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多少の縁に情もなし
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「でも……そんなお金ありません……」
殺すだけでなく解体までするほどには冷静さがあり、気力もあるのだ。ここは専門の者に任せられたら一番であることはわかっていた。この男が信頼できるかどうかは分からないが、自分を見てゴミ袋の中身が死体であると気がついたのだから一般人ではないことは確かだ。
涼は彼女の答えがノーではないことに満足げな笑みを浮かべる。
「それなら大丈夫。お金貸してくれる人も紹介できるから」
涼はよかったねと微笑む。何かと清算が取れる若い女性ならばたとえ返済のあてがなくとも金を貸してくれるだろう。突然必要となる大金の理由だって聞きはしない。いわゆる闇金融というやつだ。
女性はいよいよ現実的に選択を迫られて真っ青になる。あとは彼女の返答次第で先が決まる。突如現れ選択肢を叩きつけてきた悪魔は試すように視線を送りながら答えを待っている。
女性の唇が震え、薄く開かれた。空気が微かに揺れる。喉仏にくっと力が込められ吸い込んだ息に音が乗せられるところだった。
走ってきた車がスピードを落としたと思えば二人の真横でゆっくりと停車した。女性はあからさまに動揺して狼狽える。涼はちらりと車を見やり、女性に見せていたものとは違う嬉しそうな笑顔を見せた。
「何してんだよ。ナンパ?」
機械音とともに助手席の窓が開いていき、運転席から声がかけられる。ハンドルに両腕を乗せてじっとりと見てくるヨウに涼は緩く否定した。これ、と女性の持っていたゴミ袋を指差せばヨウは一瞬眉を寄せたがすぐに理解したようでその緊張も解けた。ああ、とだけ言ってヨウは女性を見る。女性は新たに現れた人物にどうしていいか分からなくなっているようだ。
「お前そういうのは自首しろって言うもんだろーが」
ヨウは呆れたように言ってこちらに身を乗り出すと助手席のドアを開けた。乗れと手で示されて涼はその強引さに肩を竦めてみせる。
「だってさ。ごめんねー、お迎え来ちゃった」
涼はあっさりとそう言って女性に手を振った。ゴミ袋を片手に呆然と立ち尽くす彼女に背を向け、涼は助手席に乗り込んだ。
「ちょっと待っ……!」
呼びかける声があったがバタンと音を立てて車のドアを閉めてしまう。じゃあね、と涼はもう一度声をかけて車の窓を上げ始めた。それも終わらぬうちに車は発進してしまう。
ヨウはバックミラーに映った女性をちらりと見て視線を前に戻した。涼は何事もなかったかのようにシートベルトを付けてシートに沈んでいる。
「せっかく楽にお金もらえそうだったのに」
涼はそう言って再びあくびをした。シートの背を倒して体を預ける。ヨウは涼の様子を視界の端で見ながらひとつ息を吐く。
金なら貸してやれると唆したのだろう。警察に捕まることと殺しをなかったことにする代わりにこれからずっと逃れられない借金生活をしていくことはどちらが辛いのだろうか。甘い話を聞いたせいで今頃彼女の中には迷いが生じていることだろう。そして疑念に苛まれ、ただでさえ不安定だった心を揺さぶっていく。ひょっとしたら成功したかもしれない隠蔽の失敗を誘発するかもしれない。
赤信号でゆっくりと停車する。そもそもほとんど金を持っていない素人の尻拭いなどリスクが高すぎて幸介がいい顔をしないだろう。悪戯に彼女を惑わせただけではないかと横を見れば、涼はいつの間にか眠りに落ちていた。心地好さそうな寝顔を見てヨウはやれやれと笑う。
全く酷い男だが、それは自分も同じだ。他人が何をしようとどうなろうとヨウには少しも関係のないことだ。彼女も涼とすれ違ったことを不運に思うしかない。せめて今度殺人をする時は初めから任せてもらいたい。そうすれば金次第でどうとでもしてやると思うのだった。
殺すだけでなく解体までするほどには冷静さがあり、気力もあるのだ。ここは専門の者に任せられたら一番であることはわかっていた。この男が信頼できるかどうかは分からないが、自分を見てゴミ袋の中身が死体であると気がついたのだから一般人ではないことは確かだ。
涼は彼女の答えがノーではないことに満足げな笑みを浮かべる。
「それなら大丈夫。お金貸してくれる人も紹介できるから」
涼はよかったねと微笑む。何かと清算が取れる若い女性ならばたとえ返済のあてがなくとも金を貸してくれるだろう。突然必要となる大金の理由だって聞きはしない。いわゆる闇金融というやつだ。
女性はいよいよ現実的に選択を迫られて真っ青になる。あとは彼女の返答次第で先が決まる。突如現れ選択肢を叩きつけてきた悪魔は試すように視線を送りながら答えを待っている。
女性の唇が震え、薄く開かれた。空気が微かに揺れる。喉仏にくっと力が込められ吸い込んだ息に音が乗せられるところだった。
走ってきた車がスピードを落としたと思えば二人の真横でゆっくりと停車した。女性はあからさまに動揺して狼狽える。涼はちらりと車を見やり、女性に見せていたものとは違う嬉しそうな笑顔を見せた。
「何してんだよ。ナンパ?」
機械音とともに助手席の窓が開いていき、運転席から声がかけられる。ハンドルに両腕を乗せてじっとりと見てくるヨウに涼は緩く否定した。これ、と女性の持っていたゴミ袋を指差せばヨウは一瞬眉を寄せたがすぐに理解したようでその緊張も解けた。ああ、とだけ言ってヨウは女性を見る。女性は新たに現れた人物にどうしていいか分からなくなっているようだ。
「お前そういうのは自首しろって言うもんだろーが」
ヨウは呆れたように言ってこちらに身を乗り出すと助手席のドアを開けた。乗れと手で示されて涼はその強引さに肩を竦めてみせる。
「だってさ。ごめんねー、お迎え来ちゃった」
涼はあっさりとそう言って女性に手を振った。ゴミ袋を片手に呆然と立ち尽くす彼女に背を向け、涼は助手席に乗り込んだ。
「ちょっと待っ……!」
呼びかける声があったがバタンと音を立てて車のドアを閉めてしまう。じゃあね、と涼はもう一度声をかけて車の窓を上げ始めた。それも終わらぬうちに車は発進してしまう。
ヨウはバックミラーに映った女性をちらりと見て視線を前に戻した。涼は何事もなかったかのようにシートベルトを付けてシートに沈んでいる。
「せっかく楽にお金もらえそうだったのに」
涼はそう言って再びあくびをした。シートの背を倒して体を預ける。ヨウは涼の様子を視界の端で見ながらひとつ息を吐く。
金なら貸してやれると唆したのだろう。警察に捕まることと殺しをなかったことにする代わりにこれからずっと逃れられない借金生活をしていくことはどちらが辛いのだろうか。甘い話を聞いたせいで今頃彼女の中には迷いが生じていることだろう。そして疑念に苛まれ、ただでさえ不安定だった心を揺さぶっていく。ひょっとしたら成功したかもしれない隠蔽の失敗を誘発するかもしれない。
赤信号でゆっくりと停車する。そもそもほとんど金を持っていない素人の尻拭いなどリスクが高すぎて幸介がいい顔をしないだろう。悪戯に彼女を惑わせただけではないかと横を見れば、涼はいつの間にか眠りに落ちていた。心地好さそうな寝顔を見てヨウはやれやれと笑う。
全く酷い男だが、それは自分も同じだ。他人が何をしようとどうなろうとヨウには少しも関係のないことだ。彼女も涼とすれ違ったことを不運に思うしかない。せめて今度殺人をする時は初めから任せてもらいたい。そうすれば金次第でどうとでもしてやると思うのだった。
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