上 下
49 / 169
火の大陸編

羽休め

しおりを挟む
「あ~、白い砂浜!青い海!、そして...、この快晴の空!」

 マオは両手を広げてこの状況を説明する。
 説明されなくてもわかることを何度も言っている。

「流石にうるさいぞマオ!」

 俺が注意してもマオはやめない、海水浴に来れたのが相当嬉しいのだろう。
 そんな様子を笑いながら見ているレスカに、俺は不覚にも心動かされる。

(もしも、俺とレスカの間に子供が産まれたらこんな感じなのかな...)

 まだきてもいない未来に思いを馳せ、胸を躍らせてしまう。

「海まで競争だ!」

 マオが急に叫び、我先にと走り出す。

「あ!、ずるいぞマオ!」

 俺も子供の頃こんなことやったなと思いつつも笑いながらその挑戦を受ける。
 身長差があるので、俺の方が早い。
 俺の方が先に海の中へとダイブする。
 海へダイブした俺は、塩水の冷たさの中へと身を投げ込む。
 タコと戦った時と同じだが、今度は水竜の鱗を使っていないので息ができない。
 すぐに海面に顔を出して、マオの方を向きピースサインを作った。

「俺の勝ち!」

「むぅ~、大人気ないぞ~...」

 マオが意気消沈して海に浸かってきたので勢いよく引っ張ってやった。

「ちょ!」

 マオがいい終わる前に引きずり込んだので、びっくりして海水を少し飲んだのだろう。
 勢いよく海面に顔を出し、舌を出して「しょっぱい!」というコメントを寄せる。
 俺はその様子を見て笑った。

「そりゃあ、海水だしな」

 俺は当たり前のように振る舞う。
 マオは不思議そうな顔をして海の方を見る。

「なあユウリ、余たちは海を渡ってここまできたんだよな?」

「ああ、そうだけどどうした?」

「海ってスゲ~広いんだな!、余は今、かなり驚いているぞ!」

 当たり前のことすぎて一瞬フリーズする俺だったが、気になることができたので聞いてみる。

「マオ、お前まさか...、魔王城から出たことないのか?」

 俺は震える指でマオを指差す。
 マオは大きくうなづいた。

「魔王城から出たことないけど、それがどうかしたのか?」

 マオの発言に対して一瞬判断が遅れる。

「マオって魔王城から出たことないんかい!」

 なんかツッコミを入れてしまう俺。

「べべべ....別にいいだろう!、あの部屋から出たことないくらい!」

「城内どころか謁見の間以外の場所知らないのかよ!、なんかお前の世界を知らなすぎるような発言多いなと思ったらそういうことか!」

 マオは少し恥ずかしそうに、海面に顔を鎮める。

「...、だって魔王だから...」

 急に暗い顔を見せたマオを見て、俺は地雷を踏んだのかと思い少し距離を置いた。
 なんか気まずい雰囲気になったが、意を決して会話する。

「だったらさ、これから俺たちと一緒に世界を見ていこうぜ、マオの知らないことや知らない物、俺はたくさん知ってるからさ!」

(なんかこっぱずかしいこと言ってる気がする...)

 俺は出来るだけ笑顔を崩さず、恥ずかしさに耐えながらその言葉を選んだ。
 マオはゆっくりと俺の方に向く。

「期待しているぞ...」

 あまりにも小さいつぶやきだったので、俺は聞き逃す。

「なんか言ったか?」

「ううん、何にも...」

 そんなやりとりをしていると、やっとレスカが俺たちに追いついてきた。

「マオちゃんもユウリも早すぎですよ~!」

 肩で息をするレスカを、俺たちは顔を見合わせて笑っていた。



 
しおりを挟む

処理中です...