだが、やはり事はそう上手く運ばないようになっているようだ。
いつだったか、あの口煩い『賢者』の言っていた言葉を思い出す。
──何時だって、想定外の事態は起こるものと考えなさい。
──どれだけ計算と熟慮を重ねても例外や変数は起こり得るのです。
──そして、現状……私の中で一番の例外で変数で問題はお前ですレトロ。
(……余計な事も思い出してしまった)
目尻をピクピクと痙攣させ額に青筋を浮かべた顔が出てきたので、レトロは頭を振ってそれを消そうとした。
「跡取りと言うのはね、この店を引き継ぎ経営すると言うことだ。ラドくんにそんな事はさせられない」
「ぼ、僕、がんばります!」
バルーの目は真っ直ぐラドに向けられている。
「僕は確かに悪い事をしました。反省してます、一生かけて償うつもりです」
「……ラドくん」
「何でもします! 一生懸命働きます! だから、だからお願いします!」
ラドは席を立つと必死な声でそう言って頭を下げる。
「……俺からも頼みます」
その一言でその場の全員の視線がルーファスへと向けられた。
彼が口を挟むのは、それなりの付き合いのあるレトロでさえ意外だった。
「騎士団での取調べで、盗みを働くような真似はもうしないと約束しました。ラド自身の安全性は俺が保証します。何より、今回の件のように保護対象の後見人になることはそちらにも……」
「あぁ、待って待って! 違うんだ!」
ルーファスはあくまでも感情ではなく双方にメリットがあることだという姿勢を示そうとした。しかしそれは慌てたバルーにより止められてしまう。
「ふぅ……違うんだよ、私があくまでも出来ないと言ったのは跡取りに関してのみだ」
どういうことか、理解できていない三人にバルーは短く息を吐いて話し始めた。
「ラド君を跡取りに出来ないと言ったのは、君をこの店に縛るような真似をしたくないからだ」
「えっ……」
「君はまだ私達よりずっと若い。パン屋意外にも道は沢山ある、それを見極める前に君に”この道しかない”と決めてほしくないんだ」
「それは……つまり……」
期待に満ちたレトロの声にバルーは朗らかな笑顔で大きく頷いて見せる。
「今の所、ラド君を跡取りには出来ない……が、君の後見人は引き受けよう」
「ありがとうございます!!」
パッと表情を明るくしたラドにレトロは胸を撫で下ろす。
ルーファスの方を向けば、僅かにだが彼の肩からも力が抜けるのが見てとれた。
(あの時、店主が俺の話を止めたのは……ラドのいる前で”利益があったから引き受けた”と思われるのを避けたかったからか)
利益というものは確かな繋がりではあるが、今のラドに必要なのはそういったものを必要としない、信頼し安心できる大人だ。
それをこの人達は自分たちよりも余程理解している。これが年季の違いか。
ルーファスが彼らを信頼するには十分だった。
年長者とはいつだって子供より苦労をするものだ。
大人二人は喜ぶ子供にバレないように改めて安堵の息を漏らし、それを見たカロリーナはあらあらと口元に手を当てその様子に小さな笑みを浮かべた。
本人は俯いてこそいないが、耳と尻尾は力なく伏せられている。
ルーファスも沈黙を貫いたまま。
(無理だったかぁ)
内心、もしかしたらこの人達なら……という期待がなかったといえば嘘になる。
レトロの考えがもし上手くいけば『パン屋の跡取り問題』と『ラドの後見人問題』の二つが解決する筈だった。ラドの後見人については、今日初めて知ったことでレトロ的には新しい働き口の紹介程度の考えだったのだが、やはり事はそう上手く運ばないようになっているようだ。
いつだったか、あの口煩い『賢者』の言っていた言葉を思い出す。
──何時だって、想定外の事態は起こるものと考えなさい。
──どれだけ計算と熟慮を重ねても例外や変数は起こり得るのです。
──そして、現状……私の中で一番の例外で変数で問題はお前ですレトロ。
(……余計な事も思い出してしまった)
目尻をピクピクと痙攣させ額に青筋を浮かべた顔が出てきたので、レトロは頭を振ってそれを消そうとした。
「跡取りと言うのはね、この店を引き継ぎ経営すると言うことだ。ラドくんにそんな事はさせられない」
「ぼ、僕、がんばります!」
バルーの目は真っ直ぐラドに向けられている。
「僕は確かに悪い事をしました。反省してます、一生かけて償うつもりです」
「……ラドくん」
「何でもします! 一生懸命働きます! だから、だからお願いします!」
ラドは席を立つと必死な声でそう言って頭を下げる。
「……俺からも頼みます」
その一言でその場の全員の視線がルーファスへと向けられた。
彼が口を挟むのは、それなりの付き合いのあるレトロでさえ意外だった。
「騎士団での取調べで、盗みを働くような真似はもうしないと約束しました。ラド自身の安全性は俺が保証します。何より、今回の件のように保護対象の後見人になることはそちらにも……」
「あぁ、待って待って! 違うんだ!」
ルーファスはあくまでも感情ではなく双方にメリットがあることだという姿勢を示そうとした。しかしそれは慌てたバルーにより止められてしまう。
「ふぅ……違うんだよ、私があくまでも出来ないと言ったのは跡取りに関してのみだ」
どういうことか、理解できていない三人にバルーは短く息を吐いて話し始めた。
「ラド君を跡取りに出来ないと言ったのは、君をこの店に縛るような真似をしたくないからだ」
「えっ……」
「君はまだ私達よりずっと若い。パン屋意外にも道は沢山ある、それを見極める前に君に”この道しかない”と決めてほしくないんだ」
「それは……つまり……」
期待に満ちたレトロの声にバルーは朗らかな笑顔で大きく頷いて見せる。
「今の所、ラド君を跡取りには出来ない……が、君の後見人は引き受けよう」
「ありがとうございます!!」
パッと表情を明るくしたラドにレトロは胸を撫で下ろす。
ルーファスの方を向けば、僅かにだが彼の肩からも力が抜けるのが見てとれた。
(あの時、店主が俺の話を止めたのは……ラドのいる前で”利益があったから引き受けた”と思われるのを避けたかったからか)
利益というものは確かな繋がりではあるが、今のラドに必要なのはそういったものを必要としない、信頼し安心できる大人だ。
それをこの人達は自分たちよりも余程理解している。これが年季の違いか。
ルーファスが彼らを信頼するには十分だった。
年長者とはいつだって子供より苦労をするものだ。
大人二人は喜ぶ子供にバレないように改めて安堵の息を漏らし、それを見たカロリーナはあらあらと口元に手を当てその様子に小さな笑みを浮かべた。
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