青野と菅田

水ノ灯(ともしび)

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焼肉賛美

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そろそろ食えんじゃね、と青野に言われて菅田はトングを手に取った。

赤色だった肉切れは火が通って茶に染まり、ほくほくと白い煙を上げていた。

タレをくぐらせ、米の上に一度乗せると口に運ぶ。

「うんまっ」

菅田が幸せそうに目を細めれば、青野もいそいそと自分の分を口に運んだ。

肉の旨みがガツンと舌に伝わってきた。

やっぱり焼肉は炭火が一番いい。

もくもくと上がり続ける煙の向こう側で、菅田が次々と肉を網の上に乗せていた。

「それ何肉?」

目の前の肉の世話を焼きながら青野は尋ねる。

菅田は片耳のピアスを弄りながらカルビじゃね、といい加減な返事をした。

ふーん、と青野もいい加減な返事をする。

実際のところ名称などどうでもいいのだ。

食って美味ければいい。

だが最近青野は牛タンだけは見分けがつくようになった。

ペラペラで丸い。

カルビは四角い。

でも大抵の肉は四角く見えるので大抵の肉はカルビだ。

さらに知識のない菅田は牛タンさえカルビだと言うだろう。

「そーいやさぁ」

菅田が一斉に肉をひっくり返しながら気だるそうな声を出した。

肉の脂を吸って光る米粒を見つめながら、青野は少し煙いと思っていた。

「昨日お前で抜いたわ」

菅田はそう言うと大きく開いた口に肉を押し込む。

伸びすぎた前髪が邪魔だと言っていた通り、少し伏せた目にかかっている。

眩しく染められた金色の髪は、頂点だけ黒くなり始めていた。

「へぇ、エロかった?」

青野は訊きながらこの店自慢の塩ダレキャベツを食べる。

おかわりするのもいいな、と思う。

あっさりしていていくらでも食べられそうだ。

「んー、エロかった」

そう言って菅田はジッと青野を見つめた。

自分より白い肌、男にしては少し長めの黒髪、脂にツヤツヤと光る唇と、その端の黒子。

黒子の位置は想像の中では左右間違えていたかもしれない。

「でも男の抱き方とか知らねえから途中でおっぱい生えてたわ」

ごついシルバーリングの嵌った菅田の指が、トングを箸に持ち帰る。

青野は一瞬目を見開いたかと思えば、ゲラゲラと大口を開けて笑い出した。

「でかかった?」

笑いながら青野は面白そうに訊いてきた。

Fはあった、と揉むような手つきをしながら言ってやれば、青野は膝を叩いて笑った。

「いいな!欲しい!」

爆笑しながら言われた言葉に菅田も大きく噴き出す。

まさか欲しいと言われるとは思わなかった。

笑いすぎたせいか、カランカランと音を立てて青野の箸が地面に落ちた。

あーあ、としゃがんで足元の箸を拾う。

新しいものを渡してやれば、青野はパキリと綺麗に二つに割った。

やっと少し落ち着いて、黒烏龍茶を煽った。

よくわからないが体にいいらしい。

そう青野が言っていた。

多分痩せる、らしい。

「つーか奇遇。俺も昨日お前で抜いた」

青野がなんだかわからないぐにゃぐにゃした肉を次々網に乗せながら言った。

おー、と菅田は肉と米をかきいれながらもごもごと返事をする。

やはり目にかかってくる前髪が邪魔だ。

ワックスをつけてくればよかったと思う。

「抜けた?」

口の中のものを頬張りながら訊けば、うん、と短く返ってきた。

「おっぱいあった?」

菅田がニヤニヤと笑って訊いてやれば、青野は悪戯っ子のような顔をしてにまっと笑った。

「ないんだなあ、これが」

菅田が取り皿に持ってきた白いホルモンは、炭のせいか少し黒ずんでいた。気にもせず口の中に放り込む。

ぐにゃぐにゃという噛みごたえ。

これが嫌いだと言うものもいるが、菅田からすれば噛むほどに溢れてくる旨味が最高なのだった。

「貧乳かよー傷つく」

菅田の言葉を聞いて青野は得意げに笑っていた。

満足するまで噛んだホルモンをごくりと飲み下し、黒烏龍茶で胃に流し込んだ。

「いや、男のままいけた」

冷えたグラスから口を離し、そう言ってやれば、菅田は箸を止めてぽかんと青野を見やった。

細い目を少しばかり大きくして青野を見つめている。

橙色の店の照明が映り込んでいた。

「すっげー!じゃあ俺とヤれんじゃね?」

ぱあっと笑って菅田が明るい声を出した。

青野は勝ち誇った顔つきで米を口に入れていく。

タレと肉汁が絡んで米はツルツルとした舌触りをしていた。

菅田は横を通っていった店員を呼び止め、黒烏龍茶を注文した。

俺も、と青野が言えば、店員は黒烏龍茶を二つ、とにこやかに言った。

「今の子かわいー」

菅田が厨房に歩いていく店員の後ろ姿を見てそう言う。

確かに笑顔が可愛らしく、長い黒髪は清楚といった様子で好ましかった。

うんうん、と青野も頷く。

二人は女の好みが似ているのだ。

「それに胸がでかい」

青野の言葉に全力で同意するように菅田が首を縦に振った。

青野は手元のグラスを一気に煽り、空にする。

小さくなった氷がガラガラと音を立てた。

「じゃあ付き合う?」

菅田がそう言って焦げかけの肉をポイポイと二人の皿に均等に入れていった。

うん?と曖昧に答えて青野は分けられた肉に箸を伸ばした。

そろそろ肉の追加注文をしたほうがいいかもしれない。

「訊いてみれば?」

ちょうど後ろからは店員の足音が聞こえている。

お待たせしました、と声がして黒烏龍茶が二人の間に置かれた。

どうも、と笑って菅田が空いたグラスを二人分店員に渡す。

壺カルビとキャベツ、と菅田が追加注文をした。

店員はまた愛想よく答えてキッチンに歩いて行ってしまう。

「だから訊いてんじゃん」

キャベツをつまんでいた青野はようやく言葉の意味に気づいて、ああ、と声を漏らした。

「俺とお前の話?」

そうそう、と言って菅田が察しの悪い青野に笑う。

菅田は暑くなってきたのか一枚上着を脱ぎ、隣の席に置いた。

ネックレスがジャラリと音を立てる。

青野は新しい取り皿を出してそこにレモンダレを出した。

「付き合うってなにすんの?」

続けて青野が訊けば、うーん、と考えながら菅田は残っていたホルモンを全て網の上に乗せた。

青野は取り皿から跳ねて机を汚していたタレをおしぼりで拭う。

白いおしぼりに茶色いシミが点々と出来てしまった。

少し暑くなり、両袖を捲り上げる。

白シャツでこなくてよかった。

「飯食ったりセックスしたりすんじゃね」

菅田がそう言ってニシッと笑う。

青野はホルモンをひっくり返していく。

網の隙間から油が垂れて炎が大きく上がった。

メラメラと燃える炎を二人はどうするでもなくそのままにしている。

むしろ肉が早く焼ければ万々歳だ。

見かねた店員が鎮火に使うようにと氷を持ってきてくれた。

そういやそんな方法もあったか、と思いながら青野は氷を網の上に滑らせた。

みるみる溶けていくのと同時に炎が消える。

「じゃあセックスする?」

青野が言って、焼き上がったホルモンを取った。

菅田もトングを手にとってホルモンを確保していく。

「この後お前んちな」

菅田はそう答えてホルモンを口に二つ入れた。

いいよ、と言って青野は壺から大きな肉の塊を引きずり出した。

焼きあがってからハサミで切り分けるらしい。

でかい生き物みたいだ、と思いながら網に乗せる。

長い肉は真っ直ぐに乗せるには網の長さが足りず、半円を描くように乗せておく。

火が通るまで今しばらくかかりそうだ。

「青野ぉ」

菅田が頬杖をついて名前を呼ぶ。

レモンダレにつけたホルモンを噛んでいた青野は視線だけそちらによこした。

「さっきのやっぱカルビじゃねえかもな」

菅田はそう言って黒烏龍茶を煽った。

すみません、お待たせしました、と遅れて塩ダレキャベツがテーブルに乗せられる。

「そうかもなー」

大きな肉をひっくり返しながら青野は答えた。

肉の焼ける匂いがずっとしている。

口の中は油でベタベタとしてきていた。

デザートにバニラアイスってどうよ、と菅田がメニューに手を伸ばした。
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