1 / 3
プロローグ
しおりを挟むーーーーー
「たけちゃん緊張してる?」
「すこしだけ」
ライブハウスの控え室。
あつむが声をかけてきたので返事をしながら振り向くと、いつものあどけない顔で笑っていた。
自分たちの自己満足で作った曲との演奏がどのくらいみんなを楽しませられるかなどと不安に思っていたが、彼の顔を見たらそんな心配は無用な気がした。
地元のライブハウスで初めてのライブを開催しようとしていた。
つまり今日は大事なデビューライブである。
あつむはずいぶんリラックスしている。
俺はライブ自体初めてではないのに久しぶりで気持ちが浮ついている。
「後で挨拶回りも行かないとね」
「そうだね」
俺たちはボーカルとギターで構成される2ピースバンド。
今回はアコースティックで演奏をする予定だが、このライブハウスには、ほかの活動しているバンドもいるので、上手くいったらサポートメンバーも募集するつもりで来た。
「最初が肝心だから」
いつしかあつむが言っていた言葉を思い出す。
そうこうしているうちに前の出演者たちが終わり、片づけが行われる。
自分たちは椅子の用意だけで、いよいよかと腹を括る。
「思った以上に来てくれたね」
バックヤードからでもお客さんの声が聞こえ、カーテンの隙間から覗くと予想以上に集まっている。
「準備できたらよろしくお願いします。」
スタッフの人に声を掛けられ、あつむと頷きあった。
暗転の中、バミリを頼りにステージ上に用意された椅子にお互い腰を掛ける。
ギターを抱えなおすと、タイミングよくスポットライトが俺たちを明るく照らした。
ステージ上から見えるお客さん一人一人の顔とライブハウスの独特な雰囲気に飲み込まれそうになる。
隣に座るあつむがこつんと膝を当ててきた。
それが合図だったのか
「みなさん、初めまして!今日は楽しんでいってください!!」
そう声をかけハーモニカを吹き始める。
それに合わせタイミングよく弾き出せば、身体中に音が響き渡る。
鼓膜が破れるぐらいの反響に士気を奮い立たせれば、アドレナリンは最高潮になる。
横目に見るあつむは楽しそうに歌っていた。
そうだ。俺はずっとこれがやりたかったんだ。
ーーーーー
0
あなたにおすすめの小説
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる