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小鳥遊優樹

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 俺が彼女を抱きしめると彼女は凄く驚いていた。

「か...和希!?」

 驚く彼女よりも本当は俺の方が驚いているのだが...な。

「優樹...よかった。本当に良かった」

 ここにたどり着くまでにそれなりの犠牲を払ってきたが、俺たちはこうしてもう一度出会うことができた。

 その犠牲は無駄ではなかったと俺は心の中でそう思う。

「...和希? どうしてそんなに泣いているの?」

「ああ...悪かったな優樹。ようやく出会えたというのにこれじゃあガッカリだよな?」

 俺は涙を拭きながら彼女に声を出す。

「ううん。全然ガッカリしてないよ? むしろ和希にもう一度会えて本当に良かった! ところで...、ここは天国じゃないよね?」

「ああ、ここは調停者の世界だ」

「調停者の世界? ...あっ! そういえば私が死ぬ時に調停者って奴がいたような...」

「それならもう倒した。お前の肉体を操って調停者になっていた奴がいたんだが、もう大丈夫だ」

「...私ずっと操られていたの?」

「そうだな。だけどもう大丈夫だ。安心してくれていい」

「そっか。和希には結局ずっと迷惑をかけちゃったんだね...。ごめん...」

 そう呟く彼女の頭を優しく撫でる俺。

「大丈夫だ。俺もお前にはずっと迷惑をかけてしまっていた。だから俺の方こそごめんな」

 お互いに謝り合う俺たちはおかしくなって笑いあった。

 しかし、そんな幸せな時間は長くは続かない。

「優樹、俺はお前を皆の元に帰そうと思っている」

「皆の元?」

「そうだ。ボードゲーマー部にだ。また皆と遊ぶ時間が過ごせるぞ。嬉しいだろう?」

 しかし、彼女は俺の表情から何かを読み取ったようだった。

「...は?」

「俺は...その...」

「今目を背けたよね? 本当の事を言ってよ」

 優樹と俺は幼馴染だ。

 隠し事はすぐにバレてしまう。

 俺は観念して白状した。

「俺は...、ここで調停者として皆を守る存在として生きていく事にした。だから...。できればもう2度と会わないようにしたい」

「...えっ? 何それ」

 優樹は俺の言葉に反論してくるのだった。
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