裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)

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三悪道の門戸にて

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 涼にしては珍しく日の高いうちに外を歩いていた。向かった先は安居金融。付き合いの長い四人の所へは特に用事がなくても顔を出しに行ったり遊んだりということは多いが、今回は仕事の用件であった。それでも涼の足取りは気軽に遊びにきた時と変わりはない。
 上階に上がり、軽くノックをするが返事を待たずに扉を開ける。挨拶の言葉を発する前に飛び込んできた怒声にきょとんと目を丸くした。

「払えんやないわ、ガタガタ言わんと金出せ言うてんねん!」

 低くドスの効いた声はデスクについた乾のものだった。さらに電話口に向かって脅しの言葉をかけている。元々低い乾の声は怒気を含むと迫力があり、荒い関西弁もあいまって言葉だけで気圧されそうだった。
 涼が入り口に突っ立ったまま目をやれば、奥のデスクで安居が金勘定をしていた。さすが触り慣れているのか、札を弾く指さばきは様になっている。涼も昔は貰った金を数えもしたが、今は金の管理をほとんどしていないので到底できそうにない。
 安居になら声がかけられそうだと近づこうとしたが、冴島が側に立っていることに気がついた。

「そんなんしてどうするん? 一銭にもならんで」

 乾の怒号の合間に冴島が普段と変わらぬ穏やかさで声をかけているのが聞こえた。覗き込むとデスクの陰で震えながら床に這っている男がいる。さては先客がいたかと涼は間の悪さに少し眉を下げた。
 何を隠そうこの事務所は闇金融だ。大抵この扉を通った者には破滅しか待ち受けていない。皆は地獄の門をくぐる気持ちでやってくるのだろう。涼は散歩でもするように足を踏み入れたが、訪れたのがもしも債務者だったならこの光景を見ただけで足がすくんで動けなくなってしまったに違いない。

「なあ、土下座して舐める靴の味って知ってるか? いっぺん味わったら忘れへんで」

 返しにきた金が約束より少なかったのだろう。冴島は薄く笑って首を傾げてみせた。蹲ってガタガタと震えている男は呼吸を乱すばかりで何も答えられない。

「家族、親戚、友人、会社、どっからでも掻き集めて持ってきてもらうからな」

 数え終えた金をデスクに叩きつけ、安居は静かに男を見下ろした。男が許しを請うようなことを口走っているようだが、涼のところまでは聞こえてこない。
 どうやらまだ長引きそうだと思っていれば、怒声が消えて乾が荒々しく受話器を置いた。ガチャンと鳴った激しい音に男が慄いて悲鳴を上げている。てっきり気づいていないのかと思っていたが、乾はすぐに立ち上がると申し訳なさそうに涼に歩み寄った。

「待たせてすまんな」

 来客中で、と声を潜めて告げた乾に先程までの激昂していた様子は全くない。感情のまま怒り狂っていたわけではなく、あくまで仕事としてすべきことをしていただけなのだろう。涼こそ何の連絡もせず日中に赴いたのが悪かったのだが、ふらりと来ることが多いので今更文句も言われない。

「誰かに用事やったん?」

 急に訪れたにも関わらず、乾は安居と冴島の様子を窺いながら聞いてくれた。んー、と涼は暫し迷う。

「一応友幸商事の仕事ってことで来たんだよね」

 そう言えば乾の雰囲気が硬いものに変わった。友幸商事を代表して涼が来ているとすれば立ち話などしている場合ではない。彼らが仕事で来るとすれば必ず人の生死が関わっている。乾は安居と冴島に目線を送ると、涼を応接室に通した。
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