アンデッド

おりちゃん

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プロローグ

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ーーーーー


「たけちゃん緊張してる?」
「すこしだけ」

ライブハウスの控え室。
あつむが声をかけてきたので返事をしながら振り向くと、いつものあどけない顔で笑っていた。
自分たちの自己満足で作った曲との演奏がどのくらいみんなを楽しませられるかなどと不安に思っていたが、彼の顔を見たらそんな心配は無用な気がした。

地元のライブハウスで初めてのライブを開催しようとしていた。
つまり今日は大事なデビューライブである。
あつむはずいぶんリラックスしている。
俺はライブ自体初めてではないのに久しぶりで気持ちが浮ついている。

「後で挨拶回りも行かないとね」
「そうだね」

俺たちはボーカルとギターで構成される2ピースバンド。
今回はアコースティックで演奏をする予定だが、このライブハウスには、ほかの活動しているバンドもいるので、上手くいったらサポートメンバーも募集するつもりで来た。

「最初が肝心だから」

いつしかあつむが言っていた言葉を思い出す。
そうこうしているうちに前の出演者たちが終わり、片づけが行われる。
自分たちは椅子の用意だけで、いよいよかと腹を括る。

「思った以上に来てくれたね」

バックヤードからでもお客さんの声が聞こえ、カーテンの隙間から覗くと予想以上に集まっている。

「準備できたらよろしくお願いします。」

スタッフの人に声を掛けられ、あつむと頷きあった。
暗転の中、バミリを頼りにステージ上に用意された椅子にお互い腰を掛ける。
ギターを抱えなおすと、タイミングよくスポットライトが俺たちを明るく照らした。
ステージ上から見えるお客さん一人一人の顔とライブハウスの独特な雰囲気に飲み込まれそうになる。
隣に座るあつむがこつんと膝を当ててきた。
それが合図だったのか

「みなさん、初めまして!今日は楽しんでいってください!!」

そう声をかけハーモニカを吹き始める。
それに合わせタイミングよく弾き出せば、身体中に音が響き渡る。
鼓膜が破れるぐらいの反響に士気を奮い立たせれば、アドレナリンは最高潮になる。
横目に見るあつむは楽しそうに歌っていた。

そうだ。俺はずっとこれがやりたかったんだ。


ーーーーー


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