裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

文字の大きさ
42 / 114
危うきに近寄る

1

しおりを挟む
 夕闇が迫り、薄暗い街をヨウと幸介は歩いていた。治安の悪くごたごたとしたこの街を夜歩く者は少ない。繁華街の方は平日だろうと随分賑やかだが彼らが住んでいる場所は特に人通りが少なかった。
 二人は繁華街から自宅へとぶらぶらと向かっている。ちょっとした仕事を片付けてきたのだ。車を出すほどの距離でもなかったので徒歩で通勤したというところだろうか。基本的に彼らの仕事は事務所に直接来てもらって依頼を受けているが、時々今日のようにこちらから出向いて話を聞く時もある。幸介は交渉人でヨウはボディーガードと言ったところか。
 実際ヨウはソファーに座ることなく、部屋の隅から相手の動向に気を配っていた。幸い怪しい動きは何もなく話はまとまった。今幸介のパーカーのポケットの中には前金の詰まった封筒が入っている。

「あいつら飯どうするって?」

 幸介は歩きながらスマートフォンをいじっているヨウに問う。事務所の電話番を頼んだ友弥と涼から返信はあっただろうか。んー、とヨウは指を動かしながら緩く返事をする。

「友弥が鍋作ってるらしいって」

 涼から返事が来ていた。今日は少し冷える。鍋はさぞ美味しいことだろう。ヨウは上機嫌にスタンプを返した。いいねえ、と幸介も笑みを見せる。外食やデリバリーで食事を済ませることが多いが、時々友弥や幸介が料理をするのが四人の楽しみであった。
 だったら早く帰ろうと足取りが軽くなったところでふと視線を感じて二人ともそちらに目を投げる。道の先、進行方向に明らかに素行の悪そうな服装をした三人組が睨みを利かせていた。しっかりと目が合ってしまったことにヨウはげんなりとする。こういった輩が口を開けば言うことは決まっているのだ。

「何見てんだてめぇ、ここ通りたきゃ有り金全部置いてけ」

 教科書通りの台詞と威圧的な視線だ。ヤンキーとか怖いし、と嘯いてヨウはさりげなく幸介の陰に入る。三人分のギラついた視線はそれだけで暴力的だ。髪色派手にしてればかっこいいと思ってんじゃねえよと赤髪の自分を棚上げしてヨウは早々に戦線を離脱した。
 歩いてくる三人を幸介はやれやれと言った具合で見やる。じろじろと品定めするように睨みつけながら不良達は大股で迫ってくる。幸介は怯えることも後ずさることもなくただその視線を受けていた。

「悪いけど通してくんない? 喧嘩とかする気ないから」

 幸介は普段通り親しみのある口調で言うが、不良達には通らなかったようだった。むしろ圧倒的に不利な状況で何を言っているのかと嘲笑が返ってくる。喧嘩をするしないを決められる立場にないだろうとニヤついた顔を見せられると幸介も不愉快そうに片眉を上げる。

「おいニイちゃん、痛い目見たくなかったらさっさと金出しな」

 不良の視線は膨らんだパーカーのポケットに向けられる。まさかその中に札束が入っているとは思わないのだろう。幸介もそれがおかしかったのかフッと笑みを零した。ここでぽんと百万ほど渡してやったら全員唖然とすることだろう。しかし不良達はその笑いを馬鹿にされているととったらしい。

「てめえ舐めてんじゃねえぞ」

 ずいっと幸介に近づき、目を剥いて威嚇してくる。こういった不良にとって舐められないのは何よりも大切なことのようだ。幸介が怯まないのを見て更に表情を険しくして詰め寄ってくる。幸介は相変わらず呆れたような目を向けるだけだ。

「いいからどいてくんない?」

 ため息混じりの言葉についに先頭にいた男が耐えられなくなったようだった。てめえ、と怒号をあげて殴りかかってくる。振りかぶった拳が宙を裂き、思い切り幸介の左頬に吸い込まれていった。勢いのままに幸介の首は飛ばされそうなほど逆方向に弾かれた。ぐらりと体も揺れ、その場でたたらを踏む。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...